・春の日の憂鬱 編
30.【悪夢は】【終わらず】 いよいよ決戦当日。ああ、時の流れとは、なんて無情なのだろう。いっそ今までのこと全てが、いっときの悪夢であれば――なんて。メルヘンチックな戯言を胸裡で綴る私を嘲るように夜は更けて、明けた。 とにかく、こうなれば覚悟を決めて、やれるだけ頑張ってみるしかない。ギュッと両手を握り、今朝からもう何度目かの気合いを入れなおす。傍らで、それを見ていた蒼星石が、ふふっと鼻を鳴らした。 「今から気を張り詰めっぱなしじゃあ、本番までに疲れちゃうよ」 そうは言っても、なにかしてないと胸の昂りを鎮められないから困る。荷が勝ちすぎな役目を担わされてからと言うもの、熟睡できた試しがない。昨夜は、蒼星石が一緒にいてくれたから不安は薄れたけれど……払拭には至らず。今日で、この戦々恐々とした日々に幕が降ろされることを、私は切に願っていた。 「それじゃあ、いっちょガツンとブチかましてくるです」「頑張って、姉さん。だけど、ほどほどにね。空回りしちゃダメだよ」「心配ご無用。水銀燈先輩も一緒だし、へーきのへーざですぅ!」 まあ、言うほど平気ではなかったけれど。賽は投げられた。終点まで進むしかない。私はガッツポーズをして、慣れないウインクをして見せた。「朗報を待ってやがれです」 理事会のお歴々と実際にテーブルを挟むと、それまでの空元気は、どこへやら。緊張のあまり、身体の震えを止められなくて、歯の根も噛み合わない有様だった。だらしのない私と対照的に、水銀燈先輩は堂々と言葉を交わし、意見する。実に頼もしい。 動きがあったのは、会議の開始から、およそ30分ほどが経った頃。ずっと瞑目していた理事長のローゼン氏――金髪の優しそうな男性だ――が、口を開いたのだ。「存続を認めよう」と。しかし、私たちに歓声をあげる間も与えず「ただし……」とも続けた。さすがに無条件とは虫が良すぎるか。私たちの悪夢は、まだ終わりそうもない。
「し、しゃ-ねぇですっ! こうなったら、ひと花咲かせて見せるですぅ!」
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