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#1

「と言うことだ、
この件はミス・トオサカ、君に一任する」

眉間にしわを寄せた黒髪の男が、
表情に相応しい憮然とした態度でそう言った

「はぁ……」

時計塔、ロード・エルメイロイ二世執務室
寮の入居に関するひと悶着が落ち着いた頃
呼び出された内容に遠坂凛は気の抜けた声を上げた

限りなく科学的な魔術形体を持つ異界の組織、
その捜査部門からの協力要請

「何か質問があるか?」

双方の組織の都合上、正直に言って、相当機密度の高い任務である
それ自体を仰せつかるのはやぶさかでもない、自分のやることは簡単な報告だけだ
やってのければそれなりに箔が付く上にコネも作れる
問題は、極東の田舎モノに面倒を押し付けようと言う意思が透けて見える気がすることだ

「いえ、何も
ノーリッジ学生寮での騒動の汚名を返上する為にも、
謹んで受けさせてもらいます」

数日前入寮するはずだった寄宿舎のロビーを壊滅させ、
入るどころか立ち入り禁止を喰らった顛末は
ノーリッジ学生寮―――否、魔術教会に置いて後に語り草となる
『トオサカVSエーデルフェルト』最初の一戦として記憶に新しい

「結構、これが関連資料だ、
くれぐれも言っておくが、騒動は起こすなよ、
私としては君を庇うなどと言う事に労力を割く気など毛頭無いからな」

そこは建前でも先方に迷惑を掛けることを気にするべきではないか?
と凛は思ったが口には出さなかった
最初に倫敦での後見人と言うことで引き合わされた時点からこの調子だったからである
口が悪く、開くと文句ばかりだが、講師としては超が付く一流であり、

「彼に師事して『王冠』の地位を得なかったものは居ない」

「弟子を集めれば時計塔の勢力図が塗り変わる」

と言われているが、本人にはそんな気は全く無い、むしろ大いに不満であるらしい

資料を受け取って執務室を後にし、来客用の応接室へ向かう
一抱えもある資料だがその実現時点で意味のある内容は少ない、
そもそも正直言って今組織概要に関する資料など渡されても邪魔でしかない
(むしろその説明資料がある時点で、
今後も厄介ごとはこちらに押し付ける気だと見ていいだろうと凛は思っている)
こと資料整理に定評のあるロード・エルメロイが整理してこの量なのだから、
他の講師陣に任せれば極めて遠回りな内容になっていただろう

名門の魔術師に限って“如何に難解に書けるか”と言う事に重点を置くことが在る、
初歩の研究し尽くされた術式に関する論文ならともかく、
簡潔さを重視すべき報告書や自らの最新研究に関する論文、
果ては遺言に至るまで難解すぎて読む気が失せるとあっては、
よく家が存続できたなとむしろ感心する程でである

適当に内容を読み飛ばし、今回の一件に直接関係ある部位を探す
幸い目次付であったため目当ての部分はすぐ見つかった

「複数個のアーティファクトの捜索、及びその所有者の特定……か」

資料によればもともと『向こう側』の発掘品で事故で地球に落着、
その後紆余曲折を経て『ある人物』の手に渡るも、
暴走事故を起こし当人ごと『いずこか』に堕ちて消え去ったモノであるらしい

「どこまでいっても人がやることは一緒ってことか」

などと一人納得したところで、
目的の応接室を通り過ぎていたことに気づき慌てて引き返す

「お待たせしました」

ノックの後そのようなことなど微塵も感じさせない態度で入室する、
驚いたことに来客用のソファーに座っていたのは自分と同年代の二人の少女だった


#2

素人目にも高級品と分かる家具、その内の来客用ソファーに座り
居心地悪そうにティアナ・ランスターは眉を顰めた

「どうしてこういう所の調度品って、如何にもな高級品が多いんでしょうね」

実際居心地が悪い、
隣にいる先輩は苦笑交じりに「なれないと駄目だよ」と言ってくれるが
根っからの庶民思考である彼女にしてみれば、むやみに高級感あふれる環境は鬱陶しい
―――用は『場違い』と言う奴である、
仕事柄こうした場所での交渉ごとが出来なくてはいけないのは分かっているのだが

「お待たせしました」

入り口のドアが開けられたことに慌てて居住まいを正す、
入ってきたのは一抱えも在る紙束を持った自分たちと同年代の少女
そのまま向かいの席に腰を下ろしたところを見ると彼女が先方の担当者らしい

「本件の魔術教会からの担当になります、遠坂凛ともうします」

「時空管理局・本局捜査部執務官補佐シャリオ・フィニーノです、
こちらは同僚のティアナ・ランスターです」

先輩の紹介にあわせ会釈する、少々無作法な気もするが特に気にした様子は無いようだ
交渉そのものはシャリオに任せ、状況に応じて相槌を打ちながら、
交渉のノウハウを勉強しつつ―――遠坂凛という人物の一挙一動を警戒する

この世界の魔導師―――魔術師と言うそうだが―――は、
ミッドチルダの魔導師に比べて精神操作、暗示と言った技術が高い
後ろから声をかけられて振り返った瞬間には術中に陥っている、などと言う報告もある
気にしておくに越したことは無い

「―――分かりました、
それでは実際の捜査に関してはそちらに一任と言うことになりますがよろしいですか?」

「えぇ、初動捜査はこちらのティアナが担当します、
私が交渉担当、そして後日合流予定の執務官がこちらの責任者になります」

この後は当分の間ティアナが一人で走り回ることになる、
幸いこちらが来るまでの間に件のロストロギア『ジュエルシード』は
幾つか魔術教会が発見、回収していたが、出所は依然不明であるらしい

話を終えて、応接室を後にする、
迷路のような地下道を抜け、表の博物館を通って街に出ると、
ティアナの懐で電子音が鳴り響いた

不審に思いながら取り出してみると、この世界特有の携帯端末が出てきた、
管理外世界であるここでおおっぴらに空間モニターを使うわけにもいかない
と言うわけで、こちらでの通信時用に渡された物であるがすっかり忘れていた

「はい、ティアナです」

『クロノだ、どうだそっちは?』

通信に出て、返ってきた声に彼女は反射的に背筋を伸ばした
通信相手が上司の更に上だったからである

「魔術教会との交渉と、先方の回収していた当該ロストロギアの受け取りは終わりました、
詳しい報告は後ほどシャーリーさんが報告書にまとめて提出します」

『そうか、取り合えず二人とも指定したポイントに向かってくれ、
当面の拠点としてアパートを確保してある』

「了解」

通信を終了し、歩き出す
今回の現場は次元艦を使う任務ではないとされた為、現地での拠点確保は不可欠である

「前の時はアースラが担当したんですよね?」

「形式上は今回は現地組織の協力を得られた形になってるからね、
数も少ないし、人手にあるなら暴走の危険度も以前ほどじゃないって事かな」

あくまでも建前上である、
実際の現場の苦労を上が分かってくれるならそもそもJS事件は起きてない
まぁ、上は上で苦労があるのだろうが

「拠点があるなら、次は足だね」

「でもミッドの免許って使えないんですよねぇ」

管理外世界では基本的にその世界での資格以外はよほどのことが無い限り使えない、
バイクの使用許可出ないかなぁと、地図の表示にウンザリしながら
ティアナ達は魔術協会を後にした


#3

冬木市・衛宮邸

「同調、開始」

深夜の土蔵、一人いつものように魔術の訓練に明け暮れる
開いた魔術回路の数は二つ、軽くあげた両の手にそれぞれ白と黒の剣をイメージする

「投影、開始」

カチンと鋼の響く音と共に両の手にそれぞれイメージした剣が収まる
右に薄曇の白い陰剣莫耶、
左に黒地に赤い亀甲模様の陽剣干将

二度、三度と振るううちにイメージにぶれが生じたのか、それはガラスのように砕けた

「もうちょい『投影』の持続時間伸びないかな……
せめてアーチャーぐらいできるといいんだけど……」

それが簡単な事ではないことは理解しつつもつい詮無いことを口にする
形だけを再現したそこら辺のガラクタと違い、
英霊の宝具や其れに順ずる武具はイメージが鮮明に描ける分ぶれやすい
より細かく見える分だけ、僅かな違いが気にかかるのだろう

もう一度双剣を『投影』し、その投影品の構造を丹念に解析し『強化』をかける
流された魔力を受け、陰陽の刀身が刹那翼のように広がりかけ、
直後鈍い音と共に砕け散り、魔力のフィードバックに士郎は腕を押さえて跪いた

「ずっ……」

『投影』した物に『強化』をかける
先の聖杯戦争でアーチャーが実際にやって見せた以上可能なのは間違いない
だが、実行するとなるとイメージの維持がやはり難しい

「今日はこの位にしとくか……」

右半身の魔術回路がダウンしたのか体が思うように動かない、
これ以上は無理だと判断し、右足を引きずるようにして土蔵を後にする
本当は土蔵で寝てしまいたかったのだが、
倫敦に居る凛から「緊急の連絡が付かないから」と言う理由で禁止されている
その前にまず時差ボケに気づいて貰いたいのだが言うのも野暮というものだろうか?

「ふぅ……うん?」

屋敷の中に戻ると電話が鳴っていた、
噂をすれば影という奴だ、この時間だと向こうは何時だったか?

「はい、もしもし衛宮……」

『遅い! どんだけ人を待たせる気よアンタは!!』

大声に思わず受話器を耳から放す
どうやらずいぶん長いことこの状況だったようだ

「あのなぁ遠坂、そっちが何時か知らないけど日本は深夜だぞ?
俺はともかく普通の人ならとっくに寝てる時間だ」

あれ、そうだっけ?
と些か呆けた返事を返し、そのまま時差の計算を始める凛、
放置しておくと話が進まないので何の用かと問い直す

「―――それで遠坂、何があったんだ?」

日ごろは国際電話は高いと言う理由で使いたがらない凛が自分からかけてきたのだから
その内容はよほどの事だろう

『ちょっと協会の外交沙汰でね、
―――士郎、うちの学校のアリシア・テスタロッサって一年生知ってる?』

「それって金髪に赤い目の女の子か?
三日くらい前に新都で会ったけど」

つい先日夜半に家まで送った少女を思い出す、
名前は聞いていないが、なんとなくそんな横文字の名前は彼女一人な気がする

『ふぅん……それで、いつ何処であったのかしら?』

「バイト帰りにヴェルデの前あたりでだけど……
なぁ遠坂、微妙に話が脱線してないか?」

そうかしらと返す凛の声がなんだか恐ろしい
なんとなく向こうでいい感じの笑顔なあかいあくまが居る気がする

「なんでさ?」

俺何かしたか? と言う疑問が浮かぶが理解できない
説明を求めたところでしてくれないだろうなぁと思いつつ何とか話を戻そうとする

「で、あの娘がどうかしたのか?
協会に関係あるようには見えなかったけど」

言峰と面識があることに関しては知っているが、
それはあくまでも表向きの言峰綺礼神父に対してである
聖堂教会代行者にして聖杯戦争監督役としてのあの男ではない

『えぇ、時計塔には関係無いわ、
詳しいことは帰ったら話すからそれまでにその子を確保しといて』

「確保?」

なんとなく穏やかならざる物言いである、一体何があったのか

『いいから、確保って表現が嫌なら保護で良いわ、
詳しいことは帰ってから説明してあげるから』

ガチャン!

早口でまくし立てるとこちらの返事も待たずにきってしまった、
おそらく帰り仕度の最中に思い立ってと言ったところだったのだろう
だとすればチケットを取り損ねでもしていない限り近日中に帰ってくると言うことだ

「まぁ、とりあえず言う通りにしておくか……」

問題はそのあたりの同意をどうやって彼女から得るかだが、
何とか適当に言い繕うしかないだろう

其れよりまずは寝よう、
麻痺した半身を引きずったままでは考えるのも覚束ない

「あぁ……明日は桜より早く起きないとな」

このところ新たな口癖になりつつある言葉を口にすると、
士郎は自室へと足を向けた