※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「・・・何を、描いてるんだ?」
「アッガイ」
「・・・アッガイか」
 薔薇学園の高等部。そこの美術室でそんな会話があった。
 アッガイの絵を描いているのは薔薇水晶。いわゆる不思議系。
 そのアッガイの絵を見ているのはJUMである。一言で言えば絶倫超人。
「これって良いのか? 今学期の美術の授業中に描く絵のテーマは確かに自由だけど」
 テーマは自由。そのせいか、そうそう普通の絵を描く人間は居ない。
 真紅は、ティーセット。水銀燈は、ヤクルト400。
 翠星石は、如雨露。蒼星石は、庭師の鋏。
 金糸雀は、玉子焼き(黄色一色)。雛苺は、うにゅ~(ゴッホ風味)。
 雪華綺晶は、花の絵。巴は、和室の絵。
 ベジータは、亀と書かれた服を着た謎の男。
 笹塚は、廊下に立たされて何も描けていない。
 JUMは既に描き終えている。その絵はまさしく芸術一級品で、大きな大会に出す事が決まっている。
 その絵のレベルは見ると何が起きたのか解らないぐらい感動し、大量の涙が溢れるという。


 そんなJUMが
「に、してもリアルだな・・・」
 と、舌を巻くぐらいの出来のアッガイの絵。
 薔薇水晶は、絵は得意ではない。が、アッガイが関係すると何故か絵の能力が飛躍するらしい。
 きーんこーんかーん・・・フォーッ!!
 薔薇学園の妙なチャイムが鳴った。授業終了である。
「おーい、銀嬢」
「なぁに、ベジータ」
「銀嬢。次って何だ?」
「数Bよ」
「うわぁ、マジか・・・ま、良いや。ありがとうな」
「どういたしましてぇ」
 それぞれが自由な会話を繰り広げながら教室に戻っていく。
「・・・」
 そんな中、薔薇水晶一人が美術室の中から生徒達をじっと見ていた。
「・・・薔薇水晶、どうした?」
「あ、ううん。何でもない・・・」
「?」
 JUMは案外、人を見る目だけはある。だからこそ、気付いていた。
 今日の薔薇水晶は、何か変だと。 
 

 学校。放課後の夕暮れ、逢魔が刻。
 忘れ物を取りに教室の扉を開けるJUM。
 黄昏に染まった、目に飛び込む赤いその光景に、一人の女子生徒が映える。
 それは、JUMの席に突っ伏していた。
「・・・薔薇水晶、人の席に寝て何をしているんだ?」
「あ・・・JUM君」
 ひょっこりと顔を上げる薔薇水晶。
「なんか、眠いから寝てた」
「自分の席で寝ろよ」
「だって、ここの席の方が心地良いから・・・」
「何処だって同じだろ?」
「JUM君の温もりが心地良いの」
「・・・何気なく恥ずかしいこと言うな、お前は」
「今の本気だよ? 凄く、暖かくて優しい。だから、まどろみに溺れちゃう」
 楽しそうに、机に頬擦りしながら薔薇水晶は語る。
 それを聞くJUM。その顔には、優しそうな微笑が浮かんでいた。
「じゃあ、その温もりの持ち主が抱きついてやろう」
 そう言いながら、近付く。
「その前に抱きつくもん」
 と、薔薇水晶が突然立ち上がり、JUMに抱きつく。
「暖かい・・・癖になりそう」
「お前、猫みたいな性格だな」
 薔薇水晶は、満足そうな顔をしていた。その笑顔をJUMの胸に埋めたまま。

 しばらくして、ふとその肩が震え始める。
 その様子の変化にJUMが気付いた。ふと、すすり泣く声が聞こえる。
「・・・薔薇水晶、どうした?」
「ぐすっ・・・ごめんね。ちょっとだけ、こうさせて・・・」
 何も言わない時には、追求しない。
 顔をうずめて泣く薔薇水晶を、JUMはただ黙って泣き止むのを待った。

 しばらくして、泣き声は止んだ。
 夕暮れだった空に深い蒼が混じって、濃い青紫にその色を鮮やかに変化させる。
 地平線の向こうは、まだやや赤が見えるがそれも消えるだろう。
「・・・JUM君。私はどうして私なのかな・・・?」
 顔をいまだJUMの胸に埋めたまま、呟くように問う。
「薔薇水晶が薔薇水晶だから。理由なんてそれぐらいしか無いよ」
 問いに明確、かつ簡潔に答える。
「嫌な理由だね・・・。あのね、私、自分が嫌いなの。
 みんな凄く良い個性ばかりなのに、私だけがどこかずれてる。
 アッガイ好きな事や自分の行動が変なのも気付いてる。でも、直せない。自分だから。
 このままじゃ、みんなに嫌われそうで・・・。
 どうしたら良いのかな? 私、みんなに嫌われたくないよ・・・独りは嫌だよ」
 再び、薔薇水晶は泣き始める。と、笑い声がした。その声はJUMのだ。
 薔薇水晶は顔を上げる。そこには、優しい笑顔をしたJUMの顔があった。



「・・・馬鹿だなぁ。独りになるのが怖いとか、そんな心配は要らないんだよ」
 そう言って、薔薇水晶の頭を撫でる。
 子供をあやすように、まるで愛しい何かに触るかのように。
「どうして・・・?」
「みんなが、嫌っても僕だけは嫌わずに傍に居る。そうすれば独りじゃない。だから心配するな」
「・・・本当に傍に居てくれる?」
「もちろん」
「でも・・・そんなの、言葉だけ・・・。信用できないよ・・・ゴメンね」
「ん~・・・そうだな。どうしたら良いのか・・・」
 困ったように、苦々しく笑う。
 JUMは薔薇水晶の顔をまじまじと見つめる。
 そして、ふと思いついたら実行というように行動を起こした。
「なら、これで」
「・・・あ」
 自然と、二人の目蓋がそっと下りた。
「・・・」
「・・・」
 夕暮れに映える人影。その顔の部位だけが、重なった。
「・・・これでも、駄目か?」
 薔薇水晶の目を見つめ、逸らさずに問う。
「・・・ううん。信じてあげる」
 そう言って嬉しそうに、笑う。
「あ、悪いな。許可も何も無しにキスしちゃって・・・」


「別に良いよ。でも・・・ファーストキス盗った責任だけは果たして欲しいな」
「僕に出来る事ならどうぞ」
 沈黙。それは数秒。
 薔薇水晶の顔が赤く染まっている。そして、俯きながらぼそりと言う。
「私と付き合って下さい・・・」
 JUMは笑う。
「こちらこそ、よろしく」
「ずっと、支えてね。死ぬまで、傍に居てね・・・」
「良いよ。ずっと支えて、傍に居る」
「こんな約束したら、別れられないね」
「だって、別れないしな。だろ?」
「うん。ずっと一緒に居たい。結婚しよう」
「飛躍しすぎだ」
 薔薇水晶は明るく返事をする。目からまた涙を落とす。これは、嬉し涙だ。
 その顔は、とても綺麗だった。悲愴とは全く逆の泣き顔。いや、笑い顔。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん!」

 そして、この二人の物語の始まりこそが、後に「薔(かな奴)薇大戦」と呼ばれる、
 薔薇水晶ファン同盟、JUM君LOVE同盟のクラブ同盟派と
 JUM達、一般生徒の連合派の喧嘩、
 もとい薔薇学園最大の内乱になろうとは誰も知る由が無かった。
 続く・・・?
|