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第十四話 「亀裂」


「……」
「……」

無言、時が止まったかの如く静かだ。
自分の家でこんな空気になるとは思っても居なかった。
何故こうなったかというと理由は
医者に言われた事を水銀燈に言ったからだ。
隠しても無駄だとわかってた。
だから悲しいけど言った。
浮かない顔で診療室から出てきた時点で
水銀燈はある程度予測はしていたのだろうか。
水銀燈は冷静だった……が。

「ほんとなのぉ……?」
「……医者が言うんだからな」

そう言った途端水銀燈は泣き出した。
声も出ない、ただ涙が流れ出るだけ。
僕も自然と涙が出てきた。


幸せな日常を送っていた。
日常はずっと続くものだと思っていた。
幸せはずっと続くものだと思っていた。
だから医者に言われた言葉をうまく認識できなかった。
冗談だろう?
医者の言葉をそんな感じに必死で否定しようと
心の中でしていた。
けど、大切な大切な水銀燈に伝えた途端
いきなりそれを理解しだして……。悲しくなってきた。
言葉で言い表せないほど。
自分が死ぬなんて事、想像もしたこと無かったが
こんな感じなんだな。

「……なんで……なんでよぉ……」
「ほんと何でなんだろうな……」

二人揃ってみっともなく泣いていた。
涙が枯渇するんじゃないかと思える程泣いていた。
ずっとそんな状態が続いた。



「……どうするのぉ?」

一時間もした頃、少し落ち着いた水銀燈が尋ねてきた。


「どうするって……どうも出来ないよ」
「入院したら……少しは生きれるわぁ……」

確かに。
病院で治療して治る事は無い。
が、余命をほんの少しでも伸ばす事は出来るだろう。
しかし、それはひどく醜いと思う。
守られるだけで自分からは何も出来ない。
ただただ、迷惑をかける行為。

「いや……それはしない」

水銀燈は驚いた表情を浮かべる。

「なんで……なんでよぉ!」
「もう守られてばっかは嫌なんだ……。
 最後ぐらい……せめて“麗しく”、水銀燈に何か残したい。
 与えたい、思い出を作りたい」

本心だ。
もう時間が無いのだから何か残したい。
けど入院なんかしたらそんな事出来ない。
助けられるだけの生き方となる。


「嫌よぉ……嫌よぉ……!
 少しでも長く生きてぇ……!」

水銀燈が胸倉を掴んで泣きわめきながら言ってくる。
正論だろう。
けど、大して長い時間じゃない。
こんな短い時間などいくらあってもどんぐりの背比べ。
それならば……せめて短く麗しく……。

「もう……醜い生き方は御免なんだ。
 短い時間、せめて麗しく生きさしてくれ。
 何か……残したいんだ」
「……ジュンの……馬鹿ぁ……」

水銀燈がそう言った瞬間体が仰け反る。
思いっきり殴られた。パーじゃなくグー。
痛さで混乱しながら立ち上がるとすでに水銀燈が玄関で靴を履いていた

「ま……待ってくれ……!」
「……」

水銀燈は黙って出て行った。


「なんで……わかってくれないんだ……?」

思いっきり壁を叩いた。
痛いなんていつもなら思うが今は感覚が無かった。

「畜生……畜生……」

何度も何度も腹いせに壁を叩く。苛立つがぶつけ所が無くて。

「くそ……くそ……!」

ひたすら殴り続ける。
その限界は拳じゃなく肺に来た。

「ゲホッ!……ゴホッ!……」

いつもなら風邪かなぁ?なんて思ってた咳。
けど医者の宣告を聞いてからはそれは身体的にも精神的にも
僕にダメージを与えてくる。

「なんで……なんで……!」

泣きわめくが返事はない。
誰か居たとしても答えが無いからどのみち返事の返しようが無いだろう。


「神様が居るんなら……ほんととんでもない馬鹿野郎……!
 僕はいつ……あんたに嫌われるような事をした!?
 なんでこんな目にあわなければならないんだ!」

返事は無かった。

「畜生……!」



「それは……ほんとの事ですか?」
「……はい」
「そうですか……信じられません」
「信じたく……ないですよ」

此処はローゼンメイデン。久々学校をサボった僕は此処に来ている。
最も、余命宣告までされて行く気など起きないが。

「じゃあ……バイトも辞めて治療に専念したほうが」
「いや……最後まで働かせてください」
「ですが……」
「どうせなら……殉職って方がまだ格好がつくでしょう?
 病院で醜く生きるのは御免です」
「そうですか……」


「出来るなら、シフト変えてくれませんか?」
「と言いますと……?」
「水銀燈に顔合わせられなくて……」

あんだけ言い争いしてしまって会わせる顔がない。
大好きな水銀燈なのに今は離れたかった。

「成る程、それで違う時間がいいと……?」
「はい」
「……では、夜の一時に来てください」
「一時ですか?」

昔、夜に働いた事があるがそれでもそこまで遅くなかったので正直驚く。

「はい、ちょっと遅めですがいけますか?」
「はい、お願いします」
「では早速今日からお願いします。
 他のバイトさんも居るので一緒に頑張ってください」
「……他の?」
「アルバイトはあなた方だけでは無いのです。
 蒼星石さんや翠星石さんをバイトに勧誘したように
 働き手が少なくって困ってるぐらいなのですから」
「成る程、わかりました。ではまた後で来ます……」


そう言って僕は昼飯代分の小銭を白崎さんに渡して席を立つ。
しかし……他にアルバイトが居るなんてな。
全く知らなかった。
店の入り口のドアに手をかける。

「ジュンさん、余計なお世話かもしれませんが一言言わしてもらいます」

白崎さんがいつもよりはっきりとして口調で言ってきた。
一体なんだ?

「今のジュンさん、あなたが思ってるように“麗しく”などありません」
「……一体何を?」
「言葉の通りです、……失礼しました。体には気をつけて」

僕は黙って店を出た。
一体白崎さんは何を言ってるんだ……?……気にしないでおこう。
僕は黙って家へと向かった。



朝は普通に行った僕が昼時に帰ってきてノリは驚いていた。
学校が創立記念日か何かで家に居たのだ。
いつものように心配して僕に尋ねてくる。
体調が悪いの!?などと。
良くないよ、もうすぐ死ぬんだよ。
とてもじゃないがそんな事言えなかった。


ノリにはどう説明したかというと普通に体調が悪いと言った。
ほんとの事など言えないからだ。
どうやって伝えようか……?
せめて一週間以内には言わないと。
もう時間がないのだから。
バイトは夜、今の内に寝といて備えておこう。



ノリも寝静まった頃、僕は目を覚ました。
大分早い時間に寝たからバイトには十分間に合う時間に起きれた。
服はパジャマに着替えず朝からの普段着のままだ。
あっちで制服に着替えるからいいだろう。
体を起こす。
体がだるい、そしてしんどい。
やっぱり体が死に掛けているとそう体力も無くなるのかな?
まぁいいそんな事。
紅茶を煎れる事ぐらいは出来る。
僕は眼鏡をかけてノリを起こさないようにそーっと部屋を出る。
階段を下りていく。
静かに順調に下りる。
少ししてようやく一階につく。
どうやら気付かれてないようなので僕はさっさと家を出ることにした。


ドアの音も気付かれなかった。
ドアを閉めると静かに走り出した。
走ると言っても家からある程度離れるまでだけで。
そして曲がり角について走るのをやめる。
が、息があらい。
全力疾走したわけでもない。
一分も経ってない。
だが息が中々元に戻らないほどひどかった。
もう……走れる程も体力無かったんだな。
少し死を実感しながら僕はローゼンメインでンへと向かう。
人は全然居ない。
聞こえる音といったら何処か遠くから聞こえる家の鳴き声ぐらいだ。
こんな時間まで店がやってるとはな……。
と言うか、こんな時間帯に働く人って一体どんな人だろう?
流石にこんな時間じゃ学生が働いてる訳がない。
と言うと年上の大学生ぐらいの人だろうか?
とすると年上の人と二人きり……なんて事になるのか。
なんか嫌だな、それは。
どうも話す事が無くて気まずくなりそうだ。
まぁ水銀燈と会わないだけまだマシだ。
……水銀燈が大好きなのに、どうやって会えばいいかわからない。
 どうやって喋りかければいいかわからない。
いつも普通に会って喋っていたのに。
……また幸せになりたいな。
叶うとしても少しの間しか叶えられない願いだけど。


やがてローゼンメイデンへと着く。
何時もと全く雰囲気が違ってまさしくバーだ。
ドアを開ける。
人も結構居るようだ、白崎さんが酒をいれている。
紅茶を煎れるときとは違って慣れた手つきのようだ。

「こんばんわジュンさん」
「こんばんわ白崎さん、バイトの人は?」
「まだ来てないですね、先に着替えて準備しといてください」
「はい、わかりました」

カウンターの中へと入り奥の通路へと向かう。
電気が着いていなくどうも怖い雰囲気だが全然怖くなかった。
死ぬことを考えたら怖いものなど無かった。
ロッカーにある自分の制服を取って着替える。
もう慣れてしまった作業で少しするとあっという間に着替え終わる。
……もうすぐ死ぬんだから慣れててもしょうがないのにな。
そんな事を思ってカウンターへと戻る。
白崎さんが忙しそうに洋酒やら何やらを入れる。
何時も僕の働いてる時間帯と違って静かで
まさに大人の雰囲気とでも言うのだろうか?
そんな感じでどうも馴染めなかった。

「着替え終わりましたか、早速ですがこれだけお願いします」


注文された紅茶のリストを渡してくる。
意外とその数は多かった。

「意外と紅茶も注文が多いのですね」
「ええ、この時間帯だとコーヒーや紅茶は眠気覚ましに注文する人が多いのですよ」
「成る程」
「それではお願いします」
「はい」

僕は白崎さんから離れていつもの立ち位置へと行く。
ウエイトレスの水銀燈が居ないローゼンメイデンを見るのは
今日の昼を除くとほんとに久々だった。
なんか……寂しいな。
僕はお湯を沸かす。
その間に煎れる葉を整理する。
ポットは数個出してそれに葉を振り分けていく。
……結構忙しいな。
何時もと変わらないぐらいの忙しさだった。
早くアルバイトの人にも来て欲しいな。
そう思った矢先、店のドアが開かれる。
客かと思ったがアルバイトの人だと確信する。
何故なら水銀燈や金糸雀が着るような服。
十中八九、制服を着ていたからだ。
普通なら店の中で着替えるのにまさか堂々と着て入ってくるなんて……。

よく見ると僕と同じ歳ぐらいのようだ。
一体、なんでこんな時間帯に?更にバイトの人は二人居た。
しかも顔が同じで見分けがつかない。……双子だろうか?
見分けをつけるとしたら薔薇の形の眼帯が左目か右目にあるかどうかだった。
眼帯してるなんて何故だろう……?
そう疑問に思ってると二人は僕の所に近付いてくる。

「あなたが……ジュン……?」
「え、ああ、そうだけど……バイトの人だよね?」
「ええ、私達は夜中のシフトで働いていますので」

片方はぼそぼそとした口調。
片方はやけに丁寧な口調。
ほんとに変わっている。

「え、あの……名前はなんでしょう?」
「敬語は結構ですわ、同じ歳ですもの」

んな事言いつつ自分は敬語じゃないか。
そんな事を疑問に思っていると二人が口を開いた。

「雪華綺晶ですわ、よろしくお願いします」
「薔薇水晶……ばらしーだよ」

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