※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 なお、話はホラー系統な上に他の作品のキャラも出てくるので、
苦手な方はNGワード"horror""hokakyara"でスルーよろ。

※※※※※※

 ――真夜中のこと……。

 ひっそりと静まり返った木造の校舎――

 埃でくすんだガラス窓。

 そこから差すおぼろげな月明かり。

 所々に張ったくもの巣。

 そして――ギシギシと不気味な音を立てる朽ちかけた廊下――
 その床をゆっくりと――音を立てながら歩く二人の影。
「うう、やっぱり帰るの……」
「何言ってるのかしら!ここまで来たからには行くしかないのかしら」
 怯えて引き返そうとする雛苺をなんとか引きとめようとする金糸雀。
「恐いの……」
 今にも泣き出しそうと言った様子の雛苺。
「心配することなんかないかしら!今日こそ学校の七不思議が全部まやかしだ
ということを解き明かしてやるわ!この金糸雀の天才的頭脳にかかればなんて
ことないのかしら!」
 あくまで自信有りげな素振りの金糸雀。
「5つまではなんでもなかったけど……次の『魔の階段』は本当に嫌な
予感がするの……。だって、この間も隣のクラスの友達が増えている階段を見
た後で、病気で寝込んでしまったみたいだから……」
「単なる見間違いなのかしら。病気も偶然に違いないのかしら!」
 嫌がる雛苺を無理矢理引っ張って、何とか――その『魔の階段』といわれる
階段のところまでやってきた。
 木製の階段。
 すでに老朽化が進行していて、所々ささくれ立っている。
 一部はへこんでいて、それこそ今にも足を掛けたら踏み抜きそうな雰囲気に
なっている。
 その上に照明はなく、背後の窓から差す月明かりがおぼろげに照らすのみ。

「や……やめたほうがいいの……」
「な、なにいってるのよ!い、行くかしら!」
 雛苺が引きとめようと金糸雀の体を引っ張る。
 しかし、彼女はそれに応じようとせず、雛苺の手を振り解き、階段へと足を
踏み出した。
 雛苺はその場に立ち止まりながら下でじっと金糸雀を見守るだけしかできな
かった。
 ギッ……ギッ……ギッ……。

 足を踏み出すごとに、古い階段がきしむ。

「い、今で4段目……確か昼に数えた時は11段あったから、あと7段かしら?」
 金糸雀は誰に言うわけでもなく、そんな独り言を呟きながらゆっくりと階段
を一段、また一段と登っていく。

 ギッ……ギッ……ギッ……。

 恐る恐る次の段へと足を踏み出す金糸雀だったが……。
「えっ?」

 突如、足を止めて下のほうへと振り返った。
 そして、上の方にある段の数を見比べて。
 表情は明らかに狼狽していることを示している。

 その時、下にいた雛苺と目が合って……

「ヒ……ヒナ……今何段目かしら……?」
「うゅ……8段目なの……」
「な……7段目じゃないのかしら?」
「どうみても……8段目なの……どうかしたの……?」

 雛苺の言葉にさらに怯えの色を露にする金糸雀。
 
「こ……この上に……4段あるのかしら……」
 ――!
 どう見ても――昼間に数えた時より1段増えている――。
  
 認識した途端に金糸雀の体が硬直した。
 そして全身が小刻みに震え出す。

「じ……12段?増えているのー!!」
 雛苺は恐さのあまり半泣きになっていた。
  
 その時――雛苺の視界に――

 ――黒いなにかの影が入った――!!

「ひっ!!」
 即座にその場から逃げ出す雛苺。

「ち、ちょっと逃げないでかしら!!」
 そんな雛苺を目にして、後ろを振り返り階段を下りようとした、その時。
 ドカッ!!

 金糸雀の後頭部に衝撃が走った。
 鈍い痛み。
 本人は何が起こったのか分からず……。

「うぁっ……」

 目の前が真っ暗になる。
 意識がゆっくりと遠のいて――

 ガタン、ゴン!!

 金糸雀の体は階段をゆっくりと転げ落ちていった――。
 ※※※※※※

 その後、雛苺は宿直室に駆け込み、当直でいた教諭の梅岡を叩き起こした。
 時計は丁度午前4時を指したところだった。
 何でこんな時間にいたのかと説教をしながらも旧校舎の中を捜してみるものの
金糸雀の姿は見つからなかった。

 もちろん……例の階段を探した。

 だが、そこにも金糸雀の姿はなく――

 途中の3段目から5段目に数個の血痕があっただけだった――

 ――段の数は11段だった――。

 血痕を目にした途端に、梅岡の脳裏に浮かんだ言葉は――

 ――事故――誘拐――

 途端に顔が青ざめる。
「なんてことだ……とにかく早く探さなければ!」
 すぐに泊り込みの用務員や、旧校舎の隣の建設現場の宿舎にいた作業員も駆り出
しての捜索になった。
 さらに、大事になっている恐れもあり、警察にも通報した。
 午前4時20分だった。

 事件に巻き込まれた可能性もあるとのことで、かなりの人数の警官が来た。
 しかし金糸雀の姿は見つからず――やがて夜が明けた。
 ※※※※※※

 午前5時50分。
「まったく、こんな朝早くに起きて学校に行くなんてないのだわ」
 私は小さく欠伸をしながら、友人の翠星石と学校へと向かう。
「仕方ねえですよ、真紅。今週の庭園管理の当番ですから」
 翠星石も半ば寝ぼけた様子で、足取りは重いようだ。

「あれ……何であんなにパトカーが?」
 校門の所まで来た時、いつもと違う光景に歩く足を止める。
「本当です……何かあったですか?」

 校門には数台のパトカーが停められていた。
 校庭には数人の警官がせわしく行き来していた。
 ただ事ではない何かが起こったのは明らかだった。

「どうしたのかしら」
 私と翠星石はパトカーを横目に校門をくぐる。
 するとその近くに見慣れた人影があるのが見えた。

 担任の梅岡先生と後輩の雛苺だった。
 先生の目の下には隈が出来ていて、憔悴しているのがよく分かる。
 雛苺もかなり疲れきった様子で、ずっと泣きつづけていた。
 さらに見慣れない――アフロヘアーで明らかにヅ……それはともかく、男性
が一人、手帳を手にしながら彼らに訊問している。
 どうやら刑事のようだ。
「泣いてたって分からへんやろ。あの時、君は同級生の金糸雀さんに誘われて
旧校舎に行ったのやな?」
「う……うぃ……」
 目の下を真っ赤にしながら、小さく頷く雛苺。
「それが午前3時半過ぎやな。んで、例の階段に行った時に……階段が増えと
るのに気付いて、んで横に誰かが来たのを感じて逃げてしもたんやな。それで、
それ以降、金糸雀さんの姿は見てへんと、ちゅうわけやな」
「……うぃ」
 
「金糸雀……何かに巻き込まれたようね」
「例の階段って、まさか旧校舎の『魔の階段』ですか?」
「みたいね。あの子、この夏のうちにこの学校の七不思議を解き明かすなんて
息巻いていたから」
 声を潜ませながら会話をする。
 この学校の――旧校舎には七不思議というものがあった。
 そしてその謎に足を踏み入れたものは必ず災いが降りかかるなんていわれて
いたが……ここ3ヶ月前から、その災いとやらが露骨になってきた。
 興味を持って七不思議を調べようとした生徒がさまざまな目に遭っているの
を耳にするようになったのだ。
 旧校舎の『悪魔の住む化学室』を調べた生徒が翌日になって原因不明の病気
で入院したり――
 その旧校舎の裏にある『葬送の焼却炉』を調べようとした生徒の下駄箱に魔
界の死者と名乗る者からの脅迫状が置かれていたり――
 そして――今回は『魔の階段』を調べようとした金糸雀が失踪した――。

「恐いです……」
「まったくだわ」
 私達はじっとその場に立ち尽くしながら、旧校舎を目にした。
 戦前に立てられた木製の校舎。
 朝で日が高く上っているので今はなんとでもない古い校舎のように見えるが、
どことなく不気味な雰囲気を漂わせている。

 数年前に使われなくなり、今では資料などの物置に利用されているようだ。
 最近では隣のマンションの建設現場の資材倉庫として貸し出されている。
 いろいろ曰くつきのこの旧校舎だが、取り壊されるという話は全く聞かない。
「兄ぃ、見つかりましたじゃ!!焼却炉にいたけぇの!!」
 旧校舎のほうから背広を着た――金髪でいかにもヤンキーといった様子の男
性が怪しげな方言で叫びながら、梅岡先生らがいる方向へと向かっていた。
 焼却炉って……まさか、『葬送の焼却炉』で?
「ほんまか!んで、ガイシャの様子は?」
 ヅ……ではなくアフロの刑事は、威勢良く尋ねる。
 しかし、ガイシャって……まるで金糸雀が殺されたような言い方だ。
 聞いていてあまり気分のいいものではない。
「生きてますじゃ!意識はあるけんど、後頭部に傷があって危ないので救急車
をこちらに向かわせてますじゃ」
 その言葉を聞いた途端に梅岡先生は胸を撫で下ろしていた。
 雛苺に至っては安堵のあまり思わず倒れそうになるぐらいだった。
「そうか。で、状況は」
「旧校舎裏の焼却炉の中に、ポリ袋に入れられて置かれちょったけぇの。本人
が目ぇ覚まして焼却炉の戸を中から叩いちょったのを警官が発見したですじゃ。
 下手したら窒息して、最悪の場合火ぃ入れられて焼死しちょったたかもしれ
んけぇ」
「としたら殺人未遂やな……面倒なことになりよったで……。
 ただでさえ、この近辺では通り魔事件やコカインやニセ札騒動で忙しいちゅう
のに……」
 ヅ(しつこい)ではなく、アフロの刑事はうざそうに手帳に目をやる。
 確かにここ2ヶ月前から、無差別襲撃の通り魔が出てきて大騒ぎになっていた。
 近所の主婦やサラリーマン、さらには隣の建設現場の作業員も襲われて、学校
の登下校時は集団で行くようにとの命令が出ていた。
 部活の朝練や――庭園管理の担当に関しても2人以上でいくことになったのだ。
 犯人は捕まっていなく、近所の人たちには学校に警備員を同伴させてほしいと
いう嘆願書まで出しているほどだった。
 さらには校内に麻薬が出回っていて、これまでに数人の生徒が持っているのを
発見されて補導されている。
 こんな騒動ばかりで先生らはPTAへの対応に四苦八苦しているというのに……
さらに胃をいためることになりそう。梅岡先生もいずれストレスのために目の前
の刑事と髪が同じになってしまうのが目に浮かぶ。
 やがて救急車が着く。
 旧校舎から金糸雀が担架に乗せられたまま運び出される。
 頭に巻いた包帯が痛々しい。
 雛苺が途端に涙を流しながら駆け寄っていった。
「ごめんなさいなの!ヒナ逃げてしまって……」
「……いいのかし……ら……よかった……ヒナが……無事で……。
 魔界の死者に……やられてなくて……本当に……よかったかしら……」
 そこで目を閉じる金糸雀。
 思わず抱きしめようとする雛苺をアフロの刑事が制止する。
「とにかく治療が先決や。今は辛抱せえ。
 事情は怪我が治ってから尋ねるとして……この子わしと同じニオイがするな」
 刑事はまじまじと金糸雀の……額の部分を見つめていた。
「確かにそうですけえの。確かめてはいないけんど、兄ぃと同じかもしれないで
すじゃ」
 金髪の刑事はニヤニヤしながら、アフロの刑事の頭に触ろうとする。
「じゃかましいわ!!」
 怒声とともに金髪の刑事の顔面に拳がめりこむ。
 バコンという威勢いいのいい音を立てて、金髪の刑事は後ろへ吹き飛ぶ。
「ありがとうございます!!」
 金髪の刑事は即座に立ち上がってお礼を言い出している。
 訳がわからないのだわ。
 本当にこの人らは警察なのかと本当に思ってしまう。
「とにかく今から病院行きますので……先生、ご同伴願えますかな」
「は、はい」
 アフロの刑事の言葉に梅岡先生も救急車に乗り込む。
「んで……どうでもええけど、チビ苺やったっけ」
「雛苺なの!」
「とにかく一応お前も来いや」
「うぃ」
 雛苺はむすっとしながらも刑事と一緒に救急車に乗る。
「石原、後の処理は頼むで」
「合点ですじゃ、兄ぃ!」
 金髪の刑事が敬礼したのを見届けて、アフロの刑事は救急車の戸を閉める。
 途端に救急車は校舎の外へと走り出していった。

「横柄にも程があるです」
「まったくね。でも貴女も変わりないわよ」
「うるせえです」
 救急車を見届けながらも、顔を膨らませる翠星石。

「しかし……厄介なことになったわね」
「まったくです」 
 私達はじっと旧校舎の方を何気なく見つめた。
 
 この時……私も翠星石もまさかこの旧校舎の七不思議に巻き込まれることに
なんて、まったく想像すらしていなかったのだった。


本日の特別出演
矢部謙三および石原達也@TRICK(1および2)
|