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「くそ、こんなときに…」
 自分の不甲斐なさに焦燥感と怒りを覚える。今、この時、俺の力が必要だというのに、こうして床に伏している自分に辟易する。
 クールになれ、クールになれ…自分の思考とは裏腹に、体は火照っていくばかりだった。
「ごめん、みんな」
そうして、何もかも忘れて、目を閉じようとした。

 でも、そうさせてはくれなかった。

―――あんたが悲観的なんて、らしくないわよ!



「ねーお姉ちゃん聞いた? 誠君、風邪ひいたんだって」
「そりゃあ、知ってるわよ」
 たぶん誠君は、私に最初にメールをくれたと思うし…
「どうしよう~、誠君、大丈夫かな? 入院とか、しちゃわない?」
「ばか、そんなん重い病気じゃないわよ」
「そうなの? よかった~」
 熱が38度…といっていた。誠君のお母さんの許可をもらって、誠君に電話した感じでは、つらそうだった。
 大丈夫かな…と、私だって心配だ。私はその、誠君のか、か、か―――まあいいや。一人の友達としても……いや、見栄を張るのはよそう。
 誠君が一番大事な人である私は、本当はいますぐにでもお見舞いにいきたい。
「それにしても困りましたね…誠さんも心配ですし、学園祭のほうにも大幅な支障がきたしてしまいます」
 みゆきは、そういいながらも、さっそく事後策に考えを巡らす。そういった真似は私にはできない。
「…ねえ、こなた」
「誠君のお見舞いにいかない、でしょ?」
 な、こいつ超能力者か!?
「そそそそそそそんなことないわよ! ただちょっと心配なだけよ!」
 そうして赤面して、否定していること自体が肯定ということはわかっているのだけれども…
「かがーみー、誠君の彼氏なんでしょ? もっと素直になったらいいのに」
「仕方ないでしょ! てゆーか恥ずかしいこというな!」
「あーあ、誠君も難儀な彼女をもったことですねー。可哀相に」
「うっさい!」
 こなたの言うことも一理ある…私って、素直じゃないな。
 それでも、誠君はそんな私を好きだといってくれたのだ。ぜんぶ、好きだと…
―――こなたには悪いけど、それだけは私の自信。ツンデレがどうかとか、こなたは言うけれど、そんな私でも誠君は好きだといってくれると思う。
「それでかがみん? お見舞い、いくんでしょ?」
「そりゃ、友達としても、いかなきゃだめでしょ」
「『友達』ねえ。相変わらずナイスツンデレ!」
「ツンデレじゃないってば!]
…やっぱり否定してしまう。結局私は、頭の中で「彼女として」と付け加えた。
「お見舞いかあ…お姉ちゃん、ごにょごにょ」
「ええ!? でも、無理よ。私じゃ…」
 つかさの提案は、とてもいい案だと思う。でもそれは、実行できればの話。つかさならともかく、私になんてできるのだろうか。
「私が精一杯教えるから、ね? きっと誠君大喜びするよお♪」
 う…わが妹ながら――きっと天然なんだろけど――私を奮起させる言葉をさらっといえるやつめ。そんな言葉を言われたら、私は…
「まあ、つかさがそういうなら、やらないこともないけど?」
それが、私の精一杯の抵抗。
「わあい、お姉ちゃん、頑張ろうね!」
 つかさはまるで自分のことのように、大喜びした。そういうつかさを見ていると、微笑ましいし、私もがんばろうと思った。
 よーし、誠君、待っててね!



「それでは、放課後にしますか?」
「あ、できればもう少し後がいいんだけど…ね、つかさ」
 私はそうしてつかさに目配せをする。
「えー、なんでお姉ちゃん。誠君も早いほうが喜ぶと思うんだけど」
「…」
 まあ、つかさはそんな子よね。
 内心ため息をつく。目配せが通じる子じゃないわね…。
 つかさは、ぽんっ、と思い出したように手を打った。
「あ、そうだったー。うん、私ももう少し後がいいかな。だって――」
「わ、わあああああああああ」
「ちょ、なにかがみ!? もしかして壊れた!?」
 こなたが胡散臭い目で私を見つめる。確かに古典すぎる…
「それではかがみさん…いつごろがよろしいでしょうか」
「8時…くらいに一度落ち合わない? ちょっと遅いけど、大丈夫だと思うわ」
「わかりました。では、一度解散しましょうか」
「あ、そーだみゆきさん」
 こなたが思い出した、という風にみゆきに話しかける。
「なんでしょうか、泉さん」
「ちょっと話したいことがあるんだけど、後でいいかな」
「了解しました。それでは、みなさんまたあとで会いましょう」
「こなちゃん、ゆきちゃん、またあした~」
「明日じゃないでしょ…」
 私がそういうと、つかさは「あ、そうだった~」とごまかしていた。



「よし、つかさ、私たちもはじめよっか」
 5時に帰宅して、私はさっそくつかさに話しかける。
 7時半に駅前で待ち合わせしてあるから、時間はあまりない。
「えっと、材料あるかな」
 つかさは冷蔵庫をあける。私に振り向いて、うん、大丈夫といった。
「よかったわ。それで、最初はどうするわけ?」
「うーん…鶏肉はあるし、なべをだしってと。
―――おねえちゃん、包丁握ったことある?」
「つかさ……喧嘩売っている?」
「ご、ごめん…」
 そもそも家庭科の授業で一緒に作ったじゃない。そりゃあ、あんまり役には立てなかったけどさ。
「じゃあお姉ちゃん、簡単に説明するね」
「よろしくね」
「えっとまずは鶏肉に塩を振って、焼いた後、生姜をいれるの。ねぎ、水を入れて、弱火で20分くらい。
 鍋に好きな野菜――お姉ちゃん、ううん、誠君が好きな野菜かな――をいれて、弱火で煮込む。
 あとは、簡単に味付けするだけだよ」
 誠君の好きな野菜、知っているよね?とつかさが聞いてくる。え、えーと…
 そりゃあ、好きな料理とかは知っているけど…。
 結局私は無難な玉葱や人参、ほうれん草などを選んだ。
「け、結構難しいわね…」
「大丈夫だよ、困ったら私に聞いてね」
 つかさが頼もしい。いつもこうだったらなあ、なんて思ってしまう。
 さ、最初は鶏肉かしら…、まな板を取り出し、右手に包丁を握る。「手を切らないように、左手の指先は折ってね」とつかさに教えてもらい、緊張を保ちながら鶏肉を食べやすい大きさに分けた。

「…よーし、後は煮込むだけね。」
 材料を入れて弱火で煮込む。
「つかさ、灰汁が出てきたわ」
「はいお姉ちゃん」
 お味噌汁とかでよく使うスプーンを渡される。つまり…。私は灰汁がでてきたら、その都度灰汁を取った。



 午後7時20分。
 私とつかさは、遅れない様に駅に到着した。こなたとみゆきさんは、もうきていた。
「やっほーかがみ、早いね――もしかして誠君が心配で、いてもたってもいられなかったとか?」
 ニヤニヤと私を見つめる。こ、こなたの奴…っ!
「そんなことないわよ!
 それよりもこなたが時間よりは早くきていることに、ほんとにっ! 驚きだわ」
「むう…強調されるとなんか嫌だな」
「事実でしょ」
「でもこなちゃん、本当に不思議」
「つかさ……何気にひどい」
「はぅ、ごめん」
「いや別に、あれからずっとみゆきさんと一緒だったからさ、みゆきさんはまじめだからね――7時には駅にいたよ」
「すみません、泉さん」
「別にー? みゆきさんと話していたから、退屈しなかったしね」
 ふと、みゆきが手にしているものに目を向ける。
 …花、かな。
「ねえこなた。みゆきが持っているのは何?」
「花に決まっているじゃん。アイリスの花。
 お見舞いに花っていったら定番中の定番でしょ。…あれ、もしかしてかがみん、思いつかなかったとかあ?」
「う、うるさいわね…」」
 しまったー! 確かにこなたの言うとおりだ。お見舞いに花は、定番中の定番じゃないか。そんなことも忘れているなんて、私も抜けてるな…
「二人で買ったの? 私も払うわ」
 私も~と、つかさの抜けた声が聞こえてくる。
「えっと…」
 みゆきはこなたに目配せをした。
 …?
「いーよ、私たちが考えたものだし。てゆーかかがみ達も持ってきているじゃん? おあいこってことで」
 私の手に握られれている包装物に視線を移してからこなたは言った。
「まあほとんどみゆきさんが払ってくれたんだけどね」
「はあ?」
「いや、私、今月は厳しいし」
「あ、あんたねえ!」
 呆れてしまう。みゆき、後で払うわねと、みゆきに話しかける。
「いえ、本当に結構です」みゆきは、笑っていった。
 でも、本当に後で半分払おう…と思った。