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「そう――」

先ほどの少女に相対した時のそれと違い
今度は明確な怒気を含む声を紡ぐなのはさん

「青子さん」

「ん?」

「…………何か言い訳とか、、ある?」

どこ吹く風といった感でポリポリとこめかみをかいている青子と相対するのは
事と次第によってはという顔で、青白いオーラを放つ管理局の悪魔

今度は、さっきのような生ぬるい雰囲気では断じてない
なのはの敵意は、今や明確な怒りとなって目の前の魔法使いに降り注いでいる
その気勢は、横で見ているレンが一言も発せず「あわわわ…」と震える程に凄まじいもので
そんなものを正面から受けて平然としていられる青子もまた大したものである

場の空気がギチギチと張り詰める感覚に少女が息を呑む中、、

ややもして、ふうと一言溜息をつくブルー
そして依然、怒気を発しているなのはに対し
あろう事か無防備に歩いて近づいていったのだ

レンが息を呑む

それは先ほど、少女がなのはにやられた事の意趣返しのようだった
なのはの体から発する凄まじい重圧などどこ吹く風といった感じで魔道士の間合いを犯していく

そして高町なのはの目の前にまで歩を進めた青子
両者が至近距離で、視線を交し合う

「…………」

「…………ア―――」

、、、、、

「アンタのせいだぁぁぁぁぁああああッッーーーー!!」

突然の咆哮一閃!

高町なのはの鼓膜を破らんばかりに
至近距離でマックスボリュームの絶叫を叩き込む青子

無論、そんな事で動じる魔道士ではないが、、あまりの大声に顔をしかめる
そんななのはに追い討ちをかけるように、青子は両手の掌で
両側から彼女の顔面を挟み込んだのだ

「っ!」

逆切れ大爆発である

「わ……」

相変わらずの予期せぬ反撃に戸惑うなのは

相手の両手がまるで相撲の合唱捻りのように自分の顔を挟んでくる
そのまま振り回そうとする青子と、バランスを崩すまいと踏み止まるなのは
期せずして両者は、その細い体を総動員しての力比べに移行していた
二人の足が食む床が、その力でミシミシと悲鳴を上げている

「わらひのへいっへ?」

渾身の力で相手と押し合いながらに、なのはが言葉を発そうとして――
両手で顔を挟まれ変形した頬が言語を上手く紡ぎ出せない事に気づく

(あ……、、)

この体勢……両側から頬を押さえられているのだ
醜く変形し、無様な顔になっている事は容易に想像できる
その頬がほんのり赤くなるのは決して力比べで全身に力を入れているせいだけではない

そして、いつまでもひょっとこの顔芸を強要されている高町なのはでもない
顔面を力任せに挟み込んでくる青子に対し、おもむろにその手首を掴み

「とっ!?」

力に逆らわず自身の身体ごと後方に倒れこむなのは
体重を預けて抑え込んでいる相手に
いきなり下方に沈み込まれ、バランスを崩す青子

流石は現職の武装隊である
相手の予期せぬ拘束にも、いつまでも甘んじてなどいない
捕縛を抜ける術も心得ている

そのまま、つんのめった青子の腹部を下から足で跳ね上げ
勢いのままに後方に投げ飛ばす…所謂、柔道の巴投げが決まっていた
体に染み付いた見事な技、、欠かさぬ教練の賜物である

宙を浮いた青子が後方に吹き飛び
地面に受身を取ってニ~三回転しながら着地

「わお、、凄いキレ」

「……ふざけないで」

ヒューと口笛交じりに起き上がる青子を睨みつけるなのはの表情は依然厳しい

「盗人猛々しいとはこの事だよ……どうして私のせいになるの?」

一歩も引かない二人のやり取りをハラハラしながら見守る少女である
まるで今にも殺し合いを始めかねない勢いなのだから仕方がない

、、、最も

実はこの両者、数週間も共に暮らす間
事ある毎にこうした肉体言語をかわし合っているわけで
レンの心配を余所に本人達はもはや手馴れたものであった……
この程度では息も切らさない

たった今、見事に宙を舞い
投げられて着物に付着した埃をパンパンと拭う青子

「……よろしい」

流石にこのままでは埒が明かないと思ったのだろう

「レン――――――脱ぎなさい」

おもむろに少女に…………
アーマーパージのオーダーを下す――


「、、、、、、、、、、は?」


突然、話を振られたのもさる事ながら
いきなりの脱衣命令に目をパチクリさせ、マヌケな声を上げる少女
なのはは勿論、主の突拍子の無さに慣れっこであるレンでさえ正気を疑う言動であった

「な、何言ってるの?」

「命令よ 速く」

「や、やあよ……正気? おかしいわよ貴方、、」

「つべこべ言うな」

いつにも増して有無を言わさぬ主
危険を感じて後ずさりするレン

だが、、

分かっている…

分かっていたのだ……

焦燥の極みにある夢魔の表情
それは、どんなに無茶な命令であろうと
この目の前の暴君が本気である以上、どんなに懇願しようと抗おうと―――

―― マジックガンナーからは、、、逃げられない ――

ブルーの口が、それとは気づかぬほど小さく動く
そして抑揚の無い声で何かを二~三言を発すると同時に、、
それを見て短く悲鳴を上げる夢魔

説明するまでもない、、
無限回転―――ミスブルーの高速詠唱

レンが逃げようと、なのはと青子から背を向け
なのはが状況に付いていけないながらもリアクションを起こそうとする
その二人のどんな行動よりも早く……

払うように下から突き上げられた、ミスブルーの右手

「やあああーーーーーーー!!!??」

と、同時に少女の絶叫が部屋中に響き渡った

魔法使いの動作と同時に、何もなかった少女の下方から何かが跳ね上がる

それは蒼崎青子の所有する破壊の魔術
数多ある異色の光弾
その一つ――ブロウニングスターマインの黄色の閃光

床をバウンドして跳ね上がるそれが、レンの足元からスカート内に潜り込み
下半身から上半身にかけて少女の全身を覆うコートを勢いよく跳ね上げたのだった

当然、その下には……
一糸纏わぬ少女の裸身――
一瞬だがその未成熟な体が完全に露になる

「――――――な、な、な、、、、」

ガバっと、コートのような衣服を両手で抱いて全身を隠し
床に座り込む少女であったが………時既に遅し

雪の妖精の真っ白い顔がみるみるうちに紅潮していく

「レディに何てことするのよぉぉッッ!!!」

悲痛な叫びが山小屋はおろか、その外にまで木霊し
山彦となって山岳地帯に響き渡る

非難の声を張り上げ……えぐ、えぐ、と涙に咽ぶ雪原の妖精

「―――、」

その一部始終を黙ってみていた魔道士

当然、彼女の性格を考えれば、そんな幼い子供の虐待の光景を見せられて黙っているはずが無い
間髪を入れずに蒼崎青子を糾弾する教導官の姿が見られるものと予想されたが、、、

少女の黄色い悲鳴と理不尽な辱め
その現場をを前にして―――高町なのはは……動かなかった

否……その今、目に焼きついた光景に対し
顔に驚愕の表情を貼り付けたまま微動だに出来なかったのだ

「い、、、――」

(い……今の)

口が微かに震えて言葉にならない
それは決して少女の脱衣に動揺しているからではなく、

「私がアンタと出会う前の話よ―――」

蒼崎青子が何を見せようとしたのか
この目の前の少女の現状を理解したから、、

内心の動揺をそれでも押さえ
冷静に振舞おうとするのは、もはやこの魔道士の美徳であろう

青子に目だけで、話の続きを促すなのは

「何が何だか分からないのは私も一緒よ
 でもあいつらの正体については――アンタの話を色々聞いて合点がいったわ」

青子への問い詰めを一方的に終わらせた
終わらせるに足る理由をなのはに与えたそれ、、

一瞬だが確かに見えた、少女の体に刻まれた――


―― 身体を真っ二つに斬り裂かれた跡 ――


白くて綺麗な肌の上にくっきりと残った
背中から腰の下まで抉られたような傷跡
その綺麗な身体に惨たらしく飾り付けられたアート

10年もの間、あらゆる戦場、災地を駆けてきたなのは
そんな彼女は故に、怪我を負った者、傷を負わされた者を数え切れないほど見てきた
だから一瞬で分かったのだ
その傷の具合、どんな武器が使われたか
物理的なものか魔力刃の類か
そしてその体が、、
間違いなく命に関わる重症に陥っている事を

そう、、人間ならばそれは到底動けるはずの無い……即死レベルの傷だった
その抉られた赤黒い跡は脊椎、内蔵にゆうに届くほどに深い
ならば、未だ少女が表面上は平常に動けているのは彼女が人外であるからなのだろうが、、

「私のせい――私の―――」

今はそんな事はどうでもよかった
問題はその傷をつけた原因が自分にあるという青子の発言
必死で思考を巡らす魔道士であった

「あいつらの人間離れした耐久力――肌の下から覗く機械部分――
 あれでしょ、戦闘機人っていうのは」

そう――その思案が長く続かなかったのは
自分のせい、、という相手の表現が
大雑把ではあれど決して見当違いではないという事実にいち早く思い至ったから、、

手に口を当てて、人差し指を軽く噛むなのは
その目にはもはや青子に対する糾弾の気持ちなど吹き飛んでしまっている

「アンタらが逃がした、アンタらの世界の犯罪者じゃないの?
 自分達の体たらくで別の世界にちょっかいかけさせて、あまつさえ人の使い魔を殺しかけたのよ?
 被害者に魔力提供するくらいの協力は笑って承諾しなさいよ、時空管理局の局員様」

「そ、そんな、、事……」

不平の言葉を言いよどむなのはである

青子の話はそれで終わりだった
ならば――ここまでならば、無論
今回の事件はは高町なのはだけの責任ではない

局と留置所、その他あらゆる不手際から生じた事件であり
むしろこの脱走は、武装隊の高町なのはに対処出来る状況ではない
取れる責任などないし、取る義務も生じない筈

で、ありながら―――

「、、、そう、だね…」

(えーーーーー??)

苛烈な仕打ちのショックで、未だ床にしゃがみ込んでいた少女であったが
横目で成り行きに聞き耳を立てていて、、

(納得しかけてる…?)

その展開に思わず正気を疑ってしまう

こんなのはどう見ても青子の暴論
言い掛かりも甚だしいというのに……

あの得体の知れない二人組にやられたのは自分の責任
それによってこの人間に責任払いが生ずる事などない
この人間の精を頂こうとした自分も、それをけしかけた蒼崎青子にも大義名分があるわけでもない
少女の生きる世界でこんな理屈をのたまった日には、相手は勿論
周囲からも甘ったれの恥知らず呼ばわりされるだけだ

だが、それはきっと法と正義に自ら殉ずる者と法の外で生きる者との違いなのだろう

高町なのはは正義を愛し、他人の幸せを願う責任感の強い女性である
ここで、「それは自分の管轄ではないから関係ない」などと謳う人間であったなら
そもそも自ら、この職に付こうなどとは考えていないだろう

自分たちの逃がした犯罪者が逃亡先
特に今回は生まれ故郷の地球で一般人を傷つけ、殺傷する、、
それは法に生きるものにとって、高町なのはにとって最も恐れていた、忌まわしい事であった

それに極論、、先ほどはなのはには対処の術がないと記したが
こうして脱走を許し再犯を起こさせないために武装局員が取るべき手段は……実は少なからず、、ある

要は――脱走できない、、
二度と犯罪の犯せない体にしてしまう事、、

当然、犯罪者にも人権を認め、更生させる事が目的の法務機関でそれはご法度
相手とお話の場を持たせたいが為に戦う高町なのはにとって
そんな事は絶対にしたくない手段の筈だ

だが――未だ更生の余地の無いスカリエッティや戦闘機人を相手に
法に背く事になるとして、それをしなかった…
出来なかったがためにこの少女に傷を作ってしまったというのなら――
それは管理局に所属する自分が償わなければいけない咎である
出来るだけの事をしなければならない、、

「……」

そう――それが高町なのは
この心優しい英雄が世界に対して示す在り方なのである

悔恨の表情で、目を瞑り
無言で頭を下げるなのは

それはこちらが折れる
相手の言動を受け入れるという意思表示であった

そんななのはの様子を見て
顔を伏せ―――

(チョロイわ)

ニヒ、という笑みと共に親指をぐっと突き立てる魔法使いであった、、、、

(た、タチ悪っ……)

どう見ても無茶苦茶な暴論を、相手の性格と人の良さにつけこんでゴリ押ししてしまった…
計算どおり、という表情を浮かべるブルーを見てその性悪っぷりを再認識するレン

「大変だったのよ……死に掛けの身体を永らえさせるためにこのコ自身の魔力を消費して、それでも足りなかった
 輸血みたいなものかな、、体内で足りない魔力は外部から持ってくるしかない
 でも魔力を摂取しようにも、ここには人がいない―――そこへ現れたのが、、」

くいっと腕組みを崩さずに高町なのはに人差し指を向ける魔法使い

「それなら、、」

歯切れ悪く答えるなのはである

「一言、断ってくれれば…」

少女の傷はどう見ても致命傷だが
容態は急を要するという事ではないのだろうか?
夢魔の様子から、その真偽を掴む事の出来ないなのは

「私の魔力を惜しむわけじゃないけど、緊急で一刻の猶予も無いっていうのなら
 取り合えずは青子さんの魔力で凌ぐ事は出来ないの?」

「だそうだ、レン」

そんななのはの疑問に対し
少女に目を向けてうながす青子

「冗談じゃないわ!」

であったが全力で、、
かぶりを振って否定するレンである

「四つんばいに這わせた首輪付きの男……少年百人斬り……男プールに踊り食い…
 そんな夢を延々と見せ続けなきゃいけない私の身にもなって!」

「むふう…主人の趣向にケチをつけるとは神経の太いネコだ」

「もうイヤ! 瀕死の体に無理やりそんなもん詰め込まれたのよ!? 地獄よ!! もう食傷気味なのよ! 
 現在、私を形成している成分の6割近くがあの汚らわしい夢で出来てるなんて考えるだけで耐えられない!
 いい加減、回復どころか拒絶反応起こして消滅するわよ!!」

二人の壮絶な言い争いの内訳
その半分も内容が理解出来ない高町なのはであった

(く、、首輪……? 何で…?)

自分の見た夢、あの類の内容で
何で首輪?と一人首を傾げる
そこは清純一途、経験不足な教導官様であったのだ

「でも、、やっぱり一言も言ってくれないのは違うと思う
 こんな泥棒みたいなやり方、、」

なのはが、それでも不平を唱えられるならば
やはりそこに尽きる
事情を説明すれば自分はいくらでも協力するのだ
被害者の命に関わる事なら尚更である

だのにこんな、騙し討ちのような方法はやはり納得できない

「――――ふうん」

しかしそれを聞いた青子が悪戯っぽい笑みを浮かべて目の前の魔道士を見やる

イヤらしい横目でニマァ~という笑い顔、、、
付き合いの浅い魔道士であったが
目の前の魔法使いがこういう顔をする時は決まってロクな事を言い出さない

悪い予感をひしひしと感じながら、相手の出方を待つ高町なのは

「言えばOKしたの?」

「当然だよ……そんなに困ってるなら
 私に出来ることならいくらでも力を貸す」

「ふううう~~~ん」

口が裂けていると錯覚するほどに歪にニヤケた顔
そんな思わず目を逸らしたくなるような表情で
下から覗き込むように自分の顔を見上げてくる青子

「な、何…? 言いたい事があるのならはっきりと、、」

「言っておくけどね……夢魔に精を吸われるってのはね
 それはそれは凄い事になるのよ?」

ややもして、勿体付けたように言う魔法使い

「凄い事、、命の危険とか…?」

――精を食われる

なのはがそう聞いて、真っ先に思いつくのはやはりそれである
人間の活力を吸い取られるのだから、抜け殻になった人間は衰弱して死んでしまうのではないか?
先ほど青子が言った輸血みたいなものとはそういう事だと予想する魔道士

「いや、その心配はない。 それはやる方の匙加減一つだから
 さっきこの子が言った様に限界を超えて摂取しなければ命の危険はないわ
 私が言ってるのは―――別の問題」

「?」

命の危険がない…
自分の予測があっさり否定され、疑問に耽る高町なのはである
ならば尚更、他人に言えないほどの凄い事の意味を思いつかない
相手の遠回しな物言いにイマイチ話を掴みきれない彼女である

「さっき聞いてなかった? 結構、お約束なんだけどなぁ……
 レンが見せるのは、、淫夢よ、、インム
 それで精を搾り取るって事の意味、私が空気を読んで席を外してたって事から察しなさいよねー」

口元に手を当て、イシシとばかりに
形ばかりの恥じらいの姿勢を作る魔法使い、、、

その意味――

自分の夢を思い出し―――

その言葉の指し示すところを模索し―――

「これから暫く一緒に暮らさなきゃいけないのに気まずくなっちゃうでしょう?
 相部屋しなきゃいけないコが、、夢に悶えて布団や枕にむしゃぶりつく姿なんて見せられたら、、ねぇ…」

「――――、!!!」

ようやっと………
ようやっと相手の言葉の意味するところを察した、、高町なのは

「そ、、そう……、、」

今や少しくらいの危険があれど
もはや協力を惜しまない心積もりだった高町なのはの、、その顔が――曇る

そして、かろうじて言葉に出せたのがたった一言
途端に顔を伏せ、落ち着きのなくなる教導官であった

夢の内容、登場人物共にのっぴきならないモノであっただけに
彼女にとって、これ以上は想像するだけでも洒落にならない
気まずそうに目を逸らすなのはだったが――

この魔法使いにだけは………そんな弱みを見せてはいけなかったのだ、、

ピキーンと両目が怪しく光る青子先生
その、逸らした目線に回り込むように
なのはの顔を覗き込むブルーさん

「まあそこまで協力してくれるっていうのなら助かるわ
 流石はなのは……博愛精神の塊のようなコねぇ、、私には真似できん
 ――――あらやだ、赤いわよ顔? 熱でもあるんじゃなぁい? ケケケ、、」

「別に……よく分からないから…」

「ハァ!? あんたハタチでしょ! カマトトぶってんじゃないわよ!
 魔法少女のカッコしてたってトシは誤魔化せないわよトシは!!」

「やめて……もういいよ、、」

サイドテールを弄ばれて
その手を鬱陶しそうに払う高町なのは

とても世界最高峰の魔道士と魔法使いのやり取りとは思えない
免疫のない優等生をからかう、ガラッパチ不良少女の図である

「普段大人しい子ほど、盛るとケダモノみたいになるって言うじゃない?
 私としてはアナタがどういう風にメロメロになって乱れるか、実は非常に興味の尽きぬ所であったのよ、うん」

純情な体育会系を凹ますには色話とはよく言ったもので、、
典型的なセクハラオヤジと化した魔法使いの攻めは
鉄壁のエースに対し、セオリー通りの効果をあげつつあった

「でも一方で開けてはいけないパンドラの箱を髣髴とさせて
 私の中で二人の私が最後までデッドヒートを繰り広げてね……そんで結局――」

「……分かったから、、、」

「あ、言っとくけどパンツは貸さないわよ。 こっちもストックやばいから
 汚したなら自分で洗ってくるか、山を降りて無人のコンビニで拾って来なさい」

「もう出てって」

完全にスイッチの入ったアオアオさんに対し
強引に話を切り上げようとするなのはだったが、

「あ、ところで」

(し、しつこい……)

一旦ペースを握られたら最後、絶対こちらに主導権を渡さない
あの壮絶な手合わせで散々味わった、この魔法使いの真骨頂はこういう場面でも相変わらずだった
ひたすら居心地が悪い会話を捻じ込まれ、延々と続く猛攻に反撃を返せない高町なのは

「…………いいよ、、私が出てく」

そしてついには敗走という選択肢を取る無敵のエースであった

これ以上、下世話な話に付き合うくらいなら
仲間の捜索や事態の打開に周囲を散策したりと、体を動かしていた方がマシである
その場から背を向けて部屋を後にしようとする魔道士

「あ、待ってってばぁ! そうそう、聞きたい事があんのよ、なのはってば!」

なおも追い討ちをかける青子であったが
もはや魔道士に聞く耳など持たない

なのはがその部屋のドアノブに手をかけ、、


「――――フェイトちゃんって、、貴方の何?」


かけたところで、、、、、、


――― 時間が止まる ―――


文字通り、その背中がビクンと震え、、
完全に硬直した高町なのはと
それを興味深げに見やる蒼崎青子

シーン、と静まり返った部屋に
カタカタと、風で揺らぐ窓枠の音だけが響き渡っていた


――――――

「……………え、、、?」

自分の口からそんな呟きが出た事すら認識できずに――

何を言われても無視を決め込んでいたなのはの顔が
今度は完全に凍りつく

「だからフェイトちゃんとか、ユーノ君て貴方の何?って聞いたの」

常に冷静であれ
それは武装隊として、指揮官として
下の者を預かる者に課せられた絶対の心構えである

その教えの元に日々、精進を続け
鍛え抜かれた高町なのはの心胆は滅多な事では揺れない
いわば鉄壁の城だった

その彼女の思考が今――――完全にフリーズしている

「な、、――」

眼を見開いてあんぐりと口を半開きにしながらその言葉を発した主
蒼崎青子の顔を凝視し、

「な、、んで――」

彼女にはまるで相応しくない
掠れるような小さな声でようやっと問いを返すなのは

「あ、ごめんごめん……
 使い魔と主って精神の奥で繋がってるから、、そのね…
 見た事や聞いた事、記憶が漏れてくる事があるのよ、これが」

悪い悪いと気さくに、、、
それはもう、「足踏んじゃったごめんねー」ってくらい気軽な口調で語る青子を前に
今度こそ、、全身から力が抜けて脱力する白い魔道士

(――――――、、)

見られた―――
友達同士でさえ言うも憚れる内容の
あの夢を一部始終――

よりにもよってこの魔法使いに

毛穴がだらしなく開き
総身に得体の知れない汗が滲み出てくる感覚

どんな奇襲を受けた時でも
どんな強大な敵を前にした時でも
なのははこんな感覚に陥った事など無い

「いやしかし大人しい顔して修羅場潜ってるわねぇ、、
 一人の男に女二人と来たら普通、女同士で男を取りあうものだけど…」 

対してペラペラペラペラと一度投下され出したアオアオ爆弾は止まらない
Sっ気全開のブルーが、まるで悪魔のような顔でズケズケと
もはや全ての防壁が抜かれたなのはの心に侵入し、削って削って、犯していく

「一風変わった三角関係だわ、、貴方を取り合う男と女って構図……
 まさかそんな大人しい顔して両方イケる人だったなんて、ねぇ」

満面の笑顔で続く縦断爆撃は留まるところを知らず
免疫の少ない教導官にはもはや為す術もない

「でもね、どれだけオープンな世の中になってもアレよ? 
 世間はやっぱ同性愛には厳しいわよ?
 それに最終的には子供作れないから、将来性の面で行き詰ると思うのよ?
 悪い事は言わないからユーノ君にしときなさい? 
 ハンサムじゃないの彼…このメンクイが」

もはや放心状態の高町なのはには
青子の言葉など、もう半分も頭に入ってきていない

自分がどういう問答をしているかなど既に思慮の外で、、無意識に

「――――子供……いるから」

ようやっと、、それだけを答える

………
………
………

「え、、、、、、えええええぇぇぇぇええええええっっっっ!?」

敵の次の行動を先読みし、幾多の敵を撃ち落としてきた砲撃の勇も
今度ばかりは誤爆の嵐……

今のような放心状態では
その、早く終わってくれとばかりに放った発言が
更なる燃料投下になるなど予想できる筈もなく――

青子のちょっとマジっぽい絶叫が屋内に響き渡ったのだった

「こ、ここ、、子持ちかアンタ!??」

フラフラと後ずさりする魔法使い
ちなみに結構、本気でショックを受けている先生

「こんな乳臭い子がま、まさか……そんなバカな、、、
 人生経験じゃ私のほうが絶対勝ってると思ってたのにィィィィ!!」

頭を抱えて悶える、割と傷心なミスブルーであった

「な、何よこの敗北感……根源が私に遣わした当てつけですか、この娘!?
 ああ、そうよアタシはどうせ旅行が恋人、生涯の伴侶ですよ何か文句あるっ!??」

「ツバ付けといた志貴はアルクェイドに取られちゃうしね」

「猫ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおッッッッーーー!!」

使い魔の的確なツッコミ
憤りにその身を焦がす魔法使い独身
もはや、なのはを攻めている筈が自分のライフがゼロに近いという不思議であった
そんな、自ら仕掛けた爆弾で自ら吹っ飛ぶ自爆魔法使い、蒼崎青子であったが――

「あ、じゃあ……アナタ、フェイトちゃんとキスしちゃマズイじゃない?
 同性愛不倫とか子供が知ったら自殺するわよ? 
 つうか私より見境ないじゃねーか自重しろ」

やはりめげない青子先生
コロっと我に返って、再びなのはの急所をズバズバ突いていく
というより相手の豊富かつ裕福な恋愛環境に半ばキレ気味な青子さんであった

確かに、先の高町なのはの夢を見るに
まず最初にフェイトという金髪の女の子が先に来てその後にユーノという青年
もしユーノという青年が子供まで作っている伴侶ならば、どう考えても優先順位が逆なのだ

おかしい、というより、この目の前の女が
子持ちでありながら金髪女性の方に入れ込んでいるのは明らかである

青子にとっては正直、義憤よりも意外の念が強い
真面目一辺倒のようなこの魔法少女が、そんな自堕落な人間には見えないが、、

という思いから、逆に問い詰める形になった青子の口調は厳しい
それに対して――

「フェイトちゃんとの子供だから…」

………

………

………

………


「どええええええええぇぇぇぇぇええええええええッッッッ!!!???」


もはや見てて可哀想になるくらいに自ら失墜していく
普段は不沈のエースであった

言葉足らずの発言が誤解を呼び
次々と泥沼にはまっていくなのはに対し
青子さんはもはや痺れるほどにハイである

「ちょ、ちょ、、、レン! レーーーーン! 聞きましたかっ!? 
 凄いわ! 何て展開! これは本気で予想外だった!! こ、興奮してきたー!」

「……付き合ってらんない」

夢魔にとっては人間が誰と好き合おうが興味など無い
これ以上、主の馬鹿丸出しな様を見ていても仕方が無い
また散歩にでも出ようかと思い、、

その前にふと、件の槍玉に上げられている人間をチラっと見やり―――


「――――――――ッッッッッ!!???」


上げそうになる悲鳴を辛うじて堪えるレン

その総身が秒を待たずして一気に逆立ち
感覚という感覚が警鐘を上げる

「さすがは宇宙帝国! 既に性別の壁は克服していたか!!
 じゃあ、じゃあ―――ひょっとして男同士でも子供作れちゃったりするわけですか、なのはさん!?」

「………」

(…、、、……~~~~!!!)

そして飛びのくようにタンスの上に飛び乗り――否…避難し、丸くなるネコ

避難というのは通常、外に出ないといけないのだが
パニックになった時、正常な思考能力が働かないのは人も夢魔も同じである

頭を抱えてカタカタと震えて小さくなっている白い背中が待つは
もはや時を隔てずして来たるハルマゲドン―――

人々に終末の黄昏を迎え入れる心の準備の余地など与えずに……
滅びは突然にしてくるのだ

「くう、、素晴らしいかなミッドチルダ……
 そうか、そういう事か、、それなら確かに貴方は魔法使いだ、、今まで否定してゴメンね
 女の子同士で子持ち、、このコンボは反則よマジで…
 さすが魔法少女、、私の完全敗北、、先生、本気で感動してるわぁ…」

「…………」

興奮したブルーに両肩を捕まれ、ガクガクと揺らされる高町なのは
その度に、完全に脱力したなのはの首が
壊れたマネキンのように前後左右にカクンカクンと傾く

そんな中、虚空に泳ぐ焦点の定まっていない魔道士の視線
その瞳孔が――


ドブのように濁っていた


その瞳こそレンを心底恐怖させ
かつて教導でティアナを撃墜した――あの時の、、、

「ねえ、、ところで今疑問に思ったんだけど」

そんな事などまるで意に介さず
自ら破滅に突き進む我らが青子先生

飽くなき探究心と共に
その右手が艶かしく動き
なのはの身体の下方へ伸びていく

そして沈黙のままにされるがままになっている
噴火寸前のプロミネンス火山の下腹部を
無遠慮にまさぐり、撫で回しながら、、

「、、、どっちのココから出たの――?」


――――――


そこは標高にして決して高くない山の中腹

誰とも無く立てられた山小屋の中

人も獣も他にはいない

そんな物静かなセカイに―――


BAKOOOOOOOOOOOOOOONNNNッッッ!!!!!!!


宇宙創生に匹敵する大爆発が起こった


地盤を揺るがす衝撃に森の木々が悲鳴を上げる

小屋の窓からカッと溢れる光がまるで太陽のように辺りを照らし

霜で白みがかった地表を瞬く間に溶かしていく


その小屋の屋根を突き破り
立ち昇る光があった
それは雲を突き破り
空の彼方にまで立ち昇ってなおも勢いを失わず、、
この閉じた世界を、誰よりも高いところから見下ろす


それは言うなれば昇竜のような――――



純潔を散々に踏み躙られた
清らかなる乙女の………


怒りの咆哮であった


――――――


  万人に愛される顔を持つ人間は、その実
  仮面にて本心を隠している者が多い
  何故ならば、全ての人間に愛されるなどという事自体が
  性悪説においては人の摂理に反した行為であり、―――
  その仮面が厚ければ厚いほど
  その者には他人が皆、同じ顔にしか見えていないのではないかと
  蒼崎女史は考えるのである まる


「…………」


  ならばもし、そのような人間と本当に良い関係を築きたいのなら――
  そのペルソナの下を暴く事もまた必要な事であり
  一見、ふざけている様にしか見えない女史の言動も
  コミュニケーション確立のための重要な一歩なのである まる


「何か、、良い事言って締めようとしてるけどさ…」


  ネコがうるさいのである まる


「ホッペにモミジ貼り付けて言っても説得力ないわよね…」


  うるちゃいのである ……痛ちっ、、


「いやもういいから、ソレ…」

「ノリ悪っ、、あによこの猫…
 そんなんじゃ一人前の芸人には……さすがに喋り辛いわ、、」

部屋には影が二つ
全身を白で統一された少女と
長髪を縛ったラフなカッコでベッドに身を投げ出す女性

何の変哲もない日常の会話風景であるが
一つ、異常を上げるとするならば――

女性の右頬にキッチリと刻まれた手の平サイズの烙印の跡であろう

「あの一撃を受けてよく生きてると感心するわ、、
 貴方は化け物には違いないけど、一応、生身の人間でもあるんだから…
 あんま無茶すると死ぬわよ?」

「子供の頃さ―――」

部屋に差し込んでくる橙色の日の光
夕日に垂照らされた長髪を肩から纏めて垂らした女が一人
黄昏るように言う

「姉貴に騙されて大スズメバチの巣を撃ち抜いちゃった事があってね……
 あの時ほど身近に死を感じた事はなかったんだけど、、」
 それ以来だわ……ここまでデンジャラスだったのは」

今まで「その災害」から一人、避難していた少女も
現在は主の愚痴に相槌を打つくらいの余裕はある

「あれだけ挑発すれば怒らない方がおかしいわよ
 あいつが<危ない奴>って事は分かってたんでしょ?
 ……自業自得もいいトコね」

げんなりとした表情で周囲を見渡すレンである

朝昼前に端を発したこの騒動であったが、既に半日が経過し
今や山間から覗かせる夕日が眩しくて目を細める白い少女である

それはその夕日が、、、
いつもより三割増しで部屋に指しこんでいるからか、、

今日は少々、洒落にならない領域にまで踏み込んでしまった
エースオブエースとミスブルーの喧嘩
部屋の壁は所々に大穴が空き、屋根は綺麗さっぱり消滅
既にこの小屋は風雨を凌ぐ役割を為さない


「平気平気…私を誰だと思ってるの? 
 こんなに単なる遊びよ遊び、、、痛っ!」

余裕の笑みを浮かべようとして
切れた右の口内が彼女に激痛を降らせる
それは高町なのはのフルスイングの平手打ちによる傷であり
ビンタで三回転させられたのは、流石の魔法使いも初体験だった

「死徒並の一撃だったわね……貴方が他人の攻撃でぶっ飛んだの、初めて見た」

「アレは予想できなかったなぁ…
 くっそぅ…あのアマ、魔力込めて殴りやがった、、」 

私じゃなかったら死んでるぞと言った顔で愚痴を垂れるブルー

横目でチラっと見やるは、咄嗟に後ろに飛んでなお勢いを殺せず
宙を舞い、きりもみしながらメリこんだ壁の跡…
丁度、自分の体が綺麗にすっぽり入る、それはそれは見事なオブジェである

「命懸けのコミュニケーションね……次は頭を吹っ飛ばされるがいいわ」

何とか受身を取って壁のシミと化すのだけは防いだブルー
九死の戦場を生還してきた主に対し、使い魔の猫の反応はやや冷たい

(ていうか最後の方、、向こうも顔真っ赤にしてたけどね……目に涙溜めて)

まさに絶死の猛攻を死に物狂いで往なしていた青子にそれが気づけるはずが無いが
遠目から横で見ていたレンには一目瞭然

もはやそれはでっかい子供同士の下らないじゃれ合いにしか見えなかった
問題は、二人とも人間を既に止めてる怪獣同士であり
周囲に飛び火する被害が半端ではない事くらいか


「レン……最近アンタ、私に冷たいわよ? 主を慮らない使い魔にはお仕置きが必要かしらね?」

手をわきわきさせながら夢魔を威圧し
ベッドから身を乗り出して起き上がろうとする青子であったが、、

全身から響く ビ キ ッ という破滅の音と共に、、

「あうぅ~~………」

ヘナヘナヘナと再び寝床に突っ伏す魔法使い であった

打っ血KILL上等のエースオブエースを相手にしては
さすがの彼女もダメージがでかかったようで、思うように動けなかった
身体中についた青痣がとても痛々しい

最も――レンの言う通り、、全て自分の蒔いた種なのであるが……

そんな二人(一人と一匹)の
主従のハートフルな会話を今、
真っ二つにするかのように――扉がガチャっと開かれる

「「!!!」」

空気がピリっと凝固する感覚

この山小屋を利用しているもう一人の住人
先ほどまで殺意の波動に目覚め、魔法使いを引きずり回し
そのまま部屋から出ていってしまった、この災害の根源である彼女――

高町なのはが、、再び部屋を訪れたのだ


脊椎に電極でも差し込まれたかの如き、見事な反射運動で
ピシっとした正座で――鬼子母神を迎える二人

「これはこれは、、ご、ご機嫌はいかが…?」

「に、にゃーん…」

筋金入りの魔法使いではあるが、さすがにこれ以上ふざけてると命に関わる
上目使いでその相手……高町なのはの顔色を伺うが、、

その顔からは、未だ煮えたぎるマグマのような怒りを内包した心境なのか
幾分、落ち着いてきたが故の無表情なのか分からない
何せ表情から思考を読み取る事の難しい相手である

この目の前の女は――無表情で全く猛り狂う事なく、怒りの鉄槌を振うから恐いのだ

あれだけ人を虚仮にしておいて
パタパタと手を振ってフレンドリーに接してくる蒼崎青子と未だ怯えの色を隠せない少女
無言無表情のまま、その視線を彼女らに落とす魔王、、否…高町なのはであった

、、、が

ややもしてその二人のテーブルの前に
コトっと――綺麗な柄の入ったティーカップが置かれる

「ありゃ…?」

「に、にゃーん……?」

相手の意外な行動に目を白黒させる二人を前に
些か、ばつが悪そうに目を逸らし、

「傷………大丈夫?」

さっきまでタコ殴りにしていた相手の身体を気遣う高町なのはであった

「いや、さすがは空のエース様ね。 凄い一撃だった」

「見せて……」

右手に下げた救急セットは、初見にて激突し瀕死の重傷を負った二人が
互いの持ち合わせと知恵を振り絞ってかき集めた応急処置の薬や包帯を纏めたもので
それを卓に広げたまま、、空いた左手を青子の頬――その腫れ上がった箇所に触れる

その触診に黙ってされるがままになっている魔法使いであったが
時折走る痛みに、ピクッと顔をしかめ、体を震わせる

「外傷はこれだけ……思ったより平気そうかな、、」

「うむ、余命が一分縮んだ」

「そう、よかった…」

「いや冗談、、二番と三番にもヒビが入ってる……」

肋骨の辺りを擦りながらあくまで気さくな態度で話す青子
あれだけ派手に喧嘩をしたというのに、まるで何もなかったかのような彼女の様相
逆に構えていったなのはが拍子抜けするほどのあっけらかんぶりである

魔道士は思う…
この女性は本当に、、
大概の事は洒落と戯れで済ませてしまう性質なんだ、と

だがしかし、それでも
言うべき事は言わなければならない

「―――― 一つ約束して……」

静かにゆっくりと、その重い口調を開く高町なのは
その声に些か緊張の色が灯るのは
節度を重んじる人間とざっくばらんな性格の人間との間に生ずる決して薄くない壁のせいだろう

「悪ふざけも度が過ぎると悪意にしかならない…
 あんな風に心の中を穿り返されて嬉しい人はいないよ」

それは寡黙な瞳で語られる、恐らくは彼女の最後通告だろう
人は本気で怒ったり切実に願う時は寡黙になるのだ

「今度あんな事されたら、私……
 もう青子さんとは一緒に行動出来ない、、したくない」

そして相手に頼むのだ
頼むからこれ以上、踏み込まないでくれと 
自分に一線を越えさせないでくれと

その切なる言葉が、、、

「でもアレ、見られて困るものじゃないわよね?」

まるで壁を作らない人間にはどうしても理解できない

――その線引きが分からない者同士
――その空気が読めないもの同士

そんな両者は、どれほど長く付き合っても
開けっぴろげに話をしても
決して良い関係を築ける事はない

相手の言葉を聞き、もう何を言っても無駄なのかと、、
悲しみすら称えた瞳を返すなのは

分かって貰えない事も悲しい
性格の不一致は決定的だ
そして、あんな風に他人に手をあげてケガをさせてしまうのもイヤだった

―― 明日、ここを出た方がいいのかも、、 ――

本気で別離の意思が頭をもたげる高町なのはであった