――あの日
――桜藤祭が開催されたあの日
劇が終わった後、俺とこなたは星桜の木の下でお互いの本当の気持ちを確かめあったんだ…
「キス… しちゃったんだよな……」
俺はベッドでぼんやりと天井を眺めながら、無意識に独り言を呟いていた
「しかし、まさかあのこなたとこういう関係になるとはなぁ…」
攻略宣言をかまされた時は、オイオイ何をいうとるんだこやつは頭ダイジョーブですか、何て思ったもんだがな…
「いつの間にか、こなたと一緒にいる事が当たり前になっちまったんだよな」
――そして、ふと気付く
こなたといる事が本当に楽しくて、家に帰って部屋で一人になると、いつの間にかこなたの事を考えている自分に…
ヤベェ… 完全にハマっちまってんなぁ、俺…」
自分の独り言に苦笑しながらふと時計を見ると、朝の7時45分を過ぎた頃だった
「フゥ、そろそろ起きて、メシ食って学校行くかな」
朝メシを軽く済ませて家を出ると、心地よい朝日が俺の目に降り注いできた
「うーん、いい天気だなぁ…」
軽く伸びをしながら学校へ歩き出そうとした瞬間、俺の耳に聞き慣れた声が飛び込んできた
「いや~、ホントにいい天気だねぇ」
声に驚いて振り向いてみると、こなたがいつものゆる~い笑顔で立っていた…
「おはよ~、こうじ君」
「お、おはよ、こなた」
どうやらこなたの奴、玄関の所に隠れて待ち伏せしていたらしい…
「ねぇねぇ、驚いた?驚いた?」
ニコニコしながらそんな事を聞いてくるこなたに、俺は平静を装いながら答えた
「べ、別にぃ。今更これぐらいじゃ驚かないさハハハッ…」
「チッ、もうこれぐらいじゃ弱いか… やっぱ布団の中に潜りこんでおくべきだったかねぇ…」
そんなとてつもなく恐ろしい?事を呟いているこなたに、俺はため息をつきながら言った
「やめて、そんな事されたらマジで心臓が止まりかねん…」
「フッフッフッ、まぁそれは今度のお楽しみということで♪」
今度やんのかよオイ。困る。嬉しいけど困る。目覚めた瞬間こなたが布団の中にいたらマジで心臓止まるぞ…
男は朝は色々マズイし…
前に攻略宣言された後、馬乗りになって起こされた事があったが、あの時は驚きの方が強かったから大丈夫だったが…
いや、あんまり大丈夫じゃ無かったけど。
「ちょっ、マズイって!寝起きはマジで色々マズイから!!」
「いいじゃん、恋人同士なんだし」
さらりと凄い大胆な発言をするこなたさん。オーイ、意味分かって言ってマスか~。
…まぁ、そこまで深い意味で言ったんじゃ無いんだろうけど
「はぁ、まぁいいや。とりあえず学校に行きながら話そうか」
「うんっ!」
そう言って歩き出した俺の手をこなたはさりげなく握ってきた
「こ、こなた」
「いいじゃん、恋人同士なんだし」
さっきと同じセリフを吐きながら上目遣いで俺を見上げるこなた。
クッ、クソッ、かわいいじゃねぇか!ドコでそんな技覚えて来やがりまするかこの愛らしい生物はっ!!
…まさかギャルゲで、か? ……ま、まぁいいや。かわいい事に変わりないよなフヒヒヒw
って俺何一人できもい妄想してんだこのバカチンが~~~~~!!!
「ど、どしたのこうじ君っ。頭でも打った!?」
クネクネ体をよじらせながら妄想の世界で暴走気味な俺をこなたが心配そうな目で見ていた。
「いやいや、何でも無いさ。マイスウィートハニー」
髪をかきあげながらそう答える俺を見てこなたはちょっと引いていた
「やっぱり頭打った?ホントに大丈夫?」
「ああ、ダイジョブダイジョブ。ちょっと脳が熱暴走してただけだから」
「ふ~ん、何かダイジョブじゃ無さそうだけど… あっ、そう言えば!」
そう言ってこなたは俺をニヤニヤしながら見つめてきた
「な、何だよ」
「ちゃんとこなたって呼んでくれるようになったんだねぇ」
―そう。付き合い初めてからすぐに、こなたの方からさん付けはやめて欲しいと言ってきたのだ。
最初は慣れずにこなたさんって呼んでしまったりしていたが…
「んっ、ああ、そう言えばもうすっかりこなたって呼ぶの慣れたみたいだなぁ」
そう言ってこなたの方を見ると、ニコニコと嬉しそうな顔をしていた
「何、名前呼び捨てにされるのがそんなに嬉しいのか?」
「はぁ、こうじ君は乙女心って奴が分かってないねぇ」
「何だよ乙女心って… って言うかこなたもそういう所はちゃんと女の子だったんだなぁ」
「むっ、何か引っかかる言い方だね」
こなたは少しムッとした顔で言った
「私だって年頃の女の子なんだからね。好きな人に名前呼ばれて喜んでもいいじゃん」
そう言ってプイッと向こうを向いてしまった。少し怒らせてしまったらしい…
「ゴッ、ゴメンこなた!怒らせるつもりじゃ無かったんだ。ただ少し意外だなぁって思っただけで…」
それでもこなたは向こうを向いたまま… どうやらかなり怒っているらしい… って言うか少し泣いてるッ!?
まさかこなたが泣くなんて!男として女の子を、まして彼女を泣かせるなんて非常にマズイッ!
どーする!?どーするよ俺!?
「ゴメンッ!ホントにゴメンッ!女の子の気持ちを考えて無かった無神経な俺が全面的に悪い!どうしたら許してくれる!?」
「…デート」
「えっ?」
「…今度の休み、アキバでデートしてくれるなら許してあげる」
デートフラグキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!!
「あ、ああ!許してくれるならアキバだろうがフユバだろうがどこへでもお供するから!だから機嫌直して!」
まだこなたは向こうを向いたまま目頭を擦っている…
「何でも奢るから!おいしいパフェとかクレープとか好きなもの食べて良いから!だから機嫌直して… 泣かないで…」
俺も半分泣きそうになりながら謝っていると、こなたが吹き出しそうな顔で俺を見ていた
「こ、こなた?」
「フッフッフッ、いや~こうじ君の慌てふためく姿。泣きそうな顔。萌えるねぇ♪」
「だ、騙したな!」
「いや~、今度の休みが楽しみだねぇ。何を食べようかねぇ。こうじ君の奢りで♪」
「はぁ、疲れた… もういいさ何でも奢るよ好きにしてくれハハハ…」
とは言ったものの、デートはこちらとしても大歓迎!むしろ望む所でございますデスヨッ!!
な~んてまた脳内で暴走気味に考えていたらそろそろ学校が近くなってきた
「こなた、そろそろ学校が近いし、手、離そうか」
「何で?」
「いや、登校中の生徒に見られたら恥ずかしいし…」
「私と手を繋いでるの見られるの嫌なんだ?」
「いや、そんな事は無いけど」
「ならいいじゃん♪」
そう言って俺を見上げて微笑むこなたの笑顔はこの世のものとは思えないほど愛らしい。
な、何だよかわいい奴だな畜生こ、こここのやろう、反則だぜその笑顔はよう!
へっ…へへっ…… 萌え尽きちまったぜ… 真っ白によぉ…
「見てー、あの人…」
「なんかニヤニヤしながら身悶えてる…」
「キモーい…」
「ちょっとこうじ君!?皆変な目で見てるよ!」
こなたの声で我にかえった俺は、周囲の痛い視線から逃げるようにこなたの手を引いて猛ダッシュでその場を逃れた…
そしてようやく教室にたどり着いた
「おはよ~、こなちゃん、こうじ君」
「おはよ~、つかさ、かがみ」
「おはよう、つかささん、かがみさん」
「手を繋いで仲良く登校とは朝からごちそうさま」
「ムッ、かがみん、さては焼きもちだね?こうじ君と私が仲いいのが羨ましいんだね?」
「な、ちっ、違うわよっ!朝っぱらからイチャイチャしてるアンタらをからかってるだけよ!!」
「またまたぁ。さてはかがみんもこうじ君の事が好きなんだね?」
「ちっ、ちっ、違うわよっ!べっ、別にこうじ君の事なんか何とも思ってないわよっ!いきなり何言い出すのよアンタ!!」
「そうやって慌てる所がまた怪しいねぇ。でもこればっかりは私も譲るわけにはいかないしねぇ…」
「そうだったのか… かがみさんが俺の事を… ゴメン、気づいてやれなくて… でも、俺にはこなたガッ!!?」
「ヘギッ!?」
俺とこなたの頭にかがみさんの鉄拳が振り下ろされた…
「殴るぞ」
「も、もう殴ってますよかがみさん」
「ほ、ほんの冗談じゃん、かがみん…」
「お姉ちゃん、頭はダメだよ~。殴るならお腹にしないと」
「あの、つかささん?」
何か前にも同じような事言われた気が…
「えへっ、冗談だよ~。ゴメンね?」
「よかった… つかさが黒い子になっちゃったかと思ったよ…」
こなたがつかささんにそう言うと、かがみさんが少し怒りながら言った
「何よ、それじゃ私は黒いって言うの!」
「いや~。かがみさんは黒いと言うよりきょうぼウッ!?」
脇腹に見事にかがみさんのコークスクリューがめり込んで俺は床に崩れ落ちた…
「皆さん、お早うございます。あら、そんな所で寝ては風邪を引きますよ?」
先に教室に来ていたみゆきさんが、床に倒れている俺に声をかけながらこっちに近づいてきた
「だっ、ダイジョブ!?こうじ君!?傷は深いよっ!」
「こ、こなた… 俺はもうダメだ… せめてお前だけでも生き延びて幸せになってくれ…」
「いやっ!貴方がいない世界なんて私耐えられない!お願いだから私を一人にしないでっ!!」
「こなた… 俺の全て… 生まれ変わったらもう一度き…み…と… ガクッ」
「いや~~~~~!!こうじく~~~~~ん!!!」
「いつまでやってんのよアンタら」
かがみさんが呆れた声で呟いた…
――そして昼休み
「こうじ君、お弁当食べに行こうよ」
「おう」
そう言って俺達は教室を後にする
「いいな~、こなちゃんとこうじ君… 恋人同士で仲良くお昼ご飯かぁ」
「まぁいいじゃない。あの二人はほっといて私達もお昼にしましょつかさ」
――俺達はあの星桜の木の下でお昼を食べる事にした
「あれからもう三週間、か…」
「早いねぇ。こうじ君の情熱的なキッスを思い出すよ」
「…あれを見られたのは人生最大の失敗だったよ」
星桜の木の下で想いを伝えあったあの日… 俺達はここでキスをした。
…そして俺達を呼びにきたつかささんや皆に目撃されて、俺達の付き合いは初っぱなからバレバレになった訳さ…
「よりによって、あのタイミングだもんなぁ…」
「まぁいいじゃん。どうせ皆には言うつもりだったし。手間が省けたとおもえば」
「まぁそうだけどさぁ。ファーストキスだったんだぜ?」
「私も初めてだったんだからいいじゃん。それよりお弁当食べようよ」
「あぁ、今日はこなたの手作り弁当の日だったな」
付き合い初めてから週に二回ほど、こなたが弁当を作ってきてくれる事になったんだっけ。
「おっ、今日もうまそうだな」
弁当の蓋を開けてそう言った後、箸が無いことに気づいた
「こなた、箸が無いんだけど」
「あるよ、ココに」
見ると、こなたの小さな手に箸が握られていた
「いや、こなたのじゃなくて、俺の箸が無いんだけど」
するとこなたは俺の弁当を手に取って、凄まじい破壊力の言葉を繰り出してきた!!
「食べさせてあげる」
……
…………
………………なっ、何だってー!!!
「えっ、あっ、いいよ、自分で食べれるよ!!」
学校という場所であることと、恥ずかしさから心とは裏腹の事を言ってしまうチキンな俺orz
俺のフラグクラッシャーぶりを気にもせず、こなたが答える
「箸、これしか持ってきてないんだよねぇ」
ニヤニヤしながら俺にそう告げた… 確信犯ですか。まぁ確信犯の本当の意味は違うが今はんな事どうでもいい。
つまりこれはアーンフラグキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!! と解釈して宜しいか?
…ここで行かなきゃ男じゃないぜ!こうじ少尉、突貫します!!
「はい、アーン」玉子焼きを俺の口元に運んでお決まりのセリフを言うこなた。
「アッ、アーン…」パクッ もぐもぐ…
「おいしい?」
「ウッ、ウン、オイヒィ…」
「よかった。今日のは結構自信作だったんだよね」
ヤバい。これ想像以上に恥ずかしいぞ…
「じゃあ次ね。はい、アーン」
今度は鶏のから揚げを俺の口元に持ってくる。
「アーン…」パクッ
ヤベェ… 何かもう味とか全然ワカンねぇ…
ただひとつ分かることは、照れくさいながらももの凄く幸せだということだ
「俺ばっかり食べるの悪いから、こなたも食べなよ」
「そだね。じゃあ私も一口」
こなたはそう言ってから揚げをひとつ口に入れた。
んっ、箸がひとつって事はつまりコレは、間接キスとかいう奴じゃないですか?
……ま、まぁ俺達キスしたし、恋人同士だし、何も問題は無いんだけど。
そこまで考えて思い出した。俺達がキスしたのってアレ一回きりだけだったということを…
付き合い初めて早三週間、そろそろ次の機会を作らんとマズイんではなかろうか…
――そんな事を考えている内に弁当は俺とこなたに順調に消化され、食べ終わった頃にこなたが聞いてきた
「ねぇこうじ君。おいしかった?」
「うん、おいしかったよ」
俺がそう言うのと同時に、こなたが俺の胸の中に体を預けてきた…
「こっ、こなた!?」
「ねぇ… 私ってやっぱり魅力無いのかな?」
「はっ?急に何言い出すんだよ。そんな事ないよっ」
「じゃあ、こうじ君は何であの日以来私に何もしてくれないの…?」
…そうか。キスをしたあの日以来、俺達はこうやってまったりしてるだけで、恋人らしい事はしてなかったような気がする。
だから今朝は学校まで手を繋いできたりしたのか…
俺はこなたと一緒にいるだけで幸せだったから、こなたの不安な気持ちに気づいてやれなかったんだ…
「こなたっ!!」
「なっ、何?」
突然の俺の大きな声に少し驚いてるこなた。俺は自分の気持ちを精一杯伝えようとこなたの小さな体をギュッと抱きしめて言った
「俺、こなたの事が大好きなんだ!だから一緒にいるだけで幸せだったんだけど、何もしない事がこなたをこんなに不安にさせているって気づいてやれなくて…」
「でも、それはこなたの事が本当に大切だから… 大好きなこなたを大切に思っているからなんだ」
「こうじ君…」
「でも思ってるだけじゃ駄目何だよな。ちゃんと言葉と体で伝えないとわからない事があるんだよな」
「こうじく んッ… んむっ…!」
俺は自分の気持ちをこなたに最も分かりやすく伝える方法を取った…
「んっ… ちゅぷっ… ぷはっ、ハァハァ… こうじ君…」
口を離してこなたを見ると、顔を赤くしたこなたの荒い息づかいが聞こえてくる…
「い、いきなりなんだからっ… ハァハァ…」
「俺の気持ちをこなたに伝えるにはこれが一番いい方法だって思ったんだ」
「ハァハァ、 …うん、こうじ君の想い、一杯伝わってきたよ…」
そう言って瞳を潤ませながら上目遣いに俺を見上げてくるこなたがかわいい。
…ってか、こなたさん、少しキャラ変わってるような…
まぁ今はそんな事どうでもいい。俺はこなたを優しく抱きしめた
「こなた…」
「こうじ君…」
お互い見つめ合いながら、もう一度キスしようと唇を近づけようとした時、草むらの陰から聞き慣れた声が聞こえてきた…
「ちょっ、ちょっとつかさっ!押さないでよ!見つかっちゃうじゃない!」
「ゴメ~ン、お姉ちゃん。 でもよく見えなくて…」
「皆さん、お静かに。お二人に気付かれてしまいます!」
「ふわ~… お姉ちゃん、凄く幸せそう…」
「……ゆたか… あまりジロジロ見てはダメ……」
「うひょーっ!お二人とも凄くいい表情してるっス!激しく萌えるシチュっス!これは同人誌のネタに使えるっスよ!!」
「オゥ、ひより!ワタシもヤル気がミナギッテキタね!」
「あっ…」
「アッ…」
草むらの陰から隠れて見ていたらしい皆と、俺達の目が合った…
「あはははっ… ゴッ、ゴメンね~こなちゃん!こうじ君!」
「ちょっ、つかさっ!自分だけ先に逃げるなッ!」
「そっ、それでは私達はこれで。お二人共ごゆっくり!!」
そう言い残して皆は猛ダッシュで逃げ出して行った…
その場に取り残された俺達は呆然としながらお互いを見つめ合った。
そしてどちらからともなく吹き出して笑いだした
「ぷっ、ははははっ」
「あはははっ、つかさやかがみ達の慌てる姿はちょっと滑稽だったねぇ!」
「はぁ、しかし、ファーストキスだけじゃなくてセカンドキスまで見られるとはなぁ…」
「まぁ許してあげよ~よ。皆男がいないから気になるんだよきっと。特にかがみは興味津々って感じだったねぇ」
「で、どうしようか? さっ、さっきの続き、しようか?」
「むぅ、そんな雰囲気じゃなくなっちゃったし、また今度にしようか?こうじ君」
「そっ、そうだな…」
少し残念そうな俺の耳元でこなたが囁いてきた
「今度は誰にも見られないように、こうじ君の部屋で、ねっ」
「へっ? 俺の部屋でっ、て…! ちょっ、こなた!!」
「ふふふっ、優しくしてね?こ・う・じ・くんっ♪」
そう言って舌をチロッと出して微笑みながら、こなたが駆け出していく…
――俺はこなたの後ろ姿を追いかけながら、この幸せがいつまでも続きますようにと、星桜の木に願いを掛けるのだった…