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「あのさ、みんな」

 四人が一斉にこちらをみたので、まことは軽くたじろいだ。
 昼休みだが、ほとんどの生徒は食事を終え、雑談に入っている。まことも、学食から戻ってきたところだった。
 二の句を出せずにいると、かがみが返してきた。

「なによ」
「え、うん、ちょっと質問というか」
「なになに?かがみんの男の好みとか?」
「こなた、あんたねえ」
「いや、かがみさんにっていうか、四人に訊きたいんだけど」
「全員の…まこと君もがっつくねえ」
「別に、男の好みを知りたいわけじゃなくてね」
「じゃあ、なあに?女の子の好み?」
「つかささん、それでは意味が通りませんよ」
「いやいやみゆきさん。世の中にはあらゆる属性があってだねえ」
「こなた。みゆきに変なこと吹き込むんじゃないの」
「いえ、とても興味深いお話です」
「おおっ。それじゃ、今日はひよりん先生を招いて、色々と講義しなきゃねっ」
「わあ、面白そう。お姉ちゃん、私も行っていいかな?」
「あんたたち、いい加減勉強しなさいよ。本当に」

 あっという間に、話が手元から離れてしまった。女の子のこういうエネルギーには、圧倒されるしかない。

「あのさ、いいかな」
「あ、まこと君。いたんだ」
「…いたよ、こなたさん」
「うん、さすがに冗談。で、質問ってなあに?」
「えっとさ。あくまで仮定の話として考えて欲しいんだけど」
「はあ」
「みんな、知らない男の人からいきなり話しかけられたら、どう思う?」
「ナンパってこと?」
「かがみん、食いつきいいねえ」
「うるさい」
「ナンパっていうか…まあ、そんな感じ」
「なるほど。私だったら、殴るかな」
「お姉ちゃん、ぶっちゃうの?」
「気持ちとしてはね。だって、もう十二月よ?こっちは受験で大変だってのに、そんなちゃらちゃらした奴、一発くれたくもなるわよ」
「そっかあ。私、きっと怖くてお姉ちゃんに隠れちゃうなあ」
「つかさひとりだったら、どうすんのよ」
「ふえ、どうしよう。車の陰とか?」
「とりあえず、隠れるって発想から離れなさい」
「でも、確かに少し怖いかもしれませんね。好意を持って下さるのは、ありがたいのですが」
「と、いうわけでまこと君。聖女たるみゆきさんまで否定するんだから、大方の支持は得られそうにないね」
「そっか。こなたさんは、どう?」
「私?私も、ちょっとノーサンキューかな」
「でも、どうしてそんなこと訊いたの?」
「ん、ちょっとね」
「そりゃつかさ、彼がこれからナンパに赴くからだよ」
「え?だけど、これってもしもの話なんだよね」
「それはつまり、本当のことだけどそうは思わないでね、って意味なんだよ。ねえ、まこと君?」

 こなたは、変なところで鋭い。まことも、話を振った以上、なんとしても隠そうとは思わなかった。
 ただし、これからのことではない。二日前の話だ。

 確かに、声はかけた。ただそれだけのことで、なぜあんなことをしたのか、今でもわからない。
 すれ違う瞬間、呼び止めなくてはいけないような気がした。かわいいとか、美人だとか、そんなことすら考えていなかった。
 結局、名前を訊くことしかしなかったのだ。

「…別に、ナンパしたわけじゃないけど」
「過去形ということは、既になにかされたんですか?」
「うん。おとといなんだけど、道で見かけた女の子が急に気になって」
「ちょっとあんた、この時期になにふざけたことやってんのよ」
「まあ、まことさんも殿方ですから、強く否定はしませんが…」
「ねえ、ゆきちゃん。その子、怖くなかったのかなあ?」
「まこと君、見事にフルボッコ」
「なんだか、このコーヒー牛乳ぶっかけたくなるわね」
「かがみんになら、かけられたい人もいるんじゃない?」
「それも、属性というものですか?」
「むしろ、需要?」
「お姉ちゃん、人気者なんだね。すごいなあ」
「微塵も嬉しくないわね」
 それにしても、賑やかすぎる。四人ともいい友人だが、揃っているときに話したのは、間違いだったのかもしれない。
 女が三人寄れば、というが、四人ではどういう字になるんだろう。そんなことを考えながら、まことはこっそりと輪を離れるタイミングを計ろうとする。

 そういうとき、教室の外から名前を呼ばれていることに気付いた。
 反射的に振り向くと、よく見知った顔があった。しめた、とばかりに、そちらへ歩み寄る。

「八坂さん」
「まこと先輩、ちょっといいっすか?」
「うん、どうしたの。あっ、ていうか、この間は手伝えなくてごめんね。田村さんも、来れなかったんでしょ?」

 八坂こうは、一つ下の後輩だ。文化祭からこちら、妙に懐かれている。明るく、気持ちのいい人物で、頼られて悪い気はしない。
 先週、彼女の趣味に関わるイベントの手伝いを頼まれていたが、体調を崩したせいで行けなかった。
 それが、軽く負い目にはなっている。

「いやいや、とんでもない。大変でしたけど、上手くいきましたよ。他に手伝いも頼めたし、万事オッケーです。で、それともちょっと関係あるんですけど」

 いつになく、真剣な表情をしている。ただ、切迫しているというより、呆れたような色が強い。
 その表情の意味も、すぐにわかった。それは、ちょっと待ってくれ、と言いたくなるような話だった。
「先輩、ウチのやまとにちょっかい出したでしょ?」
「やまとって」
「やまとです」

 知っている名前だった。知ったのは、二日前。

「まさか」
「そのまさかっすよ。なんたること、伊藤まこと君がかどわかそうとした永森やまとさんは、私の無二の親友なのでした」

 ちょっと待ってくれよ。そう思って、顔をそらす。こなたたちが、興味深げにこちらを見ていた。
 自分のやったことが、急に恥ずかしく感じられてくる。やまとの顔を思い出しながら、まことは文字通り頭を抱えた。

「ちょっと、待ってくれよ」
「待つもなにも、そういう事実は始めからあったわけで」

 でも、待ってくれ。他に、なにも考えられなかった。