バーチェッタのガレージでは、たった二人でちょっとした宴が開かれていた
一人はこのガレージの主、バーチェッタ
もう一人はバーチェッタの相談相手であるバッド・ブレインだ
バーチェッタは既に上機嫌な様子で、常に微笑みを絶やさずに居た
対するバッド・ブレインは同じく上機嫌なようだったが、どこか冷静さを失っていない感じだった
バーチェッタは主に元恋人であるミダスの活躍の事を話してはちょっとした自虐を込めつつミダスを褒め称える
それにバッド・ブレインは相槌をうちつつ、ミダスの事を茶化して楽しんでいるようだった
そんなどうしようもない会話が一段落した所で、バッドブレインが唐突に自分の荷物の中を探りながらこう言った
「バーチェッタ、今日はそんなお前にプレゼントがあるんだ」
そう言いながら荷物からゴソゴソと取り出してきたのは、オナホールだった
「お前もミダスの事なんか忘れて、これでパーっと気持ち良くなろうぜ」
バーチェッタは少し動揺していた
「こ、こんな物俺は必要ないね
だって俺はまだミダスとは文通してるし…
それに、ミダスと性欲は関係ないだろう…多分」
「まぁまぁ、そうは言うが、ミダスはお前にもう何もしてくれないじゃないか
恋人なんて関係は往々にして、一度冷めたらおしまいの儚い物さ
それに比べて俺達の友情はどうだ?ミダスと付き合う時も色々助言してやったのは俺だろう?
その俺が勧めているんだから素直になれって
別に浮気しようって訳じゃ無いんだしさ」
そう言うとバッド・ブレインは何処からか持ち出してきたブリーフィング用のプロジェクターを操作して、ガレージの壁にデカデカといかがわしい映像を映し出した
「俺は思うんだ、恋愛する事で得られる恩恵ってのは、性欲以外は全て本人の考え方次第で補完可能なんじゃないかと
だからまずは性欲から潰していくのが正攻法なんだと思うんだ」
「そんな事は無いさ、ミダスは俺に実に色々な恩恵を与えてくれた
例えば、ミダスと居れば俺は自分に自信を持てたし…」
と言いかけた所でバッド・ブレインが割って入った
「自信を持てた?ミダスはお前の事を少しでも認めてくれていたのか?
ミダスはアリーナランクの低いお前を認めてはくれなかった
ミダスは今のお前の事なんて少しも認めてはくれていないよ
じきにミダスは自分を過信して、お前より自分の条件に合う男を探しに行くに違いないさ
その事自体は間違っちゃいない、女は常に優秀な子孫を残す事を考えるべきだと思う
だがそこに愛だの何だの不確かな物を絡ませて、夢を見せるのが俺は嫌いなんだ
バーチェッタ、仮にお前がミダスを山車にして自分に自信を持つなら
お前はもっとミダスの事を憎むべきなんだ
そうした方が、今のお前はよっぽど強くなれるさ」
バーチェッタは思わず黙ってしまう、ガレージの壁に映し出されたいかがわしい映像が虚しく声を上げていた
「俺はミダスを憎む事なんて出来ない…
いくら俺が勝手に傷ついた所で、実際にミダスが何か俺に害意を持っていた訳じゃない
おそらく今だって、ミダスは俺のことを悪くなんて思っちゃいないだろう…」
バーチェッタは今にも泣きそうだった
バッド・ブレインは少し困った表情を浮かべつつ、急に優しい声で話し始めた
「いやぁ、悪かったよ、確かにミダスを憎むにはお前は少し優しすぎた
じゃあこうしよう、俺は今のお前が不憫でならないのさ
ミダスは少しぐらい自分を嫌わせて、楽に別れさせる優しさって物を持つべきなんだ
だがそうしないのは何故だと思う?
お前がかわいそうだからか?いや、そんな事は断じて無い
自分を良く見せようと思う虚栄心から、悪役を演じる事が出来ないだけなのさ
なら俺はお前の為に道化を演じてやろうじゃないか」
そう言うとおもむろにバッド・ブレインは下半身の着物を豪快に脱ぎ捨て、オナホールを装着した
「さぁ、お前も!」
そう言うとバッド・ブレインはゆっくりとしごきはじめた
その気迫に押されて、バーチェッタも下半身裸になってオナホールを装着する
「これで俺とお前はオナ友だな!パーっとやろうじゃないか!」
ちょうどその時、ガレージの扉がガチャっと音を立てた
「バーチェッタ?ちょっと話があって来ちゃった」
ミダスだった
扉を開け中を見たミダスは凍りついた
なにせ中には下半身裸で股間に異様な物を装着した男が二人でいかがわしい映像を大写しで鑑賞していたのだ
青ざめたバーチェッタと目が合うが、もはやそれどころではなかった
「あ、忙しかったかなー、ごめんなさい」
そう言うとミダスは逃げるように去っていった
気まずい空気が流れるバーチェッタのガレージの中
「今回は俺が全面的に悪かったよ、ごめん」
流石のバッド・ブレインもこの状況には困惑していた
「いやいや、鍵を確認しなかった俺が悪いよ、でも鍵閉めたような気もするんだよな…」
バーチェッタは呆然としていた
「何しに来たんだろうな、ミダス」
「どうせ困った事があれば都合の良いお前を頼ろうって魂胆だろう」
「いや、もしかして、もしかすると、仲直りフラグ…だったのか」
「まあ良いじゃないか、フラグだったにせよそれは今さっきの瞬間に折れちまったよ
逆にこれほど滑稽な出来事があれば吹っ切れ易いんじゃないか?」
「そうかな?…そうだよなぁ、そんな事より続きを始めようか」
「おうよ」
バーチェッタは開き直ったのか非常にすがすがしい表情で自慰にふける
そんなバーチェッタを見て、バッドブレインも満足そうだった
「あぁ、俺がプロジェクター操作して抜き所で巻き戻して繰り返してやるよ、お前は存分に抜けよ」
「悪いな、さっきの所結構良かったから頼む」
「おうよ」
こうして男たちの滑稽で愉快な夜は更けていった
「はぁ、もう一滴も出やしねぇよ、今日はありがとうな」
滑稽な宴が終わると既に外で鳥の声がするような時刻になっていた
「じゃあ俺はもう寝るよ、お前も相当出してたし、そこらへんの毛布使って少し休んでいけよ」
「ああ、ありがとうバーチェッタ」
「じゃあおやすみ」
そう言うとバーチェッタはとても安らかな寝顔で眠っていた
「…これで良かったんだよな」
バッド・ブレインはバーチェッタの寝顔を見ながら考える
バッド・ブレインが最初からオナホールを持って行こうと思っていたのは事実だった
しかし、バッド・ブレインはバーチェッタのガレージの機器の状況を確認した際に、ミダスがこちらに来ることを知ってしまっていた
知っていながら、敢えて鍵を外し、ミダスにあのような滑稽な場面を見せたのだ
今日もまたバッド・ブレインは道化者だった
バッド・ブレインにとってミダスは少々鬱陶しい存在でもあった
バーチェッタがミダスと交際していた頃は、ただバーチェッタの幸せを願い、バーチェッタにミダスと上手く行くための助言をしていたが
ただアリーナランクの差の為に今バーチェッタを捨てようとしているミダスが許せなかった
しかしミダスを憎悪する程バッド・ブレインは頭が悪いわけでもなく、ミダスを忘れされる程バッド・ブレインは頭が良い訳ではなかったのだ
バッド・ブレインの日常は常に滑稽さに満ちている、だがそれは彼自身が滑稽な事の裏付けにはならないだろう
バッド・ブレインはただ、他に皆が幸福なまま済ませられる方法を知らないだけなのだ
ただ、自分自身を繕う術を知らないから道化て見せているだけなのだ
こんな事で本当にバーチェッタが幸福になれるのか、バッド・ブレインにはわからない
だが、ミダスに対してしてやったような快い気持ちはしていた
彼は自分自身をよく知らないからこそ、誰よりも自分勝手でもあるのだ
バッド・ブレインは毛布で仮眠しようかとも思ったが、不健康な彼は徹夜明けの興奮の中で朝日を欲していた
そしてふと窓を開け、外を見る
辺りは朝焼けのさなかで、何もかもが大変美しかった
若干肌寒いが、今のバッド・ブレインには心地の良い風が入ってくる
深呼吸をして入り口の方を見ると、バッド・ブレインは凍りついた
ミダスが居たのだ、入り口近くの柱に倒れかかるようにして、何かを待っていた
いや、その何かというのがおそらくバーチェッタだという事もわかりきってはいたのだが
とにかくミダスは待っていた
バッド・ブレインが見たミダスからの連絡内容は、ここまでする程の内容では無い、たわいもない軽い物だった筈だった
ここでミダスとバーチェッタを会わせる訳には行かない、そんな気がした
バッド・ブレインはいつになく真剣な表情になり、顔を洗い、歯を磨き、服を整えると、バーチェッタが熟睡してる事を確認する
ミダスとバッド・ブレインは一度だけ顔を合わせた事のある程度の関係だ、今行って何か話せるのだろうか
しかしバッド・ブレインは行かねばならなかった
「ミダス、か」
バッド・ブレインは鉛の塊のようになっているミダスに声を書けた
充血した目で見つめ返され、思わず目が泳いでしまうが、気合いを入れて目を見ながら話し始める
「今更バーチェッタに何の用なんだ」
ミダスは不思議そうな顔をして、こう言った
「恋人に会いに来て何が悪いの?」
「恋人?バーチェッタから話は聞いてるよ、お前さんはバーチェッタに寂しい思いばかりさせてるそうじゃないか
だからこうして俺が慰めに来てる訳だ、邪魔をするな」
バッド・ブレイン自身も大変な誤解を招きやすい表現だとは思ったが、他にミダスを怯ませるような効果的な言葉が思いつかなかった
「あなたの痴態について文句を付けるつもりは無いわ
ただバーチェッタと話があるのよ」
ミダスは少しも怯まずに平然としていた
「バーチェッタは今忙しいんだ、用件なら俺が聞いておいてやるよ
最も、本人に伝えるかどうかは、内容の如何にかかってくるがね」
「そう、じゃあバーチェッタにこのチップを渡して欲しいの
無論バーチェッタと私しか開けないようなパスを付けておいたから、あなたは下手な事を考えないようにね
それじゃあ」
そう言うとミダスはバッド・ブレインにチップの入っているらしい茶封筒を押し付けると、そのままどこかへ去っていった
バッド・ブレインはミダスの真意が計りかねていた
流石にあの様子では今更本当にバーチェッタとやり直す気がある訳でもあるまい
だが、ここまでしてこのチップを渡さなければならなかったミダスは、一体何を考えているのだろう
疲れた頭で呆然と考えていると、後ろからバーチェッタの声がした
「おはよう、どうした、郵便でも受け取ってくれたか」
もはやバッド・ブレインに逃げ場は無い
「ああ、郵便だ、ミダスからだとよ」
バーチェッタに茶封筒を渡し、一緒に部屋に入った
まだミダスの真意はわからないが、結局バッド・ブレインはミダスの要求通りの行動をしてしまっている
ただそれだけが、バッド・ブレインには不愉快だった
「ミダスから、かぁ…」
バーチェッタは苦虫を噛み潰したような顔をした
「これ、お前にやるよ」
そう言うとバーチェッタは茶封筒をバッド・ブレインに投げてよこした
「俺が考えるにこいつの中身の可能性は二種類ある
一つは昨日俺達が折ったと思ったフラグさ
おそらく泣けるような美談に、見てる方が恥ずかしくなるような句が添えてあるような代物だろう
もう一つは同じく美しい形相を保ってはいるが、内容はあくまでも無慈悲な絶縁状だ
そのどちらだとしても、俺は見たくはないんだ」
「本当に良いのか?バーチェッタ」
バッド・ブレインは思わずバーチェッタの方をまじまじと見返す
そこには、まず燃えるような決意の表情が見て取れた
しかし、その目を覗き込むと、仄かな悲しみの色が見て取れた
「あぁ、もう良いんだ」
バーチェッタはおそらく俺よりも強い男だったんだろう、何故だかそんな気がした
「それじゃあそろそろお開きだな、今日は楽しかったぜ」
「わかった、じゃあまた今度な」
バッド・ブレインは茶封筒押し付けられながらバーチェッタのガレージを後にした
「流石に開けないかぁ」
バッド・ブレインは自分のガレージで茶封筒の中身を調べていた
本来こんな覗きめいた事はしたくなかったのだが
不可解なミダスの真意への好奇心と共に、バーチェッタから許可が下りている事が引き金になってこのような行いに及んでいた
茶封筒の中身は、まずチップが一つ
そのチップにはミダスが言った通りパスがかけられていて、どうしても開けなかった
残りは手帳のページを破りとったような紙に殴り書きで
「良いお友達をお持ちですね」
と書かれていた
バッド・ブレインはこの殴り書きを見ながらニヤニヤしていた
その通り、バーチェッタと俺は良い友達だ、それがわかるなら、ミダスって奴もおそらく良い奴なんだろう
そんな気がしていた
バッド・ブレインは考える
バーチェッタは強い男だ、おそらく、ミダスが思っていたより、そして、バッド・ブレインが思っていたよりも
もしかしたら滑稽なのはミダスの方だったのかもしれない、そんな気すらする
ミダスと俺は滑稽な仲間同士かもしれない、それならとびきり滑稽な親愛の証を渡そう、そう考えた
まずバッド・ブレインは茶封筒の中身を茶封筒の中に戻す
次に昨日バーチェッタのガレージで流した、いかがわしい映像の入ったチップに卑猥な単語でパスをかけ、茶封筒に入れる
そして、ふらっと外に出た
少し重くなった茶封筒を持ったバッド・ブレインは、オペレーターにその茶封筒を渡し、ミダスの所へ送り返すように頼む
バッド・ブレインは終始ニヤニヤしていた
一人はこのガレージの主、バーチェッタ
もう一人はバーチェッタの相談相手であるバッド・ブレインだ
バーチェッタは既に上機嫌な様子で、常に微笑みを絶やさずに居た
対するバッド・ブレインは同じく上機嫌なようだったが、どこか冷静さを失っていない感じだった
バーチェッタは主に元恋人であるミダスの活躍の事を話してはちょっとした自虐を込めつつミダスを褒め称える
それにバッド・ブレインは相槌をうちつつ、ミダスの事を茶化して楽しんでいるようだった
そんなどうしようもない会話が一段落した所で、バッドブレインが唐突に自分の荷物の中を探りながらこう言った
「バーチェッタ、今日はそんなお前にプレゼントがあるんだ」
そう言いながら荷物からゴソゴソと取り出してきたのは、オナホールだった
「お前もミダスの事なんか忘れて、これでパーっと気持ち良くなろうぜ」
バーチェッタは少し動揺していた
「こ、こんな物俺は必要ないね
だって俺はまだミダスとは文通してるし…
それに、ミダスと性欲は関係ないだろう…多分」
「まぁまぁ、そうは言うが、ミダスはお前にもう何もしてくれないじゃないか
恋人なんて関係は往々にして、一度冷めたらおしまいの儚い物さ
それに比べて俺達の友情はどうだ?ミダスと付き合う時も色々助言してやったのは俺だろう?
その俺が勧めているんだから素直になれって
別に浮気しようって訳じゃ無いんだしさ」
そう言うとバッド・ブレインは何処からか持ち出してきたブリーフィング用のプロジェクターを操作して、ガレージの壁にデカデカといかがわしい映像を映し出した
「俺は思うんだ、恋愛する事で得られる恩恵ってのは、性欲以外は全て本人の考え方次第で補完可能なんじゃないかと
だからまずは性欲から潰していくのが正攻法なんだと思うんだ」
「そんな事は無いさ、ミダスは俺に実に色々な恩恵を与えてくれた
例えば、ミダスと居れば俺は自分に自信を持てたし…」
と言いかけた所でバッド・ブレインが割って入った
「自信を持てた?ミダスはお前の事を少しでも認めてくれていたのか?
ミダスはアリーナランクの低いお前を認めてはくれなかった
ミダスは今のお前の事なんて少しも認めてはくれていないよ
じきにミダスは自分を過信して、お前より自分の条件に合う男を探しに行くに違いないさ
その事自体は間違っちゃいない、女は常に優秀な子孫を残す事を考えるべきだと思う
だがそこに愛だの何だの不確かな物を絡ませて、夢を見せるのが俺は嫌いなんだ
バーチェッタ、仮にお前がミダスを山車にして自分に自信を持つなら
お前はもっとミダスの事を憎むべきなんだ
そうした方が、今のお前はよっぽど強くなれるさ」
バーチェッタは思わず黙ってしまう、ガレージの壁に映し出されたいかがわしい映像が虚しく声を上げていた
「俺はミダスを憎む事なんて出来ない…
いくら俺が勝手に傷ついた所で、実際にミダスが何か俺に害意を持っていた訳じゃない
おそらく今だって、ミダスは俺のことを悪くなんて思っちゃいないだろう…」
バーチェッタは今にも泣きそうだった
バッド・ブレインは少し困った表情を浮かべつつ、急に優しい声で話し始めた
「いやぁ、悪かったよ、確かにミダスを憎むにはお前は少し優しすぎた
じゃあこうしよう、俺は今のお前が不憫でならないのさ
ミダスは少しぐらい自分を嫌わせて、楽に別れさせる優しさって物を持つべきなんだ
だがそうしないのは何故だと思う?
お前がかわいそうだからか?いや、そんな事は断じて無い
自分を良く見せようと思う虚栄心から、悪役を演じる事が出来ないだけなのさ
なら俺はお前の為に道化を演じてやろうじゃないか」
そう言うとおもむろにバッド・ブレインは下半身の着物を豪快に脱ぎ捨て、オナホールを装着した
「さぁ、お前も!」
そう言うとバッド・ブレインはゆっくりとしごきはじめた
その気迫に押されて、バーチェッタも下半身裸になってオナホールを装着する
「これで俺とお前はオナ友だな!パーっとやろうじゃないか!」
ちょうどその時、ガレージの扉がガチャっと音を立てた
「バーチェッタ?ちょっと話があって来ちゃった」
ミダスだった
扉を開け中を見たミダスは凍りついた
なにせ中には下半身裸で股間に異様な物を装着した男が二人でいかがわしい映像を大写しで鑑賞していたのだ
青ざめたバーチェッタと目が合うが、もはやそれどころではなかった
「あ、忙しかったかなー、ごめんなさい」
そう言うとミダスは逃げるように去っていった
気まずい空気が流れるバーチェッタのガレージの中
「今回は俺が全面的に悪かったよ、ごめん」
流石のバッド・ブレインもこの状況には困惑していた
「いやいや、鍵を確認しなかった俺が悪いよ、でも鍵閉めたような気もするんだよな…」
バーチェッタは呆然としていた
「何しに来たんだろうな、ミダス」
「どうせ困った事があれば都合の良いお前を頼ろうって魂胆だろう」
「いや、もしかして、もしかすると、仲直りフラグ…だったのか」
「まあ良いじゃないか、フラグだったにせよそれは今さっきの瞬間に折れちまったよ
逆にこれほど滑稽な出来事があれば吹っ切れ易いんじゃないか?」
「そうかな?…そうだよなぁ、そんな事より続きを始めようか」
「おうよ」
バーチェッタは開き直ったのか非常にすがすがしい表情で自慰にふける
そんなバーチェッタを見て、バッドブレインも満足そうだった
「あぁ、俺がプロジェクター操作して抜き所で巻き戻して繰り返してやるよ、お前は存分に抜けよ」
「悪いな、さっきの所結構良かったから頼む」
「おうよ」
こうして男たちの滑稽で愉快な夜は更けていった
「はぁ、もう一滴も出やしねぇよ、今日はありがとうな」
滑稽な宴が終わると既に外で鳥の声がするような時刻になっていた
「じゃあ俺はもう寝るよ、お前も相当出してたし、そこらへんの毛布使って少し休んでいけよ」
「ああ、ありがとうバーチェッタ」
「じゃあおやすみ」
そう言うとバーチェッタはとても安らかな寝顔で眠っていた
「…これで良かったんだよな」
バッド・ブレインはバーチェッタの寝顔を見ながら考える
バッド・ブレインが最初からオナホールを持って行こうと思っていたのは事実だった
しかし、バッド・ブレインはバーチェッタのガレージの機器の状況を確認した際に、ミダスがこちらに来ることを知ってしまっていた
知っていながら、敢えて鍵を外し、ミダスにあのような滑稽な場面を見せたのだ
今日もまたバッド・ブレインは道化者だった
バッド・ブレインにとってミダスは少々鬱陶しい存在でもあった
バーチェッタがミダスと交際していた頃は、ただバーチェッタの幸せを願い、バーチェッタにミダスと上手く行くための助言をしていたが
ただアリーナランクの差の為に今バーチェッタを捨てようとしているミダスが許せなかった
しかしミダスを憎悪する程バッド・ブレインは頭が悪いわけでもなく、ミダスを忘れされる程バッド・ブレインは頭が良い訳ではなかったのだ
バッド・ブレインの日常は常に滑稽さに満ちている、だがそれは彼自身が滑稽な事の裏付けにはならないだろう
バッド・ブレインはただ、他に皆が幸福なまま済ませられる方法を知らないだけなのだ
ただ、自分自身を繕う術を知らないから道化て見せているだけなのだ
こんな事で本当にバーチェッタが幸福になれるのか、バッド・ブレインにはわからない
だが、ミダスに対してしてやったような快い気持ちはしていた
彼は自分自身をよく知らないからこそ、誰よりも自分勝手でもあるのだ
バッド・ブレインは毛布で仮眠しようかとも思ったが、不健康な彼は徹夜明けの興奮の中で朝日を欲していた
そしてふと窓を開け、外を見る
辺りは朝焼けのさなかで、何もかもが大変美しかった
若干肌寒いが、今のバッド・ブレインには心地の良い風が入ってくる
深呼吸をして入り口の方を見ると、バッド・ブレインは凍りついた
ミダスが居たのだ、入り口近くの柱に倒れかかるようにして、何かを待っていた
いや、その何かというのがおそらくバーチェッタだという事もわかりきってはいたのだが
とにかくミダスは待っていた
バッド・ブレインが見たミダスからの連絡内容は、ここまでする程の内容では無い、たわいもない軽い物だった筈だった
ここでミダスとバーチェッタを会わせる訳には行かない、そんな気がした
バッド・ブレインはいつになく真剣な表情になり、顔を洗い、歯を磨き、服を整えると、バーチェッタが熟睡してる事を確認する
ミダスとバッド・ブレインは一度だけ顔を合わせた事のある程度の関係だ、今行って何か話せるのだろうか
しかしバッド・ブレインは行かねばならなかった
「ミダス、か」
バッド・ブレインは鉛の塊のようになっているミダスに声を書けた
充血した目で見つめ返され、思わず目が泳いでしまうが、気合いを入れて目を見ながら話し始める
「今更バーチェッタに何の用なんだ」
ミダスは不思議そうな顔をして、こう言った
「恋人に会いに来て何が悪いの?」
「恋人?バーチェッタから話は聞いてるよ、お前さんはバーチェッタに寂しい思いばかりさせてるそうじゃないか
だからこうして俺が慰めに来てる訳だ、邪魔をするな」
バッド・ブレイン自身も大変な誤解を招きやすい表現だとは思ったが、他にミダスを怯ませるような効果的な言葉が思いつかなかった
「あなたの痴態について文句を付けるつもりは無いわ
ただバーチェッタと話があるのよ」
ミダスは少しも怯まずに平然としていた
「バーチェッタは今忙しいんだ、用件なら俺が聞いておいてやるよ
最も、本人に伝えるかどうかは、内容の如何にかかってくるがね」
「そう、じゃあバーチェッタにこのチップを渡して欲しいの
無論バーチェッタと私しか開けないようなパスを付けておいたから、あなたは下手な事を考えないようにね
それじゃあ」
そう言うとミダスはバッド・ブレインにチップの入っているらしい茶封筒を押し付けると、そのままどこかへ去っていった
バッド・ブレインはミダスの真意が計りかねていた
流石にあの様子では今更本当にバーチェッタとやり直す気がある訳でもあるまい
だが、ここまでしてこのチップを渡さなければならなかったミダスは、一体何を考えているのだろう
疲れた頭で呆然と考えていると、後ろからバーチェッタの声がした
「おはよう、どうした、郵便でも受け取ってくれたか」
もはやバッド・ブレインに逃げ場は無い
「ああ、郵便だ、ミダスからだとよ」
バーチェッタに茶封筒を渡し、一緒に部屋に入った
まだミダスの真意はわからないが、結局バッド・ブレインはミダスの要求通りの行動をしてしまっている
ただそれだけが、バッド・ブレインには不愉快だった
「ミダスから、かぁ…」
バーチェッタは苦虫を噛み潰したような顔をした
「これ、お前にやるよ」
そう言うとバーチェッタは茶封筒をバッド・ブレインに投げてよこした
「俺が考えるにこいつの中身の可能性は二種類ある
一つは昨日俺達が折ったと思ったフラグさ
おそらく泣けるような美談に、見てる方が恥ずかしくなるような句が添えてあるような代物だろう
もう一つは同じく美しい形相を保ってはいるが、内容はあくまでも無慈悲な絶縁状だ
そのどちらだとしても、俺は見たくはないんだ」
「本当に良いのか?バーチェッタ」
バッド・ブレインは思わずバーチェッタの方をまじまじと見返す
そこには、まず燃えるような決意の表情が見て取れた
しかし、その目を覗き込むと、仄かな悲しみの色が見て取れた
「あぁ、もう良いんだ」
バーチェッタはおそらく俺よりも強い男だったんだろう、何故だかそんな気がした
「それじゃあそろそろお開きだな、今日は楽しかったぜ」
「わかった、じゃあまた今度な」
バッド・ブレインは茶封筒押し付けられながらバーチェッタのガレージを後にした
「流石に開けないかぁ」
バッド・ブレインは自分のガレージで茶封筒の中身を調べていた
本来こんな覗きめいた事はしたくなかったのだが
不可解なミダスの真意への好奇心と共に、バーチェッタから許可が下りている事が引き金になってこのような行いに及んでいた
茶封筒の中身は、まずチップが一つ
そのチップにはミダスが言った通りパスがかけられていて、どうしても開けなかった
残りは手帳のページを破りとったような紙に殴り書きで
「良いお友達をお持ちですね」
と書かれていた
バッド・ブレインはこの殴り書きを見ながらニヤニヤしていた
その通り、バーチェッタと俺は良い友達だ、それがわかるなら、ミダスって奴もおそらく良い奴なんだろう
そんな気がしていた
バッド・ブレインは考える
バーチェッタは強い男だ、おそらく、ミダスが思っていたより、そして、バッド・ブレインが思っていたよりも
もしかしたら滑稽なのはミダスの方だったのかもしれない、そんな気すらする
ミダスと俺は滑稽な仲間同士かもしれない、それならとびきり滑稽な親愛の証を渡そう、そう考えた
まずバッド・ブレインは茶封筒の中身を茶封筒の中に戻す
次に昨日バーチェッタのガレージで流した、いかがわしい映像の入ったチップに卑猥な単語でパスをかけ、茶封筒に入れる
そして、ふらっと外に出た
少し重くなった茶封筒を持ったバッド・ブレインは、オペレーターにその茶封筒を渡し、ミダスの所へ送り返すように頼む
バッド・ブレインは終始ニヤニヤしていた