「・・・落ち着いた?」
みなみ「・・・ハイ」
あれから数分。ようやく呼吸も落ち着き、冷静に考えられるようになった。
それでも、さっきの醜い自分を思い起こすとまた苦しくなるが、これ以上迷惑はかけられない。
無理やり思考を外に追いやり、精神を安定させる。
ゆたか「みなみちゃん、大丈夫?いったいどうしたの?」
ゆたかが、まるで自分のことのように私を心配してくれる。
これではいつもの逆だと苦笑したところで、またしても自分の醜さに気付く。
いつもの逆。いつも。
いつも、私はゆたかを助けて『あげてた』。そんな傲慢。
・・・違う。
みなみ「ゆたか。」
ゆたか「えっ?」
少し、詰め寄るような言い方で。
みなみ「・・・話が、あるの。ゆたかの家に、行っていい?」
ゆたか「え、え、あ、うん。いいけど・・・」
そう言ってゆたかは先輩を見る。
先輩は、いったい何事か、といったようなまなざしで私たちを見ている。
みなみ「先輩、すみませんが、ゆたかと二人で話がしたいんです。
失礼していいですか?」
「は、はい??・・・あ、あぁ、うん。わかった。じゃあ、俺は一人で先に帰るよ」
二人とも、流れについて来れないようだが、なんとか私の意図は理解してくれたらしい。
「えっと・・・先に帰るけど・・・岩崎さん、体は本当に大丈夫?」
みなみ「はい」
原因はわかっているのだから。何も心配はいらない。それを伝えることはできないけど。
ただ一言大丈夫だと伝えると、先輩は安心して荷物を抱えた。
「じゃあ、二人とも、また明日。小早川さん、もし岩崎さんに何かあったらすぐ連絡してね」
ゆたか「はい、わかりました。お疲れさまでしたー」
去り行く先輩の後ろ姿を、二人で見つめる。
横目で見たゆたかは、やっぱりどこか淋しそうで。
それを見た私は、また、胸が痛んで。
みなみ「ゆたか」
ゆたか「えっ、あ、うん。何?みなみちゃん」
二人、向き合う。ゆたかの眼は、もう普段通り。
私の錯覚なら良かった。光の加減とか、角度とか。
でも、その眼は。
先輩を見つめる時と、それ以外とでは、こんなにもちがうから。
だから私は、聞かなくてはならない。
みなみ「・・・ゆたか。」
ゆたか「・・・う、うん。」
何を言われるのか、困惑しているゆたか。
いや、もしかしたら、何を言われるか分かっていて、ただそれを恐れていたのかもしれない。
でも私は言わなくてはならない。
自分の醜さと向き合うために。
みなみ「ゆたか。先輩のこと・・・好き?」
ゆたか「!!!」
ゆたかと、そして、私自身と、闘わなくてはならないのだ。