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恋は盲目、愛は鷹の眼 ◆yy7mpGr1KA


夜。
街を翔ける影が一つあった。
猫のようにしなやかに、疾風のような韋駄天で。
細身の女性と、その腕の中に抱えられた大きな何か。
周囲を警戒しながらもその速度を緩めることはなく、ひたすらに西へ西へ。
するとすぐに目的地にたどり着く。
魔術都市ユグドラシルの果て、緑の壁の先。
その端に立ち、下を恐る恐る見下ろして

(ごめんなさい…)

腕の中に抱えたもの。
十数ヶ所に銃創を負った亡骸を下界へと放り捨てる。

(賢い手とは言えないし、気の進むことでもないのですけれど……)

アーチャーのサーヴァント、シエル・アランソンは僅かに迷いながらもマスターのためを思って動いた。
正当防衛が成り立つ可能性は高いが、それでも殺人というのは罪だ。
この亡骸が誰かに見つかれば厄介になる。
もちろん真っ当な機関に通報する選択肢もあったのだろうが、シノンはそれを拒んだ。
聖杯戦争の最中に目立つ真似はしたくないと。
半ばパニックを起こしながらも自棄にはならない判断に首肯した。
なら壊れたガラスなどはともかくとして、死体はどうするか。
考えた結果、世界樹の外へと放り捨てることにした。
魔術師は俗世の立ち入りを許さない。
外界で死体が見つかったとして、その捜査がこちらに及ぶには極めて時間がかかる。
聖杯戦争の最中の時間くらいは稼げるだろう。
襲い掛かってきた不埒者とはいえ、死体を遺棄・破壊し死者の尊厳を辱めるのに仄かな後ろめたさを覚えた。
それでも戦争を勝ち抜くための最善と捉え、実行した。

(……夜の街、思ったよりも騒々しいですね。やはり皆動いているようです)

死体を抱えているのだから当然、人目につかないよう動いていた。
少なくともサーヴァントの気配や強大な魔力は感じられず、千里眼に映る世界に人影や斥候の類はない。
しかし、誰もいない夜道を駆けながら、どこか彼方に戦士のぶつかる気配を感じた。
それとかち合わないよう、慎重かつ迅速に帰宅する。

「ただいま、マスター」
「あ…おかえり」

びくり、と過敏ともとれる反応を返すシノン。
突然の襲撃で未だに心の整理ができていないらしく、部屋には割れた窓ガラスなどが散らばった出発前の状況ほぼそのままだった。

「休んでいいですよ。いえ、休んでください。
 片付けも警戒も、私がしておきますから。
 何度も言っていますが、サーヴァントに睡眠は必要ありませんので」

そう進言すると申し訳なさげな素振りを見せるが、一瞬掌に視線を落とすと悪夢でも見たかのような表情を浮かべ、力なく頷く。

「それじゃあごめん……お休み」
「はい、お休みなさい」

挨拶をするとすぐに寝入ってしまった。
やはり精神的に相当参っていたと見える。
それだけ確かめ、散乱したガラスや血痕を片付けてすぐに警戒に入る。

(一度襲撃を受けた以上、また来る可能性は極めて高い。
 寝ずの番、ですね。今度はマスターに負担をかけないようにしないと)

神機を狙撃型とし、膝射にすぐ移れる姿勢でシノンの眠るベッド近くに腰を下ろす。
扉であろうと窓であろうと、いずれの敵にも反応できるよう外出時と同様に直覚と千里眼のスキルも最低限ながら行使し。

(……実際のところ、こういう待ちはキャスター辺りがする戦術なんですけどね。
 基本的にスナイパーというのは近づかれる前に撃つのが大切。
 居場所がばれたなら身を隠すために動くのが定石。
 ですけれど、ここに留まり続けるという方針を彼女は示しました。
 マスターもスナイパーなら私と同じように考えると思ったのですけれど……考えすぎ、でしょうか?)

襲撃を受けてから、なんだか様子がおかしい気がする。
些細とは言え傷を負ったのだから影響があってもおかしくはないが、それならむしろ危機から離れる方針になるはず。
トイレから戻ったシノンに実際に離れることを提案はしたが、彼女はそれに否と答えた。

(ですが、たしかに今の彼女のコンディションで当て所なくこの夜の街をさまようのはむしろ危険かもしれませんし……)

襲撃を受け、実際に僅かながら出歩いて実感した。
……南の方、比較的な裕福な家の並ぶ方にたしかな戦意を感じた。
NPCの噂に上るような通り魔や、爆音の正体か。
はたまたその噂に引き寄せられた別の参加者か。
いずれにせよ、精神的疲労の大きい状態で無暗に会いたい相手ではない。
マスターも自分も真っ向勝負という性質ではないことも加味して。

(そういう意味では狙撃に適したスポットをいくつか見繕ろえば、このような待ち伏せももう少し有効的に行えるでしょうね。
 今は追撃の警戒を続けますけれど)

そもそも、なぜ『単騎』で『襲撃』を受けたのだろうか。

(向かってきた戦力は少ないと言う外ない。
 それはあれだけで十分、ということなのか。あれしか向かわせることができなかったのか……)

敵の方針に思いをはせる。
それで今後の展開も読もうとして。

(単騎で御せると予想していた。ならここにサーヴァントがいるとは想定していなかったでしょう。
 あの程度ではキャスターやアサシンにも届かない。襲撃を企てた時点ではマスターと想定していなかったはず。
 ……ですが襲撃者を撃退した現状は警戒対象くらいにはなっているでしょう。
 この町にはそれなりの実力者もNPCとしても存在しているようですし、確定とはいかないまでもあの男を殺傷する術があることは察するはず)

無差別な襲撃を行わせ、それが帰還しなかった相手をマスター候補としてあぶりだす策。
候補を絞っていればそれなりの実入りは期待できるか。
だとするなら次に攻めてくるのは本命のサーヴァントかもしれない。

(単騎で御せるとは思っていなかったが、あれしか戦力を裂けなかった……ここにいるのがマスターとサーヴァントだと想定していた。
 つまり別のところに戦力を割いているか、そもそも大した駒を持ち合わせていないか。
 だとするならばれているのは手痛いですが、相手の方の戦力も消耗込でさほど強大ではなさそうなのは幸いでしょうか)

本命が別にいてそこを攻めていたなら、相手の方の消耗が見込める。
あの程度が虎の子なら恐れるに足らない……とは言わないまでも勝機は十二分。

(厄介のなのは倒されること前提、あるいは闘争や偵察以外の目的で送り込まれた場合。
 …噂として立ち上っている、斬りつけた者を操る礼装を持った通り魔。
 マスターの様子もおかしいですし、警戒はしましたけど……)

男の持っていた刃物は何の変哲もない包丁だった。
ルーンが彫られているわけもなく、宝石が埋め込まれてもいない。
どこの家庭にもあるようなそれで人を操ることができるのか。

(可能性があるとしたらブラッドバレットのように刀身に何らかの属性を外的付与すること、でしょうか。
 包丁に魔力は感じませんが、使い手の絶命と共に機能を失うかもしれませんし……
 もしそうだとするなら、傷を負ってからのマスターの変調は、危険信号。
 何をしようと、いえ、させようとしてくるのか)

僅かに意識をシノンに対しても割き、思考と警戒をひたすらに続ける。


夜が明けた。


「…ん、おはよう。アーチャー」
「おはようございます……マスター、その目は!?ちゃんと眠れたんですか!?」

寝ぼけ眼をしたシノンの目は、充血などというものではないほどに赤く染まっていた。
ように、少なくとも一瞬は見えた。

「目…?特に何ともないし、夢見も悪くはなかったけど?」
「え?あれ、そうですね……ごめん、なさい」
「慌てすぎじゃない、アーチャー?」

苦笑してみせるシノンだが、異常なまでに赤く輝いた目は断じて見間違いではない。
最悪令呪を使われるかもしれない、と思うと向ける視線も厳しさを増してしまう。

「そんなに心配しなくても本当に大丈夫よ。あ、コーヒー淹れるけど飲む?」

ふぁ、と小さく欠伸を漏らしながらリビングへと向かう。
そのまま食卓で簡易な朝食の準備をするマスターの姿に安堵のような、毒気を抜かれたような思いを抱く。
しかし、逆に昨晩何もなかったかのように日常的に振る舞っているのがおかしいかどうかは悩ましいところだ。

「……マスター、今日はどうするつもりか腹案はありますか?」

いったんは様子見に徹するしかない。
だがもしも何らかの異常があると確信できたなら。

(回復や抗体系の弾丸で治せるものでしょうか?あるいは、『BB・貫通識別爆発弾(ブラッドバレット)』 。
 マスターを傷つけず、彼女の中の何らかの異常だけを撃ち抜くことができればあるいは)

回復弾はともかく、『BB・貫通識別爆発弾(ブラッドバレット)』 を物は試しで撃ち込むのはさすがにまずい。
心証は無論のこと、魔力消費や周囲の被害も考慮しなければならない。
確信を得るまで待つしかないだろう。

「やっぱり魔力確保の手段を確保しないと。
 色々回ったけどダメだったから、最後のランドマーク…四つの塔を目指そうかと思うの」
「塔、ですか」
「ええ。そこなら狙撃スポットとしても悪くはなさそうでしょ?」

もっしゃもっしゃとバターを塗ったトーストを口に運びながら、割れた窓の向こうに見える塔を指さす。
細かい設定は覚えていないが、この都市の魔力の循環を制御する役割もあるとか。
今まで回ったウルズの泉などのランドマークが末端の水道管だとするなら、四つの塔はその根幹である水道局や浄水場のようなものだろう。
必然末端との仕組みも違ってくるし、そこから魔力を確保できずとも制御に何らかの隙を見つけるか、隙を作ることができればどこか別の魔力源を発見できるかもしれない。

「そうですね。悪くないアイディアだと思います」
「ここに留まり続けるのも、よくなさそうだしね」

ようやくというべきか、不安な表情を僅かに覗かせたシノンになんだか安心する。
目的地も定まり、出立の支度を進める。
食器類を片付けている間に、スムーズに銃器を扱えるシエルが改めてへカートとMP7の整備を行う。
それが八割ほど済んだところで台所から何かを持ってシノンが顔を出す。

「マスター、それは…?」
「これ?ただの果物ナイフよ。撃てなかった時に備えての護身用」
「そう、ですか」

……近接用の武装を用意するのはおかしなことではない。
ショートブレードなどはその一つだ。
果物ナイフが便利とは言わないし、それ自体を奇妙とは言わないが、それでもやはり違和感を引きずりつつ。
整えた武装を渡し、身支度も整えたマスターに霊体化して付き従う。

『それじゃあ、行こうか』
『ええ、マスター。どうか警戒を怠らず』

ドアをくぐり、覚悟新たに旅立ち、そしてしばらく。

「そこの方、少しよろしいでしょうか」
「はい?」

目的地が近づいてきているのを実感していると、前方から現れた金髪の女性に声をかけられた。

「銃士隊所属のリザ・ホークアイです。昨今多数発生している事件に合わせて、現在我々は警戒態勢を強めています。
 少しでかまいませんので…」

ちらり、とシノンの左腕から覗く包帯に目をやりながら言葉を続ける。

「お話を聞かせていただけませんか。できれば詰所の方で」

まずいな、とシエルは内心思う。
さすがに襲撃してきた男を殺害したことやその死体を遺棄したことがばれているわけではないだろう。
しかし懐に刃物を忍ばせ、さらに調べれば大型のアンチマテリアルライフルにPDWまであっては何の追及も受けないとは思えない。
どうしようか思い悩んでいると、シノンは動揺が隠し切れなかったか、差し伸べられた手をぱしりと弾き飛ばしてしまった。

「痛……!」
「あ、ごめんなさ…!」

反射的にとってしまった行動に自分でも驚いたのか声を漏らすシノン。
そしてその些細ながらも反抗的な態度に視線の鋭さを増すリザ。
……だったが

「……なに?誰?」

きょろきょろと辺りを見渡し始めるリザ。
耳を抑え、僅かに怯えるような素振りも見せ。
最後に、シノンにはたかれ、小さく引っ掻き傷のできた手に視線を落とす。
すると不気味なほどに落ち着きを見せ

「……いえ、こちらこそ突然申し訳ありません。また日を改めてお話しできればと思います。
 お名前だけでも教えていただけませんか?」
「え、と。シノン、シノン・アサダです」
「それではアサダさん。自然保護区の方では私同様いくつかの部隊が動いていますのでそちらとコンタクトすれば私と連絡はつきます。
 行政府を訪ねていただければ直接お話もできるかと思います」

それでは、と言い残して言葉通りに都市の中央、行政府方面へと歩いていくリザの背中を見送る。

『なんだったの?』
『用事を思い出した、という風でもありませんしね』

突然話しかけられ、あげく突然離れていった女性に揃って疑問符を浮かべるしかない。
シノンは安堵の思いが強かったか、目的地である塔へと歩みを進めようとする。
シエルは、リザの動きもまた時折覚えるシノンの言動への違和感と同様ではないかと疑うが

(礼装で斬りつけて操る。今のマスターから魔力は感じませんし、そもそも刃物は持っていても振るってはいませんし……)

答えは出ない。
しかし、それでも疑惑の目をシノンへと向け続ける。

『どうしたの、アーチャー?』
『いえ、なんでも』
『そう?それじゃあ、予定通り塔に向かおうか』

そう言って二人は歩みを進める……ユグドラシルの北東に立つ塔、ダ―インへ。
彼女たちの位置から最も近いのは北西の塔ドラスロールだ。
しかしシノンはそこへではなく、ダ―インへと向かうことを提案していた。
曰く、昨晩襲撃された現場から距離を置くべき。きな臭い特級住宅街から距離を置くべき、と。
最終的には全ての塔を回る可能性もあるのだから、順番の問題にすぎないとシエルはひとまずこれに異を唱えなかった。
そうして二人は歩みだした。
偶然か、あるいは強者を求める罪歌の愛ゆえか。
シノンの過ごした世界で最強とも謳われる『黒の剣士』が、立ち寄り、そしていずれ再び訪れるであろう塔へと。


◇  ◇  ◇


シノンのもとを離れたリザは本来の勤務地である行政府へと歩んでいた。
上官にあたるアニエスから指示を受け、各所に検問の用意を進めていたが、平時の業務も疎かにはできない。
特に要人の警護体制などはそうだ。
昼前に軍事のトップと物流の重鎮が会談を開く予定があるということで、部隊の一部はその警護のために夜勤明けの体に鞭打ち、行政府へと戻っている。
リザもそうした同僚たちと合流し、シフトに入っていると来客はすぐに訪れた。

「おはようございます。ユグドラシル・コーポレーションの鯨木です。
 本日はキング・ブラッドレイ司令とお話しさせて頂く予定で訪問させていただきました」

この魔術都市では珍しい、車の後部座席から眼鏡をかけた女性が出てきた。
運転手の方は車内から出てこないで、このまま外で待つようだ。
鯨木かさねが勝手知ったる足取りで門をくぐり、手続きを済ませて案内されていくのを、その運転手とリザ・ホークアイはじっと見送る。

(ひとまずは順調のようですね)

二階の応接室に案内されながら鯨木はそう考えた。
夜のうちに騒ぎは各所で起きている。
切り裂き魔として帰還した『子』は一人もいないが、噂を拡散する種子にはなれたらしい。
さらに行政地区の出火事件、特級住宅街での爆発音、魂喰いらしき事件の痕跡など、『子』の関わらないところでも様々な噂は立ち上っている。
噂を隠すなら噂の中だ。
自分たちの影は相対的に薄まる、と。
そこから自分たちも噂を洗うために、より噂の集まる立場に入り込むのがよいだろう。
例えば、そう。

「失礼。お待たせしてしまったかな?何分、最近物騒でね。いろいろ仕事が立て込んで困る」
「お気遣いなく、ミスター・ブラッドレイ。街の平和に尽くす方の労に敬意を払うことはあっても、文句など」

この地の軍事勢力を幕下に収める地位など魅力的だ。

「急かすようで申し訳ないが、ご用向きの方をお聞かせ願おう」
「はい。定期的に行っている食料等の生活必需品の搬入作業についてです。
 昨今の情勢悪化に伴い、一部の企業やスタッフに不安が広がっています。
 物価の向上……ですめばまだいい方でしょう。最悪食糧難、それに伴う暴動に繋がりかねません。
 弊社の安全、ひいてはこの街の治安維持のために本社およびヘリポート付近への部隊駐屯を要請します」

陸の孤島ともいえるこの街で食料などは貴重な、というと少々語弊があるが重要なものだ。
それにまで危機が及べば、限られたリソースの奪い合いが発生しかねない。
渡航者が減少し、街を出ようとするものも出てきては街の機能が低下する。
その防止を願い出に来た、というわけだ。

「なるほど。確かにそれは重要な案件だ。
 しかしご存知の通り、我々はその事件の解決に追われていて人員に余裕がない」
「一刻も早い解決を願ってはいます。
 ですが、現実的に今日明日の早期解決は難しいのではないでしょうか。
 一時不安を取り除ければ、街が暴動の波に呑まれないよう動いていただければ十分です。
 少しの期間だけでも、弊社の近くに……軍を。すぐに通常の業務に戻っていただいても結構ですので」

短期間でもホームグラウンド近くに軍が駐屯すれば。
騒がれることなく『子』を増やし、軍内政庁内に手を伸ばせる。
ただの『子』が軍人が襲撃したなら返り討ちにされる危険も高く、傷痕から通り魔にやられたとばれやすい。
しかしアヌビスを使うか、自身で直接斬れば、ばれ難いところに傷を作ることも容易く、ましてやNPC程度に敗れることはない。
より噂を洗いやすく、操作しやすい位置につける。
そう企んでこの会談をセッティングした。
目の前の男を支配下に置くのも一考したが……

「ふむ。よしわかりました。護衛のための部隊派遣、請け負いましょう」
「ありがとうございます。噂通り、決断の早いお方ですね」

予想以上に速い決断に表面的には無表情でありながら驚く。
気さくな振る舞いをするが、意外と強硬な人物という評は間違っていないようだ。

「何度も言うが仕事が立て込んでいるので、あまり一つの物事に時間を割けんのだよ。
 雑にはしないよう老体に鞭を打ってはいるが。
 特に今はそのようなことが些事にしか思えないような事象があって、な!」

銀色の光が奔った。
それはラースが抜き放った長剣の一閃。
軌跡はまっすぐに鯨木の首元へ。
常人なら首と胴が泣き別れをするところだが、鯨木は常人どころか人ですらない。
その身に宿った妖刀が宿主を守るべく動き、右肩から刃をはやして剣を受け止め、左肩から刃を伸ばして反撃する。
受け止められた刃を即座に引き、新たに抜き放った剣も用いて鯨木の反撃をいなし、躱し、弾く。
それでも完全にとはいかず、衣類などには傷がつくが。

「これは、どういうつもりでしょうか?ブラッドレイ司令」
「何もなければ止めるつもりだったのだがね。残念ながら君も無辜の民ではなかったようだ、鯨木くん」

罪歌を鋼線状にして構え、赤く染まった鯨木の目と、躱しきれず眼帯を切り落とされたことで露になったラースの最強の眼が交錯する。
互いに確かな戦意を宿して。

「それでなぜ私に攻撃を?」
「軍人だよ、私は。それも人生の大半を戦場に身を置いてきた。
 人倫を顧みない錬金術師…いや魔術師の事にも詳しい。
 彼らと人を殺す兵士に纏わりついた血の匂いは違う。
 君は自らの手を汚している。それも魔術実験などとは別の形でね。
 質問ではなく、尋問になるが。その手袋を外してもらおうか?」

それを聞いても武器を構え続ける鯨木の様子に、間違いなく聖杯戦争の関係者だと確信する。
正直なところ、一対一で対峙するときは片っ端から同じように詰問する気でいたので当たりを引いたのは半ば偶然でしかない。

「鯨木かさね。遠野や旧き斉木に並ぶ魔の一門の出であり、現在は特級住宅街在住。
 商業地区最大の商社、ユグドラシル・コーポレーション支社長秘書。相違ないかね?」
「なるほど。ここではそのように設定されているのですね。
 住所と職はともかく、自身の紛い物のルーツをわざわざ辿るようなことはしていませんでした」
「本人のようだな。君もまた通り魔の被害者、というわけではなさそうだ」

ならば気遣う必要もない。
部下の横槍は無粋。
サーヴァントの介入だけナンバーズに見張らせ。
この場で斬って捨てる。

瞬間、鯨木が右手から鋼線を巧みに放つ。
潜り抜けるようにそれを回避し、左手の剣でいなしつつ、胴体を右手の剣で斬りつける。
即座に左腕から刃が放たれ、その迎撃に回る。
鍔迫り合いでの力比べは概ね五分。
右手の鋼線を引こうとした瞬間に、ラースの方から拮抗を崩し、体を半回転させて逆袈裟を狙う。
しかし即座に鯨木は刃を高速で伸ばし、床よ天井に突き立て身を浮かせることでそれを躱す。
宙に浮くことでラースから離れ、鋼線で牽制しながら距離を取ろうとする。
天井ギリギリ、剣の届く距離ではない。
ラースはそれに向けて応接用のデスクを軽く蹴り上げる。
そのデスクで攻撃かと思い、鋼線でばらんにしようとするが。
ラースは即座にデスクを追って跳躍。
刹那の足場にして鯨木に斬りかかった。
一瞬驚くが、即座に距離をとる鯨木。
そして宙に取り残されたラースに向けて四方八方から鋼線で追撃する。
これもまた常人には躱しようのない、死角皆無の斬撃。

最強の眼はそれを見切る。
両の手の刃で弾き飛ばし。
空中で身をひねって避け。
背後からの斬撃を刃に映して感知し。
高速で駆動する鋼線の峰を見切り、足場にして。

剣山刀樹を踏破し、憤怒のラースは無傷で着地する。

「本当に、驚かされますね」
「いや君もなかなか。サーヴァントを喚ぶ無粋もしないのは個人的に楽しめてよい」

一瞬好人物そうな笑みを浮かべ、すぐに冷徹な戦士の顔に戻る。
両の刃を構え、即座に再戦の構えを見せる。
しかしそれに対峙する鯨木は刃を収め――といっても罪歌はすぐにぬけるものでありあまり意味のあることではないが――言葉を紡ぐ。

「協力関係を築けませんか?私たちの能力の証明は、ここまでの闘争にこれもあれば十分でしょう」

左手の皮手袋を外し、其処に刻まれた四画の令呪を晒す。

「私個人の実力は無論のこと、実績と敵を捕捉する術もあることの証明でもあります」
「ふむ。それは君の世界で言うところの命乞いかね?」

ラースは言葉で応じつつも、戦意を収めることはしない。

「命乞いがお望みとあらば。
 私は噂の切り裂き魔です。街の住人の何人かを支配下に置いており、それはわが社の社員も例外ではありません。
 私が無事に帰還しなかった場合、彼らはあなたに確実に害をもたらします。
 物流は滞り、あなたが聖杯戦争の関係者であると流布し、無辜の民を煽り立てて退陣要求やストライキ、ボイコットなど、先ほどお話しした懸念を現実のものとします。
 あなたもそれは望ましくはないでしょう?」
「なるほど。空恐ろしいことだ。もし、現実に起こればの話だが」

些細な地位に固執するつもりはないが、あるに越したことはない。
闘争を望んではいるが、みだりに自らがマスターであると広まればアサシンによる暗殺の危機に瀕する。
だが、鯨木の発言が真実でなければ杞憂に過ぎない。

「君が切り裂き魔という証拠がどこにある?」
「ええ……丁度見えたところです」

がちゃ、とノックもなしに応接室の扉が開き、一人の女性がそこから姿を見せる。

「君は……」

リザ・ホークアイ中尉。
銃士隊に所属する優秀な軍人。
……そしてかつて最も警戒した部下の腹心に、似通っているだけの赤の他人。
唯一といってもいい、キング・ブラッドレイが択んで身近に置いたものでもあり、多少の思うところはある。
その女性が、なんと抜き身の刀を持って入室し。
赤く目を染め。
投擲。

投げるに適さないであろう長剣を、鯨木かさねに向けて投げる……否、投げ渡す。
尋常ならざる速度で飛来したそれを鯨木は受け取り、構えると。
踏み込む。

先ほどまでと比べ物にならない速度でラースに向けてその刀を振るう。
躱しきれないと判断し、両手の刃を交錯させて受け止めようとするが、刀はそこに何もなかったかのようにすり抜ける。
それに動揺し生じた一瞬の隙を突き、罪歌の鋼線と右手に持った刀でラースの動きを封じる。

「改めてうかがいます。協力関係を結べませんか?」

首元に刃を突き付け、鋼線で縛り再度の恫喝(ようせい)。
リザ・ホークアイと同じく赤い鯨木の眼と、ウロボロスの紋様が浮かんだラースの眼が合う。
そこへさらに乱入者。
DWN.(ドクターワイリーナンバー)048、ヤマトマン。
鎧を纏ったロボットがその手の槍で鯨木を穿たんと迫る。
その突撃を二発の銃声が阻む。
赤く目を染めたリザの早撃ち。
神秘などない銃撃だが、回転する銃弾に込められた『飛』の概念を警戒したか槍でもって打ち払い、さらにその銃弾を鯨木とリザにむけて弾く神業を見せるヤマトマン。
リザの足を貫くことには成功するが、鯨木は一歩も動くことなく罪歌の鋼線でその銃弾を阻む。
さらにその鋼線をさらに伸ばしてヤマトマンを磔に。

「サーヴァント…ではありませんね。こうした駒を行使する、後方指示型のサーヴァントを従えている、と」
「君も似たタイプらしいな。NPCを操るのと、マスターの身体能力の向上が戦術の中心か」

鯨木はヤマトマンを見て。
ラースはリザと、鯨木の突如向上した身体能力を見て。
互いの手の内を、手の打ちどころを探る。
そしてほぼ同時に扉の方を眺める。

「銃声が響いた以上、あまり時間をとりたくありません。
 条件付きになりますが、聖杯をお譲りしてもいい、というならいかがでしょう?」
「それを信用しろというのかね?君も聖杯を求めてきたのではないのか?」
「私個人が用いるためでなく、商品として用いるためにある種の仲買人(ブローカー)として来たのです。
 私が聖杯を手にしたのちに顧客にお売りする予定になっています。
 ……しかし、契約はそこまで。例えばその後、不埒者に強奪されたとしてもわが社で責任を負う義務はありません」

化け物や危険物の取引では依頼主の安全の確保も仕事のうちだ。
しかし、仕事のないオフのときまで護衛をする義理はあっても義務はない。仕事の上でも自身の安全は確保する。
いわゆる正義の味方に裁かれることになっても仕方のない悪人である自覚はあるが、だからといって自らの死や危機を受け入れるほど悟ってはいないし、それを遠ざけるための労力を惜しむことはない。

「ですので、もしあなたが聖杯に託す願い次第では、いったん取引が完了したのちになりますが、改めてお譲りしてもかまいません。
 顧客への誠意を欠く形にはなりますが、私がこの地で確実に生き残るのを優先したいと考えています。
 お受けいただけないでしょうか?」

陰に潜むアルバート・W・ワイリーはこの話を受諾すべきと考えた。
刃に囚われた現状が不利であるのは言わずもがな、利に動くこの女の方針は分りやすい。
そう念話しようとするが

「気に入らんな」

その前に憤怒に満ちた声が響いた。

「この地で私が最も求めるのは、己を曝け出すことと言える。
 私の生において自由など存在しなかった。自ら選んだものは妻くらいのものだよ。
 名もなき戦士として、名誉も情け容赦も何もないただ純粋な闘争を求めてここにいる。諦めを踏破した、人間との苛烈な闘争を。
 聖杯に興味はない。そして己のない貴様にもだ、女」

その言葉と共に、磔にされたヤマトマンの持つ槍の穂先が突如射出される。
さすがにそれは予期していなかったか、混血のずば抜けた身体能力で回避は成功させるが、代償にラースを自由の身としてしまう。

「さあ、再開と行こうか。貴様個人に興味はないが、その首級は討ち取り甲斐がある」

改めて二刀を構えるラース。
速度の上昇も初めからそうだとわかっていれば何ということはない。
受け止められない刃なら躱せばいい。
次こそ、御首貰い受ける。
すわ開戦か、という瞬間

「やめい、やめい!」

一人の老人と多数の影が間に割り込む。
ワイリーとそれを守るように立つジェミニマンだ。

「ラース、貴様ワシとの約定を忘れたか!?
 聖杯をとるために最善を尽くし、協力することを!」
「私の目的はあくまで闘争にある。この女は同盟相手としては下の下、倒すべき敵としては上物だ。
 協力というならば、それを邪魔だてしているのはどちらだ?」
「むむむむ……」

にらみ合う老人二人。
鯨木は退路を探しつつ、それを静観する。
一分に満たない僅かなものだが、野望に燃えるワイリーの瞳にラースが折れた。

「…一時の休戦協定だ。参加者の数が半分になるまで手を出すことはない。それ以上は望むな」
「承りました。参加者の数が半分に減るまで、またそちらからの攻撃がない限り我々の陣営があなたとそのサーヴァントに攻撃を仕掛けることはありません。
 もしも何かありましたら、彼女を通じてお伝えします」

部屋の片隅、銃を下したリザを指して言う。

「……敵マスターが私と渡り合える実力者ならば、相手にすることもあるだろう。そうした情報なら歓迎する。
 さて、今日はもういいかね?表向きの用事も、裏側の用事も」

言外に厄介ごとになる前に帰れと告げる。
が、一足遅かった。

「司令、先ほどの銃声は一体……!?」

部屋に駆け込んできた一人の衛士。
それが部屋の惨状を見て唖然とする。
刀を抜き放った司令キング・ブラッドレイ。
同じく刀を持つ来訪者鯨木かさね。
負傷した銃士隊員。
咄嗟にワイリーは霊体化、ジェミニマンとヤマトマンはホログラムを利用して姿を消したが、それでも多くの傷痕などが散見する惨状。
状況を把握しきる前に武装を構え、ひとまず鯨木かさねを取り押さえようとする。

「武器を下して投降してください、ミス鯨木。取調室まで…」
「いや、その必要はない」

ブラッドレイの毅然とした言葉に顔を向けると、彼は抜き放った刀を銃士隊員、リザ・ホークアイに向けた。
そしてその場の誰もが反応するより早く、胸へと剣を突き立てる。

「あ……」

短い断末魔が大量の血と共に口からこぼれ、リザ・ホークアイはこと切れた。
それを冷たい目で見つめるブラッドレイと鯨木、呆然とするしかない衛士。

「彼女が何を思ったか、私たちに向け銃を放った。我々はそれを迎撃しようとしただけにすぎん。
 鯨木くんには何の非もない」
「え、あ……いえ、しかし無断で武器を持つのは――」
「問題はありません。そうでしょう?」

半ばパニックになりながらも職務を遂行しようとする衛士。
しかしその忠誠は鯨木の声、そして突如覚えた発生した太ももの僅かな痛みと同時に響いた女の声により塗りつぶされる。

「……ああ、はい。特に問題はありませんね」

目を赤くし、落ち着いた様子でそう答える。

「ええ。何も問題はありません。皆さんにもそうお伝えください。
 それでは失礼しました、ブラッドレイ司令。お話した件、どうぞよろしくお願いします」
「おお、委細承知したよ鯨木くん」

ぺこり、とビジネスマンの規範のようなお辞儀をして去る鯨木。
にこり、と好々爺の典型のような笑みで見送るラース。
見送りを終え、二人きりになった部屋に呼び出し音のようなものが響いた。

「あ、すいません。失礼しても……?」

衛兵が懐から通信用の礼装を取り出す。
宝石に蓄えた魔力を利用して音声を送受信する、魔術師式の無線機。
鳴り響くそれと、ブラッドレイの首肯を視界に収めると通信を始める。
礼装越しの声はラースには届かないが、どうやら部下からの報告らしいそれに戸惑っているのは分かる。

「何?でっかいロボットが爆発と共に現れて暴れている?そんな馬鹿な話があるか!?仕事に戻れ!」

はあ、とため息をつきながら通信を切る。
それをじっと見るブラッドレイの視線と、刀に付着した血を拭う仕草、そして視界の隅に入ったリザの死体にびくりと恐れるような反応をし、おそるおそるといった様子で話しかける。

「あのう、如何しましょう?」
「ホークアイ中尉が騒動を起こしたのは機密とする。何者か……噂の通り魔に操られていた可能性が高いからだ。
 軍内に操られているものがいる可能性があるなど吹聴されては士気に関わる。よって私と君、そして一部の者のみに留める。他言無用だ、いいな?」

ギロリ、と未だに露になったままの両の眼で睨む。
それに再び怯えた反応。

「は、はい!ご命令とあらば!」
「よろしい。銃士隊や執行者含む各部門の責任者に声をかけておいてくれ。
 上層部にはこの件を周知しておく必要があるし、鯨木嬢からの要請で部隊を割く必要もあるのでね。
 死体は通り魔との闘争による殉職として処理しておく」

命令を聞き終えると雑な敬礼をして逃げるように部屋を出て行った。
それを確かめると眉をしかめてワイリーが現れ、自由になったヤマトマンとジェミニマンは事態の収拾にかかる。

「コイツめ、ワシ以外の命令を優先しよって」

げしり、とヤマトマンに蹴りを入れるワイリー。

「まあそう責めてやるな。マスターの消失はサーヴァントの危機でもある。
 お主を守る意味でも間違った判断ではあるまい」
「もとはと言えば貴様が無茶しおるからに。あげくあんな半端な距離の盟を結んで」

苛立ちをぶつけるワイリーをどことなくまぶしそうに見るラース。

「誰かを裏切る前提で結んだ盟に信など置けんよ。せめてお主の野望に敬意を払って、だ」
「ふん。スポンサーから金だけ出させる手段は科学者ならしょっちゅう探しとる。
 その程度のことでいちいち騒ぐようで世界征服など言えるか。
 じゃが、あの剣だか礼装は敵に回したくも、傍に置いておきたくもないのは分からんでもないが」

NPCが部屋に入ってきたときはどうするかと思ったが、僅かに傷をつけた瞬間にはあの小娘と同様に操って見せた。
暴動を抑える意味で部隊を派遣してくれ、と言ってきたが、むしろ鯨木の方がその気になれば暴動を引き起こすことも可能であろう。

「万一にも私やお主が操られれば厄介などというものではない。
 それを実行しなかった以上、何らかの制約があるとみてしかるべきだが」
「じゃな。どうやら四六時中操っているわけでもないようだしの」

衛兵の振る舞いを観察すると、鯨木かさねの手駒としては適さない振る舞いが見て取れた。
奇怪な事象の報告を戯言としたのも、部下を手打ちにした上官への怯えも演技ではない。
考えてもみれば斬りつけた者を次々と操っているのを常にコントロールしていてはリソースが持たない。
最低限命令に従うようにしてある程度は独自の意思で動かしておいた方がやりやすいだろう。
少なくとも、一方的な鯨木の部下としてだけでなく、自らの部下としても扱うことはできると考えた。

「ホークアイ中尉を斬って捨てた時点で穏便なものではないと奴も分かっていよう。
 大半のマスターを発見するか、街の機能が停止した場合この地位に旨味はなくなる。
 そうなればあの女も地位も用済みとなろう。どちらも存分に使いつぶす。異存はないな?」
「当面の方針は変わらんか。部下を利用し、マスターを探す。
 窓口にあの小娘が加わった、程度に思っとくべきかの。
 しかしいずれ拗れる前提なら出し抜く用意もせねば。奴の方が手の内は伏せておる」

ラースの戦闘能力に加え、ヤマトマンにジェミニマン、ワイリーの姿とステータスがばれている。
向こうの手札は肉体から様々な刃物を飛び出させることと、斬りつけた者を操ること、身体能力の向上。
豊富とは言えない情報に、さらにそれが鯨木の能力なのか、武器の能力なのか、サーヴァントの力なのかも不明。
敵サーヴァントは影も形も見せていない。

「サーヴァントは感知できなかったのか?」
「影も形も気配もない。お主の言うように後ろからマスターの強化や人を操ることに長けたタイプじゃろう。
 となると、キャスターかワシのようなエクストラクラス……」
「奴の令呪は四画あった。三騎士でもなく稼げるスコアか?」
「どこぞの魔術師や錬金術師も言っとるがの、当人が最強である必要はなく、最強のものを作り出せばよい。
 ワシならばそれはナンバーズ、あるいはワシが強化した剣を振るうお主になる。
 あの小娘、そういう視点では当たりの部類じゃ。ナンバーズはおろか、お主まで退けるとは。
 あれならサーヴァントの四騎や五騎は倒してもおかしくないわい」

忌々し気に鼻を鳴らし、鋼線と剣を振るう鯨木を回想する。

「…ホークアイ中尉から剣を受け取った瞬間、速度膂力共に大幅に向上した。
 さらにあの剣、霊体であるかのように受け止めることができなかった」
「斬りつけた者を操る礼装といい、鍵は剣か。
 ワシと同じクリエイターだとするなら刀工か?」
「セイバーの宝具を借りたという可能性は?」
「できなくはないが、簡単ではない。両者の同意と、その宝具の使用に特別な条件がないことが必須となる。
 もしくはその宝具の使用条件を満たすことかの。簒奪や継承、譲渡の逸話がある宝具なら例外となろうが……
 そもそもセイバーならサーヴァントが闘った方が強いじゃろ。それをするメリットが見当たらん」
「何らかの原因でサーヴァントが前線に立てない。例えば予選中の負傷などで」
「んー……否定はできんが」

いずれ敵となるもの、その手の内を探ろうとするが、やはり情報が足りない。
半数になるまでをタイムリミットとしたのは吉と出るか凶と出るか。

「ひとまず要請されたように部隊のいくつかを駐屯させ、それに乗じて鯨木かさねについて探りを入れる」
「うむ。でっかいロボットというのも気になるが」
「いずれ正式に報告もあるだろう。あるいは鯨木かさねの方から何か告げてくるかもしれん。
 ひとまずは部隊編成と殉職した部下の後始末。表向きの仕事を行わねば」

◇  ◇  ◇

駆けまわる隊員の流れに逆行し、受付で退出の手続きを終えて帰路につく鯨木。
パニック二歩手前といった騒ぎのさなかをひっそりと進んだためか帯刀した運転手の男には誰も声をかけない。
もっとも何か言おうとしたならば即座に『子』にしてしまっただろうが。

『ずいぶん派手になっちまったなァ~、おい。もうちょっと穏便にやるんじゃなかったのか?」
『完全に予定外だったのは二つ。
 キング・ブラッドレイが私を聖杯戦争の関係者と見抜き、即座に攻撃を仕掛ける判胆力と胆力を有していたこと。
 何より罪歌を全力で行使しても傷一つつけることのできない実力者であったこと。
 マスターなのはともかく、その二つは確実に騒ぎを大きくすることに直結してしまいました』

無表情だが、内心相当に焦っていた。
かろうじて休戦には持ち込むことはできたが、あのまま続けていればどうなったか。
キング・ブラッドレイの実力は予選でぶつかったセイバーにも匹敵したかもしれない。
身体能力ではおおむね互角、得物の質では明らかにこちらが勝り、技能では圧倒的に劣っていた。
アヌビスを手にしてどうにか抑え込めたが、それも透過能力を利用した不意打ちでだ。
ずば抜けた回避力を有するあの男ともう一度向かい合えば、アヌビスの学習力をも上回るのではないかという凄みを感じた。

『なんであそこで斬って子にしなかったんだよ、ンな面倒なら』
『そう出来ればよかったのですが。キング・ブラッドレイもまた私や葛葉紘汰と同じ、人ならざる何かが混ざっています。
 ここに来る前に会ったニューヨークのカモッラと近似する気配……恐らくですが錬金術による肉体改造。
 錬金術の究極、賢者の石から生まれる生命の水『不死の酒』の噂を聞いたことがあります。
 それとは限りませんが、肉体に人外の何かを取り込んで、その中で個を保てる者は罪歌に支配されない可能性が極めて高い。
 ましてや彼のような剣士が罪歌の母となってしまった場合、それは極めて恐ろしいことになるでしょう』
『意外と勝手が悪いね、母さん(マスター)の剣も』

罪歌は強い人間を愛するがゆえに、人外にもある程度鼻が利く。
キング・ブラッドレイに向かい合い、それが強大な存在であることに喜び、人ならざる匂いが混ざっているのに落胆するような罪歌の気配を感じた。
実際に刃を交え、その在り方に触れて、子にするのは難しいだろうと判断するざるを得ない。

「会社に戻るってことでいいのかな」

停めてあった車にたどり着き、アヌビスの操る男が運転席に、鯨木は後部座席に腰を下ろして二人きりになり言葉を口に出し始める。

「そうですね。ひとまず商業地区へ」
「はいよ」

罪歌の子がアヌビスを帯刀し、間接的に騎乗スキルを行使することで運転する。
もしかすると加減すれば轢き逃げから罪歌の子を増やすこともできるかな、などとふざけた考えも巡らせつつ。

「そういえばよー、実際できるのか?母さん(マスター)が死んだ後に子に暴動を起こさせるなんて」
「いえ、あれは完全にブラフです。もちろん社長秘書としての私がいなくなった程度の影響はあるでしょうが。
 母が子の制御を失った場合、子はその時点で完全に解き放たれます。
 現在大半の子は噂の拡散に主に動いているはずですが、私が罪歌を手放すか、絶命した場合彼らは自分の日常に戻ることになるでしょう」
「いわゆる全員が独立した母になるってことか?」
「いえ。子であった記憶のない者が母になることはありません。罪歌のことを認識しなければ行使できるはずがない。
 基本的に罪歌に斬られた子の人格自体はそう変わらず、平時は自身の判断で他の子や母のために動く。
 せいぜい子を増やすために刃物を持とうとするくらいしか変化はありません」
「なら軍内部におれたちの根が回ってもあのブラッドレイってのは気付けない?」
「彼ほどの観察力となると断言はしかねますね。子の生活サイクルに大きな変化はないといっても皆無ではない。
 罪歌が活発化すればそれを子は何となくですが感じ取り、強者の気配には惹かれる。
 母(わたし)の命を直接にしろ間接にしろ認識すれば変化は如実に表れる。
 行政府内で子を増やすのはあまり得策ではないでしょう」

そこで会話を続けようとするアヌビスを手で制し、車載用の無線機ならぬ通信礼装で連絡を始める。

「はい、こちらユグドラシル・コーポレーション。パンツのゴムからライフルの弾丸、世界樹の種から伝承結晶まで幅広く手掛けております」
「鯨木です」
「ああ、これは……母さん」

コール先は自らが勤める商社。
ある種魔術都市ユグドラシルの生命線であり、当然重要部署は罪歌の子が占めている。

「ブラッドレイ司令との会談を終えました。恐らく要請通りにいくつかの部隊を派遣してくださるでしょう」

むこうがこちらに探りを入れる意味でも、と呟き

「部隊にブラッドレイ司令がいない時に、気づかれないよう少しづつ軍内に子(きょうりょくしゃ)を増やしておいてください。
 もし司令が率いている場合には余計な手出しをせず、職務に忠実に。社内秘はキチンと守ってくださいね?」
「はい。承りました」
「よろしくお願いします。私は外で昼食を済ませてから社に戻るので、昼過ぎに到着予定とホワイトボードに記入しておいてください」

では、と最後に口にして通信を切る。

「重役出勤だねぇ」
「重役ですから」

笑いながら軽口を飛ばすアヌビスをあしらい、自身の方針を練る。
ブラッドレイとの関係は盟とは言ったが、戦闘開始までの猶予期間程度の意味しかないのは向こうも承知の上だろう。
いずれは自身も、サーヴァントも、手駒もフルに活用した戦争になる。
その準備に自分も動かねば。

(容易く負けるつもりは無論ありませんが、あの男は強い)

戦闘能力は勿論、在り方が。



――自ら選んだものなど妻くらいのものだよ――


――名もなき戦士としてただ純粋な闘争を求めてここにいる――



「……セイバー。昼食は例の、『子』が経営する食事処へ」
「あの葛葉ってやつを雇ったところか?了解した」

もう一人。
自分の知る人外がいるであろう地へと、ハンドルを切らせた。
正午になる前には着けるだろうか。



【E-2/一般住宅街/一日目 午前】

【シノン(朝田詩乃)@ソードアート・オンライン】
[状態]罪歌の子、精神ダメージ(微小)、左腕に裂傷(小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]ウルティマラティオ・へカートII(7/7)、H&K MP7A1(40/40)、各種予備弾丸
[所持金]普通(一人暮らしを維持できる程度)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、トラウマを克服する
0.罪歌の子として、罪歌および鯨木かさねの声に従う(無自覚)
1.特級住宅街など騒ぎの中心を避け、北東の塔(ダ―イン)へ向かう
2.魔術師の魔力確保手段を調べ、実践する
3.銃のトラウマを克服し、戦えるようにする
[備考]
※罪歌の子に斬られ、罪歌の子となりました。
 ただし説明を受ける前に、相手を殺してしまったため、自分に何が起きたのかを理解できていません。
→完全に子となり、現在罪歌の声は聞こえていません。それに伴い平常心を取り戻しています。
 ただし母による命令や、強者が近くにいるなどの要因で再び罪歌が騒ぎ出すことはあります。
※殺人鬼ハリウッドの一人を倒しました。


【アーチャー(シエル・アランソン)@GOD EATER 2】
[状態]健康
[装備]神機
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守って戦う
1.魔術師の魔力確保手段を調べ、実践する
2.シノンがトラウマを解消する方法を探す
3.異変が起きたシノンへの心配・疑念と、それを庇いきれなかった自分への自責
[備考]
※殺人鬼ハリウッドの一人を倒しました。


【G-8・行政地区・軍司令部/1日目 午前】

【憤怒のラース(キング・ブラッドレイ)@鋼の錬金術師】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]刀×4
[道具]なし
[所持金]裕福
[思考・状況]
基本行動方針:ホムンクルスとして、人間と心行くまで戦う
1.検問の結果や部下からの報告、あるいは鯨木からの情報提供を待つ
2.マスターが発見された場合は、ナンバーズを派兵して様子を見る。直接戦うに足る相手であると分かれば、自ら出向く。
3.エアポートや商社に部隊を駐屯、あるいは増加し、鯨木かさねについて探る(特にサーヴァントらしき者がいないか)

[備考]
※G-4にある豪邸に暮らしています
※マリア・カデンツァヴナ・イヴがマスターであると知りました
※鯨木かさねと同盟を結びました。内容は情報の一部共有と、参加者の数が半減するまでの停戦。
 ただし鯨木を闘うに足る敵として認識しており、期限前でも準備が整えば攻撃を仕掛けるつもりでいます。


【クリエイター(アルバート・W・ワイリー)@ロックマンシリーズ】
[状態]魔力消費1割弱
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:世界征服のために聖杯を狙う
1.検問の結果や部下からの報告、あるいは鯨木からの情報提供を待つ
2.マスターが発見された場合は、ナンバーズを派兵して様子を見る
3.マリア・カデンツァヴナ・イヴの戦闘能力に興味
[備考]
※マリア・カデンツァヴナ・イヴがマスターであると知りました


【G-8・行政地区・軍司令部近く/1日目 午前】

【鯨木かさね@デュラララ!!】
[状態] 健康
[令呪] 残り四画
[装備] 罪歌
[道具] 仕事道具
[所持金] 裕福
[思考・状況]
基本行動方針:商品として聖杯を確保する。
0.葛葉紘汰を雇った店で昼食をとる。
1.罪歌の『子』によって噂を広める。
2.噂を利用しやすい政庁内や軍内に『子』を作りたい。ブラッドレイの目につくところでは難しいだろうから、目の届かないところで。
3.噂に反応する主従を探し、誘導や撃破など対応する。

[備考]
※外部と物資をやり取りする商社に勤めています。多少なら政庁にも顔が利きます。
※礼装を持った通り魔の噂を聞きました。自分たちの事であり、ハンデとして課された、あるいはランダムな選出の結果主催側に流されたものと考えています。
※謎の戦闘音の噂を聞きました。自分たち同様の理由か、あるいは何らかの違反者と考えています。
 ラ・ヴァリエールの強者(カリーヌ)の事と予想していましたが、NPCだったことで他にいると考えています。
※ラ・ヴァリエール邸のNPCを『子』にしました。迎撃、および敗色濃厚になった場合の設備破壊を命じています。
※罪歌の『子』を通じて三人の強者をマークしています。一人は鎧の戦士。
 明け方までにそこを殺人鬼ハリウッドを名乗る『子』が襲撃します。NPCか否かも含めて後続の方に詳細はお任せします。
→忌夢&呀(鎧の戦士)、マリア・カデンツァヴナ・イヴ、シノンを襲撃しました。『子』が帰還していないことも把握しています。
※葛葉紘汰が人外であること、相応の強者であることを罪歌によって感知。興味を抱いています。
 今のところ『子』にしてはいませんが、必要なら戸惑うことはないでしょう。
※キング・ブラッドレイ(憤怒のラース)陣営と同盟を結びました。内容は情報の一部共有と、参加者の数が半減するまでの停戦。
 ただし一時的なものにすぎず、準備が整えば即座に戦争になると予期しています。
 また彼が錬金術にまつわる人外であること、クリエイター(ワイリー)のステータス、ヤマトマンとジェミニマンのことを認識しています。



【セイバー(アヌビス神)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態] 健康
[装備] NPCの男性
[道具] 『錬金』した剣数本(子に持たせている)
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従い、敵を斬る。
0. マスターに従い、ひとまず待機。
1. 敵は見つけ次第斬りたい。
[備考]
※予選で倒したサーヴァントはセイバー、バーサーカー、アサシン、詳細不明の四騎。
 それに伴いステータス、技量ともに大幅に上昇しています。
※『錬金』を見切りました。魔術師の肉体を行使すれば単純な剣程度なら作れます。






[全体備考]
※銃士隊員リザ・ホークアイ中尉(殉職のため少佐に二階級特進?)が通り魔に殺されたと軍内には通知されます。
 通り魔の噂の一つとして話題に上るかもしれません。
※ヘリポート及び物流の関連施設の防衛がラースの指示で一部強化されます。強盗などは難しくなるでしょう。
 しかしそれに伴い他の施設の防衛や、調査の手が薄くなるかもしれません。



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