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#1

クロノ達が報告を受けるより時間は少しばかり遡る

気が付くと雨はやんでいた

「づっ……」

ガレキの中から痛む体を引きずり出すと、
ギンガ・ナカジマは力なく座り込んで大きく息を吐いた

キャスターとの交戦中に乱入してきた黒い影―――セイバーの一撃を前に、
誰もがなすすべなく吹き飛んだ

「見世物になる程度には出来がいいようだな」

背筋を凍らせる声にギンガはきしむ体を起こした
何故気づかなかったのか、その男はギンガのすぐ目の前に立ち彼女を見下ろしていた
値踏みするというよりも、ふと見下ろした地面に綺麗な石が落ちていた、
といった趣で、男は無造作にギンガを掴むと強引に引きずり上げ、
これまた無造作に手を離した

「態々我が手を貸してやったのだ、
産まれたばかりの子鹿程度には自分を支えて見せよ」

手荒いが、恐らくほんの気まぐれなのだろう
でなければとっくに死体になっていてもおかしくない
折れそうになる膝を必死に支え、ギンガは改めて男に向き直った

「貴方―――何?」

「下らん問いを繰り返すのが役割か木偶人形
そもそも誰に断って口を開くか?」

グイと顎を掴んでギンガを黙らせると男は海の方へと視線を投げた
視線の先、水平線の彼方に僅か黄色い光が見える

あの方角は―――海上隔離施設?

遠すぎて判然としないが恐らく広範囲に展開されたエアライナーの光だろう
とギンガは当たりをつけた

「あれは貴様の同類か?
よくもってはいるが所詮は雑兵、群れを成したところでセイバーにはかなわん」

薄汚れた雑念に成り下がっているとは言え力だけは有り余っているからな、と
状況が見えているのか、ふんぞり返って男は遠方の出来事に評を下した

「雑念―――?」

ギンガの疑問は男には聞こえなかったらしい、
彼方を望むその表情ははたして―――





#2

上空に縦横に張り巡らされた黄色い光の帯から旋風が落下する

「リボルバァァァ!!」

振り上げた脚にエネルギーが渦を巻く

「スパァイクッ!!

振り下ろされる鉄槌に対し、黒騎士はすくい上げるように剣を振り上げた
激突する脚と剣、一拍の間を置いて発生した衝撃波に二人は大きく跳ね飛ばされた

「ノーヴェ!」

光の帯―――エアライナーの上に転がるように乗り上げたノーヴェにチンクが駆け寄る
当の本人は転がった姿勢のまま無い膝を押さえて舌打ちした

まずいな―――

この負傷では近接格闘戦タイプであるノーヴェを戦力としてカウントすることは出来ない
かと言って彼女を戦場から離脱させるということは自分達が足場を失うということである

「キャロ、ノーヴェをフリードに」

「はい!」

安全圏とは言いがたいが自力で動けない以上これが善後策といったところだ
白銀の飛竜の背にノーヴェを預けるとチンクは黒騎士に向き直った

「さて、どうするか?」

ノーヴェが抜けるとなると前衛はエリオとウェンディの二人だが、
射撃型と格闘型とはいえ前衛がウイングバック二人だけでは心もとない
集団戦におけるウイングバックの役割は前線に踏みとどまって戦うよりも
機動性による撹乱と後衛、中堅の護衛といった遊撃なのである

「相手は見るからにフロントアタッカーなんだが、な!」

ゴウと力の猛る音に別のエアライナーへと飛び移る
振り返ったチンクが見たのは先ほどまで自分の立っていた足場(エアライナー)を
叩き割る剛剣の一撃だった

そのまま落下する相手に向けスティンガーを数発発射する
ISランブルデトネイターにより小型ながら驚異的な威力の爆弾と化した短剣はしかし、
着地する為に姿勢を正そうと黒騎士が放った魔力に巻き込まれ
唯の一つも掠めることなく盛大な花火と化した

「奇襲ならばいざ知らず、
最初から弾けると分かっているのなら対処のしようなどいくらでもある」

他に芸は無いのかと言いたげであるが
地上であればいざ知らず、このような海上では手ごろな金属など無い以上、
チンクに出来ることは頭を使うことぐらいだった

「やっかいだな」

機動力で言えばエリオやノーヴェのほうが上ではないかと思うのだが、
その他の要素、防御力と攻撃力、そして攻撃範囲が段違いなのである
本人は基本的に剣の間合いで戦うのを身上としているらしく
積極的に広範囲攻撃を行うことは無いが、下手な長射程砲撃などを撃てば
力づくで周辺一帯薙ぎ払って反撃してくる始末である

「ディエチの二の舞は避けねばならんが
かと言ってノーヴェがコレでは……」

戦闘開始早々
フルパワーで撃ったヘヴィバレルごと薙ぎ払われディエチは戦線を離脱していた
かろうじて拾えた通信によればイノーメスカノンこそ大破したが、
本人は一応生きているらしい

とはいえ、その状況で高所に展開したエアライナーごと叩き落され
波に呑まれたとあっては楽観できるはずも無く、
救助に回れないのがもどかしいが、そんな余裕はない

「ウェンディ、弾幕を!」

「ウィッス!」

フライングボードを構えたウェンディが矢継ぎ早にエリアルショットを発射する
とにかく動きを止めなければ、策を練るも何もあったものではない

「小賢しい!」

魔力任せの跳躍で弾幕から抜け出す
いくらかは当たっていたはずだが、鎧には傷一つない
どうやら防御フィールドを抜けなかったらしい

黒騎士の鎧の構造は一般的なバリアジャケットのそれと大筋では変わらない、
とは黒騎士と元を同じくするアルトリアの弁であるが
ここまで堅牢だともはや“聖王の鎧”レベルである

「チンクさん!」

こちらに向かってこようとする黒騎士に対し、スピーアアングリフでエリオが割って入る
前衛としては正しいが、果たして通じるか?

「なるほど、騎士の気構えはあると言うわけか―――」

張り巡らされたエアライナーの一本で向かい合いながら、
エリオに何か感じるものがあったらしく口の端を吊り上げる黒騎士

見た目だけで言うなら体格的にはほぼ同等、
武器の差でリーチはエリオがやや有利の状況である

「エリオ、無茶すんなよ!」

フリードの背中に居るノーヴェから声がかかる
割って入った結果、ウェンディやチンクの射線を塞いでしまう形になっているのを
危惧してのものだろう

エリオとて身の程は承知している、正直に言ってシグナムを真正面から打ち破る相手に
単騎で特攻するほど間抜けではない

それでも数度に渡り立ち回り、
今この場にいる中でもはや唯一であるクロスレンジ担当としての役割を全うする

「良い槍捌きだ、だが―――まだ甘い!」

鍔迫り合いの最中不意に黒騎士の足が跳ね上がり
受け止めたストラーダの柄ごとへし折らんとするかのように跳ね上げた足が突き出される
飛びのいて衝撃を逃がしながら、エリオは相手の反則じみた魔力に改めて歯噛みした

武装型のはずなのにあんないいかげんな蹴りの威力がスバルさん以上なんて……

蹴りの一撃でひしゃげたストラーダの柄に目を落として歯噛みする
はたして、仮に相手が無手であったとして、自分は勝てるだろうか?
土台無理な話な気がしてきた
今のこの場にいる全員が総がかりでも恐らく一撃入れるのも厳しいのではないか?

「万策尽きた訳でもあるまい、
騎士ならば己が剣にかけてあがいてみせよ」

剣を向けてのその言葉にエリオは知らぬ間に口の端を吊り上げていた
どうしようもない状況下、乗れば負ける勝負でありながら、
その一言はエリオにとって乗らずにおれないものであった

これほどの暴君に成り果ててなお、その心の奥底においてこの人はまだ騎士なのだ
ならば、ここで退くような騎士道は少年には存在しない

聖王医療院でエリオは幾度かランサーと話す機会を得た
なのはやフェイト達とは違う、恐らくはシグナム達とも違うであろうその生き方、
考え方に思うところがあったというのもある
年頃の少年らしく英雄譚に憧れたというのもある

だが少年の関心を最も引いたのは男の生き様だった

決して約束を違えず、最後まで友の名誉の為に生きた英雄
その生涯は華々しい栄誉と、そしてそれ以上の悲劇に彩られていた

あるとき少年は問うた
なぜ“そうなる運命”を明示された日に一人前と認められようとしたのかと

男の答えはシンプルだった

「たいしたこたぁねえよ、単に今日がそうなのかって思っただけさ」

その先にある栄光も破滅も理由にならない

“今日この日に武者立ちの儀を受けたものには最高の栄誉と破滅が与えられる”

そんな重大な話をたったそれだけの理由で決められるものだろうか

「ま、深く考えんなって、
―――女を泣かせるような男にロクなのは居ねえからな」

笑い話でもする様に男は話を締めくくった
その背中に少年が何を感じたのかは、今はまだ少年自身も知る由もない

だけどきっと、これは騎士として間違ってない

「キャロ!!」

「エリオ君!!」

柄を修復し突撃姿勢に構えながら叫ぶ
退けないと示す少年に対し、上空で事の成り行きを見守っていた少女は
引きつった声を上げるしかなかった

「やらせてやれ」

静かに、キャロの背中を押す声が上がった
事実上戦線を離脱し、フリードの背で傍観者と化していたノーヴェである

「でも……」

振り返り同乗者を見る少女の顔は歪んでいる
理由は分かる、ノーヴェにとっても少年は友人であり、
ある種の“生まれ”という意味では身内ですらある

それでも―――

「やらせてやれ、でないと死ぬぞ?」

一人で突っかかる方が危険なのだ、
だからこそのお前の力ではないのかと、ノーヴェは言うのだ
それは残酷な現実だった

「我が乞うは、清銀の剣 若き槍騎士の刃に祝福の光を」

迷った末に閉じられた瞳が大きく見開かれ、右手の宝珠に光が灯る

「猛きその身に、力を与える祈りの光を」

左の宝珠にも同様に光が灯る、両の手のブーストデバイス・ケリュケイオンに掲げるのは、
必勝の宣託か、それとも死に逝く者への手向けか

“Stahlmesser”

身構えた穂先に桃色の刃が宿る、
引き絞るように腰を落として身構えるエリオにセイバーは口の端を吊り上げた

「馬抜きのジョストか、よかろう受けてたつ!」

刺突の構えで向かい合い全身に魔力をほとばしらせる
時が止まったかのような静寂に誰もが息を呑む

「一閃……必中」

膝が沈む

「メッサぁぁぁ・アングリフ!」

咆哮するストラーダの噴射口、乾坤一擲の気魄を持ってエリオは地を蹴った