それは、五年前の冬の話。
月の綺麗な夜だった。
私は何をするでもなく、父、というか王様の、ギルガメッシュと月見をしている。
冬だというのに、気温はそう低くはなかった。
庭先はわずかに肌寒いだけで、月を肴にするにはいい夜だった。
この頃、王様は外出が少なくなっていた。
あまり外に出ないで、家にこもってのんびりとしていることが多くなった。
……今でも、思い出したら後悔する。
それが死期を悟った動物に似ていたんだと、どうして気がつかなかったんだろう。
「かつて、我はこの世全てを手にした王だった」
ふと。
私から見たら王様そのもののギルガメッシュは、懐かしむように、そんな事を呟いた。
「なに、それ? だったって、今はもう違うの?」
気になって問い返す。
王様は少しだけ悔しそうに、遠い月を仰いだ。
「全く、忌々しいがな。此度の現界は期間限定で、不埒な賊どもを正すには時間が足りん。
このような雑事、もっと早くに片付ければ良かったのだが」
言われて納得した。
なんでそうなのかは分からなかったけど、この王様の言うことだから間違いないと思ったのだ。
「そっか。それじゃしょうがないね」
「うむ。仕方あるまい」
薄れながら、相づちをうつギルガメッシュ。
だから当然、私の台詞なんて決まっていた。
「うん、しょうがないから私が代わりになってあげる。
王様は還っちゃうからもう無理だけど、私なら大丈夫だよ。
まかせて、王様の世界(モノ)は」
“――――私が、ちゃんと取り返してあげるから”
そう言い切る前に、王様は笑った。
続きなんて聞くまでもないっていう顔だった。
ギルガメッシュはハハハ、と声を上げて笑って、
「そうか――――面白い、やってみるがいい」
本当に楽しそうな表情のまま、風に溶けるように消えていった。
それが、夢のような穏やかさだったから、幼い私は騒ぎ立てなかった。
明るい闇の中、両目だけが熱かったのを覚えている。
泣き声もあげず、悲しいと思う事もない。
月が落ちるまで、ただ、涙だけが止まらなかった。
それが五年前の冬の話。
子が父の跡を継ぐのは当然のこと。
ヴィヴィオ・■■■■は地上の王にならなくてはならない。
幼い頃にそう誓った。
誰よりも憧れたあの人の代わりに、彼のモノを取り返すのだと。
……けど、正直よく分からない。
ギルの言っていた『王』ってどんなモノなのかとか、早く一人前になる方法とか、
王様の口癖の慢心せずして何が王か、なんて冗談みたいな言葉の意味とか、
それと、聖王なんてモノになっちゃって、一緒に付いてきたマッドな博士とその一味とか
頭のなかがゴチャゴチャだよ、ホント――――
改変元:四日目・目覚め『行動原理』
最終更新:2008年12月16日 01:38