『優しさの断片』

学校に行く道の途中には、小さな公園がある。そこに住んでるおじさんは
いつも犬を連れているんだ。犬はいつも舌を出していて、何か食べ物が落ちて
ないか探してる。私はその光景を見る度に、何かしてあげたいと思うんだ。
薔薇「……あの人、ゴミ箱に捨ててある物食べてるよ?」
水「そうねぇ…。でも、仕方ないことなのよぉ?」
薔薇「……どうして?」
水「それは……生きていくためよぉ」
薔薇「……生きるためにゴミを食べるの?」
水「だって…そうでもしないと、あの人は死んでしまうから…」
薔薇「……悲しいね」

私には、昼休みにはお弁当がある。普通の食べ物を食べることが出来る。
でも、それが当たり前だから、感謝をすることを忘れていたんだ。
水「ごちそうさまぁ」
薔薇「……もう食べないの?半分も残ってるよ?」
水「……だ、ダイエットしてるから、もうごちそうさまなのよぉ」
薔薇「……ふ~ん。別に太ってないと思うけど」
水「……」

私がしようと思うことは、ただのお節介なんだろうか?偽善なんだろうか?
失礼な話なんだろうか?それとも、優しさなんだろうか…?
ただ、私はあの公園にいるおじさんに何かしてあげたいだけなんだ…。

薔薇水晶と別れた後、私はこっそりと、帰り道の反対方向に歩く。
そして私は、あの公園にいるおじさんに話しかける。
残したお弁当を差し出しながら……。
水「あの…これ、良かったら食べてください」
お「何の真似だ?」
水「お腹が空いているんですよねぇ?今だってゴミ箱を…」
お「ふざけんじゃねぇ!俺を馬鹿にしてんのかぁ!?」
水「でも、これ美味しいですよ?そんなゴミ箱に捨ててあるようなものよりずっと…」
パチン!と音がはじけた瞬間、顔が熱くなった。ビンタをされるなんて
いつ以来だろうか……。
お「てめぇらみたいな、ガキに食い物を恵んで貰うほど、俺は落ちぶれちゃいねえ!」

それは心の底からの叫びだった。おじさんの隣にいた犬が、おじさんを
なだめるように、クゥンと小さく鳴いた。
お「俺だってよぉ、好きでこんなことやってんじゃねぇんだよ…」
水「…ごめんなさい。本当に…ごめんなさい」
お「別に良いんだよ…。殴ったりして悪かったよ」
水「…私は…おじさんが、喜ぶと思って…それで…それで」
お「わかってるよ…。でもな、お嬢ちゃん…気持ちだけで十分なんだよ…」

枯れた花に水をあげることは、とても大切。私はそれを優しさだと思う。
でも、枯れていない花に水をやりすぎるのは悪いこと。
おじさんは、枯れてなんかいなかったんだ……。

あれから、一週間が経った。おじさんはもう、あの公園にはいない。
どこか、違う世界に旅立ったのだろう。
翠「こんな不味いもの、私は食べないです!」
蒼「翠星石、好き嫌いはよくないよ?せっかくお爺さんが作ってくれたお弁当
なんだから、残しちゃ悪いでしょ?」
翠「嫌です!あのおじじ、私が嫌いだからってわざと嫌いなもの入れたんです!」
翠星石は、わがままを言いながら、お弁当をひっくり返した。
蒼「ああ!なんてことするのさ!?」
翠「ふん。せいせいしたです!食堂でパンでも食べるです!」
どうしてだろうか?私の体が、勝手に反応した。気がつくと私は
翠星石をひっぱたいていた。
水「食べ物を粗末にしちゃダメでしょう!この馬鹿ぁ!」
翠「……ご、ごめんなさいですぅ……」
蒼「水銀燈…」

いつも、食べ物がそこにあるとは限らない。毎日楽しく過ごせる保証もない。
だからこそ、小さなことにも感謝をしないといけないんだ。
薔薇「……別に叩いたりしなくても、良かったと思うよ?」
水「そうかもしれないわねぇ…。でもねぇ、叩かれて学べることもあるのよぉ?」
薔薇「……それは、なんなの?」
水「そうねぇ、上手く言えないけど…優しさの断片みたいなものかしらぁ」
薔薇「……??」
おじさん、優しさってなんなのかなぁ…。まだ、私にはわからいよ…。
…完。

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最終更新:2006年02月28日 22:13