ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki 「姿」

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 あれは、私が有栖学園に赴任した頃の話。

 昼休みの職員室では同僚達が何気ない会話をしている。
自分の身の回りで起きたことや、生徒たちのこと。いろんな話が飛び交う。
でも、今日は違った。

「また車を買ったの?水銀燈」
「そうよぉ、車が欲しいって言ったらすぐに買ってくれたのよぉ」
「…また貢がせたのね」
「なによそれ嫉妬ぉ?ま、私は貴女と違ってこの美貌があるからねぇ…まぁ、貴女には一生できないでしょうけど」
「それはどういう意味かしら、水銀燈」

また真紅先生と水銀燈先生の口論が始まった。
でも、

「貢がせた」

真紅先生が言った言葉に、私は違和感を感じた。
過去の苦い情景が頭の中に浮かぶ。

だから私は、放課後に直接水銀燈先生に聞いてみる事にした。

「水銀燈先生」
「何か用?、雪華綺晶先生」
「ちょっと聞きたい事が」
「なぁにぃ?もったいぶって」
「外の車、貢がせたって本当なんですか?」
「あぁ、アレの事?そうよぉ、男ってのは馬鹿でねぇ、あれが欲しい、これが欲しいって言うと
すぐに買ってくれるのよぉ、この前の男は、サラ金で破産したらしいしぃ、ほぉ~んと、男ってお馬鹿さんよねぇ」

そう、誇らしげに語っている彼女の「姿」は、あの男と重なって見えた。

「わかりました」

私は、そう告げて彼女と別れた。



-借金-

かつて私が背負い、返したもの。
私はオメガに所属する事で返す事が出来た。でも、一般人は違う。
一生その十字架を背負う事になる。



妹とともに住んでいるアパートに着いても、私の頭の中から彼女のあの「姿」は消えなかった。
私は妹に聞いてみた、彼女のことについて。

「銀ちゃんは…あ、銀ちゃんってのは水銀燈先生のことでね…、真紅先生が言うには…、昔からあんな感じだったらしいよ…」
「…そう」
「でも、銀ちゃんは根は良い人なの…、だからあんなことして欲しくないな…って思ってる…」

妹はいつもこうだ、やたらと人を庇いたがる。でも、妹のそんなところが私は好きだ。
さらに妹は、私にたくさんのことを話してくれた。妹は大好きなのだろう、彼女のことが。

だから、尚更気になった。



翌日、私は再び彼女に話してみる事にした。

「あの…」
「今度は何?」
「昨日の事で…」
「またその話?」
「先生には教師としての自覚は無いんですか?男の人からお金をむしりとるなんて…」
「うるさいわねぇ、貴女には関係ないでしょ」
「でも……」
「鬱陶しいわね!姉妹そろって何様のつもり?」
「えっ……」

彼女の放った言葉に、私は唖然とした。

「姉妹そろって」

私について罵詈雑言を浴びせられるのならば、私は別に構わなかった。
でも、私の妹、薔薇水晶の想いを無下にされた事。

貴女の事を信じているからこそ、貴女の事を想っているのに…
目の前の女は、それを何とも感じてはいない。

「なんかもうやる気無くしちゃったから帰るわぁ」

彼女は、一通りの反論を終え、悪びれる様子も無くそう言い放つと、どこかへと消えてしまった。



私は悲しかった。

妹の想いが、何一つ届いていない事が悲しかった。

そのとき何もできなかった、私の無力さが悲しかった。



アパートに帰ると、妹が待っていた。
二人で食事をしていると、妹は彼女のことについて話し始めた。
普段は寡黙な妹が話している、純粋に楽しそうな顔をして。

その日、私は妹の無垢な瞳を見ることができなかった。



次の日の学校で目にしたのは、真新しい指輪を着けた彼女の「姿」。
見るからに高そうな指輪。とても教師の給料で買える代物ではない。
昼休みにその指輪を自慢して真紅先生と口論をしている。
その姿を眺めていたら、勝ち誇ったような目でこっちを睨み付けてきた。
私は、それに応えることは無く、ただ次の授業の準備を始めた。

ただ一つのことを考えながら…



放課後、浮かれた様子で彼女はそそくさと帰宅の準備をしている。
曰くデートらしい。もっとも、純粋にそれを期待しているのは相手だけだろう。
彼女が期待しているのは、相手からどれだけ搾取できるか、それだけ。

準備を終え、駐車場へと向かう彼女の後を、私は追った。

「水銀燈先生、少しお話が…」
「何よ、まだ何か文句でもあるの?私は急いでるの、邪魔しないで頂戴」

そう言い放つ彼女の腕を無理やり引っ張り、人気のない旧校舎の裏へと向かった。

「何のつもり?離しなさいよ!」

抵抗する彼女を力で抑えつつ、目的の場所に着いた私は、彼女を解放した。

「いいかげんにしてよ!私はね!貴女みたいな偽善を振り回す人が大嫌いなのよ!
偉そうに私に説教するつもりなら諦めなさい、意味が無いから」

私はそう言って場を立ち去ろうとする彼女の腕を引き、地面に押し倒した。

「ちょっと!服が汚れるじゃない!」

この期に及んで、まだそんな事を言っている彼女に向けて、私は口を開いた。

「…妹は」
「……」
「薔薇水晶は貴女の事を想って」
「…何よ」
「いつも貴女の事を想って」
「…だから何よ」
「貴女の事を信じているの」
「…それがどうしたの?」
「それを貴女は!」
「…それはあの子が勝手に勘違いしているだけよ
少し優しくされたからって人を信じるような、お馬鹿さんな妹を持って貴女も大変ねぇ」

そうのたまった彼女は、あざ笑うように私を見つめている。
それがどうしても私は許せなかった。
だから…、私は…、彼女に向け…、拳を…



「お姉ちゃん!」



聞きなれた声に、私は後ろを振り向いた。

そこには妹が居た。



「もう…、やめてよ…、お姉ちゃんも…、銀ちゃんも…」



「あらあら、噂をすればこんなところに」

私は彼女を再び睨み付けた。

「お姉ちゃん!」

妹は、彼女から私を引き剥がした。
あのか細い腕のどこにそんな力があったのだろうか。
彼女から私を引き剥がした妹は、起き上がった彼女の前に座って話しはじめた。

「私は知っているよ…、銀ちゃんのこと…」
「貴女が私の何を知っているのよ!」
「真紅先生に聞いたの…、昔の銀ちゃんのこと…」
「…!」

妹は話した。私にも話さなかった昔の彼女の「姿」について。
彼女の本来の「姿」を。
孤独と、荒んだ環境でそれが覆われた「姿」を。
故に生まれ、虚栄心と人間不信によって自分を保つ「姿」を。
彼女の唯一の理解者であり、幼馴染の真紅先生がいなければ、簡単に壊れていた「姿」を。

「…あんなことしなくても…、銀ちゃんは」
「何よ!何よ何よ何よ!…、何よ……」





「銀ちゃんは…、独りじゃないよ…」





妹の言葉によって泣き崩れる彼女…
そんな彼女を、ただ優しく抱きしめる妹…

私はただ、その「姿」を眺める事だけしかできなかった…








彼女を、彼女の自宅まで送り、家に帰ってから、私は妹に叱られた。

そして…








翌日の昼休みの職員室。
私は、妹に促されるがままに彼女の机の後ろへと来た。

「あの…」
「…何?」
「お昼ご飯…、一緒に食べませんか?」
「……」
「……」

沈黙が支配する。

「…良いわよぉ」

沈黙を破り、そう言って振り返った彼女の顔は、笑顔だった。









「貴女…、いつもそんなにたくさん食べるのぉ…?」
「…ええ」



それは、これからはじまる、日常の「姿」