虚空より来たりて――――巨大な塔の如く大地に突き立った紫電。

身の毛もよだつ轟音を響かせて天より飛来する、あまりにも雄大な幾億ボルトの稲妻は
戦闘状態にあったサーヴァント2体を物のついでのようにあっさりと飲み込んだ。

巻き上がる粉塵、震える大地、大気を走る無数のプラズマ。
濛々と立ち込める熱気と爆炎の残滓の中で、落雷地点の平野には歪で巨大なクレーターが生成されていた。
ミサイルでも打ち込まれたような凄まじい威力を思わせるそれは、半径50mほどを一瞬で灰燼と化した暴威の雷による所業に他ならない。
その場にいた者の命運など―――もはや語るまでも無いだろう。


「―――――、」


―――――――――と、そう思われた矢先…………

必須の滅びを思わせるクレーターの中央にて佇む影が一つ―――


「―――――、」


纏う鎧はその王気を象徴するかのように潸然と輝いていた。

腕を組んだ不遜な様相もまるで変わらなかった。

自身が定めた不倒不滅の理は、この大破壊の中にあっても折れず朽ちず。

顔を庇うように添えていた手を払い、何事もなかったように―――


英雄王ギルガメッシュが佇む。


「―――――――、……!」

だが、突如、バキンッッッ!!と、甲高い音が場に響く。

彼は、彼だけは敵の脅威などという瑣末な事象に微塵も揺るぐ事のない英霊だ。
だから今―――その場に傅き、苦悶の表情を作る彼の様相は天すらも予想しえぬ事態。

そして男の体を覆っていた不抜の護り。
上半身のアーマーや無数の盾がばらばらと足元に落ちる様を、どうして信じられようか?
それぞれが名だたる宝具として銘を遺した一品だ。 それらが役目を終えたかのように地に堕ち果てる。
焦げ付いた異臭を放つそれらからは、もはや些細な力すら感じ取れない。

「王の……鎧にィ―――!!!」

全身から被雷の黒煙をあげながら、それ以上に滾り怒り狂う王。
各々の役目を必死に果たし、場に粉と散る装具に労いの意をかける暇もなく天を仰ぐ。
高町なのはの砲撃すら凌いだ神代のアーティファクトの数々を、あの稲妻は一撃にて貫いたのだ。


   間違いない――――

   敵……彼をして「敵」と呼ばしめる存在が――――来る!


不敬にも我を高みから見下す無礼者を決して許さじと断ずる灼眼の双眸。
その視線の先に今……

――― 大小様々の多数のゲートが開く! ―――

虚空より穿たれた多数の門から、まずは無骨な腕が……次いで堅牢な胴体が次々と這い出て来る!

ギチギチと金属を擦らせる音を場に響かせて―――刺客の放った王の討伐部隊が姿を現したのだ。
やがて門より完全に姿を現したる無数の軍勢。 地を踏みしめるモノもいる。 空を駆けるモノもいる。 
その手に敵を屠殺する凶器を称えた、彼らに共通するモノ―――それはおおよそ人の意思の通わぬ事を想像させる無機質さ。

場は、金が1分に雑色が9割9分。
サーヴァントの眼前を埋め尽くす、無骨な四肢を称えて出揃う大小無数の傀儡兵。
これこそ、このフィールドにて偉大なる王を討滅するべく遣わされた殺人機兵団 <マーダーオートメイル>。

―――――準備はこれにて整った。

彼を護る堅固な鎧は剥がれ、外界に晒す柔肌はもう人のそれと変わらない。
晒した肉体に槍の一本でも突き入れれば例えサーヴァントとて滅びは免れまい。

サーヴァントにとっては、期せずして訪れた絶体絶命の窮地―――


「我に対して―――――戦を挑むと?」


其を前にして…………しかし暴君は―――
かの者共の愚かさを笑わずにはいられなかった。


目の前の無数の門に相対するかのように、ギルガメッシュの後方にも多数のゲートが現れる。 
色は赤一色。 もはやその威容、語る必要も無し。

王の財宝――――ゲートオブバビロン

アーチャーとの激闘で相当数の消費をしているにも関わらず、其の宝具の貯蔵は未だ十全に過ぎた。 

「雑種を屠るにはこの十分の一でも事足りるであろう……だが喜べ。
 王の体に傷をつけた罪―――文字通りの万死を以って償わせてやろう!」

ギルガメッシュと謎の敵との開戦はこうして静かに、ただ無造作に―――


鋼鉄の歩兵の一体目と宝具が衝突した炸裂音を鬨の声として―――

開始の火蓋が切られたのである。


――――――

??? ―――

「分かった……健闘を祈る。 キミの手腕に期待しているよ……フフフ」

先方との通信を終えて――――――
ジェイルスカリエッティは黒衣の神父の待つソファの対面へと戻ってきていた。

「いよいよ彼女がキングの駒と交戦を開始するようだ」

「そうか」

「どうかね? あらためて彼女を見た感想は?」

白衣の男の探るような視線。
それはこの異郷の友人の目に「彼女」がどう映ったか――興味津々といった風体であった。

「見たところ壊れてはいるが―――先天的では無いな。
 さして珍しいモノには見えん。 少なくとも、お前や私の如き汚泥とは比べるべくもない」

「確かに……彼女は元はそこいらにいる凡百の存在に過ぎなかった。
 だが、とある出来事を境に彼女は別のモノへと変容する。
 感情のふり幅を大きく超える事によって、元の素養など見る影も無い傑物へと進化を遂げたのだよ」

それこそが「揺らぎ」を命題とする、この科学者が考える、ヒトのヒトたる所以。 
感情の、生命の揺らぎこそ深遠たる謎にして、其より生まれ出ずるモノこそ男の永遠の研究対象である。

「それはそうと―――勿体つけずに話したらどうだ?」

綺礼が博士に促した事は言うまでもない。
件の話題に出ていた女とギルガメッシュを当てると言ったスカリエッティの意図である。

ミッドチルダ世界のトップクラス魔導士ですら歯が立たなかった存在を、彼は屠ると豪語した。 揺ぎ無き自身と共に。
その根拠―――サーヴァントに、或いは英雄王そのものに対し圧倒的優位に立てる何かを、あの女は有しているという事だろうか?
例えばアーチャーの「無限の剣製」のようなものを。

「気になるかね? キミの元サーヴァントの末路がそんなにも?」

「気にして欲しいのだろうが。 相手の聞いて欲しい事を予め引き出してやるのも優れた聞き手の役割というものだ」

「弁えたものだねぇ。 ならば教えよう! 彼女が無敵の英雄王に対し、絶対的優位に立てる要素は………」

大仰に手を広げ、相手の反応を楽しむスカリエッティ。
神父の顔を覗き込み、ニタァ、と粘つくような笑みを灯し………そして―――――


「無い」


一言―――――静まり返る応接室………


「…………」


――――――言峰綺礼の発した溜息だけが、ただっ広い応接室の空気を空しく震わせた。


――――――

――――――

(アーチャーは――――?)

先の先まで楯突いてきたサーヴァントの所在が掴めない。
あの一撃で討ち果たされたか、無様に逃げ延びたか―――

「ふん……どちらでも構わぬ。 あれしきで野垂れ死んだならそれまでよ。
 わざわざ我が手を下すまでも無かったという事だ」

多少は気になったにせよ、今の彼には些細な事だった。
先程より始まった、冬木の地では望むべくも無い大規模かつ広範囲に渡る戦闘行為。
それは紛う事なき 「戦争」 と呼ばれる人類最悪の殺し合いに他ならず
開かれた戦端は、蹂躙・征服者としての男の側面を存分に刺激して余りあるものだった。

「我が玉座の対面に立とうなどと思い上がった愚か者が!
 身の程を知るが良い! 雑種どもッ!!!」

開始数秒の邂逅で、敵の先陣を薙ぐように発したゲートオブバビロン。
目の前に展開された数10機を見事、打ち落とした王が吼え滾る。

彼の意思のままに、まるで豪雨のように降り注ぎ、噴水のように打ち上げられ、あらゆる角度から飛来する刃、刃、刃!
ターゲットであるサーヴァントの頭上を取って有利な位置にいる筈の大軍勢であったが
それはこの英霊を相手にしての思惟の無意味さを痛感させられるのみ。

ポジションなど何の意味も為さない。 
各々、思考の術は持たずともA~AAランクのスペックを持つ兵たち。 
それが塵芥のように砕かれる光景は、豪放にしてどこか現実から乖離したものだった。
まるで勇壮な壁画にて綴られた一風景のように――――王は伝説の力を場に描き示す。

無数の宝具、その一つ一つが地を割り、空を裂き、神魔を討ち果たし、一国に名を遺した一品の原典と言うべきものだ。
それらが惜しむ事なく弾奏に篭められ、一発一発の弾丸として戦場に降り注ぐ。
最強の魔弾の射手―――アーチャーとして冬木の地に顕現した人類最古の魔人。
彼の紡ぎ出す宝具斉射の威容は破りようの無い無双の宝具。
数多の英霊を含めて、未だかつて誰も踏破した事のない無敵の弾幕である。

「そら、せいぜい足掻けよ! お次はこれだ!」

二の足を踏めない鉄機達を嘲笑いながら、王の手に握られたのは怪しげに霞がかった陽炎の鎌―――? 
間髪入れずに其を振るわば、柄の先が虚空に溶けて消え、間合いを無視して翻る。
そしてその凶刃は遥か後方に位置する狙撃兵を真っ二つにした。

お次は重力を変動させる大槌だ。
巨大な漆黒の断面が大気を叩くと、羽持つ急襲兵が為す術も無く落ちて砕け散った。
王の喉に剣を突き立てる大命を果たす事なく、ひしゃげるボディ。 
それはまるで神の手によって落とされたリンゴの実のように呆気なく無情。

生半可な質量の弾では宝具の弾丸に拮抗出来ず、射撃兵は悉く打ち負ける。
突撃兵は歩を進める事すら許されない。 
重厚な鎧と耐久力を持つ装甲騎兵は10の宝具をその身に受けて原型を留めず微塵にされた。

「久方ぶりに我自らが矛を取ったというのに――――これでは余興にもならぬぞ!
 ゼンマイ仕掛けのブリキの木こりの方が、まだ物の機微を弁えているというものだ!」

地に根を張る黄金の具足。 その足元にゴロゴロと無残に転がり落ちる、心無き兵の頭部。
それをグシャリ!と無造作に踏み潰し、王は敵の不甲斐なさを嘲り笑う。
屍の上に屍を重ね、残骸の山を築き、それが常の光景だと断じて憚らぬ傲岸不遜―――
これがもし命ある軍勢だったらと思うとゾッとする。
垂れ落ちた潤滑油は血潮、せり出したモーターは臓器、メタリックな骨格は白骨……
この世の地獄のような光景が展開されていたであろう。

そう、軍を以って英雄王と相対するほど愚かな事はないのだ。
どれほどの軍勢を揃えようと、かの王に対して質、量で優位を握る事など叶わないのだから。
無尽蔵に蓄えられた財宝こそ彼の軍―――その総量は現存するあらゆる軍の威容を凌ぐ。
王の目利きに叶った宝具の数々こそ死をも恐れぬ彼の精兵―――その質は錬兵された騎士を一蹴して余りある。

故に機動兵達がなす術もなく打ち落とされていくのも道理。
巨大な砲撃兵がハリネズミのようにされて、朽ち果てるのも道理。

全ては――――当然の成り行きである。

「ハハハハハハ! ハ、ハハハハハハハハッ!!!!」

暴君の狂笑が場を振わせる。 

もはや馳せ参じた軍の群れは彼の強大さを彩る装飾でしかなく――――


――――――――――悪夢のような光景が果て度も無く、続く…………


――――――

??? ―――

「どうしたのかね綺礼? 質問が止まってしまったが、まさか拗ねてしまったのかい?」

「拗ねるも何も、貴様が無いと言うのなら無いのだろう。
 私としても、別にあの女がくびり殺されようが興味はない」

「まあ待ち給え。 少し問答をしようじゃないか」

くるくると場にステップを刻みながら、神父の正面に座り直す白衣の男。
いつもよりも幾分、高揚しているようだ。
それは、この一戦に想い馳せるスカリエッティの心情を如実に感じさせる。

「私なりに今までの魔導士とサーヴァントの戦いを見て、考察を続けていたのだよ。
 此度の戦いはその重要なターニングポイントとなる。
 そこで綺礼、質問がある。 英霊というのは第97管理外世界における最強無比の戦力と見て相違ないのかね?」

「語弊があるな―――星の息吹が紡ぎ出す守護者に分類される護り手としては、最上位の存在ではある」

「ふむ、そこの所は今一つ理解が及ばぬが……質問を変えよう。
 ならば、あの星の人間の現行兵器と比べてはどうか? 人間の持つ戦力は英霊に到底、太刀打ち出来ないものなのかね?」

スカリエッティが独自に調査したところ、闘争に限って言えばあの星の技術、向上心は見るものがある。
ことに質量兵器のカテゴリーにおいては管理局も無視できないレベルまで、あと一歩だろう。
地球人がもし星の海へ進出するとなれば―――ミッドチルダも彼らを非管理対象として無視出来なくなると推測される。

「私の見る限り、少なくとも性能面では彼らの戦力が英霊に大きく劣っているようには見えない」

確かに一撃で家屋を吹き飛ばし、音を超えて駆け、千軍を薙ぎ払う英霊は恐るべき戦力だ。
だが性能だけを取ってみれば、もはや人の手でそれを再現出来ないわけではない。
世に出ている近代兵器は人間を一瞬で血煙と化し、既に音速の翼を持つに至り、空爆は瞬く間に都市を焼き払う。
戦車の装甲は鋼鉄の弾丸を弾き返し、対物ライフルはその戦車を一撃で貫き、熟練した狙撃兵の最大射程距離は2㎞を超える。
そして大陸すらも一瞬で蒸発させる滅びの火をヒトは持つに至った。 
その総戦力は決して――――英霊達に見劣りするものではないのだ。

「意外とサーヴァントなどより、あの星の軍隊を招聘した方が強いかも知れない。
 なのに何故、遊戯盤は彼らを星の最強戦力として迎えたのだろうね?」

「愚問だな。 英霊の強さは性能面に寄るものにあらず。
 例え火力で勝ろうと、それだけでサーヴァントは貫けん」

「それだ! 彼らは決して圧倒的なスペックを有しているのではない……そこまで不抜の戦力では無いのだ。
 ましてや地球の技術力を遥かに超えるミッドチルダ管理局が派遣した魔導士達が相手となれば
 一惑星の土着の英雄などに遅れを取る筈がないのだよ!」

そう……だが一回戦から二回戦の頭を見るに、最強を誇る管理局武装隊はサーヴァントに圧倒された。
スペックで勝る筈の彼らが、まるで不可解な壁に当たって膝を折るかのように敗走した有様は
英霊の強大さを演出するに余りあるものだった―――そう、本来のスペック差以上に。

「既存の兵器では神秘を犯せない………英霊はヒトに打破されるようなモノではない……
 キミは初めにそう言ったね? ならば神秘を犯すとは? 神を殺すとは何か?」

どんなに優れた兵器を持ったとしても人は英霊には勝てない。
それは謂わば、ヒトに対する絶対的優位性の保持に他ならず、「人よりも優れている」という概念の力が英霊には働いているのではないか?

他ならぬ、人間の最強を具現化した存在だからこそ――
人が強いと思い描く幻想が形となった存在だからこそ――

英霊はヒトよりも強い。 ヒトがそう決めてしまったから―――


「ところで言峰神父…………神は、いると思うかね?」

「さてな」

「キミの立場上、そこは即答する所ではないのかい?」

「お前がどのような神を指して言っているのか不明だったのでな」

人が都合よく作り出した創作物であるところの神など男の与り知るものではない。
そも、世界の管理者である絶対の存在を、余人如きが知覚出来る筈が無いと彼は考える。
そのかざはしに手をかけられる人間など、もはやニンゲンを辞めた存在以外に無いだろう。

「フハハ! 聖職者なのか無神論者なのか分からない発言だねぇ! 
 私はね、綺礼……神とは人の心に住まうものだと思っているのだよ。
 あくまで仮説に過ぎないが、定款と啓畏の入り混じった、神や魔に対する人の持つ原初の感情…… 
 それは人が設計される段階にて生じる、生まれながらに持つ回路ではないだろうか?」

神や、魔に裁かれる――人知を超えたモノを前にした人間の抱く恐怖。
それは銃口を向けられた時の死の恐怖などとはある種、一線を隔すものだ。
死や滅びに際し、頭を垂れて祈り、赦しを乞わずにはいられないあの感覚は、単純な言葉で言い表せるものではない。

その人の肥大した感情、思考が、神をより雄大に形成していく。
そして人は神を、魔を、超えられないと断じ、自ら膝を折り、己を律する。

「それこそが人に対して英霊が不抜としている要素だと私は仮定した。
 人は、神や魔を前にした時、知らず己にリミッターがかかってしまう。
 人間が己の身を踏み外さぬように、己の身分を越えないように」

決して超えられない存在を自らの深奥に住まわせる。
言うなれば人という種がその身に生じさせているリミッターとでも言うべきか……
ならばどれほどの装備に身を包もうと、人が英霊に勝てないのは当然の摂理だ。

「なるほど……フラスコ越しに世界を覗く人種の言いそうな事だ」

神父は頷く。 彼の考察は現代において、人間が神という存在を定義づけるのに最もポピュラーで合理的な切り口の一つ。
神が人を作ったのではなく、人が神を――という、究極の無神論である。

神代から古代、中世、近代と時を経て、人間の心に浸透していったその理論。
不確かなモノを確か足らしめてきたそれは、進化の歩みを止めなかった人間の力の源であり、魔的な物を切開するメスだ。
故にその力に神秘が宿る事はもはや無い。 

無いが……その力の基盤となっている思想―――


――― 神、何するものぞ ―――


その徹底した不信神もまた、神秘と相対するカタチで成り立つ強大な概念なのだ。


「合点がいった。 貴様らの魔法とやらは、つまりはそういう事か」

ならば、そんな強烈な人の意思……否、ニンゲンの毒を浴びながらに生み出された力が
神秘を覆す事になったとしても不思議ではない。 英霊をも弄ぶ、この遊戯盤の存在にも合点がいく。

優れた科学は魔法と変わらないとはよく言ったものだ。
地球の科学力がまだ未熟で幼いが故に、その土壌において人の与り知らぬモノが芽吹き続けられる理―――
だが地球よりも果て無き先を行くミッドチルダのそれは文字通り、神魔にまで及ぶ人の魔手。

「不遜極まりない人間の業の行き着く先こそが、神秘を穿つ切り札だっだとは盲点だな。
 なるほど、確たる力の後押しさえあれば、人は神を殺す存在になれるかも知れん」

未だ神聖なるモノに縋り付く未熟な星の住人である言峰綺礼としては
その事実が業腹なのか、人の可能性に祝福を送るべきなのか判断に迷うところであった。

「実際はそう容易い事ではなかったがね。 だから私は初戦で大層、驚かされたものだよ。
 ミッドの技術によって武装された魔導士のあの体たらく……
 この星の出身ですら無い、闇の書の守護騎士ですら、英霊に飲み込まれる始末だ。
 ふむ……………こうなってくると、騎士や魔導士ではダメなのかも知れないと私は思ったのだ」

騎士、魔導士という類では彼らに対してアドバンテージを得られない―――
彼らには明確に信奉する神はいないが、武を目指す者特有の信仰がある。
自身が思い描く理想の武、究極の技。 そういったものを夢想し、彼らは己の肉体を苛め抜いているのだ。

「肉体の鍛錬のみで力を求めるなどという非効率な行為……信仰無くして為せる狂気とは思えないからねぇ。 
 だからこそ、究極の体現である英霊の威容に引きずられ、同じ土俵にまんまと乗せられてしまうわけだ。
 一個の人間、一個の駒としてアレらと相対する事が、そもそもの間違いなのかも知れない」

「随分と色々考え抜いたものだ……まったく科学者という人種は99%の無駄の中から1%の真理を探り当てるというが
 お前を見ていると納得せざるを得んな」

素直に感心する神父だった。 
魔術や神秘に全く触れてこなかった類の異世界の人間が、独力でよくここまでの仮説に行き着いたものだ。
その理論の幾つかは確実に真理のかざはしに切り口を入れているのだから本当に大したものである。
特に人と英霊を結ぶ「<」の考察については興味深かった。
人が英霊に対し、神聖なるモノに対し、「勝てない」という因子を埋め込まれているという理屈は面白い。
とある獣が持つ「霊長類に対する絶対殺害権」と同種の力が英霊にも働いていると、この男は知らず言い放ったのだから。

「そこで綺礼、最後の質問だ。 人の持つリミッター………即ち <神> を踏破し、禁断の域を常に冒してきた人種を何という?」

「…………」

「その科学者さ」

スカリエッティの口元が歪に釣り上がり、双眸が大きく見開かれる。

神殺し―――人と神魔を隔てる壁を次々に撤去してきた人種。
遺伝子に組み込まれた枷を物ともしない、神を恐れず、最も冒涜してきたモノ共の総称こそ「科学者」。

「もう一度いうが、彼女に英霊と相対するだけの魔的な要素は何も無い。
 私はただ、神秘という毒に犯されず、ミッドチルダの技術力、戦力を余さず使いこなせる人材を求めただけさ。 
 そして私の眼鏡に最も適ったのが彼女だった」

神代の時より長い年月を経て増え続けてきた人類が
鉄と火を持って大地を犯し、神を汚し、追いやってきたように―――
どれほどの威容を目にしても、全てを試験管のフラスコの中の出来事と断じ、高みから物事を観測できる者。
幻想の入り込む余地の無い生粋のオカルト殺しとは、神秘を殺しつくす知識の探求者に他ならない。

戦って勝つのではない。 英霊などという現象は、あくまで処理するもの……消し去るモノだ。
化けの皮を剥いでしまえば良い。
「神秘」というベールを剥がれれば、あれは兵器を超えるものでも何でもないのだから。

「故に覚悟しておいてくれよ綺礼……キミのサーヴァントはあっさりと五体を裂かれるかも知れない。
 ピンセットで摘まれる虫けらのように、惨めに、呆気なく」

「……………」

「彼女は生きながらにして、私のいる高みに手をかけた逸材さ。 
 凶器と死の狭間で私の研究の残滓を拾い上げ、一つの奇跡を成し遂げた。
 まあ、その成果は彼女の満足には程遠かったようだが……」

どうやって生き延びてきたのか―――?
その不可能に等しい探求を虚数空間にて延々と、頭の中で巡り巡らせて来たであろう彼女―――

「unknown! unknown!! unknown!!! 久しぶりに脳髄に痺れが走るッッ!
 どのようなモノに変容を遂げているのか……ああ……あの頭を切り開いて存分に観察してみたいッ!」

天を仰いで狂笑に咽ぶ科学者ジェイルスカリエッティ。
こうなってしまったら、暫く会話にならない。
幾度目になるか分からない溜息をつき―――言峰綺礼は今一度、終わり無き血みどろの闘争を求める盤に目をやった。



期せずして、高町なのはが異世界の魔法使いの助言から
英霊という存在の端に手をかけたのと―――

一人の科学者が、盤に降り立ったのは――――それは同日の出来事。


天秤が再び、揺れる。
果たしてどちらに……?


その答えは盤だけが―――


――――――

Emptiness ―――

降臨したその姿を――――まず初めに見た彼が思わず漏らした歓喜の叫び。

それこそ、この狂気の科学者でさえ予想のつかないモノになって現れた「彼女」に対する
男の最大級の賛辞に他ならない。

「ああ、プレシア……キミの頭の中は今、どうなっているのか……」

男の探究心を刺激せずにはいられないほどに―――今の「彼女」は反則だった。

かつて一流の魔導士でありながら、優れた科学者でもあった「彼女」。
幻想の入り込む余地のないほどにロジックを収めた彼女が―――
とある理由から不可能の領域に、不可能と知りつつ、不可能を可能にするために奇跡を求めた。

その果てに非業の死を遂げた筈の彼女が、今わの際に望んだ事――それを与り知る者はいない。

分かっている事は、ミッドの技術・戦力を満遍なく学び担える逸材でありながら
晩年の「彼女」の在り様は、まるで魔術師に近い位置にあったという事。

狂気と絶望の果てに、死の海へと投げ出された彼女の瞳は―――その後、何を映していたのだろうか?


最古の英雄―――神秘の具現を犯すものの名は………
いや、よそう。 もはや「彼女」自身、己が名に微塵の意味すら感じていない。


かつて俗世に生み遺した雛鳥が自身の元に迫ってくる事など露知らず―――

全てを虚へと置いて来た筈の親鳥は再び………届かぬ奇跡を求めて羽ばたいた。


――――――

――――――

「……………むう、」

王の総身に痺れにも似た感覚が走った。
それはすぐに消えてしまったが―――
彼の思考を余さず向けさせるに足る凄まじいモノだった事は確かだ。

「何と卑賤な――――飢えたケダモノですら、もう少し品位というものを心得ているぞ」

どこよりか無遠慮に纏わり付く視線を感じる。
また無礼者どもが覗いているのかと思ったが―――すぐに違うと思い至った。
いつもの奴腹とは明らかに違う、粘り、絡みつくような視線……何と卑しく、直情的に対象を射抜く感情だろう。
舌打ちを漏らすサーヴァントの相貌に、これ以上無いほどの不快感が灯る。

「それにしても――――――飽いてきたわ」

依然、代わり映えのしない破壊の渦の只中に立つ黄金の王。
凄絶の一語に尽きる光景も、数時間と繰り返されれば趣を失うのも無理からぬ事。
無様に四肢を?がれ、地を転がり這う鋼鉄の兵の残骸が、足の踏み場も無いほどに積み上がっている。
既に一刻を過ぎた辺りで、王の狂笑はピタリと止まっていた。

何時まで―――何時までこの茶番を続けるつもりか?

もはやどれほど繰り返そうと王の威容は崩せぬというのに。
相も変らぬ戦の趨勢。 既に討ち果たした傀儡の数は200を超える。
舞台の中央で指揮棒を振るうかのように佇む奏者であったが、彼を中心に滅びの舞いを踊る演者は一向にその数を減らさない。

エルフの森に伝えられし破魔の矢が、弓を要さずに宝庫より打ち出される。
フィールドを抜いて敵陣を真っ二つに切り裂く妖精郷の神器。
だが、せっかくの宝具のお披露目も、その豪壮さに驚き震え、かしづく心すら持たぬ輩が相手では郷が乗らない。
討ち果たされた、その上から次々と沸いて出る傀儡兵はまるで穴倉から這い出る虫の類だ。 
男の口から今一度、舌打ちと共に嫌悪の呻きが漏れる。

「頭数だけか………我と相対するに足るものは―――小賢しい」

ゲート反応は未だ衰えず、次々とフォールドアウトしてくる敵。
このような物をいくら並べ立てようと王にとって脅威にはなり得ない。
蹂躙掃射が始まってより数分間―――形だけは未だ崩れない拮抗に、男も苛立ちを感じていた。

これは千日手の兆候か?
いや、無限の戦力などというものがそう有り得るはずが無い。
やがてどちらかが所持する戦力を吐き尽くし、場に屍を晒す事になるだろう。
王はその点、自身が遅れを取る事など微塵も思ってはいない。
その蔵には古今あらゆる宝具が眠っており、世界を席巻した最古の宝物庫の総量は、そのまま世界中の宝具の総数と同意。
かの蔵こそまさに、星の財産がそのまま眠りし巨大な揺り篭に他ならないのだ。

だが――――だが、問題が一つ………

「どこにいる……我の目に届く範囲にはいないようだが」

王が雑兵に詰まされる事など間違っても有り得ない。
だが、そもそもこれは序盤の配置からしておかしかったのだ。

敵は……片方は――――――


――― そも、盤に詰むべき王将を並べていない…… ―――


――――――

これがゲーム盤であるならば、それは反則などというレベルの話ではない。
片方に勝利条件が伴わないゲームなど、ゲームとして成り立たない。
先ほどから世界を統べからく見通す王の目を以ってしても、敵の位置を掴めない。
これではいかにギルガメッシュとてどうしようもない。

双方、決して詰まされる事のないゲーム―――即ち千日手。

だが、いかに鉄壁を誇ろうと戦場に首を晒していれば万が一、という事がある。
対して自身の位置すら相手に示さぬプレイヤー。
どちらが有利か不利かなど論ずるまでも無いだろう。

彼が揺ぎ無い事を考慮に入れてなお――――このままではいずれ天秤は傾く。

「我を見下し―――頭上より次々とゴミを投げ捨てるかのような振る舞い……
 赦さぬ…………赦す道理が見つからぬ!」

倦怠が再び怒りとなって王の双眸を灯し、天を仰ぐ。 ギリギリと歯を噛み鳴らす男。
もはや彼とて感じずにはいられない。 敵の尽きせぬ不遜を。 
偉大なる王を啓蒙せぬ無礼極まりない悪行を。

その微かに乱れた思考の隙に――――

「―――――、ええいッ」

全身をなますにされながらも、数体の傀儡が王の頭上に辿り着いていた。
第何十陣になるかという敵の攻勢がついに報われた瞬間である。

「……無駄だというのが分からぬか!」

だが、それまでだ。 攻防一体の宝具は揺ぎ無い。
弾幕と共に鉄壁の防壁が王の周囲に張り巡らされる。
常に闊歩蹂躙してきた彼がこのように守りを固めるのは珍しい。 久方ぶりの戦場故、慎重になっているのだろうか?
何にせよ、こうなったギルガメッシュはまさにバビロニアの黄金要塞―――付け入る隙が無い。

手足を、胴を串刺しにされながらも敵を直下に迎えた物言わぬ兵士達。
彼らに許された攻撃は、その手に携える得物をギルガメッシュに向かって1投するのみ。
それだけで、時を置かずに放たれたバビロンの斉射によって彼らは粉微塵と化す。

「―――、ハ」

あまりにも無力に過ぎる相手に、かの非情な王とて哀れみを感じずにはいられない。
放たれた数本の槍、斧、大剣が王の直下に降り注ぐも、あんなものは引いてかわすまでも無い。
瑣末な投擲は、彼にとって流れ弾ほどの脅威も無く、張り巡らされた盾に容易く阻まれて惨めにその役目を終えるのみだ。


……………………、、、そこで王は、一瞬―――弛緩した


――― そして、その時……… ―――


「な、にィッッッ!!!!?」


サーヴァントの、その瞳が盛大に歪み――――

保たれていた均衡があっさりと崩れ落ちる兆候が、場を支配したのである。


――――――

余裕にして優雅さすら感じさせていた英雄王の相貌が、驚愕を称えて歪む。

「貴様っ………アー………チャーッ!!!」

地の底から響くような怨嗟の声を紡いだ英雄王。

その視線の遥か、遥か先にて―――
ギリ、ギリ、と両腕の筋肉を軋ませて弓矢を構える、あの英霊の姿があった!

標的は――――もはや言うまでも無い。


時間の流れが圧縮される―――

秒が分に、刹那が永劫に感じられる―――

近代兵器のライフルを精度、威力で遥かに上回る、弓のサーヴァントの狙撃。
伏して待った好機を不意にするような愚鈍ならば彼は弓兵などとは名乗っていない。

手向けの言葉すら発する事無く、既に中つ事を約束された宝具の矢が今――――

アーチャーの手から放たれたのだ!


――――――

緩やかに、緩やかに、時という名の壁を切り裂いて王の下に飛来する矢。
ゆっくりと、ゆっくりと、引き伸ばされた時間の波を泳ぐように―――

だが引き伸ばされたのはあくまで体感時間のみ。
ギルガメッシュが新たなる宝具を取り出す暇などある筈が無い!

既に展開した防護陣―――堅牢鉄壁なのは言うまでもなかったが
其が元々、別々の宝具を寄り合わせて形成された防壁である以上、継ぎ目は隠しようも無い。
ならば防御と防御の隙間を穿つは弓兵の得意分野。
弓矢の威力の常識を超えた 「壊れた幻想」 ブロークンファンタズムによる一撃が―――

「がァッッッ!!!??」

ギルガメッシュの防壁の隙間を穿ち、数個の盾をまとめて散り散りに吹き飛ばしたのだ!

弓兵とは、敵の鎧と鎧の継ぎ目をすら狙い打つ化け物の総称だ。
そんな針の穴を通す一射を宝具の弓でやられたのだからたまらない!

破壊の飛沫が王の尊顔を犯し、傷つける。
辛うじて踏み止まりはしたが、膨大な魔力を持つ複製された宝具の爆発により爆ぜた上半身はバランスを崩し
展開したバビロニアの城塞防壁が余さず吹き飛ばされ、手甲が粉々になるに留まらず、王の腕の付け根が抉り取られる!

苦痛よりも勝る憤怒に顔を歪ませる英雄王。 
この世で最も尊い肉体の流血―――認められる筈が無い。
怒声はくぐもって声にならず、横槍を入れた贋作を憎しげに睨みつける。

その視線の先……弓兵がニヤリと嗤い――――指先をスッと天に向ける。

攻防共に愚昧を寄せ付けぬからこそ王。
だが圧倒的であるが故に――――――


――― 玉座とは一度、傾けば脆い ―――


「っ!? しまっ………!?」


それが天の裁可だ、といわんばかりの弓兵の表情に臍を噛んだ時にはもう遅い。
やがて凝縮された時の流れが元の速さを取り戻し―――

彼の直下、完全無防備となった肉体に、傀儡兵より投擲された数本の刃が降り注ぐ。


――― ズド、ガッ、グシャ、 ―――


――――――――千日手は………いとも簡単に覆された。


戦場を彩ってきた豪壮なそれとはあまりにも相反する呆気なさ。

あっさりと………場に、肉体を肉隗へと変える音が響き渡ったのだった。


――――――

ARCHER,s view ―――

「………………」

敢え無く決着を見た戦場―――そこから四里ほど離れた藪の中に私はいた。

「………呆気ないな、英雄王。 キミは一体、何度同じような終わりを迎えれば気が済むのか?」 

弓を番えたままに乾いた笑いが漏れる―――――

この身は人類最古などと比べるべくもない、今より先の時代より遣わされたサーヴァント。
人々から崇拝はおろか、理解もされぬままに英霊となったが故に至った境地がある。
その心の有り様もまた、奴とは一線を隔すもの。 

現代においては―――英霊などというモノは思うほどに磐石でも絶対でもないのだ。

それを理解しているが故に、宝具の相性以前に私は奴など敵ではないと断言出来る。
未だに最強無比の夢に惑い、呆けた王の寝首を掻くなど造作も無い。 今までの仕事に比べればラクなものだ。
いい加減、次があるなら学んでおけよ英雄王―――いらぬ誇りや慢心など、蛇にでも食わせてしまえ。

「しかし………私を囮に英雄王を釘付けにし、鳥篭に囲って安全な場所から敵を殲滅。
 惚れ惚れするほどに見事な手際だな」

どのような状況であれ、奴を生かしておいて好転する事態など絶無。
ここで倒せるならばそれに越した事はない故、馬の骨とも知らぬ輩の手管に乗ってやった。
この結果に唱える異など持ち合わせてはいない。

さて、通例ならばこれで終わりの筈だが……
出来る事なら、このまま永久に黄泉平良坂へ堕ちて欲しいものだ。
散り際を弁えぬ英霊ほど無様なモノもあるまい。

義理は果たした―――

この私を囮に使い、あまつさえ共に討ち抜こうとした輩。
話せば案外、気が合ったかも知れんが………

ともあれ、あとは野となれ山となれだ―――好きにするが良い。


――――――


こうしてマスターでもない「司令者」に最低限の義理を果たした後、弓兵は闇に消える。

その背中を追う黒衣の燕尾の影に――――気づかないままに。


舞台は再び、決着を見た戦場へ―――


――――――

「酷いなぁ………みんなして寄ってたかって」

場に、緊張感の欠片も無い間延びした子供の声が紡がれた。

「一応これ、ゲームなんでしょう? やり過ぎは白けますよ? 
 まあ日頃の行いがアレなので、報いを受けているのは理解してるんですけどね」

決着はついた筈だ。
盤に沸いたバグ―――英雄王ギルガメッシュの掃討はここに果たされた。


――― では、ならば……………この子供は何なのか? ―――


先に斃れた英雄王と数分違わぬ金の髪に灼眼の双眸。
その表情は比べようも無い、穏やかで慈愛すら感じさせるもの。

「いや、散り際云々と言われても困るんですよ。 何せ、ここでの <死> は本当に不味い。
 ついうっかりで死ぬわけにはいかないじゃないですか? 
 大人の僕でも流石にその辺は弁えているようで……ねえ?」

だが同時に、子供の纏う威圧感は彼らが同一人物であることを微塵も疑わせなかった。

いずれは神すら脅かす最古の暴君となる―――その前の、見違えるほどに尺の縮んだ彼。
縮んだが故に、額を、心臓を、肩を、袈裟架けに裂く筈だった刃は素通りし
一歩も動かなかった少年の肉体を、刃が自ずと素通りしたかのような異様な光景を場に映し出した。
まるで天意が味方し、ここに少年を討つ事を拒否したかのような―――

「あたた……ちょっと体が削られていますね……」

彼の両の瞳が、自身に迫る無機の兵団を―――その先にある敵の姿を見据えて射抜く。
既に制空権は敵のものだ。 
数百を超える鉄騎兵が空を埋め尽くし、蒼を鋼色に染め上げていた。

その直下にて、ギルガメッシュ少年は先ほどの気配。
虚空を超えた先にある存在感を今一度、確かに感じ取る。

「まったく大人の僕にも困ったものです。 コレしかないと分かっていても、気にいらない相手には使えないだなんて……
 まあ本来、今の僕には到底扱えない代物ですけど―――
 今回はパラメーターUP使い放題だというし、何とかなるのかな?」

紡がれた盤上が興奮に身悶えし、更なる闘争と血肉を求める中で―――

少年は、小さな手には不釣合いな円柱の剣を構えて笑う。 朗らかに、人懐っこく哂う。


決して翻弄されぬ神秘を背負いし少年王が―――


「さあ行きますよ、エア―――恐い人を引きずり出しちゃって下さい」


―――――――――――――今、虚なる者に逆王手をかける。

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最終更新:2010年10月01日 15:48