夢夜へのいざない 第三章

「雪白姫」

ヤーコブ グリム、ヴィルヘルム グリム 著 「グリム童話」より




皆の衆、ようおいでなされた。

今宵もまた夢夜話にわしのとっておきの話をしようかいの。
きっと、心配ごとなど忘れ気も紛れるじゃろう。



それは昔むか~し、人々の願い事がまだ本当に叶っていたころの物語じゃ。


遥か北方のその向こう、それはそれは美しい冬の国があった。
もちろん春も秋も綺麗なんじゃが、とりわけ人々の心を温めるのは
その国の雪化粧した冬の頃なんじゃ。


それほど美しく輝く冬の朝、その国を治める王の后が
城の窓から雪を眺め、針仕事をしておった。あまり舞い落ちる雪が綺麗なもんで、
后が見とれているうちに自分の指を針でついてしまったのじゃ。


 ポタッ・・ポタッ・ポタッ・・・


后の指から落ちた血が、真っ白な雪を赤く染めた。
それを見た后はこう思ったんじゃ。


「なんと美しいのでしょう。この雪のように白く、血のように赤く、
      私の腰掛ける窓枠のように黒い子供がいれば、
                  どれ程 王は喜ばれる事でしょう。」


それから、まもなく后は姫君をもうけたのじゃ。
姫君はなにしろ美しく、春の国にはもちろん、秋の国にも夏の国にも
その評判が伝わる程じゃった。


なにしろ、雪のように白く、血のように赤く、窓枠のように黒い髪の毛を
持っていたんじゃから。


王は姫君に「アイリス」という特別な名を与え、それはそれは可愛がった。
そう、王の為にこの娘をもうけた后よりもなぁ・・・・



日に日に美しく成長するアイリス。
まるで恋人のように王によりそう姫君の様子を見た后は、
王の愛情を確かめる事もできず、
后の間に掛けられた鏡に向かっておったのじゃ。


「鏡よ、鏡。 私の壁に掛けられた鏡。
           この世で一番美しいのは だぁれ?」


「お后さま、お后さま。この世で一番美しいのは あなた様でございます。」


そう。后は毎日のように鏡の前で言葉を繰り返した。
それは、ある雪の舞い落ちる美しい冬の日。后は鏡にこう尋ねたのじゃ。


「鏡よ、鏡。 私の壁に掛けられた鏡。
           この世で一番美しく、そして王に一番愛されているのは だぁれ?」


「お后さま、お后さま。
   この世で一番美しいのは あなた様でございます。
       そして、王に一番愛されているのは・・・・・」


この鏡の言葉はなぁ・・・
誰も知らないんじゃが、ただ后の胸に残る言葉だったそうじゃ。


それ以来、后ヨハナとその娘アイリスの物語が始まって行くのじゃが、今日はここまでとしておこうかいの。
また、別の夜にわしの夢夜話として、たっぷりと聞かせることとしよう。それまでしばしの休息じゃ。


雪のように美しい姫君アイリスと、后ヨハナの物語。


あなたの心の鏡にも、二人の姫の姿が見えてきませんか。
心の涙が美しさの中に光る、神秘の物語。このつづきをどうぞお楽しみに。






2008年12月07日 ドールズ・パーティー20





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最終更新:2009年09月15日 22:41