「だ、誰や?」
「きたな!はやては隠れてろ!何もみるな!来いよ殺人鬼、狙いは俺なんだろ」

士郎は手近の交換するために放置していた蛍光灯を掴み天井の声を庭へ誘った。

「ま、そうなんだけどな。同じ人間を1日に二度も殺すのは気分がわりい。さくっと死ねよ」

天井から勢いよく飛び降りると全身青ずくめの男は士郎と対峙しゆっくりと庭へ向かっていった。

「ああ、そうだ、そこの嬢ちゃんはさっさと呼んどけよ?」

男は士郎の後ろで狼狽えているはやてにそう言い捨てていった。

「さぁどこからでも来い!」
「本気で言ってるのか?この広い場所じゃお前が勝てる見込みはこれっぽっちもねぇぞ」

男は半身になってその得物を肩に乗せ好戦的な瞳で士郎を面白そうに値踏みした。
無言のまま棒状の武器を構え男を見据える士郎に男は得心したのかたのか

「死にな」

そう宣告した。
俊足と全身バネのようなしなやかな筋肉から繰り出される突撃。
士郎はそれをかろうじで知覚し己が武器で受けた。

「あがっ!?」

しかしそのあまりの衝撃に士郎の体は後方へ大きく吹き飛ばされる。
そして体勢を立て直す暇を与えず繰り出される
二撃、三撃、構えはとるも強化した蛍光灯を破壊してそれは目標を切り裂いた。
二撃目は右肩を抉り三撃目は左わき腹を裂き契る。
そして四撃目がほとんど無防備になった鳩尾に決まる―と思われたが

「ぎ、がぁぁ!」

折れた蛍光灯を無理やり赤い槍に叩きつけ直撃を避けた。

「へぇー意外と骨があるじゃねぇか気に入ったぜ坊主。今度こそしっかり殺してやるよ」

最後の四撃目で倉へ吹き飛んでいった獲物にランサーは賞賛を送ると足を倉へと進めた。

軒から降り懸命にランサーに追いすがる声にランサーはため息をつく。

「あんま賢くねぇな、嬢ちゃん。坊主は見るな、隠れてろと言ったはずだぜ。
その性格は嫌いじゃないがこの場合嬢ちゃんは死ぬことになるな」
「士郎は死なさへん!絶対や! 」

足取りを正し、ランサーに正対する。強い意志を持った言葉が響くと
少女の着る穂群原の制服が揺れその周囲に四つの魔法陣が浮かび上がり
四人の男女がその場に姿を現した。そして告げる

「我ら、ヴォルケンリッターは主の盾にして矛」
「主の願いは我らが願い」
「主の命に従い主が敵、汝を打ち滅ぼさん」
「青タイツ野郎覚悟しやがれ!はやての倉が壊れちまったじゃねぇか!」

赤い幼女が叫ぶと他の三人も散会しランサーを囲んだ。

「へっ待ってたぜおまえ等サーヴァントもどきをよ。
てっきりそこの嬢ちゃんらを見捨てて逃げたのかと思ったが」
「フン、それだけの口を開いたならば覚悟はできてるんだろうな。
我が名はシグナムそして我が刃がレーヴァティン!いくぞ!」

シグナムが上空から切りかかるとランサーも大地を踏み轟かし高く飛んだ。
両者がぶつかると大地は鳴動する。
ランサーは士郎の時とは桁違いの突きを繰り出しシグナムもまたそれを捌いてく。

「ハッやるな!」
「フンッ」
「後ろが空いているぞ!」

シグナムと切りあうランサーの背後から青い獣人か迫る。

「甘いぜ」

シグナムの剣を槍でぶつけ、ランサーはその反動で地へ降りる。
そこに高速で突貫してくる赤
「手強いな。三人が前衛一人が後衛ってわけか。
ま、命じられたことは偵察だしそろそろお暇させてもらうぜ。
とはいえ言った手前坊主くらいは殺っとくか」

いうやランサーの赤い槍は赤くまがまがしさを増し魔力も爆発的に膨張した。

「まずい、シャマル防壁を展開しろ!」

ランサーの狙いに気づいたシグナムがシャマルに警告を発した。

「くらいな…ゲイ・ボルグ!!」

強力無比な概念を備えたその魔槍は投擲されるや
士郎が倒れている倉へ一直線に飛ぶ。

「シャマル!」
「わ、わかりました。お願い、クラールヴィント!」

シグナムの叫びと念話にはやて、シャマルが反応し
はやて、シャマル、士郎の三人の周囲を緑色の魔法陣が包む。

直後赤い衝撃が防壁とかち合った。

「ああ、お…重いっ! 」

士郎が目を覚ますと目の前には士郎の手を握り前を凝視するはやてと
料理は任せなれないが虎とは違った優しさを持つ
姉のような女性の背中が見えた。
彼女のさらに前には凶悪な何かが自分を標的として
貫きたがっているように感じられた。
その凶悪は緑の壁が抑えていたが
赤き魔槍は勢い殺しがたい力と何かを持ってじりじりと
迫り障壁に亀裂を入れはじめた。

「…はやてちゃん、士郎君、ごめんなさい…私の力じゃ…」

シャマルの慚愧の呟きと共に緑の壁は倉を崩すほどの衝撃を伴って崩壊した。

「はやて!」「主!?」「はやてー!」
「さて、死体を確認するか」

崩壊した倉を前に動揺する三人とは裏腹にランサーは悠然と倉へと跳んだ。

そこでランサーは違和感を覚える。自慢の槍が対象を貫いた実感が感じられない。
そう、まるで未だに何かとぶつかりあっているように――

「はあああああ!」

裂帛の気合いが倉の中から弾けるとゲイボルグ
が跳ね返されるように彼の手元に戻ってきた。
槍の帰る先へ狙い澄ましたように一個の光が突進する。

「な!?」

これには流石のランサーも反応が遅れる。
見えない一撃が薙払われランサーの左腕を裂いた。
視覚無視な連撃が手負いの体を切り刻もうと殺到する。
ランサーの戦士としての本能はこの状況において即座にその場からの離脱を命じた。
離脱を図るランサーに新手の物体も追いすがるが最速の男には追いつかない。

「ちっ新手か…どこに隠れてやがった。それとも今、呼んだのか?
この人数差は燃えるとこだが雇い主の意向には逆らえないんでな。
引かせてもらうぜ」

不敵な笑みを浮かべたまま槍兵は跳躍し今度こそ夜の闇の中に消えた。

倉の中から弾丸のように飛び出てきた物体―――
青き衣と白銀の甲冑に身を包んだ金髪の少女はランサーの去った方にしばらく視線を向けていたが、
ゆっくりとシグナムら三人のヴォルケンリッターに向き直った。

「問おう貴様達はマスターの敵か?」

幼さの残る外見とは裏腹にそれは澄んだ静かな声色。

「あ、あー?いきなり出てきてお前こそなんなんだよ!
はやて達はどうなってんだよ!答えやがれ!」
「どうするシグナム?」
「…問に答えることがはやてたちの無事の確認につながるだろう。
…我らは倉の中にいた者達の守護者だ。
お前が彼らと敵対するものでないなら我らもお前の敵ではない」

シグナムの言葉に少女は静かに頷いた。

「ではこちらから問うが中の三人ば無事か?」
「シグナムーヴィーターザフィーラーみんな無事かー?」

少女が答えるよりはやく埃まみれになりながら
はやて達が倉からから這い出てきた。


シャマルの障壁が破られたあと士郎はじめ三人は死が間近なのを感じた。
しかし暗い倉の中士郎は諦めることなく拳を握りしめ魔槍に向かって叫んだ。
爆風と怒声が交錯する倉内で士郎の足元に魔法陣が輝くのをはやては見た。
それははやてが五年前12歳の時に初めて見たそれとは違っていたが
魔法陣の輝きは壮厳にして神秘そのものでありまた暖いとさえ感じられた。
それは自分たちを守るものに他ならない
。光が溢れ収束すると一人の騎士が現れ魔槍に立ち向かっていった。


「サーヴァント・セイバー?それがお前の名前なのか?」

士郎は少女に確認するように尋ねた。

「そう思ってもらって構いません」
「なんか信用できねーぜってー本名じゃねーだろそれ。
自分の名前も言えねぇ奴なんて信用できねーって
聞いてるだけじゃなくてはやてもなんとか言ってやれよー」
「ヴィータの言うことにも一理あるんやけどまぁそこはあれや
セイバーさんにも都合があるんやろうし」

やんわり諭されると幼女は凹んだ。

「うう~」
「主はやてがそういうなら私は異存はない」
「私もだ」
「私なんて助けられてますからね」

そして一同の視線は自然と士郎に集まった。

「士郎はどう思とるん?」
「命を助けられてるし信じるさ。けど聖杯戦争、
これがわからない。聖杯戦争って何さ?」
「聖杯戦争とは…」

少女が語ったのはあらゆる願いを叶える聖杯が60年ごとに英霊と呼ばれる存在と現れ
7体の内6体が消滅することにより聖杯は完成する。
そして最後の1人となり完成した聖杯を手に入れるのが望みだという。

「じゃあそれを使えばはやての足も治るんだ!」

膝を叩くいて歓声を揚げたのはヴィータ。

「何ゆってん。私の足はもう悪ないよ」

はははと笑うはやてとは裏腹にヴォルケンリッターと士郎の表情は暗い。

「マスター答えて欲しい。あなたは私のマスターとなって戦い、
聖杯を勝ち取るつもりがあるのかどうか」

陰鬱な空気に捕らわれない凛とした声はまっすぐに士郎を捉えた。

「少し考えさせてくれ…」

士郎は立ち上がると倉に足を向けた。そこには倒壊した彼の修行場があった。
じっとそれを見据えていると後ろから気配がした。

「ザフィーラ…」
「不安か?士郎」
「ああ、こんな連中相手にはやて達を守りきれるか正直悩む」
「だがさっきの話本当なら目指す価値があるだろう。今この地には確かに魔力があふれているようだ」

士郎はゆっくりと振り向いた。

「はやての足のことだよな?」
「主の麻痺は士郎のおかげで確かに治癒に向かった。しかし闇の書は主から吸収する魔力の量をいつからか…」
「増加させた…か」
「シグナム…」

ザフィーラの後ろから沈痛な表情のシグナムが呟いた。

「ここ数ヶ月ではやての足が急激に悪化し始めたのは私含め皆理解している。
もちろんはやてもだろう。はやての足については士郎に任せはやてとの誓いもあって我らは
闇の書の完成も目指しはしなかった。しかし聖杯と書の完成
今となっては両方進めるつもりでいる。
聖杯の方は士郎、お前の決心が必要だ」

「俺はお前たちが現れる前、爺と約束した正義の味方になるって
そして最初に頼まれたのははやてのことだ。だからはやては絶対に俺が守る。
その為に聖杯が必要なら勝ち取る。
けど書を完成させることは俺は認めない」

「一般人を襲うようなことはしない。あの青男のような奴が7人もいるのだ。
それだけでも書は完成するだろう」
「それなら…わかった」
「…では我らはあの娘と協力し聖杯を目指す一方書の完成も目指すでよいのだな?」

ザフィーラの言葉に士郎、シグナムは頷く。

「…それにしても士郎、怠けていたのか?あの男に随分とやられたようだな。
また私が1から鍛えてやらないといけないか…」

今までと一転しシグナムは嗜虐的な笑みを浮かべると
士郎をみつめた。

「お、おう」

士郎も一瞬の躊躇ののち勢いよく答える。

2人のやり取りにザフィーラは平穏の貴重さを感じとっていた。
平穏は手にしたいしかし闇の書が許さない。
けれど我らこそが闇の書…


「はやてぇーどこ行く気だよー?もう夜中じゃんか」
「話長なりそやし、ちょうど切れてたのみもん買いにコンビニまでや。
はは、怖かったら帰ってええよ。まだ私1人で歩けるから」
「…はやてのそばにいる」
「そか、ありがとな…」

夜月に照らされてゆるゆる坂を登る2人。
互いに今だからできるそして今しかできないかもしれない
ささやかな現実を噛み締めるような歩調。

…時に残酷か巨大な大男が突如2人の前に立ちふさがる。
狂気の具現のようその気配にヴィータは震えた。
見るまでもなく肌で理解した。
これは異常だ異常過ぎる、と

「はやて!頼む逃げてくれ!」

ヴィータは必死に叫んだ。が巨人の足元からの声はそれを許さなくした。

「始めましてだねお姉ちゃん」


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最終更新:2008年05月10日 12:27