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『罪』

私の名は雪華綺晶。人間でなく、雪女。
横で眠っているのは私の愛する人…桜田ジュン様。
私が雪女と知りながらも愛してくれた貴方。そして…雪女の私が初めて愛した人間の貴方……

寿命の違う人間と雪女の恋など、残された者が辛いだけ…私は彼が死んだあと、長い長い時間を一人で生きなければいけない。
しかし…それでも私たちは幸せだった。貴方と過ごす時間は凍りついていた私の心を徐々に溶かし、私に「笑顔」を教えてくれた。
この時が永遠に続けばいい……そう思っていた。


あるとき私は山神さまから直々のお呼び出しを受けた。
「雪華綺晶…一体何の用なんだ?山神から呼び出しなんて…」
「わかりません…でもご安心ください。山神さまはジュン様の思っているほど恐ろしい方ではありません。食事の用意をして待っていてください」
「あ、あぁ…」
「では…行ってまいります」


私は二人で暮らしている山小屋を出て、山神さまのおられる有栖山の祠に向かった。

ジュン様にはああ言ったが、呼び出しの理由などわかっている…おそらく私とジュン様のことだろう。
ジュン様には秘密にしていたのだが、雪女と人間が愛し合うことは最大の禁忌なのだ。
…自分の罪がとても深く、許されることはないとわかっている。
それでも…それでも私はジュン様を愛している。
「山神さまも鬼ではない。話せば…きっとわかってくださるはず…」
そんな淡い期待を胸に秘め、私は祠の前まで来た。


「山神さま…雪華綺晶、参りました」
「ん…よく来たわねぇ」
「…はい。ところで…本日はいかなるご用件でございますか?」
「…わざわざ聞かずとも、貴女もわかっているんじゃなぁい?」
「…」
「人間と愛し合うこと…それは貴女たち雪女が犯してはいけない最大の禁忌…知らないとは言わせないわよぉ?」
口調こそおだやかだが、そのお声には優しさは微塵もない。その恐怖から自分の体が震えるのを感じた。
「それは十分承知しております。しかし…」
口をつむごうとした瞬間、山神さまの口から最も聞きたくなかったお言葉を聞かされた。
「殺しなさぁい」
「……はっ…?」
「聞こえなかったのぉ?殺しなさいって言ったのよぉ」
「ど、どうか…どうかそれだけは…!私はあの方を…!」
「そんなことわかってるわぁ。あの人間が貴女のことを本当に愛していることもねぇ…」
「だったら…!」
「雪華綺晶」
突然、山神さまの口調が冷たいものに変わった。


「掟は掟。罪を犯した者の勝手な行動がこの山に住む全ての精霊や物の怪たちを滅ぼすことになる。それは貴女が生まれたときからずっと教えてきたはずよ。違う?」
「……そ、それは…」
「貴女は愛する人と一緒にいられて幸せかもしれない。でもこの山に住む他のモノたちはどうなるの?貴女はその責任をとれる?」
「……」
「わかったなら今すぐにでもその者を殺しにいきなさい」
…理屈はわかっている。私一人のせいで皆の命を奪ってしまう…わかっているのだけど……
「……申し訳ありません山神さま…やはり、やはり私には…」
愛する彼を殺すなんて…できるはずがない。
「……そう言うと思ったわ。これだけは使いたくなかったけど…仕方ないわね」
そう言うと山神さまは私の方に歩みよって来て、私の頭を掴む。
「な、なにを…あっ…くうっ…」
掴まれた頭の痛みと共に、次第に視界が暗くなってゆく。
「ごめんなさい雪華綺晶……」
今にも消えそうな視界の中に見えたのは、悲しそうな山神さまの表情…それを最後に私の意識は飛んだ。


気がつくと私は小屋の前にいた。
…なんだ?体が勝手に動く…?
私はそのまま小屋の戸を開け、中に入ってゆく。
「雪華綺晶…おかえり。遅かったね?」
ジュン様が出迎えてくれた。
嬉しくて嬉しくて抱きつきたいのに、体は動いてくれない。
「…」
「どうした?そんなとこにつっ立って…ほら、こっち来いよ?」
ポンポンと自分の横を叩くジュン様。
私はジュン様に言われるまま横に座り…


その首を締めた。


「う…ぐぁ……っ!?」
な、私は何故こんなことを…!?
手を離そうとしても思うように動いてくれない。その間にもジュン様の首はどんどん絞まってゆく…
「…き、雪華綺晶…ど、どうして……」
やめて!私はこんなことしたくない…!
「き、ら…き……」
苦しそうに私の名前を呼びながら、彼の目がゆっくり閉じられ…床に倒れた。同時に私の体の自由が戻る。


「じゅ、ジュン様っ!目を…目を開けてくださいっ…!」
彼の体を抱き寄せて何度も呼び掛けるが返事はない。
「…私は…私はなんということを……うぅ…あぁっ…」


「ジュン様…」
愛しい人の体をそっと横たえる。
「どうして…どうしてこんなことに…」
そうか…これが禁忌を犯した者への罰…ならば…
「ジュン様…これが貴方を殺してしまった私の罪の証です…」
貴方を殺めた指を自ら落とす。しかしこの氷の身は痛みを感じることもできない…
私はこのまま命を絶つことも許されず、二つの罪と雪の化身として生まれた業を背負いながら永遠にも似た年月を生き続けなければいけない。
愛する貴方を抱きしめることさえ叶わない。そんな孤独を生きるなら…せめて燃えさかる業火でこの身を焼かれ、地獄に堕ちたい…

雪はどこまでも白く降り積もる。
それは…まるで終わりなき罰のように。

「ねぇ雪華綺晶…」
「なんですか?ジュン様」
「僕らはずっと一緒だよ…例え君が雪女でも、僕は君を一生愛してみせる…」
「ジュン様…ならば私も…永遠に貴方を愛してみせます…」

いつか結んだ二人の契りは、固い氷の楔と成りて…

-終-

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