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――少女の口から語られるは、、

―― かつてあった戦争の話 ―― 

否、、戦争と呼ぶにはあまりにも小さくあまりにも局地的で、、

紛争――それも違う

何せ全宇宙を支配化に置く強大な組織に対し
戦いを挑んだ者は唯一人だったのだから

後の世にただ、「テロ」としてのみ記録される彼の反逆は
組織の圧倒的な力によって鎮静化された

――その者は道化だったのだ

卓越した頭脳と尽きぬ欲望を持ち
己が意のままに知識、真理を求め続ける狂った探究者

だがその行動も言動も、、、全ては組織の仕組んだ茶番劇だったのだから

踊らされるように―――
でも、その中で精一杯もがいて男は組織の枠を食い破ろうとした

植えつけられた無限の欲望・行動理念はそのままに
生みの親である組織をも食い尽くそうとした男の名は――

―― ジェイル・スカリエッティ ――

男は自分の夢の具現であり
また夢を実現するための手足を作り、組織に対抗する

――だが、あと一歩というところで、、

彼とその手足は組織が誇る精鋭部隊
スペシャルフォース――「機動6課」の投入によってその野望を挫かれる事となる……

「では、、……」

「そう……その時、博士の手足となって戦ったのが戦闘機人――
 ナンバーズと呼ばれる半機半人の者、、私はその一体」

粛々と語るナンバーズの5
その口調に、内心の口惜しさを表に出さないように、、

話は続く

「で、さっき言った通り――私たちは負けて捕らえられる事になる
 敵の理不尽なまでに巨大な力の前に、夢も希望も踏み躙られてな」

その後、無限の欲望・スカリエッティの予め用意していた様々なルートを駆使し、脱走した彼女たち
全宇宙、全次元に根を張る組織――時空管理局に対抗すべく
男はアルハザードの叡智より生み出された禁忌のロストロギア
神々の遊戯盤 <Der Ausschus der Gotter>を持ち出し、それを自分の手でアレンジして使用する事で
巨大な敵に対抗できる力を集め、奴らを迎え撃てないかと考えた

かつて夜天の書と呼ばれた魔道書が悪意に染まった改造を受け
最悪のロストロギアとして、全次元を恐怖に陥れたように――

――最もこのロストロギアの事はまだ禁則事項に触れるので
――騎士には伏せていなければならない

ともあれ、自らの叡智と強大なロストロギアを駆使する事によって
男は再び―――時空管理局に反旗を翻したのだった

「お前が数日前、出会った魔道士はその組織――時空管理局が誇るトップランクの魔道士
 無敵のエースオブエースの名を冠する、、、ま、我々の敵という事になるな」

「………彼女は罪を犯し、逃亡した者を捕らえるためにこの地に派遣されたと聞きましたが」

「罪、か」

フン、と鼻で哂う少女

「――――罪って…………何だ?」

先ほどまでの屈託のない人懐っこい笑み――
それとは一線を画した陰惨な含みを持った表情だった

「自分たちで仕組んでおきながら、全ての罪を押し付けておきながら――罪って……何だ?  
 私たちが罪人ならあいつらは何だ?
 あいつらこそ、、、、正義の皮を被った人でなしじゃないか?」

「ナノハが虚言を弄したと? 
 私にはあの魔道士が邪悪なものには到底見えなかった」

「どちらが正義かと問われれば皆、間違いなく向こうを指すだろうな
 私たちは敗者でテロリスト、向こうは空の英雄――アイドルだ」

無言で口を引き結ぶ目の前の少女

「空の英雄なんて呼ばれていい気になってる奴の性根なんて皆同じ…
 所詮は敗者に悪を押し付けて踏み台にして――
 自分はおいしいところを持っていく………そんな奴らの集まりだ」

少女の目が悔しげに沈む
彼女の言葉の端にはそうやって――

「奇跡の舞台・機動6課」の勇名を添える供花として貶められた
父ジェイルスカリエッティや戦闘機人の無念が滲み出ているようだった

博士の正しさ、優秀さを証明するために作られた彼女達にしてみれば
その事実こそ最も許し難い事であろう

――悪の烙印を貼られた者にだって言い分はある

言葉に出来ない苦渋
沈黙するその表情が精一杯に――そう訴えているのだ

「………」

それに対し沈黙を以って相対する騎士

(だが……その理不尽もまた戦の世の理――)

「チンク、――」

ならば異邦人、、部外者に過ぎない騎士に何が言えようか…?

そう、騎士が少女に対して言える事は1つだけ

「――――私も、、貴方の憎む英雄です」

「!」

ハッと顔を上げる少女
腹ただしさからつい感情に任せた言葉を吐いてしまった事を後悔する少女
失言だったか、と――その目が探るようにセイバーの顔を見やるのだが、、

騎士はさして気にした様子も無く続ける

「貴方はその相手に仲間を殺されたのですか?」

「……………姉が死んだ
 そしてお前の出会った魔道士には二人……半殺しにされてる」

「そうですか」

未だ幼さを遺した少女の口から紡がれる乾いた言葉
それは戦いが、思い出したくも無いほどの彼女達の惨敗だった事を容易に想像させる

その悔しさ、空しさを十二分に感じた、、その上で―――

「あなた方のように―――体制に不満を持ち反乱を起こす者が
 ことごとく処断されるのは世の常……世の理なのでは?」

「っ!!」

セイバーはこの幼い少女に冷酷な刃を突きつけた

「法を行使する者は即ち民の安寧を担う者
 その課程で――炙れた者を粛清する事もまた当然の事」

「、、、何だと……」

少女の顔が次第に憎悪に染まっていく
一つしかない少女の瞳が、穴があくほどに騎士を睨む

「じゃあ粛清された者が正しくてもか……?
 処断された奴の中には、やむにやまれず道を誤った者も、その相手から嵌められた者もいるんだぞ?」

「いるでしょうね」

「大のために小を晒して辱めて切り捨てる……
 じゃあ、そんな風に切り捨てられた者はどうなるんだ?」

「1000年の憎悪と怨嗟を抱きながらに地獄に堕ちるのでしょうね」

「な、、、―――」

「かつて――そうして国を治めた王がいます」

抑えようの無い憤怒の声をあげようとするチンクであったが……気づく

騎士の様子が――表情が、さっきまでとまるで違う事に
その怜悧な相貌は見る者の心胆を凍らす

初めの、マスターの身を引き合いに出された時の激情とも違う――

―― 言うなれば圧倒的な威厳 ――

それが、目の前の寝具に腰掛ける騎士から放たれている

「その王は、ひたすらに国の豊穣と発展を目指し――その妨げになる者を機械的に排斥した
 国を栄えさせるために10の村を潰した―――
 法を犯した友を、重臣を処罰した―――
 反逆の狼煙を上げた自らの肉親を斬り捨てた――」

「え、、英霊…………?」

「貴方は先ほどナノハ達に仲間を傷つけられたと言いましたが――」

まるで能面のような表情を以って、、

「その王が相手だったなら酌量の余地など与えない
 全員を斬り捨てている」

苛烈なる世の理を示すのだった

――――――

外から吹く風が
カタカタと窓を揺らす
まるで少女の揺れ動く心情を表すかのように

その只中で――言葉も無く両肩を震わせる彼女が
やっと搾り出すように、、一言一言、紡ぎ出す

「それが、、そんなのが正義か…… 
 胸を張って正しいっていえるのか……」

「………」

「お前の出会った魔道士……エースオブエースが
 反・管理局の連中に何て呼ばれてるか知っているか……?
 お前の言う<憎悪と怨嗟>の念を込めてこう呼ばれてるんだ……管理局の白い悪魔って」

「………」

「正しい事をしてる人間が悪魔だなんて呼ばれるか!?
 自分らにとって都合の良い理屈を押し付けているだけの奴らに正義があるのか!?」

目尻から涙を滲ませてチンクは叫ぶ

「話を聞くだなんて口先だけだ! 結局は力で言う事聞かせようとしてるだけの奴らにっ!!!
 銃口を突きつけながら恭順を強いてくるような奴らにっっ!!!!」

仮に自分達が博士の正しさを証明しようと法の元で戦ったとしても無駄だっただろう
管理局の悪辣さを証明しようとしても握り潰されるだけだ
屈辱を被って更生組になり、スカリエッティの減罪を求め続け、、
それすらも頑として受け入れて貰えなかった

その怒り……やるせなさ
負の感情のままにまくし立てる少女

それを――

「……………」

騎士は手で、、制した

「チンク……私はそれが正しい事だとは言っていません」

「――――え?」

涙が滲み、赤くなった瞳で騎士を見る

見れば騎士は、、
先ほどの厳粛なる為政の顔を以って少女を切り裂いた騎士は
元の穏やかな表情に戻り―――優しい目を、この小さな機人に向けていた

「チンク、、正義は一つではない
 貴方と相手……どちらが正しいのかなど――私に決められようはずも無い」

「ど、どういう事だ…? だって、、」

「話の続きをしましょう――」

少女の悲しみに染まっていた表情が一変して懐疑の感情を写す
まるで頭の上に「?」マークが見えるかのようで、、
この豊かな表情こそ幼子の為せる業なのだろう
騎士はクスっと、、笑みを零してしまう

「その王は―――力を以って国を平定し
 貴方が感じている類の義憤を、内外共に全て斬り捨て
 情に左右されず、大を生かし……小を殺し続けてきたのです」

そして再び語られる――とある王の物語、、

「だが、その怨嗟は決して消えずに残るのだ……
 少しずつ確実に――――
 そして最後は必ず滅びの刃となって、、国に亀裂を生じさせる」

近寄り難いほどの威圧感を以って語っていた騎士の目に
常人では気づかないくらいに小さな揺らぎ―――

「その施政の最期は惨めなものでした
 人心は離れ――国は割れ――数多くの民を、友を無駄に死なせ、、
 愛する祖国を滅ぼした……愚かな王の物語です」

それは一抹の痛ましさに相違ない

「愚鈍な暗君に率いられた国の末路を絵に描いたような結果、、
 だが、後の世にはその愚か者は救国の賢王・名君として称えられているらしい……
 ふふ、笑い話だと思いませんか?」

「じゃあ、、、その王様はやっぱり間違っていたって事じゃないのか?」

「それを間違ってる、と断ずるつもりはない」

「何だよ……矛盾してる、、」

語りながらも騎士は不思議な気分にかられていた――
何故、自分は見ず知らずの相手にこのような話をしているのか、と
好んで聞かせるような話では決して無い、この話を――

「単にその王が器ではなかっただけです 
 才気なき者がいかに行使しようと、どれだけ苦心しようと決して駆使出来ぬもの
 正義を為すとは――それほどまでに難しく、、重い」

ことに戦ほど、正義と悪とにはっきりと分け難いものはない
それは互いの正義と正義のぶつかり合いだからだ

そして勝った方が正義にして英雄
負けた方は悪の烙印を押され
その英雄に敵対し、打ち滅ぼされた愚かな者として――未来永劫、その名を蹂躙され……排他される、、

「ちなみにその王は死の直前……己の愚才に絶望し、世界にやり直しを求めたそうです
 王の選定をやり直し……自分より相応しき者が王となる事
 国を繁栄に導く <真の正義> を打ち立てる者が現れる事を願って―――」

そう……自分は蹂躙し踏みしだき、幾千の屍の上にその名を記した英雄だ
故に――蹂躙され傷ついたこの小さな戦士を励まそうとした、、

「―――今も剣を振るっている」

騎士なりの思いやりであったのかもしれない………

「――――――まさか……」

「その浅ましい姿を見て――
 王に処断され、地獄に堕ちた者はどう思ったのでしょうね……
 歓喜? それともより深い憎しみ、か――、、」

目の前の騎士の表情を見れば誰だって気づくであろう
チンクもその話が誰を語ったものであるのか……ようやっと理解する

「お前が、、、?」

目の前のうら若い人間の少女にしか見えない
美しく優しげな騎士の口から語られる、、

――― 想像も出来ない求道と断罪の道 ―――

「……………」

「……………」

しばし呆然と佇み
言葉を紡ぎ出す事も忘れた少女

「そ、その、、、、」

怒りや憤慨など完全に吹き飛んでしまった……

「済まなかった……」

そこにあるのは、同じ戦士として
ただ直向に生きた一人の騎士に対する尊敬の念のみ

「――――何故、貴方が謝るのです?」

少し意外な顔をするセイバー

一宿一晩の礼にと、、悪者になってせめて彼女の義憤を全て受けてやろうと覚悟をしていただけに
少々、拍子抜けの騎士であった
それに対し――もう一度素直に頭を下げる少女

「辛い過去だったのに……無下に掘り返してしまった
 私も少し口が過ぎたよ、、」

「………」

「前の戦い……私たち機人は6課の魔道士にとって保護対象
 皆、生け捕りにされ、腹の中にあった博士の構成因子を除去された挙句
 各々の更生プログラムを組まれた……」

「先ほども言いましたが、命があるだけよかったのでは?  私ならば――」

「よかない、、戦う者として戦場に出てって、、結局、憎むべき敵にもなれなかったって事だ…
 プライドも何も砕かれて、姉も妹も意気消沈して存在意義を失った
 そこに優しい言葉と世界を突きつけられれば……心も折れるさ、、、簡単に」

「………」

「でも考えてみたらさ、、、そのエースオブエースに妹の面倒、見て貰ってるんだ…
 結果的にそうなったとはいえ、少しは感謝しないとな、、、、ハハ、、ハ―――」

乾いた笑いが部屋に木霊する

「でも何かさ、、、悔しくってさ、、、、ハハハハ、、ハ」

少女にも英霊の言葉は理解できる
世界は正しい、正しくないだけで割り切れるものじゃないと……少女は学んだ
生れ落ちて幾年と立たない機人である彼女にも
これまでの生から、理屈だけではこの世はどうにもならないんだという事を理解し始めていたのだから

故にそれは
可愛い妹を取られてしまった
博士の夢を叶えられない
無力な自分

でもどうにもならない――様々な悩みや怒り、嘆きを含んだ、、

―― 少女の声にならない慟哭であったのかも知れない ――

「チンク――今の話に出た魔道士・タカマチナノハと私は剣を交え
 共に闘った戦友であり――恩人です」

「え……、、?―――」

「私はあの者と友の契りを交した…… 
 今度会う時は我が剣にかけて――共に戦おうと」

しばらく焦燥に苛まれていたチンクであったが――その顔が今、真っ青になる
それこそが―――少女が足早にセイバーの元を訪れた理由

それだけは防がねばならない、、、最悪の展開だったのだ

「じゃあ、あの魔道士が頼めば……お前は私たちの敵になるのか?」

「あの者は自らの世界の争いにおいて我が助力を請わないでしょう」

恐る恐る尋ねる少女に対し、答える騎士

セイバーとて断言できるほどに高町なのはと接したわけではないが、、
彼女は他人に迷惑をかけることを嫌う…
無関係のものを巻き込む事を良しとすまい、と
そんな気がしたのだ

「それでも……頼まれたら?」

「もし請われれば―――己の力が及ぶ範疇であれば、、私は助力を惜しまないつもりです」

「っ!!!」

飛び上がらんばかりに身を乗り出し、何かを唱えようとするチンクだったが…
再びセイバーに手で制される

「しかし……それも以前までの事――
 私を介抱してくれた目の前の少女もまた、邪なものには到底見えない
 そうである以上、ナノハの請いとはいえ………貴方に剣を向けたくはない」

「英霊……」

「故に――どちらの正義も立証出来ぬ以上
 1人の騎士として、あなた方の戦いに介入する気は無い
 我が聖剣は、故無く片方に註を下す剣であってはならない……
 既にこの世の者でない私には―――その権利は無いのですから」

断言する騎士であったが、その顔は少女の目から見ても苦渋に染まっている
友達との友情と約束、そして道理――
その板ばさみになって本気で悩んでいるのだろう

所詮は他人同士のイザコザでしかないと断じつつ
この戦いの事を――騎士は騎士なりに考えてくれているのだ
それを感じ取り、少女は、、

(ああ、、こいつ――)

「チンク……貴方は妹思いなのですね………
 そして立派な考えを持った戦士でもある」

(こいつ……)

「ナノハに聞いて、漠然と想像をしていた叛逆の徒とは全く違う 
 もし今日、貴方と話しておらず、戦場で出会っていたならば
 私は貴方やその仲間たちを無頼の輩として――躊躇わずに斬り捨てていたかも知れない」

そう言って騎士は、、

「――――そうならなくてよかった」

眩いばかりの微笑を称えて……一人の騎士としての問答を――終えるのであった

(、、こいつ……良い奴じゃないか、、)

  管理局の連中なんかとは断じて違う

  こいつの言葉は……奇麗事だけではない

「故にチンク――今の私は1人の騎士である前にサーヴァント・セイバーです…」

  自分の汚い部分を晒して、見据えて、、苦悩して

  こんなになってまで、自分の目的のために頑張って

「今の私は聖杯戦争にて聖杯を求める者 
 そして我がマスター・エミヤシロウを守護する剣です
 それが今の私の全て――あらゆる事に優先される絶対の契約、、」

  今日会ったばかりの私にこんな風に接してくれる

  対等のものとして……

「貴方は我が問いに一つも答えていない
 今度はこちらが問う番だ………シロウは―――どこです?」

(カッコいいなぁ…こいつ)

  まず力を行使して道理を押し付けるのではなく

  あくまで道理を通してから、剣を抜く

騎士は既に少女に対して微笑を以って接しておらずサーヴァントとして問うていた
つまりは決別――この戦いに自分は一個の存在として介入しないという意思
、、であるにも関わらず……

「……………知らないんだ、私は」

「そうですか……」

機人の少女の心は目の前の一個の騎士に……どうしようもなく惹かれてしまっていた

「ならば――私はマスターを探さねばならない 
 ここでお別れですね……」

「……随分簡単に引き下がるなぁ、、私の言葉を信じるのか?」

「その隻眼を信じましょう――貴方の目は虚言を弄する者の目ではない」

「さっきの料理の時、信じてくれなかったじゃないか?」

「はい――我が第六感に逆らったが故に
 先ほどは、とてつもない災厄に見舞われました」

再びクスっと、、、騎士は笑う
それに釣られてチンクも満面の笑みを作り、、

(英霊……私も――手ぶらで帰る訳にはいかないんだ)

背を向けて家を出て行こうとするセイバーに対し思いを馳せ、そして……

(お前がマスターのためになら全てを投げ出すように、私も博士の夢を叶えるために戦っている)

「しかしお前とあの魔道士……戦友の契りとは大仰だなぁ
 一回会っただけのやつとそこまでの間柄になるなんて、、」

少女は――再び声をかけていた

もはや問答は終わりとばかりに背を向けた騎士の背中に、である

求めていた収穫はなかったが良い出会いだった
そして騎士も、自分達には剣を向けないと約束してくれた
だから――――ここで気持ちよく分かれるべきだったのだ、、、

肩越しに答えるセイバー

「……戦場において騎士同士が剣を合わせた時、心が通ずる事が稀にあります
 もっとも私と彼女のは特殊な例かと――
 後に力を合わせて共に闘ったのが大きかった」

「剣を合わせた者同士の友情か――なら、、」

戸を開け、出て行こうとするセイバーに対し……少女はもはや止まらない
その騎士の背中を押し留めるためにチンクが叩き付けたものは――――

「なら、、私も同じ事をすれば……分かって貰えるかな?」

―――  殺気  ―――

「―――――、」

「…………」

――――セイバーの歩が止まる

肩口に首だけ後方を仰ぎ見て、、、遠ざかろうとしていた少女と相対する

(ムチャクチャな理論だな…、どうした私…)

チンクもまた戸惑っていた、、
いくら何でも強引過ぎるその手段
いつもの自分からは考えられかった

「―――そうなる可能性は極めて低いでしょう
 戦で剣を交えるは即ち、どちらかの命尽きるまで戦うという事……
 互いの力量が伯仲しつつ、何らかの理由で戦闘が中断されない限りは――」

「可能性はゼロじゃないんだろ? だったら、、」

(うあー!!? 何!? 何、言ってるんだ私はッ!?)

「あの魔道士と同じ肯定を踏めば、私とお前は戦友だ
 まずは私と一戦、、そして共闘――相手は管理局辺りにして貰おうか」

「…………」

(ここまで話し合いで来たのに今更、ケンカ売ってどうするんだバカバカ!!)

もはや一人の天才科学者が作り上げた高性能AIの暴走は止まらない
少女の中で何かが変わりつつあるこの局面にて――それは同時に彼女にとっての最大の正念場となる

「剣の英霊――お前に決闘を申し込む」

「………断る」

その話は先ほど終わった筈だとばかりに取り付く島を与えないセイバー

「戦う理由がない……言ったはずです
 この戦いに介入する気はないし、貴方には剣を向けたくないと」

「なら、お前が勝ったら――主の元への帰り方を教えてやるよ」

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

(ああ…冷静さを欠いてるなぁ……行動が理論的じゃないぞ私……)

もうどうにでもなれ、とばかりの少女である……ほとんど特攻だ

この英霊に対して、この札は――
この札だけはヤバイと知っていながらそれでも使った、、、

――― 使ってしまった ―――

案の定、、、

(はは……ほーら、来た―――)

ざざざ、、と――
まるで音に聞こえるほどに
騎士を取り巻く、大気を支配する気流が変わっていく

問答は終了という騎士の意思を捻じ曲げるほどの爆弾――

「――――先ほどは知らないと……
 私を謀ったのか?」

そして捻じ曲られた以上、、、
再び修復出来るほど―――この騎士は甘くはない

「居場所は知らない……だけどそこへ帰る方法は知ってる
 お前が勝ったらそれを教えてやると言ってる―――だけど、私が勝ったら」

ゆっくりと………向けた背中が再び向き直る
猛獣の感心を引く為に己が身をエサにした
それがどれほど危険な行為であるか――
確かな熱を持ってこちらを凝視している
その両の碧眼を見るまでもなく分かりそうなものだ

だが、、、
それでも、、
少女はもう止まらない、、、、

だって―――

(だって、、、、私――――どうしようもなく、こいつが欲しい…)

「契約しろ――」

その緑色に輝く瞳から一寸も目を逸らさずに少女は言い放つ

「………貴方のサーヴァントになれ、と?」

「違う」

チンクは、この邂逅において
騎士についぞ見せなかった――獰猛な笑み
即ち戦士の顔を露にして言った

「   私の――――妹になれ   」

――――――

「……………」

微かに目を見張るセイバー

妹、、?――という疑問が頭をもたげている…

当然といえば当然だが――

もっとも今のこの騎士には些細な事だ、、
それはもう、これ以上ないくらいに些細な、、

そしてチンクもまた、、

(戦いたい…こいつと一緒に)

その思いを、猛りを抑える術を失っていた
それも当然だ
機人としてずっとラボで暮らしてきた彼女らにとって
激しい感情、欲求を抑える「自制」という機能なんてものは必要なく
それを行使する機会もまた……ありはしなかったのだから、、、

「英霊と剣を交えるという事の意味――分かっているのですか?」

鋭利な刃物のような声だった
言葉だけで他人を圧する戦士とはこういうものをいうのだろう

「お前が強いのは知ってるよ」

「分かってなお、私と戦うと言うのか」

「もちろんだ」

「…………」

少女に恐れは無い
だが、相手の圧倒的な力は分かる……
分かっていてなお、、

(変えられる……こいつを連れ帰れば、、
 私たちの道――閉じかけた夢をまた開く事が出来る!)

少女は挑む
産声をあげたばかりの感情を以って
無謀なる相手に

「冗談では済みませんよ?」

―――それはもはや騎士からの最後通告に等しい
それだけで心臓を止めてしまいかねない程の圧力を以って紡ぎ出す言葉を少女は真っ向から受け止め――――

「…………表に出ろ、英霊」

立ち上がる
そして溢れんばかりの気を放つ剣の英霊の横を豪胆にも通り過ぎ――
先に出口へと向かうのだった

「――――いいでしょう」

その後ろをゆっくりと、、、、騎士・・・否、サーヴァントが続く

開け放たれた部屋の扉
台所の拙い調理の跡
全てが夢幻であるかのように―――
不在となった空間に――――

寂しげな風が吹き篭れるのみであった

――――――