「ふぅ・・・」
預金通帳を見るたびに溜息をついてしまう
それがもはや少女に日課となりつつある
エネは女手一つで自分を育ててくれた母の手術費用を稼ぎたいのだが・・・
「はぁ・・・どうしてこぅー・・お金が貯まらないのかしらぁ」
アリーナでの成績は優秀ではなく、賞金よりも彼女のファンからの支援金の方が多いくらいだ
自分で自慢こそはしないが――容姿端麗な彼女は一時期、体を売ってお金を稼ごうと思ったこともある
(でもママに育ててもらった体をそんなことに使ったら、ママが悲しむし・・)
そうして彼女は重い足取りでアリーナと向かうのだった
「任務ぅ・・・ですか?」
アリーナの専守控え室での出来事だった
「ええ。難しい任務ではないのですが、何しろウチは作業用のMTしかないもんで」
今までアリーナ一辺倒だった彼女は任務を受けたことがなかった
しかも話を聞く限りでは・・・
「え、えーとぉ、つまり貴方の工場に立てこもってるMTを排除・・するってことですよね?」
「はい、立てこもってるMTは武装していて、うちのMTじゃとても歯が立たないんです・・・」
男はうなだれながらも時計に目をやり、時間がないとエネを急かす
その勢いに押されてしまったエネも「は、はい!やります!」と答えてしまった
(最初の任務、しかも戦闘を伴う任務・・・)
不安に押しつぶされそうになりながらも作戦領域へどんどん近づいていく
――作戦領域ニ到達、AC投下ト同時ニ離脱シマス――
「しゃ、社長!もうバリケードが持ちません!」
「もうすぐACが来ます!それまで持ちこたえてください!」
バリケードを間に挟みMT同士が押し合っているのが降下中のエネからも見えた
(着地まであと5...4...3....今ッ!)
ブースターに火を入れ着地のショックを軽減する
「ふ、、ふぅ。ちゃんと着地できたぁ・・・」
アリーナでは滅多にないヘリからの降下を無事に済ませ目標に取り掛かる
目標がエネを視認した直後
「チッ、テメーら!レイヴンを雇う金があるなら借した金を返しやがれ!」
目標の外部スピーカーから怒声が響く。
「金はもう返したはずだ!それをお前らがさらに利息を上乗せすると言い出したんじゃないか!」
そんなものは払えん そう依頼主である社長は啖呵を切る
その言葉にすっかりヒートアップした借金取りが火器を振り上げる
「ええい、じゃあ貴様ら皆殺しにして、物品でも接収してやるぁ!!」
(な、なんで私が来た瞬間に状況が悪化するの・・・)
半ば泣き出したくなる気持ちを抑えてブーストで高く飛び上がり背後に回りこむ
「て、抵抗はやめてください!おとなしく手を引いてくれれば危害は加えるつもりはありません!」
「声が、震えてる、ゼッ!」
振り向きざまにマニュピュレーターで右腕武器を弾き飛ばす
MTの火砲がエネの機体に向けられる
「ヒッ・・・」
この距離ではACの装甲でも・・・
アリーナとは違う、撃たれたら・・・死ぬ
現実は生ぬるくなかった。生きるか死ぬかの世界だったんだ
膝がガクガク震える。もしかしたら失禁しているかもしれないが感覚が分からない
(もう・・・ダメだ・・)
エネが死を覚悟して目を瞑る
いつまでもその時が来ない・・・・すると声が聞こえてくる
「ん・・・・その機体・・・ピースフルウィッシュ!ってことはアンタ、エネちゃんかい!」
借金取りの声から敵意が抜けた
「へぁ・・・?」
いやー俺ぁアンタの大ファンでねぇー 借金取りが言うが耳に入らない
「うっうっ・・・うぐっ・・・」
緊張から開放されて涙が出てきた。エネは大声で泣いた
借金取りはエネを雇われたんじゃかなわねーなと撤退していった。もう二度とこないらしい
「ありがとうございましたエネさん。」
「私・・何もしてないです・・」
うつむきながらエネが答える
「いいえ、あなたのおかげで誰もケガ人がいませんでした。そう誰も」
これも貴女の健気な姿が多くの人の心を掴んでいたからです。そう依頼主が言った
「報酬はこちらの小切手に」
エネが小切手を受け取る
「・・・!!こんなに・・・。いいんですか?」
被害も少ないので特別報酬に上乗せされた金額だった。
エネは有難く受け取りその場を後にした
―1週間後―
「うー・・・」
預金通帳には相変わらず小額のコームがならんでいる
アリーナで勝つためにACのパーツを買い込んだせいだ
最も変に節約しようと中古で揃えたせいで粗悪品だらけだったが
「うん、頑張ろう・・・」
そして今日も彼女は重い足取りでアリーナへと向かう