パルヴァライザーは、進化していた。
二脚だ。両手から青いブレードを伸ばした、ほっそりとした二脚型兵器――それが、今のパルヴァライザーだった。
その動きは確かに速く、レーザーの威力も強化されているようだ。
だが――
「ぬるいな」
ジナイーダは一蹴した。
接近してくるパルヴァライザーに、マシンガンを撃ち放つ。
パルヴァライザーはその弾幕を上に跳んで回避するが、ジナイーダはそれを読んでいた。
慌てず、すでにロックしておいたミサイルを発射する。
空中を進むパルヴァライザーに、七つのミサイルが殺到した。
パルヴァライザーに、ミサイル迎撃装置はない。
結果、七発全てがクリーンヒットした。パルヴァライザーは空中でバランスを崩し、地面に倒れてしまう。
「無様だな」
言って、ジナイーダはブーストペダルを踏みつけた。
猛スピードでファシネイターが接敵、敵の腹部を踏みつけ、ハンドレールの銃口を胸部へ――急所へ押しつける。
焦げるような放電音が、パルヴァライザーに回避不能の死を告げていた。
「帰ってくれ。お前に用はない」
そして、レールガンが火を噴いた。
青い閃光が至近距離で着弾、パルヴァライザーの胸部をえぐり取る。
直後、ジナイーダは再びブースタを全力作動。爆発の威力射程から、ファシネイターを退避させる。
それから一拍遅れて、パルヴァライウザーは全身の関節から火を噴き出し、爆散していった。
(……終わったか)
安堵の息を吐いた。
それと平行して、機体状況を確認。
APは八割と少しであり、コアが少し傷ついている以外は、目だった損傷も無かった。
次いで、周辺状況も確認する。
二脚だ。両手から青いブレードを伸ばした、ほっそりとした二脚型兵器――それが、今のパルヴァライザーだった。
その動きは確かに速く、レーザーの威力も強化されているようだ。
だが――
「ぬるいな」
ジナイーダは一蹴した。
接近してくるパルヴァライザーに、マシンガンを撃ち放つ。
パルヴァライザーはその弾幕を上に跳んで回避するが、ジナイーダはそれを読んでいた。
慌てず、すでにロックしておいたミサイルを発射する。
空中を進むパルヴァライザーに、七つのミサイルが殺到した。
パルヴァライザーに、ミサイル迎撃装置はない。
結果、七発全てがクリーンヒットした。パルヴァライザーは空中でバランスを崩し、地面に倒れてしまう。
「無様だな」
言って、ジナイーダはブーストペダルを踏みつけた。
猛スピードでファシネイターが接敵、敵の腹部を踏みつけ、ハンドレールの銃口を胸部へ――急所へ押しつける。
焦げるような放電音が、パルヴァライザーに回避不能の死を告げていた。
「帰ってくれ。お前に用はない」
そして、レールガンが火を噴いた。
青い閃光が至近距離で着弾、パルヴァライザーの胸部をえぐり取る。
直後、ジナイーダは再びブースタを全力作動。爆発の威力射程から、ファシネイターを退避させる。
それから一拍遅れて、パルヴァライウザーは全身の関節から火を噴き出し、爆散していった。
(……終わったか)
安堵の息を吐いた。
それと平行して、機体状況を確認。
APは八割と少しであり、コアが少し傷ついている以外は、目だった損傷も無かった。
次いで、周辺状況も確認する。
インターネサイン上層部は、中央に巨大なビルを置く、正方形の広場であったが――そのどこにも、新たな熱源は見られなかった。
どうやら、ジャックの言うとおり、パルヴァライザーと言えどすぐには再生できないらしい。これなら、この作戦――『中枢突入』も予定通り進行できそうだった。
『もしもし』
そこまで考えたところで、通信が来た。
四〇がらみの男の声――オペレーター、ウェリックスからである。
「なんだ?」
『戦闘が終わったぽいので、報告します。姐さんよ、どうやらあんたの「意中の人」は、すでに中枢へ到達してしますぜ』
「……そうか」
それは尋常でない到達速度であったが、ジナイーダは特に驚かなかった。
「中枢へのルートは? 調べてあるんだろうな?」
『勿論、サー。七時の方向にある扉に入って、そこの亀裂から中枢へ通じるパイプに入れます』
「分かった。今すぐ、行こう」
『了解。中枢の破壊を、援護するってことですな?』
そのウェリックスの解釈は、極めてまっとうなものだった。僚機の元へ行くのであれば、『協力』と考えるのが自然だろう。
だがジナイーダはそれに首を振った。どこか愉しさを滲ませて、
「違うな」
『……はい?』
「あいつの腕だ。どうせ、私が到着する頃には仕事を――中枢の破壊を、終えているだろう。援護など、あいつには不要だ」
『……それじゃ、なんでわざわざ中枢へ?』
ウェリックスは怪訝そうに言う。
ジナイーダは、それに洒落にならない答を寄越した。
「戦う」
オペレーターの応答は、すぐには来なかった。
五秒経ち、一〇秒経ち、ようやくウェリックスの声がする。
『……相手は、僚機ですがね?』
どうやら、ジャックの言うとおり、パルヴァライザーと言えどすぐには再生できないらしい。これなら、この作戦――『中枢突入』も予定通り進行できそうだった。
『もしもし』
そこまで考えたところで、通信が来た。
四〇がらみの男の声――オペレーター、ウェリックスからである。
「なんだ?」
『戦闘が終わったぽいので、報告します。姐さんよ、どうやらあんたの「意中の人」は、すでに中枢へ到達してしますぜ』
「……そうか」
それは尋常でない到達速度であったが、ジナイーダは特に驚かなかった。
「中枢へのルートは? 調べてあるんだろうな?」
『勿論、サー。七時の方向にある扉に入って、そこの亀裂から中枢へ通じるパイプに入れます』
「分かった。今すぐ、行こう」
『了解。中枢の破壊を、援護するってことですな?』
そのウェリックスの解釈は、極めてまっとうなものだった。僚機の元へ行くのであれば、『協力』と考えるのが自然だろう。
だがジナイーダはそれに首を振った。どこか愉しさを滲ませて、
「違うな」
『……はい?』
「あいつの腕だ。どうせ、私が到着する頃には仕事を――中枢の破壊を、終えているだろう。援護など、あいつには不要だ」
『……それじゃ、なんでわざわざ中枢へ?』
ウェリックスは怪訝そうに言う。
ジナイーダは、それに洒落にならない答を寄越した。
「戦う」
オペレーターの応答は、すぐには来なかった。
五秒経ち、一〇秒経ち、ようやくウェリックスの声がする。
『……相手は、僚機ですがね?』
「そうだな」
『味方ってことになりますが……』
「そうだな」
『……相手べらぼうに強いんですよ? しかもその割りに、懸賞金……エヴァンジェの半分もなくて……』
「そうだな」
割りにも道理にも合わないことなど百も承知、と言わんばかりの口調だった。
自然、ウェリックスの言葉にも力がこもる。
『姐さん。どうしちまったんすか。さっき負けたのが悔しいってのは分かりますがね……』
「それだけじゃない」
ウェリックスが言葉を失った。
特に威圧するような口調ではなかったが――そこには尋常でない意気込みと興奮が含まれており、それに気圧されてしまったのだ。
「やっと見つかるかもしれないんだ。奴と――カスケード・レインジと戦えば、ずっと探していた『私』を見つけられるかも知れないんだ……!
私を理解できるかもしれないんだ……!
……それに」
ジナイーダは一拍置いて、言った。
「相手も、きっと私と同じことを考えているはずだ」
正直ウェリックスには、言っている意味がわからなかった。
だから反論した。すでに薄々、説得は無理と感じつつも、
『ナ、ナンセンスっすよ!』
「分かってる!」
火を吐くような声だった。
ウェリックスが完全に沈黙し、ジナイーダは一方的に続ける。
「お前は、なかなか優秀なオペレーターだった。今までご苦労だったな。
すでに私が死んでも、お前の口座に金が引き落とされるように、手続きはしてある。
だから――黙ってみていろ。邪魔はしないでくれ」
夜明け前の、午前四時。ファシネイターが施設の奥に――中枢に向かっていく。
『味方ってことになりますが……』
「そうだな」
『……相手べらぼうに強いんですよ? しかもその割りに、懸賞金……エヴァンジェの半分もなくて……』
「そうだな」
割りにも道理にも合わないことなど百も承知、と言わんばかりの口調だった。
自然、ウェリックスの言葉にも力がこもる。
『姐さん。どうしちまったんすか。さっき負けたのが悔しいってのは分かりますがね……』
「それだけじゃない」
ウェリックスが言葉を失った。
特に威圧するような口調ではなかったが――そこには尋常でない意気込みと興奮が含まれており、それに気圧されてしまったのだ。
「やっと見つかるかもしれないんだ。奴と――カスケード・レインジと戦えば、ずっと探していた『私』を見つけられるかも知れないんだ……!
私を理解できるかもしれないんだ……!
……それに」
ジナイーダは一拍置いて、言った。
「相手も、きっと私と同じことを考えているはずだ」
正直ウェリックスには、言っている意味がわからなかった。
だから反論した。すでに薄々、説得は無理と感じつつも、
『ナ、ナンセンスっすよ!』
「分かってる!」
火を吐くような声だった。
ウェリックスが完全に沈黙し、ジナイーダは一方的に続ける。
「お前は、なかなか優秀なオペレーターだった。今までご苦労だったな。
すでに私が死んでも、お前の口座に金が引き落とされるように、手続きはしてある。
だから――黙ってみていろ。邪魔はしないでくれ」
夜明け前の、午前四時。ファシネイターが施設の奥に――中枢に向かっていく。
『……なんてぇやつじゃぎ』
ウェリックスは東部訛りで罵しったが、ジナイーダにはもはや聞こえていなかった。
ウェリックスは東部訛りで罵しったが、ジナイーダにはもはや聞こえていなかった。
*
細いパイプに飛び込んで、中枢へ下りだす。
落下は、長い。まるで地核まで繋がっているかのように、延々とファシネイターは落ちていく。
その内部の照明も全て消えており、インターネサインがすでに停止していることを如実に示していた。
(……もうすぐだ……)
ジナイーダは、愛機の中で思った。スティックを固く握りしめ、
(もう少しで、会える……戦える……!)
そこで穴が終わった。
ファシネイターは、巨大な空洞の中に放り出される。
球形の天井を持った、都市並みの床面積を誇る大空間――インターネサイン中枢だった。
予測の通りすでに施設は破壊されており、早朝に似た薄闇が全体に漂っている。
ジナイーダは、そこに愛機を着地させた。
静寂に沈む中枢を見渡し、そこに一機のACを認める。
両手にレーザーライフルを装備した、重装備の機体。
武装は変わっているが、間違いなく以前戦ったAC――カスケード・レインジだった。
その証拠に、特徴であるオレンジのモノアイが、こちらを静かに見つめ返している。
「……お前か。やはりな、そんな気はしていたよ」
相手は応えなかった。
だが意志は通じているだろう。そもそも、相手も同じことを考えているはずだ。
その確信と共に、ジナイーダは続けた。
「私達の存在……その意味が、これで分かる気がする」
ファシネイターが、一歩前に出た。
カスケード・レインジも足を広げ、ゆっくりと戦闘態勢へ移行していく。
ぴりりとした緊張が流れ、その一拍後、ジナイーダは宣言した。
「お前を倒し……最後の一人となった、その時に……!」
カスケードとファシネイター、両者の背後で、青い炎が同時に巻き起こった。
二人は最高速で突進、だがすぐさますれ違い、反転し、真正面から攻撃をぶつけ合う。
青、紫、黒、緑、あらゆる色の光弾が飛び交い、中枢を艶やかに照らしだした。
並みのレイヴンであれば、この段階でどちらかが致命傷を負っていただろう。
だが、二人の場合は違った。
お互いに紙一重で敵弾を避けつつ、破滅的な撃ち合いを続けている。
落下は、長い。まるで地核まで繋がっているかのように、延々とファシネイターは落ちていく。
その内部の照明も全て消えており、インターネサインがすでに停止していることを如実に示していた。
(……もうすぐだ……)
ジナイーダは、愛機の中で思った。スティックを固く握りしめ、
(もう少しで、会える……戦える……!)
そこで穴が終わった。
ファシネイターは、巨大な空洞の中に放り出される。
球形の天井を持った、都市並みの床面積を誇る大空間――インターネサイン中枢だった。
予測の通りすでに施設は破壊されており、早朝に似た薄闇が全体に漂っている。
ジナイーダは、そこに愛機を着地させた。
静寂に沈む中枢を見渡し、そこに一機のACを認める。
両手にレーザーライフルを装備した、重装備の機体。
武装は変わっているが、間違いなく以前戦ったAC――カスケード・レインジだった。
その証拠に、特徴であるオレンジのモノアイが、こちらを静かに見つめ返している。
「……お前か。やはりな、そんな気はしていたよ」
相手は応えなかった。
だが意志は通じているだろう。そもそも、相手も同じことを考えているはずだ。
その確信と共に、ジナイーダは続けた。
「私達の存在……その意味が、これで分かる気がする」
ファシネイターが、一歩前に出た。
カスケード・レインジも足を広げ、ゆっくりと戦闘態勢へ移行していく。
ぴりりとした緊張が流れ、その一拍後、ジナイーダは宣言した。
「お前を倒し……最後の一人となった、その時に……!」
カスケードとファシネイター、両者の背後で、青い炎が同時に巻き起こった。
二人は最高速で突進、だがすぐさますれ違い、反転し、真正面から攻撃をぶつけ合う。
青、紫、黒、緑、あらゆる色の光弾が飛び交い、中枢を艶やかに照らしだした。
並みのレイヴンであれば、この段階でどちらかが致命傷を負っていただろう。
だが、二人の場合は違った。
お互いに紙一重で敵弾を避けつつ、破滅的な撃ち合いを続けている。
(……ああ)
その撃ち合いの最中、ジナイーダは賛嘆した。
(……やはり、そうだ。これだ、この相手こそが……!)
ジナイーダは、突如トリガーから指を離した。
するとすぐに、カスケードも攻撃を中断する。
お互いに示し合わせたわけではない。が、暗黙の内に『この撃ち合いは、お互いに技の冴えを確認し合う、一種の「挨拶」に過ぎない』ということを、了解し合っていたのだ。
(……来た……)
一変、しんと静まり返った中枢の中で、ジナイーダは震えた。
恐怖ではなく、武者震いだ。
今までずっと追い求めてきたものに、ようやく手を掛けたのだ。震えないはずがなかった。
「やっと来たんだ……!」
レイヴン――それも一流の中の一流。それこそ、ドミナントと呼ばれる類の――戦いには、『己』が宿る。
その戦略に、立ち回りに、もっと言えば弾丸の一発一発に、そのレイヴンの全てが自然と凝縮される。
自然、一流同士の戦いは、互いの全存在をぶつけ合う壮絶で美しいものとなる。
ジナイーダは、常々その戦いを欲していた。そういった戦いの中で、ずっと抱き続けていた疑問――『己は何か?』――を解き明かそうと思っていた。
動作に『己の全て』が宿る場所なら、疑問の答を感じるのも容易なはずだと思ったのだ。
だが――ダンスは、一人で踊れない。
そういった戦いには、相方がいる。それも、自分に勝るとも劣らない、圧倒的な実力者が。
三流と戦ったところで、動作に込められる『己』はたかが知れているのだ。
そしてジナイーダは、そんな中途半端に得られる『己』に興味がなかった。
彼女が渇望するのは、ぎりぎりの死闘の中で自然と動作に宿るであろう、完全な『己』である。
そうした『己の全て』を、強敵との戦いの中で感じ、かつその有り様を掴むこと――それは、ジナイーダの夢でさえあるのだ。
「……待っていた」
お前を。この瞬間を。
ジナイーダの頬に笑みが浮かび、スティックが固く握られる。
心臓がかつてないリズムを刻みだし、体が熱を帯びてゆく。
「やろう。今度こそ、本気で……!」
子供のように言うと、戦闘が再び始まった。
その撃ち合いの最中、ジナイーダは賛嘆した。
(……やはり、そうだ。これだ、この相手こそが……!)
ジナイーダは、突如トリガーから指を離した。
するとすぐに、カスケードも攻撃を中断する。
お互いに示し合わせたわけではない。が、暗黙の内に『この撃ち合いは、お互いに技の冴えを確認し合う、一種の「挨拶」に過ぎない』ということを、了解し合っていたのだ。
(……来た……)
一変、しんと静まり返った中枢の中で、ジナイーダは震えた。
恐怖ではなく、武者震いだ。
今までずっと追い求めてきたものに、ようやく手を掛けたのだ。震えないはずがなかった。
「やっと来たんだ……!」
レイヴン――それも一流の中の一流。それこそ、ドミナントと呼ばれる類の――戦いには、『己』が宿る。
その戦略に、立ち回りに、もっと言えば弾丸の一発一発に、そのレイヴンの全てが自然と凝縮される。
自然、一流同士の戦いは、互いの全存在をぶつけ合う壮絶で美しいものとなる。
ジナイーダは、常々その戦いを欲していた。そういった戦いの中で、ずっと抱き続けていた疑問――『己は何か?』――を解き明かそうと思っていた。
動作に『己の全て』が宿る場所なら、疑問の答を感じるのも容易なはずだと思ったのだ。
だが――ダンスは、一人で踊れない。
そういった戦いには、相方がいる。それも、自分に勝るとも劣らない、圧倒的な実力者が。
三流と戦ったところで、動作に込められる『己』はたかが知れているのだ。
そしてジナイーダは、そんな中途半端に得られる『己』に興味がなかった。
彼女が渇望するのは、ぎりぎりの死闘の中で自然と動作に宿るであろう、完全な『己』である。
そうした『己の全て』を、強敵との戦いの中で感じ、かつその有り様を掴むこと――それは、ジナイーダの夢でさえあるのだ。
「……待っていた」
お前を。この瞬間を。
ジナイーダの頬に笑みが浮かび、スティックが固く握られる。
心臓がかつてないリズムを刻みだし、体が熱を帯びてゆく。
「やろう。今度こそ、本気で……!」
子供のように言うと、戦闘が再び始まった。
*
先程の小手調べと違い、二人は目まぐるしく動いた。
上へ、下へ、右へ左へ。
縦横無尽に駆け回り、マズル・フラッシュを咲かせ合う。
幾つもの弾丸を交わし合い、接近とすれ違いを繰り返す。
「……すげぇ」
そうしたファシネイターのカメラ映像を見つつ、ジナイーダのオペーレーター――ウェリックスはぽっかりと口を開けた。
銜えていた煙草が、下に落ちる。
ウェリックスは、今まで多くのレイヴンを見てきた。
だが、ここまでレベルの高い戦いは初めて見た。
まるで羽でもついているかのように飛び回り、それでいて的確に射撃と回避を行っている。
だが、そんなことは些細な問題だった。
何よりも通常と違うのは――二人とも、愉しそうなのだ。
一切の束縛を受けることなく、伸び伸びと、己の全てを出し切って、この戦いに挑んでいる――そんな感じを受けた。
「なんだよ、こりゃぁ……」
身震いせずにいられない。
その姿は、まるで踊っているかのようなのだ。
己の全存在を余すところなく表現する、情熱的かつ壮絶なダンス――こんな戦い、見たことない。
猛威を振るったインターネサインの中枢も、今や誰にも邪魔されることのない、二人のための舞台である。
『……私が何であるか……掴めるかもしれないんだ……』
ふと、脳裏にジナイーダの言葉が蘇った。
あの時はさっぱり意味不明だったが、今ならよく分かった。
(……そうか、これが、あんたが言った『自分』を掴める戦いか……!)
確かに、そうなのだろう。
素人目にも、二人の一挙一動に尋常ならぬものが――それを気持ちというのか、魂と呼ぶのかは分からないが――宿っているのが分かった。
恐らく、今の二人は全ての動作につけて、『己の全て』を感じ、かつそれを掴み取っているだろう。何故なら、全ての動作に『己の全て』が宿っているのだから。
「すげぇ、すげぇよ、姐さん……!」
ウェリックスは、かつてない感動に打ち震えた。
上へ、下へ、右へ左へ。
縦横無尽に駆け回り、マズル・フラッシュを咲かせ合う。
幾つもの弾丸を交わし合い、接近とすれ違いを繰り返す。
「……すげぇ」
そうしたファシネイターのカメラ映像を見つつ、ジナイーダのオペーレーター――ウェリックスはぽっかりと口を開けた。
銜えていた煙草が、下に落ちる。
ウェリックスは、今まで多くのレイヴンを見てきた。
だが、ここまでレベルの高い戦いは初めて見た。
まるで羽でもついているかのように飛び回り、それでいて的確に射撃と回避を行っている。
だが、そんなことは些細な問題だった。
何よりも通常と違うのは――二人とも、愉しそうなのだ。
一切の束縛を受けることなく、伸び伸びと、己の全てを出し切って、この戦いに挑んでいる――そんな感じを受けた。
「なんだよ、こりゃぁ……」
身震いせずにいられない。
その姿は、まるで踊っているかのようなのだ。
己の全存在を余すところなく表現する、情熱的かつ壮絶なダンス――こんな戦い、見たことない。
猛威を振るったインターネサインの中枢も、今や誰にも邪魔されることのない、二人のための舞台である。
『……私が何であるか……掴めるかもしれないんだ……』
ふと、脳裏にジナイーダの言葉が蘇った。
あの時はさっぱり意味不明だったが、今ならよく分かった。
(……そうか、これが、あんたが言った『自分』を掴める戦いか……!)
確かに、そうなのだろう。
素人目にも、二人の一挙一動に尋常ならぬものが――それを気持ちというのか、魂と呼ぶのかは分からないが――宿っているのが分かった。
恐らく、今の二人は全ての動作につけて、『己の全て』を感じ、かつそれを掴み取っているだろう。何故なら、全ての動作に『己の全て』が宿っているのだから。
「すげぇ、すげぇよ、姐さん……!」
ウェリックスは、かつてない感動に打ち震えた。
*
「これだ……これこそが……!」
ジナイーダもまた、震えていた。
自分の気づかなかったもの、自分の気づいていたもの、気づいても目をそらしていたもの――彼女のありとあらゆるものが、一挙一動に流れ込んでいる。
その流れを感じることにより、ジナイーダは『己の全て』を――『自分という存在』を隅々まで把握し、それと一体になっていた。
(これが、「私」か……!)
右手のレールガンを撃つ。
相手が横に回避、そこでマシンガンから実弾を送り込む。
だが相手はそれさえも上昇で回避し、さらにはミサイルの雨を降らせてきた。
ジナイーダは、逃げない。
マシンガンの弾幕でミサイル群を瞬く間に撃ち落とし、カスケードを追って空中にいく。
天井付近で、二機のACが並んだ。
緑とオレンジのモノアイが、同じ高度で睨みあう。
「死ね……!」
言葉と裏腹に、ジナイーダは笑っていた。
だが殺意は本物だった。
肩のパルスキャノンと、左手のマシンガンが一斉に火を噴く。
カスケードは突如地上におりてこれを回避するが、ジナイーダもそれを追って降り、かつ地上でも撃ちまくった。
ジナイーダは強化人間であるが故に、かなり無理が利くのだ。
そして無理のある攻勢のおかげで、カスケードはついに壁に追いつめられた。
これ以上は下がれず、かつ回避もできない位置関係である。
(もらった!)
止めを刺す。
その動作にも、様々な感情が流れ込んでいた。高純度の殺意や、敬意、それと一体になった愛情、さらにはそれに伴う古い古い記憶など――普段は気にもとめないそういったものさえも、今のジナイーダは『己』として体感していた。
(……終わりか)
若干の寂しさと共に、レールガンのトリガーを絞る。
ジナイーダもまた、震えていた。
自分の気づかなかったもの、自分の気づいていたもの、気づいても目をそらしていたもの――彼女のありとあらゆるものが、一挙一動に流れ込んでいる。
その流れを感じることにより、ジナイーダは『己の全て』を――『自分という存在』を隅々まで把握し、それと一体になっていた。
(これが、「私」か……!)
右手のレールガンを撃つ。
相手が横に回避、そこでマシンガンから実弾を送り込む。
だが相手はそれさえも上昇で回避し、さらにはミサイルの雨を降らせてきた。
ジナイーダは、逃げない。
マシンガンの弾幕でミサイル群を瞬く間に撃ち落とし、カスケードを追って空中にいく。
天井付近で、二機のACが並んだ。
緑とオレンジのモノアイが、同じ高度で睨みあう。
「死ね……!」
言葉と裏腹に、ジナイーダは笑っていた。
だが殺意は本物だった。
肩のパルスキャノンと、左手のマシンガンが一斉に火を噴く。
カスケードは突如地上におりてこれを回避するが、ジナイーダもそれを追って降り、かつ地上でも撃ちまくった。
ジナイーダは強化人間であるが故に、かなり無理が利くのだ。
そして無理のある攻勢のおかげで、カスケードはついに壁に追いつめられた。
これ以上は下がれず、かつ回避もできない位置関係である。
(もらった!)
止めを刺す。
その動作にも、様々な感情が流れ込んでいた。高純度の殺意や、敬意、それと一体になった愛情、さらにはそれに伴う古い古い記憶など――普段は気にもとめないそういったものさえも、今のジナイーダは『己』として体感していた。
(……終わりか)
若干の寂しさと共に、レールガンのトリガーを絞る。
パシュ
不意に、そんな音がした。
発砲音ではなかった。パージ音。
それも、ファシネイターのではなく――カスケード・レインジのものだった。
(なんだ?)
レールガンが溜を開始する。
それと平行して、ジナイーダはカスケードの武装を確認して――ぎょっとした。
左手のレーザーライフルがパージされ、代わりにブレードが着けられていたのだ。
しかもそのブレードからは、すでに青い収束エネルギーが伸ばされている。
(だが、何のため――)
そこで、レールガンが発射された。
文句なし、コクピット直撃のコースである。
だが、カスケードは臆せず突進した。左手のブレードを、高く高く振り上げた状態で。
(斬るつもりだ)
直感した。
(だが何を――)
その答に思い至るのと、解答の提示はほぼ同時だった。
発砲音ではなかった。パージ音。
それも、ファシネイターのではなく――カスケード・レインジのものだった。
(なんだ?)
レールガンが溜を開始する。
それと平行して、ジナイーダはカスケードの武装を確認して――ぎょっとした。
左手のレーザーライフルがパージされ、代わりにブレードが着けられていたのだ。
しかもそのブレードからは、すでに青い収束エネルギーが伸ばされている。
(だが、何のため――)
そこで、レールガンが発射された。
文句なし、コクピット直撃のコースである。
だが、カスケードは臆せず突進した。左手のブレードを、高く高く振り上げた状態で。
(斬るつもりだ)
直感した。
(だが何を――)
その答に思い至るのと、解答の提示はほぼ同時だった。
カスケードは、左手のブレードで発射されたエネルギー体を縦に斬りつけた。
音速以上で進むエネルギー体は、より高密度のエネルギー体――ブレードにぶち当たり、水滴のように砕け散った。
飛び散った微細なエネルギーが、空中から雨のように降り注いでくる。
「……なっ!」
ジナイーダは、喫驚の叫びを上げていた。
あり得ない技だった。
確かに、理屈としては可能だが、タイミング、角度、それらが丸々合致しなければ、こうはならないはずだ。
と、そこでCOMが警告。
見ると、カスケードがそのまま突進してきていた。
ジナイーダは慌てて距離を取ろうと思ったが――その時にはすでに、カスケードは眼前に迫っている。
カスケードが、逃げ遅れたファシネイター――そのコアのジェネレーター部位に、右手のレーザーライフルを押し当てる。
『素晴らしい戦いだった』
ジナイーダは驚いた。
これは、初めて聞く相手の声だったのだ。
『……だが、アンコールはなしにしよう』
高密度レーザーが――KRSWの一撃が、ジェネレーターを直撃した。
音速以上で進むエネルギー体は、より高密度のエネルギー体――ブレードにぶち当たり、水滴のように砕け散った。
飛び散った微細なエネルギーが、空中から雨のように降り注いでくる。
「……なっ!」
ジナイーダは、喫驚の叫びを上げていた。
あり得ない技だった。
確かに、理屈としては可能だが、タイミング、角度、それらが丸々合致しなければ、こうはならないはずだ。
と、そこでCOMが警告。
見ると、カスケードがそのまま突進してきていた。
ジナイーダは慌てて距離を取ろうと思ったが――その時にはすでに、カスケードは眼前に迫っている。
カスケードが、逃げ遅れたファシネイター――そのコアのジェネレーター部位に、右手のレーザーライフルを押し当てる。
『素晴らしい戦いだった』
ジナイーダは驚いた。
これは、初めて聞く相手の声だったのだ。
『……だが、アンコールはなしにしよう』
高密度レーザーが――KRSWの一撃が、ジェネレーターを直撃した。
*
(負けた……!)
音で分かった。ジェネレーターが破壊された。
異常発熱による熱暴走、EN供給不全によるチャージング、それらが同時に起こっている。
もはや、まともな戦闘は望めまい。どころか、少し経ってたら爆発してしまうだろう。
実際COMもそう警告している。
だが、ジナイーダは脱出しようとは思わなかった。
もはや間に合わないことであるし、何より、今の彼女にとって『そんなこと』はどうでもよかったのだ。
(負けたのか……私が……)
ファシネイターが、膝を折った。
バランス維持装置が働き、右手のハンドレールを杖にようにする。
そんな愛機の周囲に、青い光がシャワーのように降り注いでいた。
(見事だった)
目の前に立つ勝者を見上げ、まず思うのはそれだった。
レールガンの光弾を、コンマ数秒違わぬタイミングで、かつ正確な角度で斬りつけた技術は全く賞賛に値する。
だが――ジナイーダが褒めるのは、そこだけではなかった。むしろ、それは付属品に過ぎない。
ジナイーダが震えるのは――絶望的な状況でありながら、あえて突進し活路を拓いたその度胸、思い切り、そして心意気である。
ジナイーダと同じく、カスケード・レインジの動きにも搭乗者の『在り様』が確かに宿っていた。
そして彼女は、レールガンの弾を斬ったその動作から、相手の尋常ならざる『在り様』を感じ取り、震えているのだ。
悔しさをあまり感じないのは、きっとその感動の方が大きいからだろう。
「ああ……」
息が、漏れた。
絶体絶命でありながら、逃げず、屈せず、己を信じて立ち向かう。
ジナイーダは、カスケード・レインジの斬撃にそういった『生き様』を見たのだ。
そしてその姿の、なんと誇り高いことか。
音で分かった。ジェネレーターが破壊された。
異常発熱による熱暴走、EN供給不全によるチャージング、それらが同時に起こっている。
もはや、まともな戦闘は望めまい。どころか、少し経ってたら爆発してしまうだろう。
実際COMもそう警告している。
だが、ジナイーダは脱出しようとは思わなかった。
もはや間に合わないことであるし、何より、今の彼女にとって『そんなこと』はどうでもよかったのだ。
(負けたのか……私が……)
ファシネイターが、膝を折った。
バランス維持装置が働き、右手のハンドレールを杖にようにする。
そんな愛機の周囲に、青い光がシャワーのように降り注いでいた。
(見事だった)
目の前に立つ勝者を見上げ、まず思うのはそれだった。
レールガンの光弾を、コンマ数秒違わぬタイミングで、かつ正確な角度で斬りつけた技術は全く賞賛に値する。
だが――ジナイーダが褒めるのは、そこだけではなかった。むしろ、それは付属品に過ぎない。
ジナイーダが震えるのは――絶望的な状況でありながら、あえて突進し活路を拓いたその度胸、思い切り、そして心意気である。
ジナイーダと同じく、カスケード・レインジの動きにも搭乗者の『在り様』が確かに宿っていた。
そして彼女は、レールガンの弾を斬ったその動作から、相手の尋常ならざる『在り様』を感じ取り、震えているのだ。
悔しさをあまり感じないのは、きっとその感動の方が大きいからだろう。
「ああ……」
息が、漏れた。
絶体絶命でありながら、逃げず、屈せず、己を信じて立ち向かう。
ジナイーダは、カスケード・レインジの斬撃にそういった『生き様』を見たのだ。
そしてその姿の、なんと誇り高いことか。
目の前で、青い雨に打たれながら立つその姿の、なんと美しいことか。
常に己の力だけを信じて、臆することなく道を開いていくというその姿勢――それはまさしく、ジナイーダが思い描いたレイヴンに理想像だった。
ジナイーダの胸を、これ以上ない充足が満たしていく。
「……私はただひたすらに、強くあろうとした」
気がつくと、ジナイーダはそう呟いていた。
目の前の勝者に向けて、
「そこに私が生きる理由があると……信じていた」
COMの警告音が、消えた。どうやらCOMも死んだらしい。
だけでなく、いつの間にか無線以外の全システムもダウンしていた。
もはや、爆発まで間もないだろう。
だがジナイーダは笑みさえ浮かべている。
「やっと追い続けたものに、手が届いた気がする……」
この死闘の中で、ジナイーダはようやく『己』を掴んだ。
そして、誇り高い相手と、最高の殺し合いをさせてもらえた。
これは彼女が予想した、どんな最期にも勝る幕引きだった。
「レイヴン」
音が乱れた。
もはや時間はない。
だがジナイーダは臆することなく続けた。目の前の相手に、最大級の感謝を込めて――
「その称号は、お前にこそ相応しい……」
ファシネイターは爆散した。
常に己の力だけを信じて、臆することなく道を開いていくというその姿勢――それはまさしく、ジナイーダが思い描いたレイヴンに理想像だった。
ジナイーダの胸を、これ以上ない充足が満たしていく。
「……私はただひたすらに、強くあろうとした」
気がつくと、ジナイーダはそう呟いていた。
目の前の勝者に向けて、
「そこに私が生きる理由があると……信じていた」
COMの警告音が、消えた。どうやらCOMも死んだらしい。
だけでなく、いつの間にか無線以外の全システムもダウンしていた。
もはや、爆発まで間もないだろう。
だがジナイーダは笑みさえ浮かべている。
「やっと追い続けたものに、手が届いた気がする……」
この死闘の中で、ジナイーダはようやく『己』を掴んだ。
そして、誇り高い相手と、最高の殺し合いをさせてもらえた。
これは彼女が予想した、どんな最期にも勝る幕引きだった。
「レイヴン」
音が乱れた。
もはや時間はない。
だがジナイーダは臆することなく続けた。目の前の相手に、最大級の感謝を込めて――
「その称号は、お前にこそ相応しい……」
ファシネイターは爆散した。