目を開けると、見知らぬ場所にいた。

「・・・・・・」
ここは、どこだろう―――
自分のマスターの屋敷でももう一人の主の屋敷とも違う。彼女(わたし)の生んだ雪原の一部とも思ったが―――すぐに否定した。こんな造りは、私(かのじょ)も嫌いだろうから。
「・・・・・・」
周りに目をやる。
白く清潔な道がひたすら続く。どうやら渡り廊下らしい。やはり見覚えが無い。
「・・・・・・」
とりあえず歩くことにする。止まっていてもどうにもならないし、せめてここがどこなのか位は知っておかないと。
同時になぜ自分がこんな所に居るのか原因を探そうとして―――――すぐに思い至った。

「―――――――」
ため息をつく。もしこの場に自分を知る者が今の行動を見れば「珍しいこともあるもんだ」と驚くだろう。それほどに自分は表情を崩すことが無く、それほどにこの状況に心底迷惑しているのだ。あまり自覚は無いが。
とにかく元凶ははっきりした。ならば行動の指針も立てやすい。

あの――彼女曰く――ブサイクモザイクネコを探し出し、とっちめて、元の場所へ帰らせる。以上。

単純にして明快。もとよりあちらに興味はないし関心も引かなかった。せいぜい防具に使っていたぐらい、向こうもこちらは眼中になくひたすら彼女の方にばかりちょっかいをかけてた。もう会いたくないって目に涙を浮かべ愚痴ってた日もあった気がする。
ならばあえてこちらに仕掛けたのは―――気まぐれだろうか。というかはっきりした理由などあるとは思えない。そういった生物(ナマモノ)と聞かされていた。彼女に。

そうこう考えているうちに外の景色を眺めそうな窓を見つけた。光が差してるということは、昼時だろうか。
まずは現在の居場所を知るのが先だ。待っていたら向こうから勝手にやってくるかもしれない。そう思い光の導く先へ足を運び――――その光景を目にした。


「―――――――――――――」
天をも突かんとする巨塔、広大な都市、賑わう人々。
意外と普通の場所の様なことに安心は―――出来なかった。

ここは夢でも幻ではない、歴とした現実の世界だ。人も実際に生きた人だ。夢と現実の間を行き来する夢魔にははっきりと分かる。だからこそ――――疑問が生まれる。
数百年生きてきた自分でも見慣れぬ光景。ここは過去(いま)ではなくこれから自分が見るかもしれない未来(さき)の世界だ。彼女を生み出したあの魔法使いなら既に見知ってるかもしれないが。

なら―――時間を飛び越えてしまったのだろうか?あのネコによって?

「・・・・・・・・」

考えても答えは出ない。元来考えるのは得意ではないのだ。だから考えるのはここでおしまい。
ひとまず、いつも通りに周りを見て回ろう。人生は何でもあり、何が起こっても何とかなるさケセラセラ、とは両方の主の弁だ。それに知らない場所というのは自然と興味が沸いてくるものだ。最近は遠出もしてないし、散策気分で気ままに行こう。
そう決めて長い階段を進んでいく。
曲がり角は先が見えない。けど未来なんてそんなもの。怖がる必要なんて何もないのだから――――――――








―-―――-――-―-―――-―――-―――-―――-―――-―――-――-―

こうして黒猫の使い魔―――レンは当ても無く歩き始めました。とりあえず自分を貶めたネコはとっちめると心に決め。

右も左も分からない世界では不安もあるでしょうがきっと大丈夫。猫という生き物は適応が早いのです。

それに、ここには助けてくれる人が大勢います。ちょっと無茶をしがちな人たちですがきっと彼女の力になってくれるでしょう。

さて、小さな少女の冒険は、はじまったばかりです。

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最終更新:2009年05月23日 11:46