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 緑色の液体に白濁色の粘度を持ったものがぽたぽたと注がれてゆく。
 続けて時を置くことなく放り込まれる白い砂。それらを捻じ込まれ、無残にも染め上げられた液体はまるで嘆くように湯気を撒き散らかす。
 だがそれで終わりではない奴らは無情にも鉄製で出来た棒を容赦なく突き入れ、掻き混ぜる。
 この白濁色の粘度を持った液体とはある動物から採取された分泌液のこと。
 そして白い粉とは言うまでも無くある植物の茎を細かく砕いて汁を搾り、その汁の不純物を沈殿させ、上澄み液を取り出し煮詰めて作られた糖分の塊のことだ。
 捻じ込まれる毎に鳴る水温は絶叫のように周囲に響き渡る。
 汚される悲鳴はいない救い手を捜し啼き喚く。
 慟哭は男の心を引き裂き切り刻み揺さ振り、精神は一瞬で平衡感覚を失った。
 ―――やめろ、それ以上はヤメロ。止まれ止まレ止マれ止マレトまれトまレトマレ―――!


 そ れ 以 上 ソ イ ツ に 手 を 出 す な !!!!


 だが覆らない。既に事がなされている以上その結末は変えようがなく、悲劇は確定した過去という底無しの沼に為すすべもなく沈んでゆく。
 結論から言えば緑の液体は汚濁が完全に進み乳白色に染まる。そしてそこに元々在った深い渋みと独特な侘び寂びを感じさせる苦味は完膚なきなでに破壊され尽くした。
 不必要なまでに強調された甘味はこれを摂取したものにどのような印象を与える飲料となっているのか―――。


 まあナンというかだ。
 つまり目の前の提督は緑茶に砂糖とミルクを豪快に注ぎ入れたのだった―――!

 ふぅっと一息、リンディ・ハラオウンは今日この日ひとときの至福の時間を迎えられたことに感謝する。淹れたてのお茶を舌の上で転がし、口内に広がる甘みと僅かに溶け残った砂糖の一粒さえ十二分に堪能している。
 甘味とは人を幸せにするものだ。実年齢よりもかなり若く見られる彼女だが、その見ている人間まで幸福にするかのような、
 もしかして原作では人在らざる妖精のような存在だったのではないかと思えるほどの美しい微笑みは一層彼女の魅力を引き出し、まるで可憐な恋する少女の様に錯覚するうような華やかな表情を作る。
 ただの茶とてここまで悦ばれれば本望、緑茶冥利に尽きるのではないだろうか。
 そんな一瞬の、美しい絵画のような一舞台を表情一つで作り上げた彼女は細めた瞼を開きそして――――、

「――――すまないが一つ聞いてもいいかね。一体君は何を飲んでいる…………?」

 ――――絶望的なまでに沈んだ表情をした男の顔を見ることとなったのである。

「……あらやだ、御免なさいね? お客様にお茶の一つもお出ししないなんて」

「いや違う。心遣いは有り難い、どうかお構いなく……ではなくてだ。
 私が言いたいのはだ。君がたった今、ソレに何を入れたのか聞いている」

 目をこれ以上ないほどくわっと見開き、憎き仇敵を見るかのような威圧感を湯飲み茶碗に注ぎ続ける衛宮士郎又の名を正義の味方。
 緑茶を緑茶と呼べぬものへ汚され蹂躙、―――否、あれは緑茶に対する陵辱といっても過言ではないだろう―――されるしかなかったその一瞬を、
 驚きという硬直に留まってしまったことで、それを止めることすら思いつけなかった過去の己に火が噴くほど後悔しながら、それでもその男は今やらねばならぬ事を見据え、俯き倒れることを拒否する。

 抹茶ミルク? 否……断じて、否!
 そのような洋物かぶれの氷菓会社が生み出したような和の国日本の食文化に泥を塗るような――――
 言うなればまさに泥のようなチョコレートをかけて甘ければ何でも食べられるんだぜーーみたいなジャンクフードと同レベル並みの薄っぺらい味と品質を蔓延させるような誇りの欠片もない食べ合わせは断じて否である!

 男は今この瞬間をもって絶対的な悪を見つけた。
 鷹の目は敵から視線を逸らさず今にも跳びかかりそうな闘気と怒気を放っている。

「………………?」

 一通り。いや三通りほどお茶の一時を堪能したリンディ・ハラオウンは向かいに座っている男の湯飲みが顎の位置まで持ち上げられそのまま固まっているのにようやく気づく。
 まるで一時停止したビデオのように体は固定され顔だけワナワナと戦慄している様子は子供が見たら逃げ出すか泣き出すかのどちらだろうか。
 そして彼女は固まった男には気づいてもその顔がずっと自らの湯飲みに注ぎ込まれていることには気づかない。気づけない。それが当然だと認識してるから。

「あら飲まれないのですか? ……ああ。緑茶は初めてかしら。飲み馴れないお茶とは飲む側にとって非常に不可解に感じるものと聞きますし。
 そうね、エイミィ。エミヤさんにこれの代わりに紅茶でも入れてきてくれないかしら。ええついでに私に緑茶も。え、砂糖とミルクの量? もちろん、いっぱいで」

「待てぇい!」

 艦橋に響いた声はどこぞの貴様らに名乗る名は無い正義の味方ばりの「待てぇい!」だった。
 衛宮士郎、保有執事能力A+。彼とて譲れないものがある。今の彼女の砂糖とミルクの量を聞き『砂糖とミルク一杯ずつ』ではなく『いっぱい=沢山』であることを認識すればもはや黙ってはいられない――――!


「………………………………??」

 だが対するリンディ・ハラオウン、○○(ピー)歳、14才になる子供有り、未亡人。目の前の男が何に戦慄しているのかわからない模様。いや、戦慄しているかどうかもわかっていない。
 熱く太陽よりも燃え上がる正義(家政夫)の心と対象にきょとんと目を丸くして、はてな?と首をかしげている様子は傍から見れば滑稽に見えるかもしれない。
 具体的には二人の間の温度差で大型ハリケーンくらいの気象変化とかだったら楽に起こりそうな程の対称っぷりだ。

(何か不手際でもあったかしら? あら、このお茶菓子おいしい……)

 とまあそんな感じではむはむこくんと江戸前屋どら焼きを頬張る子持ち女性。
 その様子はカロリーとか体重とか女性としての旬を過ぎれば気にしなくなるものなのかと問いた――――あ、痛い痛い嘘です石投げないで下さい。

 漢(執事)は悟る。アレは『悪』だと。絶対的な悪に違いないたぶん。
 間違いは正さねばならない。過ちは繰り返していけない。
 このままソレを見逃せば再び不幸が訪れることだろう、ならば災いの目は全て摘んでおかなければならない。
 衛宮士郎、いまや幾たびの戦場を越えて不敗な戦士の空気は須らく霞んでただの執事に身を翻したそのふいんき(※何故か変換できない)はまるでジャスティス!!