戦前のフレーバーSS



伝説の桐の木を擁す広大な森の中。
樹上にて、少女はふぁさりと深い緑色のマントを翻した。

内から取り出したるは木製の弓。
続いて中指を立てる。
立てたそれはメキメキと音を立て伸び、見る間に杭へと変わっていった。

躊躇なくその杭を折り取り、少女は弓につがえた。
無感情な瞳は絡み合う二匹の獲物を捕らえている。




「む、んぐうううーっ!」

相棒に組み敷かれ、口を塞がれた三色ロングヘアーの女性――猫岸魅羽(ねこぎし・みう)は苦境に立たされていた。

『――ひとつの技を受け、ひとつの技を返す。
その愚直な受けと返しの連続が「プロレス」の様式美だそうですね。
ならば「くちプロレス」もそれに準じた存在であると考えるのが妥当。
……さぁ、参りますわよ!』

口を使い相手の口をねぶりつつ、体表のいずこかに存在するスピーカーを用いそのような思考経過が報告された。
音声の主はとある天才科学者によって作られたアンドロイド――旧姓 百合原かもめ。

『私のターン! 秘技! Tornado Throat(トルネード・スロート)』

「んぐうううううっ!!? ううううーーーーっ!?」

「恒久の同性愛」をテーマに作成されたアンドロイドは人一倍同性間の愛について豊富な知識を蓄える一方で、人体構造についてはあまり多くを記録していない。
それは彼女の制作者である天才科学者の「人体のことは愛する人と接する中で学んでほしい」という三原則に反す余計な親心によるものである。

故に今この状況が生まれてしまっている。

『ターンエンド!
さぁ、そちらのターンですわよ!
ドンと来てくださいまし!』

「ハァッ……! ハッ……! ……ちょ、ちょっと……タイム」

『どうしたというのです、来ないのならばこちらから行きますわよ!
奥義! Heavy Searching(へヴィ・サーチング)』

「タイムって言ってうええええぇんっ!!? んぐうううううっ!? んむぅーーーっ!!」

人体に対する加減を知らぬが故の猛攻に呼吸をすることすらままならず、涙目になりながら停止を求める半人半獣の女性と――

『なるほど。受けに徹するというというわけですわね!
それが貴女のくちプロレス道だというのなら、私はそれに応えるまで!
暗黒奥義! Heaven's Cross Insert Feel(ヘブンズ・クロス・インサート・フィール)』

「ギッ!!? ぎにゃああああああああっ!!」

――頬を仄かに赤らめつつも正確無比に傾国の絶技を連発する機械人形が、一匹の生物であるかのように手足を艶めかしく絡ませながら「くちプロレス」に励んでいた。



遠方から射出された杭が彼女達の元に飛来したのはそんな折だった。

いち早くそれを察知したのは猫岸魅羽だった。
彼女は数多くの魔人を擁する公安組織の一員であり、学生の頃から現在に至るまでそれなりの修羅場を潜ってきた猛者であった。
その彼女の第六感と、有する優れた魔人能力により、雨を降ることを事前に感じ取る猫のヒゲのように、二人に迫る危機をいち早く感じとったのである。

危機に瀕した彼女は、反射的に自らの枷を外し身体を変容させた。
瞬時にちょんと丸まったブチ柄の尻尾が生え、その身は人間の域を大きく逸脱した戦闘体――魔法少女・ミケナイトとなった。

虚空から出現したマジカルステッキ――屠龍大円匙(とりゅうだいえんし)を掴み、跳ね起きざまに鋭く振る。
カンと鈍い音がして、大円匙――巨大スコップの金属部に衝撃が走る。

突如突き飛ばされ、あっけにとられるアンドロイドのかもめを捨て置いたまま、何かが飛んできた方向を睨み付けたミケナイト。
遥か遠方、樹上に人影を認める。

「危ないですわ!」

ミケナイトが「遠方の影が少女のものである」と認識したのと同じタイミングで、アンドロイドのかもめがそのような警告を発した。

――何らかの飛び道具を迎撃したミケナイトはそれで急場を凌いだつもりになっていた。
――その飛び道具が持つ性質にまでは考えが及ばなかったのだ。

着弾から数瞬後、スコップに付着した何かがわずかに収縮し、次の瞬間には爆発的な勢いで四方八方に棘を伸ばしたのを、かもめは目撃したのだ。

警告を受けたミケナイトがスコップの重量に違和感を覚え金属部へと目を向けた時には、伸び出でた棘の一本が彼女の瞳を刺し貫く直前であった。

「――愛する二人を引き裂こうとは……!
無粋な輩もいたものです」

棘の先端から紫の花が咲き、物理運動が停止したのを確認した後、かもめは一息つくようにそう述べた。

特殊弾に対するかもめのカット。
警告と同時にかもめは手を打っていた。

当たったモノの性質を上書きし、強制的に百合を語らせる“百合ビーム”によって、植物的特性を持つ特殊弾の性質を上書きし、萌え咲かせることで無力化したのだ。

ミケナイトが高速でスコップを振り、金属部についた植物を空中で払った。
次いで閃光の束が空に走ったかと思えば、植物は細切れとなり地に還っていった。
切り裂かれ損ねた紫の花びらがひらりと舞う。

再び樹上の少女を見据えるミケナイトと、それに寄り添うかもめ。
その間にフードの少女は抜け目なく新たに生成した三本の杭を弓につがえていた。

僅かばかりの膠着。
ぎりりと弓が引き絞られる。
ざああと森の木々が鳴る。

「今のは警告。森から去れ。次は当てる」

遠くの少女の呟きが、まるで耳元で囁かれたかのように対峙する二人には伝わった。
それでも彼女達は引かない。
彼女達にはこの森を進み、叶えたい願いがあるのだ。

高性能カメラによってフードの少女を観察していたかもめは、ミケナイトに耳打ちした。

「あの子……“女の子”ですわ
いざとなれば――」

寄り添うミケナイトはその言葉と、みるみる上昇していくかもめの温度を感じ取り、言わんとするところを察した上で短く「だめ」と告げた。

――かもめの持つ魔人能力“暴走特急ゆりかもめ”は女性を対象に発揮される能力である。
そしてその効果は「能力対象の戦場からの追放」。
すなわち発動さえすれば、現在相対している敵を排し、この膠着を安全に打ち破ることのできる能力なのだ。

しかし、ミケナイトはその発動をよしとしなかった。
その理由は能力の制約にある。

制約1:対象と恋に落ちる必要がある。
制約2:対象に連れ添い、かもめも戦場から永続的に離脱する。

つまるところ魔人能力“暴走特急ゆりかもめ”とは“駆け落ち”を論理能力の域にまで高めたものなのだ。

――かつて百合原かもめはこの能力を一度だけ発動し、旧姓 百合原かもめとなった。

「浮気は重罪、逮捕です」

そう拗ねたように付け加えた猫耳の公安、猫岸魅羽。
その言葉を聞き、旧姓 百合原かもめ――現姓 猫岸かもめは、はにかんだ。



ここは任せてと短く発したミケナイトは魔弾の射手に向け駆けだした。

――三本の矢が飛来する。

「狩るにゃん――ヴォルテックス!」

魔弾がミケナイトに直撃する寸前、変化球のように不自然な軌道を描き、あさっての方向へと逸れていった。
“狩るにゃんヴォルテックス”――レイノルズ数操作の魔人能力。

杭を生成、折り、つがえ、放つ。
一呼吸のうちに更に三射。
先ほどの軌道変化を学習したその矢はミケナイトに到達する前に爆発的な成長を見せる。
巨大なイガグリめいた挙動を見せる特殊弾が空間を圧する。

「狩るにゃん!狩るにゃん!」

その間をミケナイトは姿勢を低くし獣めいた鋭い動きでじぐざぐに駆け抜ける。

“狩るにゃんヴォルテックス”
流体と魔弾のレイノルズ数操作。
接着剤のようにネバつく空間下で魔弾は本来の攻撃速度を発揮できないでいた。
棘の速度は初速と比してミケナイトへと伸びる過程で大きく減じていた。
粘性抵抗は早くて軽いものに対して良く効く。

ミケナイトが射手に迫る。
緑のフードの少女――桐森ヒトハ(きりもり‐)は射撃を諦め樹上から飛び降りた。

着地の衝撃を利用して地に深く根を張る。
ぎううと肩を抱き、小さく固く身を縮めた後、一転、勢いをつけて両手を横に突き出した。
突き出した腕が棘を有する巨木へと変じ、左右に存在する木々をなぎ倒しつつ成長する。

連続する轟音、鳥の羽ばたき。

緑の少女は巨木と化した両の腕を抱き込むように前に向けて振った。
森の木々を巻き込みながら棘付きの巨木――魔桐の挟撃がミケナイトを襲う。

それは流体操作を看破しての戦術か、それとも単に己の持つ強攻撃を放っただけなのか。
いずれにせよ、ミケナイトの“狩るにゃんヴォルテックス”に対しこの超質量を伴う攻撃は有効であった。
一定の空間領域にしか働かない“狩るにゃんヴォルテックス”で受けられる質量はせいぜい乗用車程度。

ミケナイトは瞬間的に思考を巡らせる。
能力空間を纏い、受け止めるのではなく自らが滑り抜けるのであれば回避可能な攻撃。
しかしそれでは背後に残してきた相棒を守れない。

―― 巨龍のアギトの如き棘の壁が左右より迫る。

それを見たミケナイトの瞳の色が濃く変じた。
(ああ、ドラゴンか。それならば――簡単!)

「狩るにゃん――

巨木と巨木が打ち合わされ、質量と規模に反した打楽器のような甲高い音色が奏でられる直前。
桐森ヒトハの無表情が僅かに曇った。

――ベスティアリ!」

小規模な爆発が起こり、巨木の片方が半ばで抉り折られたのだ。

“狩るにゃんベスティアリ”
流体操作で自身の血流を早め、同時に獣化を深くするミケナイトの攻撃的第二形態。

その形態時に振るうマジカルステッキ――屠龍大円匙(とりゅうだいえんし)による斬撃・打撃はただの体術でありながら恐るべき威力を秘める。

“屠龍”大円匙――そのステッキの冠す名の通り、かつてミケナイトはドラゴンスレイを成し遂げている。
尋常ならざる身体に竜殺しの技を宿し、オリジナルドラゴンを屠った経験を持つ彼女からすれば“巨龍の如き攻撃”なぞ児戯に等しい。

「やあああああああああああああっ!!」

猛烈な勢いで巨木の上を駆ける紅き騎士。
一歩一歩の軌跡が足跡として幹に刻まれる。

巨木から棘が生成され快進を刺し止めようとするも、速度の差がそれを許さない。
生成された無数の棘は虚しく空を突いてゆく。

「狩るにゃん――

射手との距離を詰めきると同時にマジカルステッキを豪快に振りかぶった。

“おかあさん”

迫りくる猛威を前に、緑の少女は無表情のままぽつりと呟いた。

――ドラギニャッツォーーッ!!」

“狩るにゃんドラギニャッツォ”
ミケナイトの必殺技。
流体操作と強攻撃の融合。

大砲のような突風が森を吹き抜けた。



昆虫みたい。

巻き起こった風により露出した無感情な少女の瞳を目にしたミケナイトは内心そう思った。
スコップを握る手に嫌な汗が滲む。

寸止めをしたとはいえ必殺技の猛威を間近に受け、スコップの刃を首筋に当てられた状態で、なぜこれほどまでに平然としていられるのか。

「……ここは通してもらいますよ」

気を張りながら絞り出すようにそう告げる。
何か嫌な予感がする。
仲間の合流を待ち、早くここを抜けねば。

「ヒトハ」

「えっ?」

予想外の返答に戸惑うミケナイト。

「私はヒトハ」

「あっ、はい……? 私は……猫岸魅羽……ですけれども」

「だから私を殺しても意味は無い」

「えっ……?」

「一葉(ヒトハ)を殺しても、森は死なない」

次の瞬間、ミケナイトは何かの飛来を、掌握している能力空間で察知した。

大きく後ろへと飛び下がる。
ミケナイトの居た位置に杭が突き刺さり、爆ぜた。
今まで対話を行っていた少女が巻き込まれ、串刺しになった。

少女の背後に位置する樹上からの狙撃。

飛び退いた先に向け、さらに別の樹上からの追撃。
転がりながらこれを避ける。

三射目。
流体操作で矢を逸らす。
逸らした矢が至近距離で爆ぜ、軽傷を受ける。

傷口から侵入した植物の芽が体に根を張り喰い殺そうとするのを、寸前でところで血液操作により摘出する。
命の代償として血を大量に失う。

四・五・六・七射。
弾いて、飛んで、最小限の被害になるよう受け、あるいはいなしてこれを懸命に防御する。

八射目に備えスコップを構えたところで、背面の方向より彼女の名を呼ぶ声がした。
それはこの森で唯一の味方の声であった。
ブースターをふかし、ミケナイトを追いかけてきたかもめが近づいてくる。

さああとミケナイトが青ざめる。
唯一の味方ではあるが、その到着を望んではいなかった。
この鉄火場に対応できる戦闘能力を相棒は有していないのだ。

「来ないで!逃げて!」

「お断りしますわ!」

警告を無視し最前線に降り立ったアンドロイドは背をミケナイトと合わせる。
互いを庇いつつ、周囲に警戒を払い二人は会話を行う。

「来ないでって言ったのに……」

「私の居場所は貴女の傍しかありませんもの、それは聞けぬ命令ですわ。
……それにしても、ヘヴィな状況ですわね」

「うん、囲まれちゃってるね」

目視。
樹上にも地上にも緑のフードの少女。
二人に向け弓を構えている。

「私の女の子センサーには百を超える敵影が映っていますわ」

「ひゃく!?」

「問題は数ではありませんわ
どの個体も同一の信号を発していることこそ案ずべき点」

ざああと森が鳴る。
「森から去れ」と何人もの少女が寸分違わぬタイミングでそれを口にした。

「……ここらが引き際かもしませんわね。
口惜しいですが撤退しましょう。許可を」

軍勢の迫力に圧され、かもめは魔人能力“暴走特急ゆりかもめ”の発動許可を求めた。
能力対象をミケナイトとし、戦略的駆け落ちにてこの窮地を脱しようというのだ。

しかしミケナイトは首を縦に振らない。

「……逃げたらもうここには戻れない
そうでしょう?」

“暴走特急ゆりかもめ”の効果は永続戦線離脱。
一度離れたら最期、二度と戻ることは叶わない。

「いいから撤退ですわ!
確かにここには戻れません……でも、命には代えられませんわ!
生きてさえいれば態勢を立て直し、また別の機会を探すこともできましてよ」

「別の機会」

ミケナイトの声色が一段落ちる。

「こんな機会が次にいつ来るのか……ううん、次の機会なんてないかもしれない」

「何をこんな時に! いつ射られるかわからないのですわよ!
はやく撤退を! 猶予はありませんわ」

「私はかもめちゃんとは違うの……!
私はそのうちおばさんになって、すぐにおばあちゃんになって、あっというまに死んじゃう……。
永遠に機会を待てるかもめちゃんとは違うの!」

ミケナイトは感情に任せ言葉を紡ぐ。

「私は死にたくないんじゃない! かもめちゃんを一人にしてしまうのがイヤなの!
だから永遠の愛が欲しい! かもめちゃんと同じ永遠の命が欲しい! かもめちゃんは違うの!?」

しばしの沈黙が二人を包む。

「……そんな言い方……ずるいですわ」

先に口を開いたのはかもめだった。

「元はといえば私が望んだことですもの。
ずっと、永遠に…… 一緒に居たいに決まっているでしょう!」

「だったら!」

ミケナイトの言葉をかもめが遮る。

「それでも!!
死んだら終わりですわ!
死んだらおばさんにもなれず、おばあちゃんにもなれず、ここで終わりなのですわよ!」

そう叫んだ後、こほんと咳払いで取り繕い、かもめは続けた。

「戻りましょう。
戻って別のやり方を考えましょう。
……もしかしたら貴女の言う通りこれが最後の機会なのかもしれません。
もしそうだったら、その時は償いますわ。
貴女を愛して、愛して、愛し尽くして――。
貴女が死ぬまでの歳月で永遠分、愛して差し上げますわ
だからこの場は戻りましょう」

それを聞いたミケナイトはきょろきょろと辺りを見渡し、暫し何かを考えるような仕草をとった。
そののち後ろ手に、かもめの手を探り握った。

「ありがとう。嬉しい」

でもねとミケナイトは続ける。

「私はここで死ぬつもりなんてないよ。
まだ継戦したいのは、ここで試したいことが残ってるから。
本当にもう無理だと思ったら……その時はかもめちゃんにお願いするよ」

「試したいこと……?」

「かもめちゃんのおかげで少しだけ冷静になって……それで気付いたの。
さっきから足を止めてこれだけ話していて、射られてないなんて不思議じゃない?」

「確かに……なぜかしら」

「不思議だなって思って、逆にどういう時に射られたのかを思い出したんだ。
戦闘中を除けば、この子に射られたのは二度。
一度目は警告と言って射られ、二度目は『森を去れ』と言われてから『前に進んだ』瞬間に射られた。
そして現在、三度目。
私たちが射られていないのは警告を破っていないからじゃないかなって」

「つまり『前に進んでいないから』射られていないということですわね」

「そう!
そしてこうも考えたの。
二度目の警告の時よりも三度目の今の方がより厳重な警告となったのは何故だろうと。
……まるで『何かを守っている』ようじゃない?
私たちが『前へ進んで』、『何かに近づいた』から『守りが固くなった』……そんな気がするんだ」

「……もしかして」

「うん、たぶんね。
この子――ヒトハちゃんは木の力を使って戦うよね。
それも含めていかにもじゃないかな。
だからちょっと無茶をして、ここを突破してみたいと思う――それがここでやり残したこと」

「突破の算段はありまして?」

「≪狩るにゃんベスティアリ≫(身体強化)でのゴリ押し!」

「呆れた一本槍ですわね。 とはいえ単純な策ほど屈強で折れ辛いのもまた事実。
……勝算はいかほど?」

「大丈夫、それなりにはあるはず!
私けっこう強いから! 学生のときに参加した格闘大会ではほとんど負けなかったし!」

「その話は何度も聞いていましてよ。
貴女に勝てるのはせいぜい――転校生か裏ボスか、ミステリアスなファイターか野球帽の古武術使いか、色黒の巨漢か、最強の男くらいですものね」

「あっ……結構負けてた。
急になんか自信なくなってきた」

「ああ、それと鉄パイプ椅子の存在も忘れてはいけませんわね」

「ううっ、もう帰りたい……」

「それとベスティアリを使うと言っていましたが、今日の使用は二回目ですわよね?
一日に二回使うと後が怖いですわよ」

「それは大丈夫! 
次の日体中がバキバキになって指一本動かすのも大変になるのは承知の上だよ」

「ご飯も柔らかいものしか受け付けなるので、帰ったらいつもの8:2のおかゆを用意して差し上げますわ」

「ミルクが8で、たまごが2!」

「ええ、ええ。
言わずともわかっていますとも。
砂糖は大さじ三杯ですわよね」

「ありがとう。
……ふふっ、私はかもめちゃんがいるから無茶できる。
かもめちゃんがいるから頑張れるんだ」

「お礼を言うのはこちらでしてよ
私の願いの為に……感謝してもしきれませんわ」

「それはちがう
『私の願い』じゃない、『永遠の愛』は『私“たち”の願い』だよ」

「そうでしたわね」

「それじゃあそろそろ行きますか
――はい、私の背に掴まって」

「お世話になりますわ。
それでは、私たちの永遠の愛に向かって!」

「私たちの永遠の愛に向かって!」

人機一体。狩るにゃんエクスプレス――急速発進。



ミケナイトが狩るにゃんベスティアリを発動し、包囲網の強行突破を試みようとしたその瞬間。
チームの絆が高まったその瞬間に、異変は起こった。
チーム狩るにゃんエクスプレスの持つデッキが熱を持ち、光りはじめたのだ。

同時に、穴だらけになり地に臥せていた少女――桐森ヒトハがむくりと起き上がり、マントの下から同じく光り輝くデッキを取り出してみせた。
身体の穴はみるみる塞がっていく。

少女は言った。

「かあさんは言った。『森に入る者を追い払え』と。
だけどこうも言った。『もし光るデッキを持つ者が現れたなら、その者を試せ』と」

「これはまさか、森ルールでの戦い……!」

「わたしたちのチームを倒せば、伝説の桐の木への道は開かれる」

「ひとつよろしいかしら。
森の戦いは2対2の戦いのはずですわよね。
貴女のパートナーはどちらにいらして?」

「“椎子”は今、遠くに行っている
でも、心の中ではずっといっしょ
今も勝利を祈ってくれているのを感じる」

「ですってよ」

「手加減無用・委細承知!
狩るにゃん!」

いざ、決戦のバトルフィールドへ!




同時刻――

森による破滅を免れた関西地区のとある施設に少女――北楢椎子はいた。

大人たちが荒れ狂い、騒ぎ立てる中、身を縮め時を待つ。

契約の証である無垢色の小さな紙を握り締め、
水上で揺蕩う勝負の行方に祈りを捧げる。

(――どうか、勝ってください)






【あらすじ】

場をわきまえずイチャイチャしているカップルを注意したら、
スコップで殴り殺されそうになりました。
その後、いろいろあってTAGルールで対戦することになりました。
このような過程で しろりんとヌガミヤは戦うこととなりました。

一方その頃、ヌガーさんは大阪にてボートレースに興じていました。
祈りによって無事勝利し、そのお金でお昼ごはんにありつけたそうですね。
「設けたお金でマンションを買った」だとか「一文無しになってブランコに乗っていた」だとか情報が錯綜しておりますが、ともあれ、おめでとうございます!