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僕には親友がいた。。
そいつはいつも幸せそうに笑っていて、常にクラスの中心にいるよう
な奴だった。勉強もスポーツもできて、まとめ役になるとたいてい彼の名前が挙
がるほどのリーダーシップの持ち主。
自然に他人を気遣うことのできるやさしい心を持っているだが、叱るときはちゃんと
しかる。現代人の何倍も高い人間性を持ち合わせていた。
当然誰からも好かれていたし、信頼も厚い。ゆえに頼れる人物としてクラスの名
物みたいな人だった。
そんな人物。
まさに完璧。非の打ち所なしと言う奴だ。
ほんとにいい奴。最高の友達。誰もがそう思っていたにちがいない。
しかし、天才というのは何時の時代も短命なのだ。

僕の親友は若干14歳にして、その命を終えた。
彼にとっては不本意な終わり方だっただろう。暴走するトラックに跳ねられて死
んでしまったのだ。
悲しみに包まれた葬式には何人もの生徒が泣いていた。誰もが彼の死を認めたく
なかった。「死」という事実を涙で発散しないと苦しかったのだろう。
男女問わず全員が号泣している。晴れなのに雨のような暗さが立ちこめている空
間。

だけど、僕は泣かなかった。
みんなが悲しみに涙しているというのに僕は泣かなかったのだ。
ないてもないても涙が止まらない人もいた。
それでも、結局は僕は泣かなかった。泣けなかった。
わからない。自分がわからない。
ただただ実感が湧かないのかもしれない

でもおかしかった。
何かわからないが妙な違和感を感じた。不思議。
わからない
なんでだろう
初めての感覚。
俺の体は悲しまないようにできてるのか?
なんて思ったのをよく覚えている
でも、それが彼についての最後の思い出になった。


彼が死んでから1年。
みんなが受験や、成績を維持するのに必死になっている中、僕は墓場に来ていた。
まだ秋だと言うのに冬のような寒さが僕の長袖シャツをすり抜けて、肌に触れてくる。
墓場独特の線香の臭いが鼻につくが、すぐに風に流されて消えていった。
紅葉、とまでは行かないが少し赤みがかった葉っぱを見ているとなんだかあの頃に戻ったような気がした。懐かしい。
いつもの帰り道。
雨上がり。
信号。
そして

────がしゃん。
夕焼けの赤は血の赤に変わった。


「あらぁ、先客ぅ?」
間延びした声が僕の耳に届いたその瞬間、僕は現実に引き戻された。
美しい銀色の髪に赤色の目


全体的に妖艶な魅力をまとった女性が花を片手に立っていた。
確か彼女は葬儀の時に見た事がある。
彼女も僕と同じように泣いていなかった。
でも彼女の目は僕の持つそれとは違い鋭い輝きを持っていて、同じ目なのにこんなに違うんだなと思った事をよく覚えている。
「水銀燈……さん?」
僕はおぼろげな記憶の中から一つの結論を導き出した。
彼女は確か骨になってしまった親友の姉。
水銀灯だった。
「そうよぉ。
あなたは確かぁ……桜田ジュン君?」
名前を呼ばれて少し驚いた。彼女は僕の事なんか知らないと思っていたのに。
「知ってるんですね」
「まぁ、話はよく弟から聞いていたわ」
そういって彼女は僕の横を通り過ぎると墓石の花をちゃっちゃと取り替え始めた。
何回か通っているからだろう、彼女の手付はとても慣れていた。
「あなた……半年後にはもう受験でしょ? こんなところに来ている暇はないんじゃなぁい?」
手早く花を取り替えながら言う彼女の背中はなんだかとても大人っぽく見えた。
やっぱお姉さんなんだな。
「勉強なんて死ぬ物狂いでやれば後からなんとでもなりますよ。」
「随分と余裕なのねぇ?」
そういって彼女は冗談っぽく笑う。
大人っぽい雰囲気の彼女がこんな笑い方をするとなんだかとても不思議だ。
「余裕ってワケじゃないですよ。
だけど……」
「だけど?」
「こいつの一周忌くらい来てやってもいいでしょ?」


一周忌。
なんだか、悲しい響きだ。葬儀以来久しく感じていなかった感じが僕に重くのしかかる。
もういつものように一緒に帰ったり、馬鹿でくだらない話をできる事はない。彼は遠くに行ってしまった。こに一年でそのことの理解が深まった気がする。
彼は死んでしまったのだ。
「あなた……ほんとにそう思ってるのぉ?」
「……え?」
突然彼女に心を読まれた気がして驚いた。
死んでしまった。
自分で言ったくせにこの言葉がやけに俺の心にひっかかったからだ。
わかっているはずなのに……なぜだろう?
彼女は古くなった花をゴミ箱に紙袋ごと捨てると、近くにあったベンチに座った。
僕もそれに習ってすこし間を開けて座る。
冷たい風が紅葉のしかかった落ち葉を散らせて、僕のほほをなでる。
それに連動して木々がざわざわと揺れ動き、同時に鳥達が飛び立って行った。
少しの沈黙。そして、
「あなたは、まだ弟の死を認めていないって事よぉ」
「……何言ってるんですか?」
僕は一瞬意味がわからなくて、戸惑ったがすぐに言い返した。
いまさらこの人はなにを言っているんだろう?
「言葉どおりの意味。
あなたはまだどこかで生きていると思っているんじゃないのぉ?」
そっぽを向いて気がつけばヤクルトなんか飲んで気軽に言ってくる彼女。
しかし、なぜか僕はその言葉が嫌だった。
「ははは……そんなわけないでしょう?」
ほとんど反射で笑い反射で言い返した。
この一年間僕は親友の死を認めていなかったと彼女は言っているのだ。
そんなはずはない。いまさら親友の死を疑う事なんてない。
……でもなんだろう。


僕は少し焦っていた。
僕の焦りをさらに加速させるように彼女は言葉をつなげる。
「弟は死んだのよ? それだけの事理解するのにいったいどれだけかけるつもりなのぉ?」
急にお腹が痛くなった。
強いストレスと一緒に苛立ちが沸きあがってくる。
なんでだ? そんなことわかってるはずじゃないか。
なんで僕はこんなにも苛立っているんだ。
何が気に食わないんだ。 
落ち着け。落ち着けよ俺。
「……わかってますよ」
しかし自己暗示とは裏腹に僕のひねり出した言葉は立った一言、それもかなり弱々しいものだった。
それでも苛立ちが増す。焦りが増していく。
俺の心はどうなってしまったんだ? 気がつけば葬儀の時と同じことを考えていた。
「……あなたは現場にいたんでしょぉ? だったらもう──」
「うるさい!」
気がつけば僕は立ち上がって叫んでいた。こぶしが少し震えているのが自分でもわかる。
「あなたに、僕の何がわかるんですか! わかったようなこといわないでください!」
口が勝手に動く。理解したくない。わかりたくない。だまれ。しゃべるな。
それでも僕は少しずつ理解して来ていた。本当の理解。親友の死。
そして、
「あなた、葬儀の時に泣いていなかったでしょう?」
彼女が確信をつく言葉を放った。僕が泣かなかった理由。少しづつわかり初めていた。
「あなたは親友の死を心の底では認めていないのよぉ。
理解はしていても認めなければ理解しないのと同じだものねぇ」
彼女の言葉が心に届き、少しずつ真実を悟っていく。
それと連動して彼女が真実を語っていく。さっきまでとは違い、目を見て心に届けてくる。
「私の弟、あなたの親友は死んだわ。
あなたがこんなところに来たのも、親友に会えるかもなんて考えていたからでしょぉ? そろそろ認めたら? そんなんじゃ、親友も報われないんじゃなぁい?」


「………」
僕は返す言葉がなく、押し黙ってしまった。
いや、正確には返す必要がなかったのだ。彼女の言葉で僕は初めて親友の死を理解した。
ホントは、現場にいた時点で気づいていた。
しかしその事実を封印して忘れようとしていたのだ。心の弱い僕はこんな方法でしか自分を守れなかったのだ。
僕は愚かだ。
こんな当たり前の事が受け入れられないなんて。

僕は泣いていた。
葬儀の時、少しも出なかったのに前が見えないくらい泣きじゃくっている。
ベンチに座りこんで立ち上がれないくらいの勢いでめちゃくちゃ泣いている。
「ほんと……おばかさぁん」
そういって彼女は抱きしめてくれた。
ほとんど初対面なのに、しかも男と女なのに。
女の人に励まされるなんて、情けないなぁ僕って。
年上だとしてもほんとに、情けない。
彼女もそんな事してくれなくてもいいのに。
どんな人かは知らなかったけど、めちゃくちゃいい人なんだな。
あー恥ずかしいなぁ。
でも、
「ありがとうございます……」
泣きやんで、泣き疲れた頃にはすっきりしてお礼も素直に言えた。
こんなにスッキリしたのは久々だ。心にずっとひっかかってた物がとれて、開放された気分。
もともと嘘をつくのが苦手なのに自分に嘘をついていた僕は相当なストレスがかかってたようだ。
「いろいろとごめんなさい……なんか怒っちゃったりして……」
謝罪の言葉もすっと言えた。
泣くのってこんなにいい事だったんだな。


「ほんとよぉ。
それに上着までべたべたにして……。これ高かったんだからねぇ」
そう言って彼女は涙で濡れた新作らしき上着をひらひらさせた。
「それはあなたが悪いでしょう」と言おうとして飲み込んだ。
ここまで、優しくしてもらってそんな物言いはできなかったからだ。
「いや、ほんとすいませんでした」
僕は、改めて深々と頭を垂れた。
「まったく……まぁ解決したからいいとしましょうか。
じゃあねぇ」
そういってきびすを返して、逆方向に行ってしまう。なんだかとっても寂しい。
これだけ僕によくしてくれたのに僕は何もしないでいいのか?
いいわけがない。
僕は転がるようにおいかけけて、声を張り上げた。
「水銀燈さん!」
彼女が立ち止まり振り向く。
「なぁに?」
「今度、何かお礼させてくださいよ」
彼女は少し考えた後、
「年上が好み?」
なんて聞いてきたが僕は必死で「そんなつもりは……」と弁解した。彼女は悪戯好きのようだ。
その後笑って、冗談よと言ってきた。
その後、お互いの電話番号とアドレスを交換して彼女はあった時と同じ様子で、去っていった。
最後まで、おねぇさんで大人の魅力たっぷりの人だった。



僕は、一人帰路に向かった。
心なしか、青空がさっきより青い気がする。
冷たいと感じていた風がさわやかに思える。紅葉が綺麗に見える。
心地よい風と暖かな太陽光線をあびて、僕は自転車で墓場を後にした

end
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