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「一つ屋根の下 第九十四話 JUMと聖夜」



「それではそれではっ!メリ~クリスマ~ス!!いえーい!」
カチンッとグラスがぶつかり合う音が部屋に響く。僕も手近にあったグラスに適当にカチンとぶつける。
「さぁさぁ、沢山あるから食べて。飲んで。歌って。踊って。」
やたらハイテンションなめぐ先輩が言う。部屋の中には沢山の食べ物と……これ、シャンパン?
しかも、アルコール入ってないか?これ。
「気にしない気にしない。今日は無礼講って事で。」
グッとグラスを開けてご機嫌なめぐ先輩。あの人、こんなハイだったんだなぁ。
「食べませんの、JUM?」
ムシャムシャと盛大にキラ姉ちゃんが七面鳥を丸かじりしてる。豪快だ、とても。レディというのを忘れそうなほど。
「食べるよ。お腹空いてるし。どれから食べようかな……いいや、全部食べちゃえ。」
僕は目の前にある食べ物を適当に皿に盛り付けて口に運ぶ。うん、美味しい。
「全く、騒々しいわね。もう少し静かに聖夜を過ごす事は出来ないのかしら。」
真紅姉ちゃんがスッと肉をフォークで切り、丁寧に口に運ぶ。相変わらず羽目を外さない人だ。
「あ~っはっはっはっは!踊れ踊れですぅ~!!」
「やぁ~ん、目隠しされて何も見えないのぉ~!取ってよ~!」
まぁ、あの辺は外しすぎな気がしなくもないけどね。
「桜田君、一杯どうかな?」
そんな翠姉ちゃんとヒナ姉ちゃんを眺めてると、横からスッとシャンパンのビンが差し出される。
「あ、ああ。じゃあ貰うよ。柏葉は?」
「ん…私も貰おうかな。注いでくれる?」
僕は柏葉が注いでくれたシャンパンのビンを取り、柏葉のグラスに注ぎ込む。
「ふふっ……メリークリスマス。」
柏葉はそう言いながら、カチンと僕のグラスと合わせた。



「やっぱりみんなで集まると楽しいね。私、一人っ子だからちょっとこういうの憧れてたんだ。」
「僕にしてみれば、騒がしいのは何時もだから特に感じないけどね。柏葉とめぐ先輩が増えただけだし。」
実際、普段より二人増えただけだ。元々姉が8人も居れば、今更2人増えようが何の問題もなかった。
「ふふっ、そうなんだ。でも、やっぱりイイコトだよ。みんなと居れて。一人は、楽しくないから。」
柏葉はそう言って、グラスを空にする。ドコとなくその仕草が色っぽい。アルコールのせいか、若干頬が赤いのも
その一因だろう。トロンと何とも艶っぽい目付きをしていた。
「あらぁ、トゥモゥエとJUMなにしてりゅのぉ~?しゅいぎんちょうもまじぇてぇ~♪」
柏葉を見ていると、ふと背中に圧力。頬に白銀の髪が触れ、耳に熱い吐息がかかる。背中は柔らかい感触
で一杯だ。言うまでもない、銀姉ちゃんだ。しかも、酔ってるな。これは。
「銀姉ちゃん、酔ってる?」
「酔ってないわよぉ~。乳酸菌は取ってるけどぉ~。」
意味不明です。そして、酔ってる人ほど酔ってないと言うのは定番ですよ。
「ねぇ、JUMぅ~。しゅいぎんちょうとイイコトしましょぉ~?きゅりしゅましゅに結ばれるってロマンチッキュ
じゃなぁい?」
「はいはい、そうだね。だから、大人しく寝てようね。ほら、一緒に寝てあげるから先に寝てて。」
「ほんとぉ?わぁい、しゅいぎんちょう嬉しいわぁ~。じゃあ、先にねりゅわねぇ~……くぅ~……」
銀姉ちゃんを適当にあしらう。本当、銀姉ちゃんはアルコールに弱いな。確か、夏休みの旅行の時も
料理に使われたお酒だけで酔ってたしな。スキー以外での銀姉ちゃんの弱点かもしれない。



ちなみに、姉ちゃん達は基本的にお酒が入ると性格がかなり変わる。例えば、銀姉ちゃんはやたら甘えっ子に
なって、絡みまくってくる。他の姉ちゃん達はと言えば……
「いいかしら?円周率は3.141592653589793……」
と、無駄に知識を披露して天才っぷりを現す御人や…
「J、JUM。聞いているですか?翠星石は普段はJUMに意地悪したりしてるですけどぉ、本当はJUMの
コトが好きで好きでしょうがないですよ?翠星石は素直じゃねぇですから、そのぉ……す、好きな人の気を
引く為に悪戯とかしてるんですぅ…だから、翠星石の事嫌いにならないで欲しいです…」
と、やたら素直になってツンデレからツンが消えてデレデレになる御人や…
「そうだよね。JUM君も水銀燈や翠星石みたいに髪が長くて女の子っぽい子が好きだよね…僕なんて髪
短いし男の子みたいだし。未だに女の子に告白されちゃうし。でも、髪伸ばすと翠星石と被っちゃいそうだし…」
と、元々少しネガティブなのに拍車がかかって、暗いオーラを放出しまくる御人や…
「いつもいつもヒナが下手に出てれば調子にのってるんじゃねーなのー!ヒナだって怒ったら怖いんだからね!
翠星石なんて、ヒナのデコピンで泣かしちゃうのよ~。いっぺん死んでみる?なの~。」
と、黒化してしまい、見てる人に記憶の封印を余儀なくされる御人や…
「廻る~廻る~よ世界~は廻るぅ~。」
と、普段は大人しめなのに、陽気になって歌を歌いだす御人や…
「JUM、愛してる……僕もだよ、薔薇姉ちゃん……ああ、JUM!…薔薇姉ちゃん!……ふふっ…」
と、何だか不気味に一人芝居をして悦に浸ってしまう御人や…
ともかく、ウチの姉妹に憧れを抱いてる人が見たら夢かと思うような光景になるわけだ。
「あはははははっ!!面白い面白い~!デジカメのテープ持つかなぁ~?」
まぁ、約一名を覗いてだけどね。



「やれやれ……ようやく終わったか。」
なるべく音を立てないようにグラスとお皿を一箇所に纏めて片付ける。時間はすでに24時近く。
もうすぐクリスマスイブも終わりだ。僕は眠っている姉ちゃんや、めぐ先輩と柏葉に毛布を掛けて回る。
「ご苦労ね、JUM。今年は例年より賑やかなクリスマスだったわね。」
唯一起きている真紅姉ちゃんが部屋の惨状を見ながら言う。
「まぁ、いいんじゃない?楽しかったし。」
僕はそう言いながらドスっとソファーに腰掛ける。もうしばらく眠れそうにない。テレビでも見ようかな、そう思ってる
と僕の座ってるソファーが沈む。見れば隣に真紅姉ちゃんが座っていた。
「真紅姉ちゃんは寝ないの?」
「まだ眠くないの。私はそんなにシャンパン飲まなかったのよ。」
そうだっけ?何気に結構飲んでた気がするんだけど。まぁ、そんな事はどうでもいいか。
「JUM。リボンを取って頂戴。」
「ん?別にいいけどさ。」
僕は言われるままに真紅姉ちゃんの髪を結わっているリボンを取る。サラリと綺麗な金髪が流れる。
いつ見ても綺麗な髪だな。僕はそう思う。他の姉ちゃん達だって綺麗な髪だけど、真紅姉ちゃんは特別な
感じさえする。金色の髪が真紅姉ちゃんの美しさ、気高さ、凛々しさを醸し出してるのは間違いない。
「どうしたの?私の髪に何か付いている?」
「ん?いや、綺麗だなって思ってさ。」
スッと髪を手で梳く。僕の手の中で真紅姉ちゃんの髪が流れていく。
「少し照れてしまうわね。でも、嬉しいわ……有難う、JUM…」
真紅姉ちゃんはそう言って、その小柄な体を僕に預けてきた。



「やっぱり、少しだけ酔ったかもしれないわ……」
フワリと真紅姉ちゃんの匂いが僕の鼻をつく。甘くていい匂い。
「今日はクリスマスイブだったわね……本来の意味合いとはかけ離れてるけど。こういうのも悪くないわ。」
そう言うと、真紅姉ちゃんは僕の胸に顔を埋める。僕はその頭を優しく抱きしめる。でも、どこか恥かしく
フッと外を見る。すると、スキー場だからなのか。いや、きっとこれは……サンタクロースからのプレゼント。
「真紅姉ちゃん、外見てみなよ。」
僕が言うと真紅姉ちゃんは顔を上げて外を見る。そして、嬉しそうに笑った。
「ホワイトクリスマス……と言うのかしらね。JUM、ちょっと外に出てみましょう。」
真紅姉ちゃんはそう言うと、ベランダへ出る。僕も連れられてベランダへ。外は当然のように寒い。
しかし、その寒さを忘れさせてくれるほど、それは幻想的な光景だった。ハラハラと舞う雪は月明かりに
照らされて、小さいながらも光を放っている。一つ一つは小さな光。しかし、それも沢山集まれば
人をまるで夢の世界に連れて行ってくれるような眩い光を放っている。
「JUM、抱っこして頂戴。少し寒いわ。」
僕はベランダに座り、膝の上に真紅姉ちゃんを乗せてお姫様抱っこする。確かに寒いけど、触れ合ってる部分は
とても温かい。その部分が温か過ぎて寒いのが気にならないくらいだ。
僕は真紅姉ちゃんの顔を、目を見る。真紅姉ちゃんを僕を見る。お互いの瞳を己の瞳に映し、
しばし見つめ合う。見つめ合うと素直にお喋り出来ないとはこの事か。いや寧ろ…言葉はいらない。
「JUM……」
「真紅姉ちゃん……」
舞い落ちる雪の中、僕と真紅姉ちゃんはまるで当然のように。それ以外に選択肢がないように。
その唇を合わせた。



どれだけそうしてたか。スッと唇を離す。触れ合うだけのキス。唇が熱い。
真紅姉ちゃんが僕の首に腕を回す。真紅姉ちゃんの顔は赤い。頬が赤い。耳も赤い。手で頬に触れれば
僕の冷たい手が熱くなるほど真紅姉ちゃんの顔は熱を帯びている。
「JUM……愛してるわ……」
愛してる。その言葉に僕は今まで感じた事のないような胸の鼓動を感じた。好き…なら比較的聞きなれてる。
でも、愛してる…これは僕の耳の強く残った。好きより何倍も何倍も。真紅姉ちゃんを強く感じた。
「んっ………んんっ……」
そして、僕等は再び唇を重ねる。今度は重ねるだけではなく。お互いを口の中で感じあうように。
お互いを求め合うように。僕は強く真紅姉ちゃんを抱きしめる。真紅姉ちゃんも僕の腕を強く握り締める。
「ふっ……んっ……ぷはっ…JUM…」
唇を離す。離れるのを名残惜しそうに僕と真紅姉ちゃんを透明の糸が繋ぐ。そして、真紅姉ちゃんは再び
僕の胸に顔を埋める。埋めると…
「す~……す~……」
寝息を立て始めた。そういえば…今思い出したけど、真紅姉ちゃんは酔うとすぐ寝るタイプだったな。
僕はハハッと少し自嘲気味に笑う。白い息が舞い上がる。僕も眠ろう。明日の朝、何と言われるか
想像に難くないが、真紅姉ちゃんを抱っこしたままだ。何となく、今日は離れたくないから。
僕は立ち上がって足でベランダの窓を開ける。そして室内に入り窓を閉めようとし……
「サンタクロースなんて信じちゃいないけど。今日だけは信じるしかないよなぁ。」
これはきっと、サンタクロースからのプレゼント。きっと、きっと。だから、僕は窓を閉める前に一言。
白い雪の舞う空に言った。
「メリークリスマス。」
END

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