#1

ミッドチルダ北部・聖王協会本部

N2Rとエリオ達がセイバーと交戦中、
聖王協会に飛び込んできた報告に色めき立った一同に対し

「やめとけ、今から行っても無駄だ」

我関せずと言った顔でランサーが釘を刺した

シャッハの移動魔法を駆使しても到着した時点で戦闘は終わっている、
仮にたどり着いても水上という場所では戦えるものは限られるだろう

事実を冷静に突きつけられて全員が口をつぐまざるを得なかった

「今近くに居る魔導師は?」

「えぇっと―――、
フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官が現在現場に急行中です」

「坊主の師匠だか親代わりだかって言ってたあの嬢ちゃんか……」

死体が増えなきゃいいがね、と呟いてランサーは踵を返して部屋を出て行った
吐き捨てるような態度に憤る者達の中に、彼の表情を見たものは居なかった



#2

「一閃……必中」

膝が沈む

「メッサぁぁぁ・アングリフ!」

咆哮するストラーダの噴射口、乾坤一擲の気魄を持ってエリオは地を蹴り、
あわせるように黒騎士も足元で魔力を炸裂させる

正面からぶつかり合う魔力と魔力、黒騎士の剣とストラーダの穂先が正面からかち合い、
すれ違って一拍おいたところで穂先にこめられた桃色の魔力刃が砕け散った

「まだ!」

着地の勢いをそのままキープして身を捻る、
主の気迫そのままにその各部から魔力をほとばしらせストラーダが唸りを上げる

正面からの魔力のぶつかり合いでは勝ち目がない、
エリオの勝機はすれ違った直後、相手より早く振り返ってスタートを切ることだけだ

―――それにしたところで万に一つの勝機だが

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

互いに身を捻り、再スタートを切る
切っ先の微妙なコントロールで相手の一撃を受け流し、二度三度と交錯を繰り返す

「不味いな、そろそろストラーダが持たん」

様子を窺っていたチンクが唇を噛む、
武器の強度、魔力、技量、全てにおいて相手が上なのだ、
一見もっているように見えるのは戦い方の都合に過ぎない

―――それもあと一撃というところか

それも分かっているのだろう、再反転するエリオの顔に苦さを抱えた決意の色が浮かぶ
迸る雷光が一際大きくなり切っ先に収束する

「紫電……一閃!!」

咆哮と共にはじき出されるカートリッジ、
渾身の一撃に対し黒騎士も両手で剣を握りなおし撃ち帰す

「風よ、吼えあがれ!!」

激突する刃と刃、衝突した魔力が爆発し、全員が一瞬目を覆った

「どうなったんスか?」

爆風を避けてチンクを抱えて上空に舞い上がったウェンディが下を見下ろすのと
それはほぼ同時だった

「ウェンディ!!」

ノーヴェの叫びと同時にライディングボードに衝撃を受け、
彼女はチンクを取り落としながら慌ててボードにしがみ付く

「つ―――!?」

ボードからはみ出した何かがしがみ付いた脇腹を掠め、
それが血に濡れた黒い刀身だと気が付いて彼女はギョッとして下を覗き込んだ

「かはっ!」

覗き込んだ下で風に揺れる赤毛とガラス玉のような金色の瞳が目に入る
それがエリオと黒騎士であると脳が認識する前に、猛る魔力に彼女は硬直した

「いっ!?」

落下するチンクのフォローにフリードを旋回させるキャロの頭上で
飛び散る鮮血と炸裂する魔力

「エリオ君、ウェンディさん!!」

反射的に頭上を振り仰いだキャロに対し、ケリュケイオンが警告と共に自立防御を起動、
ノーヴェが残っていた右腕のガンナックル、チンクがスティンガーを発射する
そこへ―――

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

魔力にまかせて軌道を変え、一直線に黒騎士が切り込む

「爆散!!」

キャロの防御に刃が食い込み、轟音を立てて黒騎士の魔力が炸裂する

一拍おいて、張り巡らされたエアライナーが消失し、
白銀の飛竜は黒煙を上げながら水面に堕ちていった



#3

金色の輝きが夜を切り裂く
焦りをありありと顔に浮かべてフェイト・テスタロッサ・ハラオウンは夜空を駆けていた

ティアナからキャスターの捜査を引き継ぎ地上本部で指揮を執っていたところで、
その拠点を調査していたギンガ達との通信が途絶えた

辛うじて確認された逃走するキャスターを追う為出動準備を整えていたフェイトの元に
黒騎士によるキャスター殲滅が届いた時、彼女は周囲の制止を無視して飛び出していた

「バルディッシュ!」

主の叫びに戦斧を模した魔杖が大剣へと姿を変える

あともう少し―――

心の内で間に合えと叫ぶ彼女の眼前で黄色の光が薄れていく
唇をかみ締める暇もなく、水面に降り立つ黒い影に向けて金色の大剣を振りかぶる

衝突する魔力の余波で水面が波打つ、
完全な真後ろからの奇襲にもかかわらず、計ったようなタイミングで黒騎士に切り返され、
フェイトは舌打ちしながら距離をとった

無機質な金色の眼が彼女を射抜く
口元には新たな獲物を見定めた野獣の笑みが浮かんでいた

―――とてもじゃないけど似ても似つかない

その表情だけでアルトリアとこの黒騎士が別物だとフェイトは断じることが出来た

―――かと言ってどうするか……

暴力的な魔力放出はそれだけでSランク魔導師級の脅威だ、
最低でもユニゾン状態のシグナムとやる位の気構えがいるとなっては
フェイトならずとも気後れは当然だろう、だが


「行くよ、バルディッシュ!」

当たってから考える、迷うのは後だ!

射撃魔法用のスフィアを展開し、ばら撒くようにプラズマバレットを発射
黒騎士の視界を水柱で覆う、それを―――

「静まれぇ!」

ダンッと水面を踏みつけると波紋状に広がった魔力の波動が荒れる波間を叩き潰す、
塞がった視界を囮に踏み込もうとしていたフェイトはその出鱈目さに舌を巻いた

「はぁっ!」

迷う暇も無く、正面からぶつかり合う格好となり、鍔迫り合いの姿勢で押し合う
ギリギリと黒い刀身がザンバーに喰い込むが、退けばたちどころに斬られると察し
フェイトは奥歯をかみ締めながらザンバーに魔力を送り込んだ

―――相手の得意なフィールドで戦えば確実に負ける、
なんとか空中に放り出すんだ、それしかない

オールラウンダーな魔導師の代名詞とされ、
シグナムやシャッハらベルカ騎士としのぎを削っている事から誤解されがちだが
ヒット&アウェイ得意とするフェイトにとって足を止めるのは不利以前に論外である
ザンバーフォームのリーチも鍔迫り合いになれば動きを阻害してしまうし、
射砲撃という手札を存分に生かすには一定の距離が必要になる
加えて剣腕もけっしてシグナムのような生粋の剣士ほどではない

「はあぁぁぁぁ!!」

こちらが魔力を追加したのに気づいたのか
押し合いをしていた黒騎士が一歩踏み込むと共に魔力を開放し
金色の刀身に食い込んでいた刃先が赤黒い輝きを帯びる

―――マズイ!

フェイトは慌てて刀身を犠牲にバインドを展開し、黒騎士を拘束すると距離をとった
ひび割れた刀身の破片がガラス片のような魔力に分解しながら大気に拡散していく

―――最初からあんな魔力を叩きつけられてたら一合も持たなかった……

背中を冷や汗が伝う、想定していた威力の範囲内ではない訳ではなかったが
いくらなんでも早すぎる

大魔力と高速・並列処理は衝突するというのは魔導師の常識である
故に大きな威力を持つ術には必ず『溜め』となる瞬間が存在する

抜き打ちレベルで砲撃クラスの魔力を放出するのは宝具だけだと思ってたけど……

今のザンバーを砕いた魔力は自分の全力の砲撃と同等以上、
しかも制御された術などではなく野放図に放った魔力だ

―――あれが制御……ううん、指向性を持って放たれた時点で自分じゃ防げない

装甲の薄い自分では当たれば堕ちる、
解っていたことではあるが、背中につめたい汗が流れて彼女は改めて
その意味に唇をかんだ

「バルディッシュ、ライオットザンバーセット」

「Yes sir」

無造作にバインドを引き千切る黒騎士を見下ろしながら命じるフェイトの声に
愛機が答えると同時に砕けた刀身が放棄され、新たな刃が両手に現れた
次いでマントと衣装がはじけ飛び、その中から肢体を覆うタイトな衣装が姿を現した

「思い切ったものだな、乾坤一擲ときたか」

フェイトの姿が変った事の意味を察し、獰猛な亀裂が黒騎士の貌を裂く

―――当たる訳にいかないのなら、その前に打倒する

女性らしい躯のラインを浮かび上がらせる両手に掲げる輝きは
彼女の渾身の魔力で編み上げられた高密度の魔力刃(ライオットスティンガー)に他ならない

一面における長所である汎用性の高さを切り捨て、
もう一面の長所―――高速機動による一撃離脱―――にかけたオーバードライブ
“ソニックフォーム”

「よかろう、
その雷光、正面から斬り伏せてくれる!」

両足を広げて剣を両手で構えなおすその姿勢は
言葉通り正面から迎え撃つという意思表示に他ならない

睨み合いの状態から、ゆっくりと海面スレスレに降り立つ
事この状況となれば小細工は何一つ通じない

「―――っ、はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

咆哮と共に金色の雷光が奔る
迎え撃つ黒騎士の両手で剣からあふれ出した魔力が唸りを上げて振りぬかれた

「くっ―――!」

真正面、完璧なタイミングで迎え撃たれ、
フェイトは辛うじて右のスティンガーで受け止めながらソニックムーブで軌道を変えて
黒騎士の凶刃から逃れた

雷速と称されるフェイト・T・ハラオウンであるが、
実のところ彼女にそこまでの速度がある訳ではない

魔導師の最大有効射程距離は概ね200メートル前後である
そのような距離において音速以上の超高速などまったく持って必要ない
恐らく彼女自身が全身全霊をかけて飛べばそれだけの速度ははじき出せるだろうが
ギネスブックに名を連ねる事に意義を感じる身ではない彼女からすれば、
実用性の無い超高速直線移動など興味の対象ですらないだろう

実際、直線における最高速度の限界値は親友である高町なのはもそう変わらない
彼女に雷速の名を冠する由来はその瞬間加速性能によるものだ

最初の踏み込みが既に最高速度に達するものであるが故に
相手に反応を許さない超高速、それが雷速と呼ばれる所以である

とはいえ―――それはあくまで人の領分に過ぎない
確かに今のフェイトは英霊ですら目視で測るのは難しい速度に達している
だが、それは高位の英霊同士の戦いにおいて問題ではない
前提として、反応できないほど早い、貫けぬほど硬いなどという格上の存在の打破こそが
英雄を“英雄”足らしめるひとつの奇跡だからである

もっとも彼女にとっても防がれた程度であれば動揺には値しない
JS事件当時、同等の高速型戦闘機人だけでなく
ジェイル・スカリエッティにも攻撃を防がれているし、
なのはやシグナムのようなある意味での彼女の好敵手達も各々に彼女の『速度』を破る
手札を持ち合わせている、とは言え

「―――そう長くは持たないね、バルディッシュ」

“yes sir”

受け止めた右のスティンガーは半ばまで刃に亀裂が走っていた
ソニックフォームとライオットザンバーは長期戦を想定しての組み合わせではないが
それを差し引いても剣がこれでは勝負にならない
フェイト自身は与り知らぬ処であるが、このまま行けばエリオの二の舞は明白だった
だが、ほかに活路はない、立ち止まるなどもっての外だ

「っあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

互いの発する魔力が海を割る、
ジグザグに飛んでフェイントを仕掛けながらフェイトが二度三度と肉薄するのを、
黒騎士は巧みに身をかわし、最小の動きで剣を裁いて迎え撃った

―――まだ行けるか?

速度を調節しながら、フェイトはマルチタスクの片隅でそう自問した

結論は―――否

原因は地上本部からここまでの距離である
ここまで来るのにいささか魔力を消費しすぎた、
インパルスフォームで通常戦闘をするのならともかく、
ソニックフォームとライオットザンバーをこのペースで続けるとなると
もって数分が限度だろう
カラミティを使えるのは一撃といったところだ

―――その前に、何とか一撃入れないと

大剣であるカラミティによる攻撃はどうしても大振りになる
後方からの強襲が通じなかった以上、相手がかわせない状況を作るには
一撃入れて体勢を崩すしかない

―――そんな思考は、わずか数合で打ち崩された

刀身に走るダメージに舌打ちしながら隙を窺うが
予知能力があるとしか思えない動きでフェイトの攻撃の気配に反応する黒騎士の前に
彼女は自ら切り込みながら受けに回ることしかできなかった
半物質化した魔力刃の破損修復にかかる魔力は純粋な魔力放出の比ではない
このまま戦いつづけてスティンガーが砕ければ、カラミティを使うどころではなくなる

勝負をかけるしかない

高速移動(ソニックムーブ)と高速動作(ブリッツアクション)を上乗せしながら両手の双剣を重ね合わせて一つに束ね、
出来上がった長大な剣を肩に担ぎながらターンをきる

残った魔力の全てを、この一撃にかける!!

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

直上からの高速垂直落下、大上段の唐竹割
地上での戦いに慣れているが故の真上という“意識の死角”にかけた決死の一撃

「おおおぉぉぉぉぉぉ!!」

刃を振り下ろそうとした刹那、
ドン、と黒騎士の咆哮とともにフェイトの視界が真っ黒に塗りつぶされた
意識が一瞬消し飛ばされ、物理的に跳ね飛ばされている感覚に叩き起されて
フェイトは事態を飲み込め無いまま姿勢を正した

―――何が、起きたの?

残った魔力でかろうじて飛行魔法を維持しながら、必死に思考を纏め上げ、
恐らく魔力放出だろうと結論付ける
その放出量に驚かされたがゆえに決着を急いだというのに
間抜けな話だと自嘲しながら
逃げるどころか、カラミティを一振りする魔力も残っていない、
それでも、せめて一矢報いなくてはという思いに突き動かされ
フェイトは震える手でへし折れたライオットザンバーを構えなおした

―――どこから、来る?

飛行魔法を調整し、
下降しながら―――魔力切れで何もしないまま水面に叩き付けられるのは御免である
フェイトは周辺に眼を凝らし―――聞こえてきた風切り音に頭上を振り仰いだ

「―――っ?!」

見上げた頭上に見えた
真っ逆様に落ちてくる長大な魔力刃を構えた黒騎士の姿は
先ほど自分が選んだ選択肢とまったく同じものだった
辛うじて残っていた力でバルディッシュを振り上げ迎え撃つが焼け石に水ですらない

―――悪い冗談だ、まったくもって笑えない

その光景を眼に焼き付けながら、意識が消し飛ぶ瞬間、彼女はそう思った