冬木の中央公園の暗がりに清澄なる真名が響き渡る
「理想望光(ザバーニャ)」
捕らえること何人にも不可能と思われた戦士の四肢に暗殺者の魔の手が届いた
「――無駄だよ。貴方の対魔力、神性、ルーンの加護、どれも私の宝具には関係ない」
終始戦場を支配した戦士の王、アルスターの大英雄
その並ぶ者なき強靭な脚力が魔力の、いやエーテルの戒めを破るため大地を求めた――無為
「残念だろうけど……今の貴方の魔力じゃ、抜け出せない」
暗殺者の涼やかな、女の、声は絶対の確信を持っていた
「…………どーりでその魔力、貴様、アサシンではなかったか」
「私はハサン、アサシンのサーヴァント

 そして私の宝具はここで終わらない」

暗殺者の宝具は相手を殺すためにある
ランサーを縛る力はアサシンの魔力を超える筋力、魔力がなければ外せない
彼女は相手の魔力を見極めると共に、相手が空に上がる事を待っていた
つまり、現状は必殺への布石
「いくよ」
ハサンの名にあるまじき宣言、次いで膨大な魔力が全開放
巨大な魔法陣が形成され、周囲のマナを飲み込む桜色のブラックホールが誕生した
「くそがッ!シャレになんねえぞッ」
宝具の縛りは結果を待ち望み、なおも続く
「…………………………………」
「…………………………そろそろかな」
力の収束が限界を迎えた
「………力…開……、スターライト…ブレイカー」
怨念満ちた平原の闇から奪った光(マナ)が、天に輝く星々の光を蹂躙する
―――その生涯に何度ふるったかも分からなくなった、断罪の一撃だった




冬木の公園に立つ者はひとり、今宵の執行者であるアサシンであった
「―――貴方のことはよく見ていたけれど、まさかそんな手で生き残るとは思わなかったな」
ランサーに回避の目はなかった
豊富な戦闘スキル、仕切りなおしは封じられ、防御のためにルーンを刻む地面は遙か下
アサシンの戦術は、ランサーの防御の術を奪ったはずだった
「――真逆(まさか)、自分の体にルーンを刻むなんて」
上級宝具の一撃を防ぎきる加護、その全てを己が肉体に、
魔槍ゲイボルクで全ルーンを刻み込むことで耐え切ったのだ
「その最期まで戦いを駆け抜けた英雄、か」
―――私にもそんな可能性があったのだろうか
女の技能は感傷と索敵の同時平行作業に発揮され、男が離脱、補足が不可能となったことを告げていた
「…いかなきゃ」
声を失った相棒、レイジングハートのため、懐かしい笑顔たちにもう一度会うために
纏う布切れは翼のようであり、間からのぞく脚はあくまで白く
白き仮面からこぼれる髪は漏れ出る魂のようであった

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最終更新:2008年10月06日 19:32