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翠星石のお弁当

翠星石の一日は早朝から始まる。弁当を作るためだ。
昨日のうちにあらかた下ごしらえをしておいたのでそれほど時間が掛かる訳でもない。
いつも自分と双子の妹である蒼星石の二つしか作らないのだが今日は違う。
大好きなあの人に食べて貰いたくて今日は三つ分作らなければならないのだ。

蒼「ふぁ…おはよう翠星石。」

後ろを見ると蒼星石が起きて来た。
部屋で着替えたのか既に制服になっている。

翠「おはようです、蒼星石。朝ごはんはまだなので待ってろですぅ♪」
蒼「うん…今日は朝から上機嫌だね。」
翠「そ、そんなことねーですぅ。」

蒼星石が台所を覗くと其処にはえらく凝った弁当が三つもあった。

蒼「ふ~ん、そういうことか…」
翠「な、何がそういうことですか!?べ、別にこの弁当をチビ人間にあげようなんて考えてねーです!?(///)」
蒼「翠星石…自滅してるよ…」

苦笑いしながら蒼星石はリビングに退却していく。いつもなら手伝いぐらいするのだが今回は手を出すわけにはいかない。
退却する前に翠星石は大声で負け惜しみを言ったがあえて聞かない。

翠「………♪」

さっきまでの怒った顔は柔和に綻んでいる。

そして登校…
蒼星石と一緒に歩いていると前方にその人がいた。
翠星石が声をかけようか躊躇ってるうちに蒼星石が声をかける。

蒼「おはよう、ジュン君。」
ジ「ん、おはよう。蒼星石、翠星石。」

挨拶されたのだが変に緊張して翠星石はオドオドしていた。
蒼星石が翠星石の肩を優しく叩く。

翠「お、おはようですチビ人間!翠星石と蒼星石と一緒に登校できるのですから有難く思いやがれですぅ。」
ジ「な、なんだよそれ。別に偶然出会っただけじゃないか。」
翠「偶然だからですぅ。そんなこともわからんのですかチビ人間は。」

いつもの軽口の叩きあいが始まる。
翠星石は自分の軽口に付き合ってくれるジュンが好きだった。

しかし、これだけ自分の気持を偽った翠星石にとってジュンに本心を曝け出すことは困難だった。
なので今日お弁当を作って少しでもその気持を伝えようとしている。

翠「そ、そーです。友達の少なそうなチビ人間のために今日は翠星石達が一緒にご飯を食べてあげるですぅ。」

出来るだけ思いついたように振舞う。
本当は昨日の夜から計画していたことなのだが…

ジ「おま、僕はそんなに友達は少なくなんかない!」
蒼「まぁまぁ、翠星石もそんな言い方しちゃ駄目じゃないか。本当は一緒に食べたいって言えばいいのに。」
翠「そ、蒼星石は一言多いです!!(///)」

顔が熱くなる。きっと今自分は顔が真っ赤なのだろうと容易に分った。

ジ「なんだ、そんなことか。なら別にいいけど。俺今日は学食だぞ?」

まさに千載一遇のチャンスだと思った。
神様がいるなら今だけは感謝してやりたい。

翠「しょ、しょーがないチビ人間ですね!そんなこったろうと思って翠星石がお弁当作ってやったです!有難く思えですぅ!(///)」
 (い、言っちゃったですぅ…(///))
ジ「え、そうなのか?蒼星石から聞いたけどお前の弁当って美味いらしいからな、楽しみにしてるぞ。」
翠「う、と、当然ですぅ…(///)」

先刻のジュンの言葉を聞いて翠星石は蒼星石を見る。蒼星石は何も知らないと言いたげに微笑んでいた。
そんな妹の気遣いを嬉しく思いながら三人一緒に学校へと歩いていく。

翠「可笑しいです…ジュンの分のお弁当がないです。」
鞄の中を探しても自分の分しかない。(蒼星石の分は蒼星石の鞄にある)

蒼「どうしたの、翠星石?ジュン君待ってるよ?」
翠「あぅ…蒼星石…ジュンのお弁当がないんですぅ…」
蒼「え…今朝ちゃんと鞄の中に入れたの?」
翠「入れたですぅ、けどないんですぅ。」

必死に鞄の中身を探し最終的には鞄の中身を全部出すがやはりない。
ジュンを一人で待たせては悪いので蒼星石には先にジュンのクラスに行って貰った。
ないものは仕方ない、この際一つの弁当を二人で分けようと思った矢先…

女1「ねぇねぇ、あんたが探しのってこれじゃね?」
翠「あ、帰して…」
女2「別にいいけどさぁ…あんた昨日あたしらになんて言ったか覚えてる?」
翠「え…」

思い出した。昨日蒼星石に嫌がらせをしていたので口論になった女生徒だった。
蒼星石は色んな人に好かれてはいるがそれに比例して妬む人も多かった。
その嫌がらせは蒼星石の机の中にゴミを詰め込むという陰湿なものだったので止めただけだ。

翠「あれはオメー等が悪いです、翠星石も蒼星石も何も悪くないです!」
女1「うるさい!あんたのそーゆー媚び売ってる口調もうぜぇんだよ!」
翠「そんなことはどうでもいいですからお弁当返しやがれです!!」

女1に握られている弁当を奪おうと翠星石は進み出るが女2に阻まれる。

女1「ふん、あんたなんかが作ったこんな弁当なんてこうしてやる!!」

持っていた弁当箱を女1は力いっぱい地面に叩きつける。教室中に大きな音がしたのでクラスの皆がそれを見ていた。
流石に罰が悪くなったのか二人の女生徒はそのまま退散して行った。

翠「う…うぅ…っ」

翠星石はその場に泣き崩れた。
せっかく蒼星石が応援してくれていたのに…
せっかく今朝頑張って作ったのに…
せっかく勇気を出して言ったのに…
楽しみにしてるって言ってくれたのに…

ジュン「す、翠星石…?」

ジュンの声がして翠星石は涙を流したまま振り返った。
遅い翠星石を心配してジュンは何時しか翠星石のクラスに来ていたのだ。

翠「あ…う…っ」

走った。止めるジュンの声を振り切って翠星石は無我夢中に走った。そして何時も自分の世話をする薔薇園の前で壁を背にひたすら泣いた。
嗚咽を吐いて、涙を流して、翠星石は泣くことしか出来なかった。

翠「ヒック…グス…」

もう駄目だ。ジュンが来たのはあの女生徒が出て行った後なので状況の知りようもない。
きっと誤解された。どうしてあの時説明もせずに逃げ出してしまったんだろう。

「…せ…石」

声が聞こえた。

ジ「翠星石!」
翠「ジュ…ン…?」
ジ「大丈夫か?」
翠「あの…ごめんなさいです…ジュンに作った弁当ですがさっき見たとおり…うっかり落としちまって…」

ジ「違うだろ、弁当箱投げられたんだろ。」
翠「え…」
ジ「さっきクラスの奴に聞いたよ。翠星石が女子と口論になって弁当を滅茶苦茶にされたって。」
翠「そ、それでもごめんなさいです…」
ジ「いいよ、それに…ホラ、ちゃんと持ってきたからさ。」

そういうジュンの両手には翠星石の弁当と先ほど滅茶苦茶にされた弁当があった。
無言で翠星石に弁当を渡し自分は滅茶苦茶になった弁当を食べる。
しかし翠星石は中々箸をつけない。

ジ「この煮物お前が作ったのか?やっぱり美味いな…もぐもぐ」
翠「嘘です…こんなにぐちゃぐちゃになったら味なんてわかりゃしねぇです…」
ジ「分るよ。」
翠「え…?」
ジ「翠星石が心を込めて作ってくれたんだから…分らないわけないじゃないか。」
翠「ど、どうしてそれを…(///)」
ジ「う~ん…実はさっき蒼星石から聞いてさ。」
 「今日は翠星石が嬉しそうに俺の分も弁当作ってくれたって…」
翠「う…あ…(そ、蒼星石…また余計なことを…でもありがとうです…)(///)」
ジ「だから、さ…食べようぜ。翠星石が折角作ってくれたんだからさ。」
翠「しょ、しょーがねぇです。なら一緒に食べてやるです♪」

なんだかんだ言って今日は嬉しい一日でした…

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