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此処は日本の栃木県那須湯本…その温泉付近にそれはあった。

 「これが殺生石…かつて三大妖怪が一つ、『白面金毛九尾』が討滅された場所…。」

その者はその岩に近寄る、本来ならば有毒ガスがあり人を殺すほどのものなのだがなんとその者には効いていないようだった。
やがて岩に触れれるところまで近付くと懐から禍々しくも怪しい赤光を放つ宝珠を取り出した。それは紛れもないローザミスティカ。
殺生石に向けてその宝珠を埋め込むと辺りに脈動のような鼓動が響く、それは早鐘のように早くなり同時に岩からとてつもない妖気が溢れ出す。
岩は突然爆発し当たりに瘴気を撒き散らしその付近にいたローザミスティカを持ってきた者以外の人間の全てが死に絶えていた。
そしてこの地獄絵図の中、金色の毛に覆われ顔は白く血のような凛々しい赤い双眸と長く異形ながらも後光を表すような九つの尾を持ったそれは美しい狐が現れた。

 「妾を封印から解き放ったのはそなたか?」

その言葉には信じられないのだが言霊に似たような力が宿っており声自体は美しい美声なのだがまるで頭の中に直接響くような不快感を与えるものだった。
その者は妖狐の予想以上の妖気と実力に圧倒されないように必死になって思考を巡らせていた。

 「はい、僕が貴方様を自由にしました。」
 「妾に何用じゃ?そなた…退魔士であろう?」

いとも容易く自分の身分を見破られて少し動揺をしてしまったのだがもしも隙を見せると食われてしまうと本能が告げていた。気丈な態度を取り戻しその者は雄弁を振るう。

 「ええ、ですが僕は今の退魔士、それも『薔薇の退魔士』に対して疑念があるのです。
  彼等は私服を肥やすばかりでどんどん堕落し切っています。だからこれは同じ退魔士としての粛清なのです。」
 「ふ、つまりは妾を押し掛けて『薔薇の退魔士』とやらを潰させようというのだな?」
 「はい、しかし無償でとは言いません。貴方に植え付けたそのローザミスティカを…」
 「ローザミスティカ?この宝珠のことかえ?」

九尾は嘲笑いながら確かに植え付けたはずのローザミスティカを体の中から取り出した。本来ならば魔物や人間の体に寄生して取れるはずはないのに…。

 「妾を侮るな。このような人の子が作りし玩具の力になど頼らずとも退魔士如き捻り潰してくれるわ!」

とてつもない妖気を解放した九尾を中心に地面に皹が入り地割れが起こり空間は彼女の無限とも言える妖気によって歪んでいた。
流石にそれを間近で受けた彼も膝を屈する。

 「よいか?妾を監視するのは構わぬがお楽しみを邪魔すればそなたから食ろうてやろうぞ!!」
 「は…仰せのままに、九尾様…ッ」

これほどの力を有するのは計算外だった。しかしこれで上手く『薔薇の退魔士』たちを根絶やしにしてくれれば後は此方のものだ。

このような古狐に負ける要素は僕にはない。心の奥底で彼は余裕の笑みを見せていた。

真紅の自宅に雛苺が帰って来た。珍しく巴と一緒だった。

 「たっだいま~なの!」
 「おお、帰って来たのか…って巴も一緒だったのか?」
 「お邪魔します…うん、今日は雛苺がお家に泊めてあげるって聞かないから…」
 「どうでもいいけれども此処は私の家なのだわ。」

確かにそうだ。一応雛苺は真紅の家で暮らしている。今までは休日だったので巴の家に遊びに行っていたらしい。
雛苺の話によると巴の家は大層立派な道場だったらしく色々な剣士見習いが巴のことを姐さんなどと呼んでいたらしい。
とりあえず僕が帰って来た二人と真紅に紅茶を淹れようと台所に行ったときに来客が来た。

 「あのぅ…すみません。」
 「貴方は誰?」
 「私は由奈と申します。貴方は…退魔士さんですよね?」
 「ええ、そうだけれども…ご依頼かしら?」
 「はい、先日のニュースはご覧になりましたか?」
 「ひょっとして栃木のニュースか?何でも殺生石が爆発を起こして死亡事故があったっていう…」
 「はい、あれは…恐らくあの石に封印されていた妖怪の仕業だと思います。」
 「あの石に封印されていた妖怪って…まさか………」
 「『白面金毛九尾』…日本の三大妖怪の中でも最強と言われている妖怪の中の王とまで呼ばれたこともある奴ですよね?」

巴が訳知り顔でそのことを詳しく語った。確かに日本に三つの国を混乱に陥れた大妖怪がいて討滅されたことは聞いたことがあった。
けれどもまさか今になって、それも栃木にそんな大それた存在が封印されていただなんて…。

 「それで、貴方は私にどうして欲しいのかしら?」
 「退治して下さい。あの妖怪は私の両親を殺したんです!仇が討ちたいけれども…私じゃ無理だから…。」

真紅は暫くの間黙って考えていた。流石の『薔薇の退魔士』といえども今度の相手は妖怪の王、だとすればそれは立派な神クラスの魔物だ。
下手に討滅すれば神クラスの魔物の呪いにその身を食われてしまう。

 「いいわ、行きましょう。けれども流石にこのメンバーで挑むのは自殺行為ね…応援を呼ぶのだわ。」
 「応援?それって別の退魔士を呼ぶってことか?」
 「ええ、流石にたったの4人でそんな大妖怪を討滅することは不可能なのだわ。戦いに特化した退魔士…薔薇水晶を呼びましょう。」
 「アイツかぁ…本当に大丈夫なのか?」
 「あら、あの子の戦闘能力は水銀燈と比べてもひけをとらないのだわ。それに仲間思いでもあるから寸でのところで思い止まるでしょう。」

果たしてそれでいいのだろうか…気が進まないまま僕等は栃木県へと向かう。
その道中の『nのフィールド』の中で薔薇水晶は一人ボーと佇んでいた。何を見ているかと思えば鏡に映る様々な景色に見惚れていたのだ。
景色と言っても絶景がある訳ではなく何の変哲もない部屋だったりやたらアニメのポスターとか張ってある部屋だったり風呂だったりと部屋ばかりだった。

 「薔薇水晶。よく来てくれたわね。」
 「あ、真紅に雛苺に邪夢にえーと…あと二人は誰だっけ?」
 「おい、僕は邪夢じゃない!ジュンだ!!」
 「えっと私は柏葉十兵衛巴、この子は今回の依頼主の由奈さんだよ。」
 「ユナに………ジュウベエ、何だか水戸黄門に出てきそう………悪者の用心棒で。」
 「う、そうかもしれないね………」
 「むぅー、トモエをいじめたらめっめっなの!」
 「冗談…じゃあ今から栃木にレッツゴー。」

思いっきり自分のペースにみんなを巻き込んでおいて一人だけやる気満々で突っ走る薔薇水晶。完全に頭の可笑しい奴に思えるがこれでも実力は確かに高い。
過去に一度だけローザミスティカを植え付けられて凶暴化したドライアドとの戦いを見たがあの巨体相手に互角以上に渡り合えたのだ。それなりにみんなは期待している。
やがて事件の起きた場所、栃木県の那須湯本に辿りついた。其処は異常なぐらいの妖気と瘴気に満ち満ちた場所でその余りの酷さに陽炎のように周りが歪んで見えた。
其処に老婆の姿をした人が不自然に一人だけ立っていた。彼女はゆっくりと此方に振り返る。その眼光は鋭くまるで人ではないようだった。

 「由奈、この老婆がそうなの?」
 「はい!この感じ………私のパパとママを殺した妖怪そのものです!!」
 「そう、ならば討滅開始よ!!」

真紅の掛け声と共にまず巴と薔薇水晶が飛び掛る。巴は御佩刀である祓浄女之刀の赤い刀身で斬り掛かり、薔薇水晶は水晶の剣で斬り掛かる。
妖狐の速度は尋常ではなく二人の同時攻撃を難なく回避して青い焔、狐火を発射する。その大きさは巨大な岩が燃えているようなものでとても狐火とは思えないほどの威力だった。
薔薇水晶は地面から水晶を隆起させて壁にして巴と自分の身を守る。狐火が止んだら防御に使っていた水晶の壁を発射させて攻撃をしかける。
流石にこれを回避することはできないので妖狐は本性を表し獣の姿で疾走して水晶の塊を回避しつつ接近する。
二人の援護のために雛苺は地面から蔓を生やして妖狐の四肢を抑えつけ真紅は花弁の形に凝縮された魔力の塊を妖狐の周囲に張り巡らして狐火を封じる。

 「今よ!薔薇水晶、巴!!」

薔薇水晶は妖狐の足元から幾重もの鋭い水晶を突き出させて串刺しの形にする。すると巴は駆け出して自身を巨大な弾丸のように闘氣を張り巡らして妖狐に突っ込む。
巴は妖狐の四肢と尾を斬り落とすとなんと薔薇水晶が苦痛にのたうち回る九尾の口の中に入って行ってしまった。
心配しているジュンと巴と由奈を他所に真紅と雛苺は平気な顔をしている。暫くすると九尾が口の中から血を吐き出して胴体と頭だけになった姿のままでのたうち回った。

 「おのれぇ…人間めぇ………妾を、妾を誰だと思っている。妾を殺せば…や、奴がぁぁぁぁあああああああッ!!」

断末魔を上げたかと思えば九尾の体を水晶の柱が突き破り腹部の方から水晶の剣を使って血に塗れながら薔薇水晶が無表情のままで出て来た。
それはあたかも生まれたかのような光景でそれを見たジュンと巴に恐怖を植え付けていた。

 「討滅完了…お腹減った。」
 「ご苦労様ね、これでいいのかしら、由奈?」
 「あ、はい!けれども…もう一つだけ依頼をしてもいいですか?」
 「ええ、それ相応の褒賞を払ってくれるのなら………」
 「そうですか…じゃあ最後の依頼です。此処で死んで下さい!!」

突如由奈の背中から九つの尾のようなものが現れて真紅の体を貫いた。状況を理解できない僕等はただ絶句していた。真紅がその名前の通りに真っ赤に染まって倒れている。

 「真紅!!お前、一体何者なんだ!!」
 「五月蝿い小僧だのう。妾か?名は幾つもありて困り過ぎるのだが…低脳なそなた達にも分かるような名前と言えば…『白面金毛九尾』とでも言えばよいかえ?」
 「そんな…貴女が九尾だっただなんて…なら今倒したのは…」
 「ふ、女剣士よ。剣の腕は立つようだが心の目は曇っておるようじゃのう。先ほどそなた達が討滅したのは妾の力の一部をくすねた薄汚い子狐じゃ。しかしその剣術も危険じゃ。妾が直々に潰してくれようぞ!!」

由奈、いや本物の九尾の体から先ほどの妖狐とは比べ物にならないほどの妖気が放たれる。その妖気は呼吸する空気を伝って体の中に入り直接内蔵にダメージを与えた。
次の瞬間に巴も口から血を吐いて倒れ伏してしまう。

 「トモエー!!しっかりしてなのトモエー!!」
 「残るはそなたら三人…しかし妾の相手にはちと乏しいのう。まぁせめてこの虫の息の退魔士ぐらいは始末するか…。」

九尾の鋭い牙が真紅の顔に喰らい付こうとゆっくりと開け放たれて近付く。僕は駆け出したかったのだがこの濃厚な妖気と瘴気の中で思うように体が動かない。
もう駄目だと思ったそのときに妖狐と真紅の間に黒い影のようなものが割り込んで妖狐の開け放たれた口に剣を振り下ろした。
思わぬ奇襲に妖狐は仰け反りタイミングを逸してしまう、その間に真紅はその黒い影によって僕らの許へと運ばれていた。その漆黒のコートと翼に黒薔薇の刻まれた剣…それは水銀燈だった。

 「銀姉さま…?」
 「全く、かなり強い力を感じたから悪魔か何かかと思ったら古狐?ガッカリねぇ。」
 「水銀燈…」
 「男が情けない顔するもんじゃないわぁ。大切な人ぐらいしっかりと守りなさい。」

素っ気無くそう言って水銀燈は抱えていた真紅を僕に寄越した。出血が酷いがまだ息はある。しかしこのままでは出血多量で死んでしまうだろう。

 「水銀燈、大丈夫?」

気が付けば水銀燈がやって来た方向から黒髪に白い法衣のようなものを着た少女がやって来る。どうやら水銀燈の連れらしい。

 「めぐ、来ちゃ駄目って言ったでしょ!」
 「ごめん、やっぱり気になっちゃったから…それよりも怪我人がいるの?」
 「ああ、二人ぐらい…けれどもこのままじゃあ…。」
 「大丈夫、私が治してあげるから。」

聞き返す暇もなかった。黒髪のめぐという少女は真紅と巴の手を握って何か不思議な温かい力で二人の傷を見る見るうちに癒してしまった。前に見えた翠星石の如雨露とは訳が違う。媒介無しに此処までの治癒をやってしまうとは正直驚いた。

 「………さぁ、怪我人はもう治ったでしょ?邪魔な人はさっさと消えなさい。」
 「小娘…よもやそなた一人で妾の相手をしようと言うのかえ?」
 「ふん、とっくの昔にトウの立ってるババアの相手なんて私一人で十分ってことよ。」
 「ババア…?この妾を…ババァとな!?許さぬ!!妾に対する冒涜は万死に値するぞ!!その死を以って償え!!小娘ぇぇぇえええええ!!」

逆上した九尾は更に妖気を放ちプレッシャーをかける。しかし水銀燈は涼しい顔をして剣を構えていた。仕方なく僕達は『nのフィールド』へと退散するが薔薇水晶だけは水銀燈の傍らについていた。

 「貴女も逃げなくって良かったのぉ?」
 「冗談……姉さまだけいい格好はさせないし………姉さまとなら久々に私も本気で戦える気がする。」
 「貴女とこうして共闘するのも久し振りよねぇ…じゃあ行くわよぉ!!」

猛然と襲い掛かる九尾に二輪の薔薇は勇敢にも立ち向かう。両者の熾烈な戦いが始まった。

今は真紅と巴を安静にするのと増援を呼ぶことが重要だった。幾らあの二人が強いとは言え九尾の力は侮れない。『薔薇の退魔士』の全員の力が必要になるかもしれないのだ。
僕と雛苺とめぐは『nのフィールド』を伝って世界樹の麓の『七色の薔薇園』へと向かう。ようやく辿りついた僕等に最初に気が付いたのは蒼星石だった。

 「ジュン君に雛苺?どうしたんだい……真紅!?怪我をしてたのかい?」
 「ああ、兎に角真紅と巴を安静な場所に、それと蒼星石、翠星石と一緒に来てくれ!!」
 「早くしないと水銀燈と薔薇水晶が死んじゃうのー!!」
 「私は…真紅と巴の傍にいないと…二人の面倒を見ないとね…ゴホッゴホッ…」

めぐは二人の面倒を見てくれると申し出てくれた。しかし心なしか二人を治療した後の彼女の顔色はとても悪いように見えた。結局はめぐも最後の方は力尽きて寝込んでしまったらしいのだが…。

 「とりあえず待って、状況を説明してくれないか?水銀燈と薔薇水晶がいるのにまだ戦力がいるほどの相手なのかい?」

焦っている僕達を落ち着かせるためにも蒼星石は正確な情報を聞き出した。九尾が蘇りそれに化かされて真紅が負傷してしまったこと、そして情けなくも命からがら逃げ延びたということを。

 「わかった、僕と翠星石も出よう。金糸雀にも呼びかけてみる、雛苺とジュン君は此処で待っててくれ。」
 「うにゅー、ヒナだって『薔薇の退魔士』なの!!今度こそ役に立つんだから!それで巴と真紅の仇を討つの!!」
 「僕だって…真紅をあんな姿にされて黙っちゃいられないさ!足手まといにはならないから僕等も連れて行ってくれ!!」
 「………わかった。それじゃあ皆で真紅と巴さんの敵討に行こう!」

僕等は世界樹の根で翠星石と合流し、連絡を受けた金糸雀と『nのフィールド』で落ち合って水銀燈達の許へと向かった。

これが薔薇の退魔士全員が力を合わせて戦った最後の討滅戦だった。

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