猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

キツネ、ヒト 02

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キツネ、ヒト 2話



 結局アキラは、三日間暴れたりちょびっと泣いたりしながらこの世界で生きる決断した。三日目の夜、二つの月に馴れている自分に驚きながら、自然と小銃の分解を始める。

「今日は騒がしい奴が居ないから静かだな」
「ココさん」
「君の服に入ってたヤツだ。えーと」
「アキラです」
「私の名前は?」
「ここなーとさん」
 アキラはココから煙草のパッケージを受け取ると、一本取り出し、彼女の顔を見て元に戻した。
「あ、煙草かそれ?洗練されてるなぁ。あ、気にしなくていいよ私も煙草を吸うから」
「はい」結局アキラ煙草をくわえ、ライターを取り出し火を点ける。
「あの子は」細巻をくわえたココにアキラが自然と火をかざす「おお凄いなコレ」
 二人で煙を吐き、ココが言葉を続ける。
「あの子は良い子だよ。真剣な話、君はカナに拾われなければ奴隷か死ぬか、きっと酷い事になってた。この世界での人間の扱いは、まぁカナから聞いただろ」
「しんじられないけど、きっとそれが、しんじつです」
「最後に決めるのは君だ。もしかしたら兵士になる事も出来るかもね?犬の国では、未来の兵士を作ってるらしい」
 アキラはもう一度二つの月を見る。
「ふたりは、どうしておれに、こんなきちんとしたことをしてくれるの?」
「興味無いんだよ。奴隷やら何やらが欲しい程、別に忙しくも無いし」
「よくわからないよ」
「特にあの子は、生い立ちが複雑でね。きっと君に自分を重ねたのかも知れない。それに・・・・・・」

 少なくなった細巻を持ち込んだ小さな瓶に入れ、ココはアキラに顔を寄せる。眼鏡の奥に見えるショートボブの髪と同じ色の黒い瞳に捕らえられ、アキラは瞬きが出来ない。

「それに君は、とても可愛らしい顔をしているね。人の気持ちを掻き乱す・・・」
 ココの滑らかな指がアキラの頬に触れる。二人の視線が絡まる。少年は初めて銃口を向けられた感覚を思い出していた。

「お楽しみ中ごめんなさい。ご飯ができたから、お呼びに来たのですが、お邪魔だったでしょうか?それとも買い物から戻らない方がよかったでしょうか」

 扉の前にちょこんと佇む要芽は満面の笑みを浮かべながら尻尾をゆらゆら揺らしていた。
「お、良い匂いだなカナ。今日は故郷の料理と見た」ココが手を離さぬまま答える。
 アキラは叱られる前の子供の様に縮こまり、顔を真っ赤にしていた。

「なに冷静にオカズ当ててるのよっ!」
「怒るなよ。別に良いじゃ無いか、気持ちイイ事は二人でシェアすれば」
「うーうーっ、そう言う問題じゃないの!猫は盛ると見境無いから、だから、ほら・・・・・・」
「冗談だよ冗談。真面目な話をしてたのさ」
 アキラは自分の股間にもそもそ触れる何かが、ココから伸びる黒い尻尾だと知り思わず跳び上がった。
「ココッ!!」
「ち」

 終始ココにペースを握られる形でコロコロと表情を変える要芽を見ながら食べた食事は、何処と無く自分の知る味だった事が起因し、見る物を幸せにする勢いでアキラは胃袋に納めて行った。
 
「じゃぁ行ってくるよ」薄く化粧を乗せたココが玄関で二人を向き返る。
「行ってらっしゃい」アキラの食べっぷりに機嫌を良くした要芽がニコニコしながら答える。
「どこにいくんだ?」アキラが煙草を取り出そうしながら質問し、要芽に取り上げられる。
「仕事だよ仕事。知り合いの賭博場の近くの飲み屋でね、稼がにゃ稼がにゃ」
 肩を二回叩いたココは急にいやらしい笑みを浮かべる「なぁカナ。しっかりリードしないとな?それにベッドを壊すなよ」

 一瞬不思議そうにした要芽が、大声に狼狽をふくませた。「バカ!!アキラ君はまだ子供」
「じゃ、行ってきまーす」「いってらっしゃい」
「ばかココっ、帰ってくるなっ!」

 何故か少し怒ってる様な要芽に促され、風呂に入ろうと服を脱いだアキラは太股に違和感を覚え、見ると不思議な文字が書かれた紙が大量に貼られている。

「ごめんアキラ君!札札っ」
 脱衣室に突入して来た要芽は短く悲鳴を上げ、でも本人しか剥がせないし・・・などとブツブツ言いながら膝を折り、丁寧に札を剥がして行く。
「はずかしいよ」アキラが前を抑えながら呟く。
「私は、恥ずかしくないよ?」アキラから見える要芽のおでこは、ほんのりとした桜色。
「まだ痛む?」
「んんすこしだけ」
「人間には効きにくいのかな」
「カナメがなおしてくれたの?」
「へっへっへ凄いだろ」
 血で赤黒く染まった最後の札を剥がすと少女は立ち上がり「まだ無理はダメだなー。よし。背中と頭流してあげる」と嬉しそうに宣言した。

 嫌がるアキラを無理矢理バスチェアに座らせ、調子っぱずれの鼻歌を歌いながらシャツとパンツの袖を捲ると勢い良くアキラの頭にお湯を掛ける。

「熱くない?」
「ちょうどいいよ」
「うっわ凄い砂!」
「さくせんがつづいてたから」
 細長の陶器から液体を手に取る要芽をアキラが横目で見る。あれは、シャンプー?
 丁寧に三回頭を洗われたアキラは気持ち良さから度々声を上げ、その度に要芽が小さく笑う。
「はい!次は背中っ」
「じぶんで」
「いいからいいから」
「くくくすぐったい」
「こう?」
「あ、きもちいい」
「筋肉凄いね」
「こじぶたいはみんなだよ」
 ふと気付いた背中と肩の傷跡にそっと指を当てる。
「これは?」
「せなかのは、いもうとをかばってできたんだ。おなかから、だんがんがぬけてる」
 アキラが俯く。
「かたのは、たぶんにねんまえのだ。たいちょうがばかで、てきにほういされたんだ。ちびがまちがえて、しゅりゅうだんをばくはつさた。そのときできたんだ」
「たくさんしんだ。たくさん、ころした。おんなのこも、ころしたひどいたたかいだ。ほんとうに、ひどかった」
 ゆっくりと背中を流していた要芽は、理解出来る言葉だけを摘み取り、それだけで少年の苛酷な人生を垣間見た気がして、しかし掛ける言葉が見付からず、そっと、壊れてしまわない速度で抱き締める。アキラはぴくりと反応したが、嫌がりはしなかった。

「おれは」
「おれは、いましんだなかまや、いもうとに、すごくもうしわけないんだ。きちんとねれて、おなかいっぱいたべられて、ひとにやさしくしてもらえる。」
「ななさいでおなかをさかれたやつがいた。ごさいで、ばくだんがわりにされたやつがいた。おはかも、つくれなかった」
「おれは、しんであたりまえだったあたまのわるい、いしころみたいなこじだっおれはずるいやつだっ!」
 アキラの慟哭に合わせて要芽の腕の力がどんどん強まる。ぽろぽろと泣きながら、少女は自分の心と会話する。別にヒエラルキーに興味は無い。言葉で疎通できる相手の心を犯すなんてヘドが出る。
 でも、どうしてこの少年に、優しい感情が溢れるのだろう。子供だから?苛烈な戦災孤児だから?捨て犬みたいなもの?
 何とも言えない。これが導かれるタイミングと、アキラの小さい声は殆ど重なった。あの、むね、すけてる。

「きゃっ!あ・・・えへへへ」
「あはははは」
「笑った顔。初めてだね」「う、なんかすごくはずかしい」
「もう汗だく。一緒に入っていい、かな?」
「せまいよ」
「うるさいうるさい入っちゃえ」
 後ろからアキラを抱える様に服を着たまま湯舟に浸かる要芽。これは、ココに見せられない。
「ねぇアキラ君」
「なに?」
「あの、この先どうなるか分からないけど、私達と、生きてみない?もちろん働いてもらわなきゃだけど、奴隷とかじゃなくて、生きてみない?」
「おれ、じゅうくらいしかつかえないよ」
「ちっちゃいから、大変だと思うけど必要な事はすぐ覚えるよ」
「おれ」
「おれふたりにかりをかえさなくちゃいけない。かえせるなら、なんでもやる」
「それは、了解の意味?」「うんっ」
「じゃあ約束して?もう、自分を石ころなんて言っちゃダメ。ココが聞いたら引っ叩くし私は、凄い悲しいよ。多分、妹さんも」
「約束できる?」
「・・・・・・はい」
「よろしい!」
 要芽が立ち上がり腰に手を当てる。量感のある胸にアキラは目を丸くした。
「仕事その一!背中流してほしいな?」
「わかった」
「そうそうそれをつけて、良く泡立てて、痛たイタタタタ!」

 その後二人で歯を磨き、寝る間際にアキラは要芽を呼び止め、踵を揃えて直立した。「たくさんひどいこといってごめんなさい。これからよろしくおねがいします!」真っ直ぐな瞳で要芽を見る。
 何故か少し頬を赤くした要芽は目線をアキラに合わせ、輝く笑顔を浮かべた。
「こちらこそ!」

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