フェイト・T・ハラオウンは一人耐えていた。
――身を焼く熱さに、渇きに、飢えに。
身体のナカにはいっているモノによって身体中が焼け付くような熱に苛まれてる。

「はあっ……はぁぁ……」

熱を少しでも逃がそうとするかのように、ただひたすら獣のように息を荒げるしかない。
それでも抜けきらずに身体は内側から火あぶりにされているかのよう。
身体中が上気し、長く美しい金髪は溢れる汗で額に張り付き普段とは違う艶やかな輝きを見せる。
汗は額だけでなくいたるところから溢れ、特に背中などは濡れたシャツが張り付き、下着が透けて見えてしまうほど。
さらに、身を焼く熱以上にフェイトを苛むのは”渇き”と”飢え”。

――ホシイ
――ホシイホシイホシイ

体内で燃え盛る炎に悲鳴を上げる体の本能が炎を鎮める消火剤を求め、
理性という手綱では止めきれぬほどに暴れまわる。

――ハヤクハヤクハヤク

消火剤を出してくれるモノはいくらでもあるのだ。
理性を捨ててしまえば、持てる能力全てをもって消火剤を求めれば、すぐ楽になれるだろう。
だが魔導師としての、何より人としての知性と理性を総動員して本能という獣を押さえつける。

――ホシイハヤクホシイハヤクハヤクホシイホシイホシイ!!

フェイトは待たなければならない。
ここで、待たなければならない。
本能に流されてしまえば大衆の前に姿を現してしまうだろう。
そんなことをすれば執務官としての立場がどうなることか……
それ以上に、養母に、兄に、友に迷惑がかかってしまう。
だからフェイトは耐える。どれだけ辛くとも。

(そうだ……耐えなきゃ……)

時間の感覚がなくなりかけた頭で誓い直したそのとき――
――足音。
足音が聞こえた。
少しずつ音が大きくなっている。近づいてきている。

(あぁ……、やっと――)

「ハイ、お冷おかわりお待たせアルー!」

――紅洲宴歳館、泰山。
それが今フェイトがいる店の名前である。

運ばれてきたポットを受け取り、すぐさまコップに水を注ぎ一気に飲み干す。

(駄目だ……、まだ――)

――口内の痛みが、熱が消えない。
注ぐ、飲む。
注ぐ、飲む。
注ぐ、飲む。
気がつけば既にもうポットの中身は半分ほどにまで減ってしまっていた。

(何でこんなことになってるのかな……)

仕事を終え、食事をしてから帰ろうとしたのがいけなかったのか。
商店街を歩いていたら久しく中華料理を食べていないな、と思ったのがいけなかったのか。
とりあえず目に入った中華料理店に入ったのがいけなかったのか。
自分でメニューを選ばず、気が良く親友に声が似ていた店長おすすめの品を頼んだのがいけなかったのか。

そんな現実逃避をしたくなるほど目の前の赤いソレは減っていない。
まだ、半分以上も――

結局、最後まで食べきることが出来ぬまま店を出ることになった。
その後しばらくの間、フェイトが胃痛と痔に悩まされたのは言うまでもない。


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最終更新:2008年05月10日 12:51