「ふう、これで基地の防衛機構は無力化できたハズだお」
通信で内藤はそう告げる
ノイズ混じりのオペレーターがコクピット内に響く。
「こちらでも確認しました。レイヴン、お疲れ様」
「ようやく仕事が板についてきたようですね」
「こんなペースで仕事をすれば、嫌でも慣れるお・・・」
事実、彼がレイヴンになってまだ二週間も経っていないのだが
既に5回ほどミッションに従事している。
大破壊で腕のいいレイヴンが激減した昨今、内藤のような新米レイヴンに仕事が回ってくる事は
得に珍しいわけでも無いが、それでもこのペースは異常だった。
それほど今の情勢がレイヴンを必要としている事なのだろうか。
「大破壊」
人々はそう呼んでいる。
特攻兵器が地下から現れ、無差別に地上をなぎ払った事件の事だ。
企業やレイヴン達の決死の戦いの末、特攻兵器の来襲は止まったが
こうなるまでに多くのレイヴン達の命が犠牲となった。
内藤も母とはその時に離れ離れになった。行方は彼自身も知らない。
大破壊から辛くも生き残った内藤は、自分の家だった場所にうずくまっていた。
自分の非力さがどうしようも無く疎ましかったからだ。
自分に力さえあれば、たった一人の家族と離れ離れになることも
今こうして野良犬のように小さくなっていることも無かったんじゃないのか?
力、力さえあれば・・・
考え抜いた後、内藤が何かを決意して立ち上がるのに、大した時間は掛からなかった。
「で、依頼はこれで達成したから事後処理はクライアント側に一任するお」
「ええそうね。回収用ヘリを回すから、基地から脱出してください」
「了解だお」
レーダーをチラリと見、敵勢力が殲滅されている事を確認した内藤は
機体を出口に向けて動かす。今夜はこれで終わりのようだ。
「「あー。今日もなんとか生き残れたお・・・」」
レイヴンになるための試験に合格し、こうして命をやり取りを始めてまだ二週間しか経っていないのだ
彼が今日まで生き残れたのは、彼の乗る「AC」という兵器の力による所が大きい。
ACに対抗できるのは、同じACだけなのだから。
「「もうちょっと機体が強くなるまで、ACとは戦いたくないもんだお・・・」」
オペレーターには聞こえないように小さくため息をつく。
出口まであと200mと迫った時、オペレーターの緊迫した声が響く。
「敵増援を確認。ACの模様。・・・・待って、これは?」
「どどどどどうしたおおお!!!」
「落ち着いてください。分かりました。ランカーACシークレット・トラックです」
「え、ACが出てくるなんて聞いてないお!!しかも・・・四位のレイヴンがなんでこんなミッションに!!」
通常、クライアントは仕事の難易度に応じたレイヴンを雇うのだが
敵の過小評価や過大評価により、このようなミスキャストを演出してしまう事がある。
勿論、演出されてしまったレイヴン側はたまったものでは無いが・・・
しかし、ACに乗って二週間のルーキーと百戦錬磨のランク四位がカチ合うとはかなり珍しい事だ。
おそらくこれが最初で最後だろう。
「ヘリが到着しました。離脱を許可します」
「当たり前だお!戦えるわけないお!!」
「でもあの出口はあの機体の後ろですので、どうにかするしか無いみたいね」
まるでその言葉に反応するかのように、敵ACの頭部センサーが赤く輝いた。
「う、うおおおおおおおお!だお!!」
内藤の操るAC「フライングスカイ」の性能は、初期に支給される機体とほぼ同じだ。
5回程度のミッションの報酬では、(しかもそのうち二回は失敗だった)
機体の整備費や弾薬費でトントン。せいぜいブースターを多少いい物に変える程度の改造しか行えなかった。
それでも彼は文字通り生死をかけての突撃を敢行する。
ダッシュを掛けながら右手ライフルを乱射し、相手が回避行動を取った隙に出口に滑り込む。
AC戦闘が初めての内藤には、それくらいの戦略を立てることが精一杯だった。
ランカーのACは弾丸の雨の中微動だにしない。
内藤は予想外の事に焦りながらも、自機の機動を敵の横をすり抜けるコースに取る。
「これはいけるかもしれないお・・・!」
だが、フライングスカイが相手に手が届く間合いに入った次の瞬間
彼は機体ごと床に叩きつけられた。
「モルスァ!」
何が起こったのかわからないが、おそらくブレードで切りつけられたのだろう。
ライフルを持つ右腕の、肘から先が無くなっていた。
「うう・・・あいつはどこだお・・・」
目眩がするほどの痛みの中、敵がいるべき場所を見た。
が、既にそこにはACの姿はない。
「ま、まさか!」
左手で視界を上に向けるようカメラを操作する。
そこには、自分を見下ろす銃口が合った。
「恨むなら自分の腕と、あとは運の無さを恨んでね」
相手は外部スピーカーで何かをしゃべっているが
それを聞いている余裕は、今の内藤には無かった。
「可哀相だけど・・・しょうがないものね・・・」
トレイ・アンチューン、通称ツンは機体の中で小さく呟いた。
不用意に突っ込んできたルーキーの機体(塗装はされているがほとんど初期機体だった)の
右腕を一撃で切り落とし、跳躍して上を取りながら、だ。
洗練された動き。女性がてらでランカー四位は伊達じゃない。
だが彼女にとって予想外だったのが、コクピットを貫通させるつもりで放ったスナイパーライフルの弾丸を
そのルーキーが回避したことだ。
通常の機動では避けられないと判断した内藤が
買ったばかりのブースターを、爆散すら辞さない出力で稼動させた。
機体を軋ませる強引なブーストダッシュは、トップランカーの予想をも上回る機動を見せ
なんとか弾丸を回避する。
「まだ僕は死ねないんだお・・・!」
機体のGに振り回されながらも、肩のミサイルを発射する。
「へぇ」
感嘆の声を漏らしながらツンは機体を左右に振ってミサイルを回避する
初期ミサイルの回避などのためにダッシュする必要は無かった。
だがそのベテランの判断が、今回だけは裏目に出た
発射されたミサイルが先ほど切り落とした右腕-----残弾たっぷりのライフル付きだ-----を直撃したのだ
完全に虚を着かれた爆発によりツンの意識は一瞬ブラックアウトする
そして気づいた時には既に、ルーキーのブレードが目の前に迫っていた。
ヂヂヂヂヂ
鉄を溶接するような音と共に、内藤は敵ACの右足を切り飛ばした。
「や、やったお・・・?!」
「レイヴン。今のうちに脱出を。次も上手くいくとは限りません」
「わ、わかったお」
自分の動きに驚きながらも、オペレーターの指示に従い脱出する。
ツンは、自分が初期機体も同然のACに出し抜かれた事にショックを受けていた。
「嘘・・・こんな腕のレイヴンがまだ居たなんて・・・」
「まさか・・・戦闘の天才・・・うわさだけかと・・・」
「あれがドミナント・・・・?」
切り落とされた足の断面を見つめながら、そうつぶやいた。
内藤は機体の中でぼんやりとモニターを見つめていた。
基地脱出後、なんとかヘリに自機を回収させ、戦域の離脱に成功したというのに
未だに自分が生還できたという実感が沸かない。
オペレーターの声がコクピット内に響く。
「それにしても・・・よく生きて帰ってこれましたね」
「最後の機動は狙ってやったんですか?」
内藤は頭を振って笑いながら答えた。
「ねーよwwwww無理だおwwwwwww」
「まあそうだと思いました。今度こそお疲れ様、ブーン」
「・・・・ブーン?」
「あ、聞いてるお。お疲れだお」
そうだった。
内藤という名を呼んでくれる知り合いはもういない。
レイヴンとしての名は「ブーン」機体の名は「フライングスカイ」
それが今の自分のすべて。そして力のすべてだった。
「今日の動き・・・あれがマグレじゃなくなる日がくればいいのに・・・」
薄れゆく意識の中、ブーンはそう思った。
バーテックスが名乗りを上げ、アライアンスに宣戦布告をするのはこの10時間後だったが
ブーンは知る由もなかった。
通信で内藤はそう告げる
ノイズ混じりのオペレーターがコクピット内に響く。
「こちらでも確認しました。レイヴン、お疲れ様」
「ようやく仕事が板についてきたようですね」
「こんなペースで仕事をすれば、嫌でも慣れるお・・・」
事実、彼がレイヴンになってまだ二週間も経っていないのだが
既に5回ほどミッションに従事している。
大破壊で腕のいいレイヴンが激減した昨今、内藤のような新米レイヴンに仕事が回ってくる事は
得に珍しいわけでも無いが、それでもこのペースは異常だった。
それほど今の情勢がレイヴンを必要としている事なのだろうか。
「大破壊」
人々はそう呼んでいる。
特攻兵器が地下から現れ、無差別に地上をなぎ払った事件の事だ。
企業やレイヴン達の決死の戦いの末、特攻兵器の来襲は止まったが
こうなるまでに多くのレイヴン達の命が犠牲となった。
内藤も母とはその時に離れ離れになった。行方は彼自身も知らない。
大破壊から辛くも生き残った内藤は、自分の家だった場所にうずくまっていた。
自分の非力さがどうしようも無く疎ましかったからだ。
自分に力さえあれば、たった一人の家族と離れ離れになることも
今こうして野良犬のように小さくなっていることも無かったんじゃないのか?
力、力さえあれば・・・
考え抜いた後、内藤が何かを決意して立ち上がるのに、大した時間は掛からなかった。
「で、依頼はこれで達成したから事後処理はクライアント側に一任するお」
「ええそうね。回収用ヘリを回すから、基地から脱出してください」
「了解だお」
レーダーをチラリと見、敵勢力が殲滅されている事を確認した内藤は
機体を出口に向けて動かす。今夜はこれで終わりのようだ。
「「あー。今日もなんとか生き残れたお・・・」」
レイヴンになるための試験に合格し、こうして命をやり取りを始めてまだ二週間しか経っていないのだ
彼が今日まで生き残れたのは、彼の乗る「AC」という兵器の力による所が大きい。
ACに対抗できるのは、同じACだけなのだから。
「「もうちょっと機体が強くなるまで、ACとは戦いたくないもんだお・・・」」
オペレーターには聞こえないように小さくため息をつく。
出口まであと200mと迫った時、オペレーターの緊迫した声が響く。
「敵増援を確認。ACの模様。・・・・待って、これは?」
「どどどどどうしたおおお!!!」
「落ち着いてください。分かりました。ランカーACシークレット・トラックです」
「え、ACが出てくるなんて聞いてないお!!しかも・・・四位のレイヴンがなんでこんなミッションに!!」
通常、クライアントは仕事の難易度に応じたレイヴンを雇うのだが
敵の過小評価や過大評価により、このようなミスキャストを演出してしまう事がある。
勿論、演出されてしまったレイヴン側はたまったものでは無いが・・・
しかし、ACに乗って二週間のルーキーと百戦錬磨のランク四位がカチ合うとはかなり珍しい事だ。
おそらくこれが最初で最後だろう。
「ヘリが到着しました。離脱を許可します」
「当たり前だお!戦えるわけないお!!」
「でもあの出口はあの機体の後ろですので、どうにかするしか無いみたいね」
まるでその言葉に反応するかのように、敵ACの頭部センサーが赤く輝いた。
「う、うおおおおおおおお!だお!!」
内藤の操るAC「フライングスカイ」の性能は、初期に支給される機体とほぼ同じだ。
5回程度のミッションの報酬では、(しかもそのうち二回は失敗だった)
機体の整備費や弾薬費でトントン。せいぜいブースターを多少いい物に変える程度の改造しか行えなかった。
それでも彼は文字通り生死をかけての突撃を敢行する。
ダッシュを掛けながら右手ライフルを乱射し、相手が回避行動を取った隙に出口に滑り込む。
AC戦闘が初めての内藤には、それくらいの戦略を立てることが精一杯だった。
ランカーのACは弾丸の雨の中微動だにしない。
内藤は予想外の事に焦りながらも、自機の機動を敵の横をすり抜けるコースに取る。
「これはいけるかもしれないお・・・!」
だが、フライングスカイが相手に手が届く間合いに入った次の瞬間
彼は機体ごと床に叩きつけられた。
「モルスァ!」
何が起こったのかわからないが、おそらくブレードで切りつけられたのだろう。
ライフルを持つ右腕の、肘から先が無くなっていた。
「うう・・・あいつはどこだお・・・」
目眩がするほどの痛みの中、敵がいるべき場所を見た。
が、既にそこにはACの姿はない。
「ま、まさか!」
左手で視界を上に向けるようカメラを操作する。
そこには、自分を見下ろす銃口が合った。
「恨むなら自分の腕と、あとは運の無さを恨んでね」
相手は外部スピーカーで何かをしゃべっているが
それを聞いている余裕は、今の内藤には無かった。
「可哀相だけど・・・しょうがないものね・・・」
トレイ・アンチューン、通称ツンは機体の中で小さく呟いた。
不用意に突っ込んできたルーキーの機体(塗装はされているがほとんど初期機体だった)の
右腕を一撃で切り落とし、跳躍して上を取りながら、だ。
洗練された動き。女性がてらでランカー四位は伊達じゃない。
だが彼女にとって予想外だったのが、コクピットを貫通させるつもりで放ったスナイパーライフルの弾丸を
そのルーキーが回避したことだ。
通常の機動では避けられないと判断した内藤が
買ったばかりのブースターを、爆散すら辞さない出力で稼動させた。
機体を軋ませる強引なブーストダッシュは、トップランカーの予想をも上回る機動を見せ
なんとか弾丸を回避する。
「まだ僕は死ねないんだお・・・!」
機体のGに振り回されながらも、肩のミサイルを発射する。
「へぇ」
感嘆の声を漏らしながらツンは機体を左右に振ってミサイルを回避する
初期ミサイルの回避などのためにダッシュする必要は無かった。
だがそのベテランの判断が、今回だけは裏目に出た
発射されたミサイルが先ほど切り落とした右腕-----残弾たっぷりのライフル付きだ-----を直撃したのだ
完全に虚を着かれた爆発によりツンの意識は一瞬ブラックアウトする
そして気づいた時には既に、ルーキーのブレードが目の前に迫っていた。
ヂヂヂヂヂ
鉄を溶接するような音と共に、内藤は敵ACの右足を切り飛ばした。
「や、やったお・・・?!」
「レイヴン。今のうちに脱出を。次も上手くいくとは限りません」
「わ、わかったお」
自分の動きに驚きながらも、オペレーターの指示に従い脱出する。
ツンは、自分が初期機体も同然のACに出し抜かれた事にショックを受けていた。
「嘘・・・こんな腕のレイヴンがまだ居たなんて・・・」
「まさか・・・戦闘の天才・・・うわさだけかと・・・」
「あれがドミナント・・・・?」
切り落とされた足の断面を見つめながら、そうつぶやいた。
内藤は機体の中でぼんやりとモニターを見つめていた。
基地脱出後、なんとかヘリに自機を回収させ、戦域の離脱に成功したというのに
未だに自分が生還できたという実感が沸かない。
オペレーターの声がコクピット内に響く。
「それにしても・・・よく生きて帰ってこれましたね」
「最後の機動は狙ってやったんですか?」
内藤は頭を振って笑いながら答えた。
「ねーよwwwww無理だおwwwwwww」
「まあそうだと思いました。今度こそお疲れ様、ブーン」
「・・・・ブーン?」
「あ、聞いてるお。お疲れだお」
そうだった。
内藤という名を呼んでくれる知り合いはもういない。
レイヴンとしての名は「ブーン」機体の名は「フライングスカイ」
それが今の自分のすべて。そして力のすべてだった。
「今日の動き・・・あれがマグレじゃなくなる日がくればいいのに・・・」
薄れゆく意識の中、ブーンはそう思った。
バーテックスが名乗りを上げ、アライアンスに宣戦布告をするのはこの10時間後だったが
ブーンは知る由もなかった。