「こなたさん、今日はどうしたの?」
明日の朝、10時にみんな集めて駅前に集合!―――と、メールが来たのが夜の八時。何でとメールを返すと「それ以上でも以下でもない」と、かえってきた。何かのネタかな?と思ったが、見当もつかない…
結局俺はこなたさんのいったとおり、四人に連絡して、今日に至る。
「本当よ、あたしだって忙しいのに」
かがみさんが、つんけんそうに腕を組みながらこなたさんにに話しかける。
「んふふー」
こなたさんの、小悪魔的な笑みに、かがみさんは感じるものがあったのか後ずさりをする。「な、なーんかー嫌な予感がするんだけど…」
「あ、虫の予感ってやつかなあ? 私もそういうの欲しいなー」
「いわゆる第六感というやつですね。この科学的根拠については――」
「つかさ、あんたは黙ってて…」
かがみさんはやれやれといった風に、ため息をついてから、こなたさんに話しかけた。
「それで、何をするっていうのよ。 変なことだったら、あたしは帰るからね」
「大丈夫。かがみならきっと気に入るってー♪ なんていったって、潜在的に素質ありなんだから」
「話が見えないよ。こなたさん、結局何なの?」
こなたさんはもったいぶるように一息を置く。
「実はね…」
「実は?」
「今日は誠君たちにコスプレ喫茶の店員をしてもらうことになりましたー はい拍手ー」
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沈黙が、流れる。つかささんとみゆきさんは、事態が飲み込めないのか、ぽかんとこなたさんを見つめていた。
…かがみさんというと。
ごめん、俺には口に出せない。
「あれー のり悪いなー? 私の想定だとかがみあたりが『じゃああたしは凛役ね♪』 とかいって目を輝かすと思ったんだけどなー」
「こなた」
「うぁいっ!?」
その静かな物言いに秘められた真意を、こなたさんは感じ取ったのか、ひきつってこなたさんは返事をした。
「きちんと説明しろ」
「あれ、いつものかがみさんなら『帰る!』とか『ぶっ殺すわよ?』とかいうかと」
「私も殴られるかと思ったよ」
胸をなでおろしながら、こなたさんが言う。
「そんなぶっそうなこと言うか!」
そう言って、かがみさんはこぶしを振り上げる――!
「おねえちゃん、落ち着いて。 誠君も、そういうこといっちゃ駄目だよ」
「…はい。すみませんでした」
そういいながら、俺はつかささんに小声でありがと、と囁いた。つかささんは少し頬を赤らめながら「えへへ」と返した。
「まあまあ、誠君も悪気はなかったんだから、かがみんも許して上げなよ」
「お前が言うな! てゆーかさっさと説明しなさいよ!」
「はいはーいわかってますよー」
「それで、泉さん、コスプレ?…喫茶でしたっけ。 何のことでしょうか?」
みゆきさんが気を取り直してこなたさんに話しかける。
「えっとね、急で申し訳ないんだけどさ、おととい…だっけな。バイト先のみんなでこの前パーティーしたんだけどね。
その中のどれかが腐ってたみたいで、みんなダウンしちゃったんだよ。
それでも店空けるわけにいかなくてさ。どうしても人数集めてきてって、店長が」
「こなたさんは、無事だったんだね」
こなたさんは、ああ、うん、まあ、と言葉を濁した後「私、ネトゲで徹夜したまんまで来たから、食欲わかなくて。コンビニに寄って買ってきたコロネしか食べてなかったんだよね。」
「なんだ、いつものこなたか」
「ちょ、かがみ、それどういう意味!?」
かがみさんはため息をつきながらも、それでも笑顔を絶やさずに「そういうことなら仕方ないわね。いいわ、手伝ってあげる」といった。
「あのー、私の質問は無視ですかー?」
「うるさい! 手伝うといってんだから感謝しなさいよ!」
「ちぇ、かがみは相変わらずツンデレだなあ。まあそのほうが凛のコスプレが似合うんだけどさ」
「だから私はツンデレじゃないって!」
否定するかがみさんをこなたさんは「はっは、さすが私の嫁だー」とかなんとか言っていた
「でもこなちゃん。コスプレ喫茶でしょ?」
「そだよ。つかさは…劇では小道具だったか。うーん、スバル・ナカジマなんかどう? きっと似合うよ」
「どういうの?」
「実際に着てみたほうが早いよ。つかさならきっと似合うよー 私が保証する!」
「あんたに保障されてもね…」
「でも楽しみだなあ。新しい服を着るときってわくわくするよね。なんかこう、新しい私を見つけた、って感じで。すっごくその服を着る日が楽しみなの」
「つかさは相変わらず夢見がちだなあ。 案外つかさにもコスプレの素質あったりして?」
「頼むから、つかさを自分の世界に連れ込まないでくれ…」
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その道中、やはり疑問点があった。少し迷ったが俺は、かがみさんに聞いてみることにした。ちょうどいい具合にかがみさんと距離も近く、こなたさん立ちは数歩先をいっていたので、小声でかがみさんに話しかけることができた。
「ねえかがみさん」
「なによ?」
「なんでこの件引き受けたの? かがみさんってこういうコスプレっていうの? あまり好きじゃないと思うんだけど」
「仕方ないでしょ? こなたのバイト先が病欠だし――こなたも困ってるんだし」
「かがみさん、優しいんだね」
「べ、別にそんなんじゃないわよ! だ、だって、一日だけだし、こなたもバイト代はちゃんと払うといっているし、その、ちょっとした小遣い稼ぎなだけよ。別にこなたのためというわけじゃないんだから」
「…」
「あ、そこで沈黙するな!」
「やっぱりかがみさんは優しいよ」
「な、なによ、あんたらしくない。まあ、ありがとね。
―――まあ、あんたには言っておいてもいいか」
「なんのこと?」
「今回のことよ。
…昨日ね、こなたを喫茶店でみかけたの」
「もしかして、常連さん?」
「んなわけあるか! 欲しかったラノベの発売日だったから、本屋にいったついでに寄ってみただけよ。こなたがまじめに働いているかどうかも知りたかったし」
「なんでかがみさんが…」
「別にいいでしょ、そんなこと。
結局こなたは私に気づかなかったんだけどね。お手洗いにいっているとき、こなたと店長が話しているのを聞いたの。
――こなたなのよ」
「だから何のことか…」
「食中毒にあたったのは事実みたいなんだけど、その代役に私たちを選んだことよ」
「え、でも、こなたさんは店長にお願いされたって―――」
「今の話を考えれば、わかるでしょ。てゆーか常識的考えても、コスプレみたいな特異な職場で、面接もなしに採用するわけないでしょ?」
「まあ、言われてみれば」
「こなたがね『私の嫁に――違います違います、友達です――学園祭の劇で凛役をやる予定だった子がいたんです。でも練習中の事故で出れなくて…でもその子、本当に熱心で、だからせめて私や、その子の友達の中だけでも凛役をやらしてあげたいんです』ってあの馬鹿がさ」
そういったかがみさんは、一人、その思いを反芻するかのように俯き、表情は読み取れない。
もちろん俺はそんなかがみさんの心情を斟酌し、「こなたさん…」とだけつぶやいた。
「あの馬鹿…そんなこと言われたら、いくら苦手なコスプレだって断れるわけないじゃないの…本当に、馬鹿なんだから」
其の言葉が俺に向けられたものでないことくらいはわかる。俺とかがみさんは、前を行く3人を見失わないように、少し早足で歩き始めた。
「おーいかがみん、誠君。二人してなにしてるのさー」
「ごめんごめんこなたさん」
「むむ…怪しい二人。
かがみは私の嫁なんだから、嫁争いは負けないよ」
「ええ、おねえちゃん、結婚するの? おめでとー」
「つかささん、そういう意味ではないと思いますが…」
「嫁じゃないっつの!」
こなたさんは「否定するかがみん、ナイスツンデレ!」っと指をたてて笑っていった。
「ようし、目標100m前。きっとかがみやつかさ、みゆきさん、それに誠君も。
『心が表れるようでしたわ』って帰りには呟いてるね。間違いない」
「緊張しますね…」
「ゆきちゃん、がんばろうね」
「なんならかがみ、気に入ったならシフト入ってもいいんだよ? かがみなら素質ありだし、きっと採用されるよ~」
「ごめんだわ…」
そういってかがみさんは腕組をする。
「そんなことよりさっさと入るわよ! こなた、今回ばかりは頼りにしてあげるから、きっちり頼むわよ」
「ほいほーい。なんなら、こなた様って呼んでもいいんだよかがみーん」
「するかばか!」
かがみさんのツインテールが、嬉しそうにゆれていた。