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機巧励起ローゼンメイデン 第9話「BANBOO SWORD」

コンクリートでできた巨大建築物、果たして以前の覚醒時より
人間社会は大きく進んでいたようだ。
「もう50年ほども前になるのね……」
かつての目覚めを思い出す。大きな戦乱の後、焼け野原の中をミーディアム
とともに歩き、闘争を繰り広げた日々。
懐かしい思いと共に苦い思いが胸を締め付ける。

――――やめよう

思い出に花を咲かせるような時期でもない。新しいミーディアムの事を
優先的に考えるべきだ。
それにはまず、彼とできる限り近くにいれる状況を作らないといけない。
そのためには――
「コウチョウシツ、だったわね。たしかここで合っているはずだけど。」
真紅はニスで塗られたドアノブに手をかける。
ガチャリ、と何の苦もなくドアは開かれる。
「失礼するのだわ。」
別に中にいるのが誰であろうと構いはしない。どんなにこの場所で偉かろうと
自分より年端もいかない人間には遅れをとる気もない。
そんな風に彼女の思考回路はできていた。

「――――すので、私はこれからこの学校に籍を置かせて頂く事になります。」
「し、しかし!あ、貴方様のような御方がこんな学校におられても私達は………」
「大丈夫です。すべては先日の事件解決のためですから。それに、私の年代なら
 普通の学生として生活する方が違和感もありません。」
「あ、はあ………」
「お分かりになってくれましたか、では決まりです。事件解決のため――――ん?」
中では一人の少女と恰幅の良い頭の禿げ上がった中年の男が話をしていた。
が、自分が入ってきたことでその会話は止まってしまったようだ。
「き、君は誰かねッ?こ、ここは君のような一般人が入る場所では――」
「黙りなさい。」
「っっ!!??」
言霊の魔力、普通の人間であれば、その行動を制限し、屈服させることの
できる魔術の一種。
あまり力技で物事を進めるのは信条にそぐわないので良くこの手段をとるのだが、
もっともこの魔術もそれほど良い物ではない、が、それはそれ、これはこれ。
「良いことコウチョウとやら。私は今日からこの学校に通う生徒なのだわ。」
「あ………はい。」
「私は真紅、桜田ジュンの遠い縁者よ。今日を持って彼のクラスにいれてもらうのだわ。」
「しかし、書類とかを私は見てもいないし手続きも聞いては……」
「捨て置きなさい。」
「は、はい……」
「分かれば良いのだわ、では制服を用意しなさい。」
「あ、はい。わかりまし―――あ。」

コウチョウの目の前に先ほどの少女が立ちはばかる。特に興味もないので
無視をしていたのだが。
「何かしら?」
「人の話を遮っておいて何かしらはないと思うよ。貴女、何様のつもり?」
「黙りなさい。」
言霊に魔力を乗せる、が、しかし。
「っ!」
視認かなわぬ言霊の魔力が物音を立てずに霧散した、目の前の少女の手により。
普通の人間に使うからと威力を弱めはしたが……この娘は。
「黙る気はないわ。貴女のような『魔術を操る者』には屈しない。」
凛としたその瞳、気高い意思を持つその瞳。
少女の体からは先ほどまで感じられなかった闘気の圧迫感が立ち昇っていた。
肌を焼くような鬼気が少女を包み真紅にも及ぶ。
やはりこの少女、『普通』の人間ではない。
「すいません校長先生、少しこの女の子と話すことがありますので
 席をはずしてくださいませんか?」
「え?あの、ですが………」
「早く。」
「は、はい。」
おとなしくその場を去る校長。二人の少女が合見える。
「さっきの言霊、本気ではないにしろ強い魔力を感じた。貴女はいったい何者?」
「そういう場合、挨拶と自己紹介は言ったほうからするものなのだわ、無粋ね。」
「…………」
赤い絨毯の敷き詰められた室内、少女と少女の間に剣呑とした大気が宿る。
「私は………柏葉巴。魔術師に敵対している者、とだけ言っておくわ。」
「良い子ね。なら私も自己紹介させていただくのだわ。私はローゼンメイデン。」
「!!」
「ローゼンメイデンの第五精製体、真紅。貴女と同じく魔術師には敵対している
 から、貴女とは特に問題を起こす事柄は持ちえてないのだわ。」
「いいえ、それは違う。」
「どういう事かしら………?」
「――――アリスゲーム。」
「っ!!………貴女いったいどうしてそれを?」
静かに問い返すが真紅の声は明らかな動揺の揺らぎを帯びている。
「問答無用よ。それに、貴女は普通の人間にも魔力を行使しているわ。
 それだけで私と敵対するのに十分な理由がある。」
「それは………仕方のないことなのだわ。私には必要で………」
「姉妹に手をかけ亡き者にするような貴女達が言っても説得力はないわ。」
「ッッ!!ちがうッ!!」
「いいえ、違わない。」

たじろぐ真紅、それを凛と見据える巴。精神的な強さは、この時点では明らかに
巴が勝っていた。
「―――まあ良いわ。貴女がそうでないにしても私は貴女に話を聞く必要がある。
 だから、このまま私と一緒について来てもらう。」
「なぜ?」
「昨日の事件に関する顛末を聞くため。」
「………断ると言ったら?」
「実力行使を持ってついて来てもらうわ。」
そう言うと巴はゆっくりと自分の背中にかけた竹刀を取り出す。
一見するとただの竹刀に見えるそれには魔力付加されたものと思われる
気配があった。それを感じ取り真紅はすっと間合いを開ける。
「エンチャント……貴女、本当に只者ではないようね。」
「そうね、一味違うといったところかしら。本当はこの場で暴れる気は
 ないんだけど、もし断るというのならば致し方ないことだと割り切るわ。」
そう言う巴の瞳には一切の偽りはない。竹刀を真紅に向かって
中段に構える。
「答えなさい、私とくるか、それとも断り一戦を交えるか。二つに一つよ。」
切っ先鋭い真剣を突きつけるような眼光が真紅を捕らえる。
普通の人間ならばこの場合YESと答えるのだろう、だが、自分は誇り高き
ローゼンメイデンだ、たとえ、呪われた運命を持とうと。
ゆっくりと深呼吸をして先ほどの弱気を吹き飛ばす。
そして、強い意志を持って巴を睨み返す。

「どちらも断るわ。この誇り高いローゼンメイデンたる私が貴女のような
 人間に遅れをとると思って?それに私は一人じゃない。すでにミーディアムを
 持つ身。貴女に万のひとつにも勝てる見込みはないのだわ。」
「そう……ならば、やるしかないわね。」
巴の竹刀が大気を切り裂く威圧感を帯びる。この年でありながらここまで
己の身と技を鍛え上げるとはどれほどの人生を歩んできたのか、
そう感心しつつ真紅も武術の構えを取る。
本当ならばジュンを呼びたいところだが自分ひとりでもどうにかなるはず。
「ここでやると隣にいるはずの校長に迷惑がかかるわ。場所を移しましょ。」
「構わないのだわ。」
「だったら……こっちよ。」
窓を開け放ち巴はその外へと身を投げる。真紅もソレに続き外へと。
走る巴を追いかけるように真紅もその後ろを追う。
右に駆け抜け、角をスピードを落とさずに曲がる。
目的の場所に着き、二人は再び構えを取る。
その場所は校舎裏、誰もいないこの場所なら誰にも迷惑はかからない。
「ここなら両者共に問題はないわ。」
「素晴らしいわね、人なのに息切れひとつ起こさないなんて。」
「これくらい、何ともないわ。あまり私を見くびらないほうがいいよ?」

構え、瞬時、剣閃
目視できぬ一閃が襲う
紙一重で避ける
真空で避ける衣服
二閃目、横薙ぎ
竹刀とは思えぬ重みを持つ気迫
それを空中で後転し避ける
「疾ッ!!」
ひねりを加えた蹴打
エンチャントを施した竹刀が受ける
淡く光る刀身
「刃ッ。」
振り払うよう縦薙ぎ
合わせ吹き飛ぶ肉体
砂埃を上げる地面
着地、同時に突進
「羅ァァっ!!」
拳閃、掌底が鳩尾を捕らえる
が、スェーバックし威力を殺す

「(どうして……目覚めたばかりの体だからだと言うの……っ?!)」
憔悴にも似た感情が真紅を襲う。目覚めてからほんの7日にも満たない肉体、
一撃目で終わるはずだった戦いはまだ続き、この少女とギリギリの攻防を
繰り広げるだけしかできない。明らかな弱体化。
迫る剣閃、上体を反らしその反動を利用し廻し蹴り。
だが、それすらも読みきり避けられる。
第二刃、斜め下からの斬り上げ、バックステップ。
しかし、それすらもブラフ。
斬り上げ斬撃が下方へと方向転換する。
軸足を固定し逆方向に転換。
竹刀の刀身が肩を掠る。
擦り灼ける肌。
隙、それを感じ取り痛みに耐え拳を顎下へと狙い打つ。
穿つ様な一撃、だがギリギリで顎を引き避ける。
「くっ…」
微弱ながらも顎を捉えた一撃に身体が揺れる。

「(やった!?)」
しかし、その隙こそが命取りだった。
格下だからと見くびるな、常に敵を見くびることなかれ、
分かっていたはずだが憔悴がそれを忘れさせていた。
膝をついたその姿に緊張の糸を緩め、真紅は一瞬視線を離した。
「――――甘いッ!!」
「なっっ!!??」
その言葉に目を見開き状況を把握する。膝をついてその場にいたはずの巴の姿は
すでにそこにはなく、迫る一閃が目の前に。
体勢をすぐさま立て直し、突進してきた巴の残影が眼前にまで迫っていた。
避けれるはずだったその一撃、竹刀の刀身が完全に真紅の肉体を捕らえる。
防御の構え、それすらも取ることを許さぬ無常の一撃。
「斬ッッッ!!!!!!!」
袈裟の斬撃が真紅を補足する。


「(なっ!?ま、間に合わな―――――ッ!!)」
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