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「かがみ様~! 寄り道してこ~!」

金曜日の放課後、○○を引き連れて、こなたはかがみの教室にやってきた。

「悪いけど今日はパス。家の用事があるのよ」
「むぅ~、かがみ様も~? つかさもみゆきさんもダメだったんだよ~」
「つかさも同じ用事だからね。…てか、かがみ様って言うな!」

かがみがこなたに襲いかかり、両拳でこなたの頭を挟みこんでグリグリする。

「ぎにゃ~! イダイイダイイダイイダイ! ○○くん助けて~!」
「か、かがみさん! こなたさんの頭が砕けちゃうよ!」

こなたを抱える様に庇い、かがみから引き離す。

「砕かないわよ。ってか○○くんまでそうな事言うか…」

心なしか落ち込んでいるかがみを余所に、こなたは「むふふふ…」と含み笑いをする。

「こなたさん?」
「いや~、助けるためとは言え、いきなり女の子を胸に抱き締めるとはねぇ~。
○○くん、やっぱギャルゲ主人公の素質バッチリだよ!」

○○の腕の中で猫口をしたこなたが親指を立てて笑っている。

「うわっ! ゴ、ゴメンよ!」

慌てて○○はこなたを引き離した。 
「そんなに慌てなくてもいいのに…。それに桜藤祭の時は劇でキスした仲じゃん?」
「アンタ何言ってんのよ? 桜藤祭の時は○○くんは道具係や進行の雑用だったじゃない」
「え、あれ? あれぇ? そうだっけ?」
「ゲームのやり過ぎよ。現実との区別が付かなくなったらヤバいわよ?」
「むぅ…、そんなんじゃないんだけどなぁ…」
「まぁいいわよ。それより、○○くんはこなたと一緒に行くの?」
「うん、予定は無いから行こうかな~と。いろいろ教えてくれるらしいし」
「クックック…。私色に染めてあげるよ~」

怪しげにこなたが笑うのを、○○とかがみが冷ややかな目で見ている。

「……やっぱ行くの止めるかな」
「それが賢明ね」
「ちょ! 冗談だよ! ○○くんに『とら○あな』の素晴らしさを教えるだけだって」

慌ててこなたが帰ろうとする○○の前に立ちはだかり、ちょこまかと弁明する。

(…可愛いなぁ…)

目の前で一緒に行こうと力説するこなたを、○○はほんわかした顔で見ていた。
どこか小動物チックな動きにほのぼのしながら、
○○はこなたに別の感情が芽生えているのを気付いていなかった。 
「ねぇ、行こうよ~。一人で行っても寂しいしつまんないんだよ~」
「アンタやけに○○くんに絡むわね?」
「え? き、気のせいだよかがみん」

ニンマリ笑いながら、こなたが否定する。

「うん、大丈夫、ちゃんと行くよ。『と○のあな』行った事無いから、ちょっと楽しみなんだ」

そう○○が言うと、こなたは満面の笑みでピョコピョコ飛び跳ねながら喜んでいる。

「やた~! じゃあ行こう行こう!」

言うが早いか、こなたは○○の手をとり駆け出していた。

「おわっ! 急に引っ張らないで! か、かがみさんまたね! バイバ―――」

二人はドップラー効果を残し、かがみの前から走り去ってしまった。

「…いってらっしゃい」

軽く溜め息をつきながら、かがみは二人の走り去る姿を眺めていた。



電車を乗り継ぎ、秋葉原の『とらの○な』一号店までやってくると、こなたさんの目の色が変わった。

「さぁ~て、今日は何か良いのがあるかな~」
「え? 目的があって来たんじゃないの?」
「とりあえずはコンプの最新号かな。あとは未知数」
「未知数って…。もしかして片っ端から見て回るの?」 
 
「はっはっは、…そんな馬鹿な」
「俺の目を見て否定してくれ」
「さぁ! さっさと行くよ! 時間が惜しいからね」
「やっぱ片っ端からか!」
「…○○くんは私と買い物するのはイヤ…?」

こなたさんが目をウルウルさせながら上目遣いに聞いてくる。

「…ギャルゲで培った技術ってやつ? そんな技使わなくても行くよ。せっかくだしね」
「やた~! 流石○○くんだね! しかし○○くん…。
あの上目遣いで動揺しないとは…。エロゲ主人公の素質バッチリなだけはあるね!」

褒められているのかいないのか分からなかったが、とりあえず笑って誤魔化しておいた。

「じゃあ早速行くよ。ついてきたまへ!」

そう言うと、こなたは○○の手を引いてビルの中へと駆け出していった。

「だ、だから引っ張るなって! おわっ!」




結局各階の端から端まで見たせいで、とてつもない時間が掛かってしまった。
ホクホク顔のこなたとゲッソリした○○がビルを出たのは、閉店時間も間際だった。 
 
「いや~、満足満足」
「……そか、よかたね」
「ん? 元気ないね? 疲れた?」
「まぁ…。後半は流石にキツかったな…」

(最初はこなたさんが目を輝かせながら、このCDはどうとかこのDVDは良いとか、一生懸命説明してくれてそれはそれで嬉しかったんだけど…)
(流石に同人誌一冊ずつ持って来て説明されるのはキツかったな…)
(…最後は全部同じ人が書いた絵に見えたよ…)

ぐぐっと身体を上に延ばし、気持ちを入れ替える。

(…まぁ、こなたさんも善意でやってくれたんだろうし。楽しそうだったのは見て分かったしね)

「いや~! これで○○くんもオタク街道まっしぐらだね!」
「いや、それはないよ」

即座に否定する○○に、こなたが口を尖らせる。

「ぶーぶー。○○くんつれないなぁ…」
「いやぁ、あの強行軍の中で染まれと言われても…」

そう○○が呟くと、こなたは猫口のまま少し寂しげに眉をひそめた。

「…やっぱり、楽しくなかった?」

言葉のテンションを少し落とし、こなたが呟く。

「一般人には見るとこなんかないもんね…」 
みるみるアホ毛が萎れていくこなたを見て、○○は慌てて否定する。

「いや、楽しかったのは楽しかったよ! でも詰め込み過ぎた感じがして疲れたな~ってだけさ」
「…本当に?」
「あぁ、もちろん。また一緒に来たいくらいだよ」

○○がそう言うと、パッと表情が明るくなる。

「だよね! やっぱ○○くんイイ人だね! また連れて来てあげるから感謝したまへ!」

さっきまでのしおらしさはどこに行ったか、こなたは猫口笑顔で喜んでいる。

(…やれやれ。まぁ、一緒に来るくらいでこんなに喜んでくれるなら、また来ても良いかな)

微笑ましく○○がこなたを見ていると、突然こなたが手を差し出して来た。

「もう遅いから帰ろうか? 送ってあげるよ! だから、はぐれないように手をつなご?」
「…それは男である俺が言うべき台詞だよな」
「気にしない気にしない。こんなイベント滅多にないよ?」
「俺には女の子と手をつなぐ機会は滅多にないと? 二度と無いと?」
「何いじけてんのさ。ほらほら、遅くなっちゃうから早くしたまへ!」

そう言うと、こなたは○○の手を引き歩き出した。 
「か、勘違いしないでよ! 別にアンタと手を握りたい訳じゃないんだから!」
「…突然何?」
「ツンデレの練習だよ。今度バイト先で『ツンデレDAY』ってのをやるからさ」
「こなたさんバイトしてたっけ? どんなバイト?」
「ただのコスプレ喫茶だよ。良かったら○○くんもおいでよ。サービスするよ~?」
「…何というか…。こなたさんがバイトしてるとことしては、まったく違和感ないね」
「…それどういう意味?」
「気にしない気にしない」
「むぅ…何か引っ掛かるなぁ…」

そんな事を話ながら、こなたは終始手を引きながら○○の前を歩いていた。
そのせいで○○からはこなたの表情は見られなかったが、どこか落ち着きのない雰囲気があった。

「…ねぇ、○○くん」

しばらく歩いていると、こなたが前を向いたまま話し掛けてくる。
握っている手が、どこか汗ばんでいるのを感じた。

「○○くんさ、オタクってどう思う?」
「どうしたの? 突然」
「いや~、今日秋葉原行ったでしょ? その時いろんな人達が居てどう思ったカナ~って」

そう言われて○○は今日を振り返る。 
(…そういえば、漫画かアニメみたいな女子高生のカッコしてる人いたな)
(…男だったけど…)
(別にそれが悪いとは思わないけど…)
(…やっぱり何か怖いよな…)

人は理解出来ないものに対して、拒絶するか、畏怖してしまう。
○○も、拒絶こそしなかったが、『なぜそんな格好をしているんだろう』と、
疑念と畏怖の混ざった感情を感じていた。

「う~ん…。あまり良いイメージないかな? やっぱり何か近寄りがたいよね」

○○は今日見たごく一部の人に対しての感想を言った。

「…そっか…。……そうだよね……」

それを聞いたこなたは、目に見えてテンションが下がっていた。

「…? どうしたの?」
「何でもないよ。…私用事思い出したから帰るね」

そう言いながらこなたは○○と手を離す。
その瞬間、○○は自分の心から何か大切なものを失ってしまう予感がした。

――今こなたさんを追わないと後悔する――

そんな予感に駆られながらも、○○はどう呼び止めて良いか分からず、ただ走り去るこなたを眺めていた。 
翌日の土曜日。
自室にいる○○は昨日の事を思い返していた。

(…こなたさん…、何であんなに落ち込んでたんだろう)
(とらのあ○に居た時はあんなに楽しそうだったのに)

そんな事を考えながら、部屋でゴロゴロしていると、玄関のインターホンが鳴った。

「…誰だ…?」

そう○○が呟くと、突然ドアを激しく叩く音が聞こえた。

「○○くん! ○○くん居ないの!?」

外から聞こえてくるのは、かがみの声だった。

「かがみさん!?」

慌てて階下に降りてドアを開ける。もう少し遅かったら、扉がブチ破られていたかも知れない。

「かがみさんどうしたの? こんなに朝早く」

○○が時計を見ると、朝8時を回ったとこだった。

「今日は学校は休みだ――」




バチィン!!

○○の目の前に一瞬火花が散る。かがみにビンタされたと分かるまで、しばらくかかった。 
「…い、いきなり何する――」
「アンタ…昨日こなたに何したのよ!?」

全身に怒気を纏いながら、かがみがとてつもない剣幕で詰め寄る。

「何って…。普通に『○らのあな』で買い物しただけさ。何があったんだよ?」
「…さっきこなた、泣きながら電話してきたのよ」
「――何だって?」
「泣いてたのよ! アンタともう会えないって! 会っちゃダメだって!」
「こなたに何を言ったのよ! …ヒドイ事言ったのなら、私…、アンタを許さないから…!」

目に涙を浮かべながら、かがみは○○を問詰める。
かがみの言葉を受け、○○は昨日のこなたを思い出した。

――随分と楽しそうだった事――
――いつも以上にテンションが高かった事――
――帰り際に見せた悲しげな雰囲気――

思い当たるのは一つしかなかった。

「…昨日の帰りなんだけどさ、その時に『オタクってどう思う?』って聞かれてさ」
「…それで?」
「うん…、『あんまり良いイメージないかな』って」
「…………」
「それと…、『近寄りがたいよね』って」
「もういい…。理由が分かったわ…」 
溜め息をつきながら、かがみはジト目で○○を見る。

「…アンタね…。こなたの質問の意図分からなかったの?」
「いや、ただオタクについて俺がどう思ってるのか知りたいのかと…」
「…半分当たりね」
「…半分?」
「残り半分は自分で理解しなさい。でないと意味がないから」

かがみはそう言うと、改めて○○に向き合う。

「アンタこなたの家分かるわよね? 行って謝ってきなさい」
「…え?」
「謝る理由は着くまでに見つけなさいよ。…ほら、さっさといく!」

かがみに急かされるように、○○は服を着替えて家を出た。

(…何でこなたさん泣いてたんだろう…)
(…かがみさんの話を聞く限り、俺のせいみたいだけど…)
(…でも、俺のせいなら一刻も早くこなたさんの所に行かなくちゃ…)
(理由は何でもいい。とにかくこなたさんに謝ろう)

――こなたが泣いている――
この現実が、○○をこなたの元へ急がせていた。 
 
こなたは部屋のベッドの上でクッションを抱き抱えていた。
その目線は暗く、宙を彷徨っている。

(…オタクじゃ…、やっぱりダメなのかな…)
(…今までオタクでいた事に後悔なんてなかったけど…)
(…○○くん…、オタク苦手なのかな…)

こなたの中で大きくなり過ぎた想い。
それは桜藤祭までの日々が芽生えさせたもの。
それは○○との時間が育んだもの。
こなたは初めて自分の中を占める感情に戸惑った。

(…何となく感じてたんだ…。私○○くんが好きだって…)
(…だけど…、やっぱり私普通じゃないから…)
(…だから、○○くんにオタクの事を興味を持ってもらおうと思ったけど…)
(…ダメだね、やっぱり…。○○くん一般人だもん…)

こなたは昨日の○○の言葉を思い返していた。

(…どんなにギャルゲやエロゲやってても…。現実だと全然上手くいかないや…)
(当然だよね…。…は…はは…)

探りを入れた問いに返ってきた○○の答えは、こなたには拒絶以外の何にも聞こえなかった。 
――あんまり良いイメージないかな――
――何だか近寄りがたいよね――

(…あんな事聞かなかったら良かった…。そうすれば…、こんな気持ちにならなかったのに…)

手を握った時も、かがみから助けられた時も、内心は凄くドキドキしていた。
だから取って付けたようにツンデレの真似をしたり、照れ隠しに含み笑いをしたのだ。

(……もう○○くんに会えないよ……。会いたいけど…話したいけど…)
(泣いちゃう…。きっと泣いちゃうよぉ…)

○○の事を思い返しながら、こなたはクッションに顔を埋めて泣いていた。

自分は拒絶された――

○○の言葉にそんな意図はなかったが、こなたには希望を打ち砕く言葉にしか聞こえなかった。
それでも、こなたの気持ちは止まらなかった。

会いたかった。
話したかった。
例え拒絶されたとしても、それは変わらなかった。

拒絶された現実
○○への想い

それらが混ざり合い、こなたの心を駆け巡る。
こなたは、ただただ流れる涙を止められなかった。 
「はっ…! はぁっ…! …着いたぁ!」

肩で息をしながら、○○はこなたの家の前にいた。

「…おじさん居なければ良いんだけど…」

そうじろうが出ない事を祈りつつ、○○はインターホンを押した。



ピンポーン

泣き疲れたこなたは、まどろんでいく意識の中でインターホンを聞いた。

(…誰かきた…?)

さっきまで泣いていたせいか、窓に映る自分の顔には涙の跡がついている。

(これじゃ出られないね…。お父さんいないし…。誰だろ? 郵便かな)

そう思いながら窓から覗くと、肩で息をしている○○の姿が見えた。

「うぇ!? ○○くん!?」
驚きとほんの少しの喜びに思わず前のめりになり、したたかに額を窓にぶつけた。 
 
ゴン!

何かをぶつけたような鈍い音がして上を見ると、うずくまっていくアホ毛が見えた。

(いた! こなたさんだ!)

が、こなたはそのまま窓から見えなくなってしまった。

(どうしよう…、まさか大声出して呼ぶ訳にも…。近所にストーカー扱いされそうだし…)

そう思った○○は周りを見渡し、一つの決意をして行動に出た。



窓の外に居た○○に驚いたが、それ以上に心が締め付けられていた。

(…何で○○くんが…)
(かがみが呼んだのかな…)
(…でも…、だとしてもどうして…)

友達だから来てくれたのかも知れない。
かがみに無理矢理来させられたのかも知れない。
それでもこなたは、○○が来てくれた事に喜びを感じていた。

(…でも…、私は…)

こなたは喜びを即座に否定する。自分はオタクなのだと。○○が嫌うオタクなのだと。
そんな不安定な感情に揺れていると、『コンコン』と窓を叩く音に振り返る。

――会いたくて会いたくて仕方の無かった笑顔がそこにあった―― 
(…完全に変質者だな…)

家の隣りに建っている電柱によじ登りながら、○○は自虐的に思う。

(…どうしても会わなきゃいけない…。伝えなきゃいけないんだ)

○○はここに来るまでの道中、こなたに伝える事を考えていた。
その中で行き着いた想い。その言葉を伝える事に必死だった。

(…警察呼ばれるかな…)

雨どいをつたって2階部分へ辿り着く。
中を覗くと、額に手を当ててうずくまっているこなたがいた。

(あの音はおでこをぶつけた音なのかな?)

その様子に少し和みながら、窓をそっとノックした。



少し申し訳なさそうな笑顔の○○が窓の外にいた。

(…通報されるね…。外見が100%怪しい人だよ)

かと言って自分が通報する訳にもいかず、まさか突き落とす
訳にもいかなかったので、窓を開けて○○を入れた。 
「や、こなたさん」
「…『や』じゃないよ。何しに来たの?」
「かがみさんがこなたさんが泣いてるって聞いてさ」
「それで来たの? 2階から侵入してまで。…○○くん本当にエロゲ主人公みたいだよ」

半ば呆れ、半ば喜びながらこなたが○○を見る。
○○は靴を2階の屋根に置き、こなたの横へ座った。

「やった事ないから賛同しかねるよ。…泣いてたのはホントなんだね」

こなたが慌てて頬を擦る。

「うっ…。こ、これは汗だよ! せっかくの休みだから正拳突きの素振りを100本してたからね!」

しどろもどろに説明するこなたをまっすぐ見ながら、○○はゆっくり口を開いた。

「俺、こなたさんに伝え損ねた事があるんだ。…聞いてくれるかな?」
「…イヤ。シリアス過ぎるのキライ」
「今だけでいいから。――大切な話なんだ」

○○に見つめられ、こなたが押し黙る。 
 
「俺さ、『オタク』ってまだよく分からないんだ」
「男の人が堂々とセーラー服来てたりとか…さ」
「アニメとかなら俺もよく見るよ? だけどああして何かをするってのがよく理解出来ないんだ」
「だけどね? 俺は『理解しない』つもりはないよ」
「これから先、ああいう人達がその格好するのも、良いと思うんだ」
「きっとそこには『やりたいと思った理由』があるはずだから」
「だから俺は、そういう人達の気持ちまで否定しないし、理解もするよう頑張る」
「…だから…。――だから、こなたさんの事も教えて欲しいんだ」
「何でそういうのが好きなのか。きっかけは何だったのか。今どういうのが好きなのか」
「こなたさんの想いと一緒に、全部教えて欲しいんだ」
「…だって俺は…。こなたさんが好きだから。――誰よりも…、大切だから」

いつも側にいて分からなかった。
近過ぎたが故に気付かなかった想い。
○○はようやくそれに気付いたのだ。

「…俺じゃダメかな? その、もっとオタクについて勉強するから!」

身振り手振りを交えて懸命に想いを伝えてくれる。
そんな○○を見て、こなたの目から涙がこぼれていた。 
だが、それは悲しい涙ではなく、心から自然とわき出た喜びの涙だった。

「…○○くん!」

こなたが○○の胸に飛び込んでくる。

「わっ!? こなたさん?」

顔を○○の胸にすり寄せながら、こなたは小さく呟く。

「…ダメだと思ってた…。○○くんオタク苦手だって言ってたし…」
「私の事も苦手なのかなって…。本当は私といるの迷惑してるんじゃないかなって…!」
「だから…! だからもう○○くんに会えないって思ってた…。会っちゃダメだって…!」
「でも…、でも! 会って良いんだよね? オタクだけど…。こんなにちっちゃいけど…。…胸だってないけど…」

言葉を発していく内に徐々にヘコんでいくこなたを、愛しさを込めて抱き締める。
普通より小さい身体が、○○の腕の中にスッポリ収まった。

「…全部、大好きだよ。こなたさんの気持ち…、教えてくれる?」

優しくこなたの頭を撫でながら、○○は返事を待つ。

「大好き…。大好きだよ…」

小さな身体を押し付けるようにして、こなたは精一杯○○に抱き付く。 
 
「…攻略されちゃったね…。しかもこんなイベント付きで」
「…イベント?」
「ヒロインの家に押し入って告白なんて、ギャルゲにもなかなかないよ?」
「押し入るって…。いや、確かに玄関から入った訳じゃないけどさ」
「んで? この後はどうするの? ベッドあるけど」
「なっ…! 何を言って…」

顔を真っ赤にしながら○○がこなたを見ると、ほんのり頬を赤くしながら、
こなたはいつものからかうような猫口になっていた。

「その前に…」

そう言いながら、こなたは○○へ目を閉じて顔を向ける。

「…何だか緊張するな…」
「もう…! こういう時はリードするもんでしょ? …前も同じ事言ったよ?」
「覚えてるの?」
「なんとなくね。…この距離の○○くんの顔…、見覚えあるし」

改めて○○と目を合わせ、その距離の近さにこなたが真っ赤になる。
恥ずかしそうに目を逸らそうとするこなたの頬に手を当て、奪うように唇を重ねる。 
「うむぅ!? …うぅ…ん…」

舌をからめお互いの唾液を交換する。しばらく重ねた唇を、惜しむようにゆっくりと離した。
互いの舌先を繋ぐ透明な糸がゆっくり伸びて消えていった。

「…リードするって、こういう事じゃないんじゃない?」
「…ゴ、ゴメン…。可愛かったからつい…」
「…いいよ…別に謝らなくても。……気持ち良かったし……」
「ん? 最後何か言った?」
「言ってないよ! やっぱり○○くんエロゲ主人公に向いてるね」
「向いてるって…。今度そのエロゲを見せてよ」
「エロゲを彼氏と一緒にやるの!? …別にいいけど…」
「そ、彼女と一緒にエロゲをやるの」

『彼氏』『彼女』という響きに、お互いおかしくなって笑い合う。 
「いろいろ教えてくれよ? こなたさんの事…」
「…じゃあ…。私の事を『こなた』って呼ぶと、好感度上がるよ?」
「完全にギャルゲのパラメーターだよね。…こなたらしいと言うか…」
「そのうち○○くんにも分かるよ! 沢山教えてあげるからね!」

いつもの猫口ではなく、○○の初めて見る笑顔がそこにあった。
泣く事もあるかも知れない。
怒る事もあるかも知れない。
それでも、この笑顔だけは失う事はないだろう。
○○がこなたに言葉を紡ぐ限り。
こなたが○○に想いを紡ぐ限り。

「○○くん!」

こなたは○○以外に見せる事のない、優しい笑顔に想いをのせてまっすぐに告げた。



「大好き!」

FIN


おまけ 通常ver

かがみは走り去る○○を眺めていた。

(……これで…いいのよね…)

かがみは泣きそうな顔をして微笑んでいる。

「お姉ちゃん…」

呼ばれた声に振り返ると、目に涙を溜めたつかさが立っていた。

「つかさ!? なんでここに?」
「お姉ちゃん朝電話してたでしょ? それで起きちゃったの…」

今にも泣きそうになりながら、つかさが説明する。

「…何で泣きそうになってるのよ?」
「…だって…、だってお姉ちゃん可哀相なんだもん…」

つかさはそう言うと、ポロポロと泣き出してしまった。

「……っ」

つかさに言われて、かがみは言葉に詰まった。 

「…つかささん、泣かないで下さい」

声がした方を見ると、いつの間にかみゆきがいた。

「みゆきまで…。何でここに?」
「つかささんに呼ばれました。…かがみさんの側にいてあげて欲しいと」

みゆきがつかさの頭を撫でながら、かがみに説明する。
戸惑いながらつかさを見ると、みゆきがゆっくり口を開く。

「…かがみさんは、○○さんがお好きだったんですね」

核心をつかれ、かがみは思わず口を噤む。

「…でも、泉さんも大切なんですね」 

――その通りだった。
いつの間にか抱いていた○○への想い。
だが、それと同時に気付いてしまった、こなたの○○への想い…。
二つの想いに気付いてしまってから、かがみはずっと悩んでいた。

こなたは一番と言っていい親友だから。
○○は、どんな人よりも素敵な、想いを寄せた人だから。

二人を見続けて至った結論は、『二人が笑顔でいられるようにしよう』という事だった。

「…私達も分かっていました。…泉さんが○○さんを好きな事も…。
かがみさんが想いを堪えていた事も…」
「…辛かったですね…、かがみさん…」
「…良いのよ…。二人が笑っていてくれれば…。…私は…それで――」

みゆきの言葉に、押さえていた想いが溢れ出す。
最後は最早言葉にならなかった。溢れる涙を押さえながら、かがみはその場に泣き崩れた。 

つかさは泣き崩れるかがみの頭をかき抱いて、一緒に泣いていた。

「お二人共、そんなに泣かないで下さい…」
「…うん…分かってる…。あの二人が上手くいったら、笑顔で祝福しなきゃね」

目をこすりながら、かがみが笑顔を作る。

「お姉ちゃん…」
「ほら、つかさも…、もう泣かないの。私も泣かないから。…笑顔でいるから」

かがみにそう言われ、溢れそうになる涙をつかさは懸命に堪える。
その様子をかがみは可愛く思い、つかさの頭を優しく撫でる。

「ありがとうね、つかさ…。みゆきも、ありがとう…」
「ううん、どういたしまして。…えへへ…」
「お気になさらずに。大切な友達ですから」
「うん…、ありがとう。何でつかさは嬉しそうなのよ?」
「…えっとね、お姉ちゃんに撫でられるのが気持ち良くて…」 

「まったく…。子供ね。まぁつかさらしいけどね」
「うふふ。…そうです、良かったら私の家でクッキーを食べませんか?
先日知り合いから美味しいものを頂いたんですよ」
「いいわね、今日はのんびりとお茶会で楽しむのも」
「じゃあ私クッキー焼いて行くね。昨日下準備してたからすぐだよ」
「準備いいわね。じゃあ、後でみゆきの家に行くわね」
「はい、お待ちしていますね」

そう言って3人は一度別れ、正午から優雅にお茶会を楽しんでいた。
後日、失恋のせいもあって、お茶会でクッキーと出されたケーキを食べ過ぎ、体重が○kg増えたかがみが、
○○に八つ当たり気味に往復ビンタをお見舞いしたのは、また別のお話。


FIN


おまけ 別ver

「大好き!」


ドアの外にまで溢れる甘い空気を、目を血走りながら蹴散らしている影があった。
家主であり、泉こなたの父親、泉そうじろうである。

(お~の~れ~! こなたの部屋に付けた盗聴器から男の声がしたから急いで帰ってきてみれば…)
(何だあの男は! 俺のこなたに告白した上に、だ…大好きなんて言わせやがって~!)

そうじろうは、体液を撒き散らしながら怒り狂っている。

(まったくです! 俺の○○に抱き付きやがって! 泉のヤツめ~)
(…君は誰だ)
(WAWAWA…っと、どうも! 白石ッス!)
(どうやって入って来た? …いや、それより抱き付いているだと!?)
(えぇ! お互い抱き合っていますね。…○○の腕の中は、俺の予約席なのにぃ~!)
(ぐぬぬぅ…! よくもよくもよくもぉ~! こうなっては自らの手で天誅を下さねば…)
(…ところで、ちなみに何で中が分かるのだ?)
(○○の事なら何でも分かるんです!)

得意気になる白石を異物を見るような目で一瞥すると、手首を回し突入の準備をする。

(待っていろよこなた! 今助けてやるからなぁ!)
(○○! 俺の愛を受け止めろぉ!)

バンッ! と扉を開けて中に踏み込むと、ベッドの上に避難した○○と、
部屋の真ん中で仁王立ちしているこなたがいた。

「こなた! 無事か…あ?」
「…よく来たな…」
「…と、闘気が不動明王を形作ってる…」
「扉の外で何を騒いでいるかと思ったら…」

ジリッ…。っとこなたが間合いを詰める。

「娘の部屋に盗聴器を仕掛けて…。さらには○○くんに危害を加えようとは…」
「な、なんでそれを…? お、落ち着けこなた。お父さんはただ心配で…」
「危害じゃない! 愛の形だ!」
「君は黙っていろ! ほ、ほら。落ち着いて闘気を…」
「もういい…。テメー等は泉こなたが直々にぶちのめす」

言葉の迫力とオーラに二人が思わず縮こまると、その瞬間にこなたの姿がいなくなる。

「ど、どこに…」
「…こっちだよ…」

言葉が聞こえる方へ視線を下げると、拳を右脇に構えたこなたがいた。

「はぁっ!!」

気合一閃。正拳突きをそうじろうの股間にねじ込む。
突いた拳を脇に引き戻した動作から遅れて、「ズドンッ」という鈍い音がした。

「…そんな…、音が正拳突きの引き手より遅れて聞こえるなんて…」

そうじろうは糸の切れてマリオネットのように崩れ落ちた。

「ひぃぃ…!」

おびえる白石にこなたがゆっくり近付く。

「許して下さい! もう○○には近付かないから!」
「そう…、本当に○○くんに近付かないんだね?」
「近付きません! 近付きませんから命だけは…」
「だ が 断 る !」

絶望に染まる白石に五連中段突きを叩き込み、白石は「ぶべらぁ!」と声を上げながら窓から吹き飛んでいった。 
「二度と○○くんに近付くなぁ!」
「…こなた強いんだなぁ」
「まぁ、格闘技経験者だしね。何より、『愛』の力だよ!」
「…何だか恥ずかしいな…。でも、ありがとう」

床に倒れているそうじろうを無視して、こなたと○○は愛の空間を展開していった。

『あらあら…。恋する女の子は強いのね。こなた、あんまりそうくんをいじめちゃダメよ?』
『それと、○○くんでしたっけ。二人共末永くお幸せに。こなたをこれからもずっとよろしくね?』

その部屋に居た優しい存在は、二人に気付かれないまま、ゆっくりと消えていった。

後日、○○に「一回だけ!」と迫る白石に、こなたが瞬獄殺を10連続で叩き込んだのは、また別のお話。

FIN