キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン…。

「ほな今日はこれまで。ちゃんと予習しときや?」

お昼前の最後の授業が終わり、皆空腹を満たすために動き出す。
学食を利用する人、購買で買う人、弁当を取り出す人など様々だ。

「ぬぅぅぅ~…んっ!」

大きく身体を伸ばし、授業で凝り固まった関節をほぐす。

「すっごい伸びるね。まさか○○くんゴム人間?」
「君は何を言ってるんだ?」

弁当を持ったこなた、つかさ、みゆきが○○の机にやってきた。

「ジョークだよ、ジョ~ク。…そんなに素で返さないでよ」

いじけたようにこなたさんが口を尖らせる。

「まぁまぁお二人とも」

みゆきさんがやんわりと仲裁する。その傍らでつかささんが机を繋げて座る準備をしていた。

「お腹空いたね~。早く食べようよ~」
「つかさ待ちなって。まだかがみが来てないよ」
「お姉ちゃん今日は購買で済ますって。さっきメール来てたよ」

弁当箱を開けながらつかささんが言った。どうにも我慢出来ないくらいお腹が減っているようだ。 
「むぅ…、さてはまたダイエットだな…。桜藤祭が終わって気が抜けたね」
「こ…、こなちゃんあんまりそういう事大声で言わない方が…」
「でも食欲の秋って言うからね。いろいろ美味しいものが旬を迎えるし、つい食べちゃうのも分かるな」

そう言いながら、○○は摘んだおかずを口に運ぶ。

「でもかがみさん、言うほど太ってないと思うけどなぁ」
「甘いね○○くん。見て判らない部分が太ってきたんだよ」
「そうなのかな? 少しくらい丸みのある方が女性らしくていいのに」

○○がそう言うと、こなたがいきなり白石に声を掛けた。

「セバスチャン! 購買でチョココロネ10個買って来て!」
「わ、私メロンパン10個!」

突然の命令に戸惑いながら購買へ向かう白石を横目に、みゆきさんが電話をかける。

「もしもし? ピザ○ラさんですか? LLサイズのピザ10枚お願いします」 
「…皆どうしたの? ってかピザ10枚はどうするの? 投げるの?」
「いや~、何だか急にお腹が減ってね~」
「メロンパン大好きなの~」
「ピザとコーラは至高の組み合わせですよ?」
「そうなんだ…? ピザとコーラに関しては同意だけど」

暫くして机の上はパンとピザで埋め尽くされていた。
凄まじい勢いで平らげる3人を眺めながら、○○はかがみの事を考えていた。

(かがみさんは特に体重気にしてたしなぁ…)
(あの時みたいに無理しなきゃいいけど…)

○○はつかさの弁当と入れ替わっていた「カロリーメイト弁当」と、
「ウィダーインゼリー弁当」を思い返していた。

(…やっぱり様子を見てこよう)

そう思いたった○○は、いつの間にか半分以上平らげられた
机の上に驚きながら、教室を出てかがみを探した。 
(仮に購買で買ったとして…、どこで食べるか…)
(周りに食べてる人が多いと、食べても満足出来ない可能性がある…)
(あまり人がいなくて…、何も考えずに居られる場所…)
(…屋上かな…?)

そう考えて屋上へ上がると、角の方でうずくまるようにしているかがみが居た。

「かがみさん?」
「…え…? ……なっ! 何でアンタがここに居るのよ!」
「探しに来たんだよ。お昼にいなかったから」

そう言いながら、○○はかがみの横に腰を下ろす。

「座っていい?」
「…座ってるじゃない。まったく…」

少し頬を赤らめて、かがみはそっぽをむく。

「…ダイエットだって?」
「……!! 誰に聞い――!…あっ」

今度は目に見えて顔が赤くなる。慌ててかがみは○○から顔を逸らす。

「…ホントなんだ? かがみさん別に太ってるように見えないけどな」
「う、うるさいわね! 私の勝手でしょ!」
「…まぁ…、そうなんだけどさ」
「…心配なんだよ? 桜藤祭の時みたいに、とんでもない食生活しそうで」
「カロリーメイト弁当とか、ウィダーインゼリー弁当とかさ」 
「うっさい! …ってか、早く忘れてよそんなの!」
「あはは、ゴメンゴメン」
「…まったく…。……アンタのせいなんだから……」

「…え? 何か言った?」
「何でもない! ほら、お昼休み終わるわよ? 私は先に戻るからね!」

そう言うと、かがみさんは屋上から出て行ってしまった。

「…? 何って言ったんだろ…?」




屋上から戻る道中、かがみは複雑な心境だった。

(アイツ、私の事心配してくれてるんだ…)
(…だけど…、これだけは止める訳には…)

そう思いながら、かがみは数日前の事を思い出した。 
こなた達と一緒に帰ろうと教室へ向かうと、廊下で白石と会話する○○がいた。

「なぁ、○○は大きいのと小さいのはどっちが好きなんだ?」
「ん~、大きいのかな。ってか表現違くないか?」
「気にするなよ。じゃあ細いのと太いのは?」
「う~ん、俺は細いのが好きだな。見た目的にも綺麗だろ」

かがみはこの会話を耳の端で聞きながら教室へ入っていった。

(…大きいのと小さいの? これってやっぱり…)

かがみは自分の胸を見る。

(じゃあ…、細いのと太いのって…)
(…体型…よね…。やっぱり…)
(○○くん細い方が好きなんだ…)

かがみは決して太っている様には見えない。それどころか適正な体型のように見えるが、
自分の目にはそう写っていなかった。

(最近間食が多かったし…)
(…よし、…痩せよう!)

これが数日前の事だった。きっかけは単純だったが、その決意は生半可なものではなかった。

(絶対に痩せるんだから…っ!)

自分の教室に向かいながら、改めて決意の炎を燃やすかがみだった。 
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン…

一日の終わりを告げるチャイムが鳴る。

「うぅぅぅ~…っ」

両手を組み合わせて、上にあげながら大きく伸びをする。

「やほ~。○○くん寄り道してこ~!」

こなたさんがそう言いながら、薄い鞄を片手にやってきた。

「う~ん、今日は遠慮しとくよ。宿題沢山あるしね」
「え~。せっかく私とのイベントを起こすチャンスじゃ~ん。行こうよ~」
「多分俺とこなたさんの間にフラグは一本も立ってないよ」
「フラグって言葉を自然と使うあたり…。君も立派なオタクだね!」

嬉しそうに親指を立てながらこなたさんが言う。

「…ま、まぁとにかく。今日は止めとくよ、また今度ね」

ブーブー言うこなたを置いて、○○は昼間のかがみの様子を心配しつつ、帰路に就いた。

一方、かがみは一人帰宅を急いでいた。

(…早く帰って部屋でじっとしていよう…。お腹減り過ぎて痛い…) 
かがみのダイエット方法とは、一日一食しか食べないものだった。
それも、食べるのはお昼の購買のパン一つだけである。
つい2日前まで、食事を取りながら運動するというごく普通のものを行なっていたが、
効果があまり目に見えてこないため、かなり強引な手法に切り替えたのだ。

(痩せるんだから…)

なかば朦朧としながら家に辿り着くと、倒れるように自室のベッドに横になった。




翌日。

「おはよう。つかささん、かがみさん」
「○○くんおはよ~」
「…おはよ…」

対照的な挨拶をする二人に、昨日の心配が甦る。 
「…大丈夫? かがみさん。目に見えて衰弱してるよ?」
「…だ、大丈夫よ! ちょ~っと目が覚めて無いだけだから」
「ホントに?」

そう言いながら○○はかがみの顔を覗き込む。
するとかがみは沸騰したかのように真っ赤になると、慌てて横を向いた。

「大丈夫って言ってるでしょ! …女の子の顔を覗き込むなんて、デリカシーが無いわよ…!」
「…お姉ちゃん…、○○くんは心配してくれてるんじゃ…?」

つかさが控え目にかがみに言うが、かがみは顔を赤くしたまま、
「先に行くから」と言って走って行ってしまった。

「…マズかったかな…」
「ねぇ、○○くん…。お姉ちゃんね、昨日の晩ご飯何も食べて無いんだ…」
「昨日だけじゃないの。一昨日も食べなかったし…」
「このままじゃお姉ちゃん、倒れて怪我しちゃうよ…」
「だからお願い。お姉ちゃんにダイエットを止める様に言ってあげて!」

つかささんが必死な顔で俺を見てくる。 
「…でも、それならつかささんの方が良くないかな?
妹が本気で心配してるって分かれば止めそうだけど」
「……ダメなの。○○くんが言ってあげないと」
「きっと、今お姉ちゃんに必要なのは、○○くんの言葉だと思うから…」
「? 分かったよ。今日のお昼にまた話をしてみるね」
「うん! お姉ちゃんをお願い!」

つかささんはホッとしたような、少し哀しそうな顔をしていた。

その日のお昼。
昨日と同じく、大量のパンとピザを平らげる3人を眺めつつ、○○はかがみを探しに教室を出た。

(また屋上かな?)

○○が屋上のドアを開けると、昨日と同じ場所にかがみが居た。
○○は近付いて行くと、昨日と同じく隣りに腰を下ろす。 
「ちゃんと食べてる?」
「…うるさいわね。…食べてるわよ…」
「…皆心配してたよ。全然食べてないみたいじゃないか」

こなたも最初は面白がっていたが、
流石に様子が尋常ではないと気に掛けていたのだ。

「…………」
「俺も…、無理してかがみさんが怪我でもしたら…、悲しいよ」
「…大丈夫よ。自分の事は自分で分かるわ。無理なんかしてないわよ」
「…でも――」
「もう良いでしょ? 大丈夫よ。私は無理してないから」

無理矢理会話を終わらせ、かがみは立ち上がる。

「ほら、休みが終わるわよ」

そう言ってかがみは入口へと向かい、慌てて○○は後を追いかけた。



(…気持ちはとっても嬉しいけど…。やっぱり止める訳にはいかないの…)
(…だって…、私…アンタが…)

そう考えながら扉をくぐり、階段を降りようとした時、
かがみは視界が回るのを感じた。

(…あれ…?)

遠くで○○の声を聞きながら、かがみの意識は遠くなっていった。 
「かがみさんっ!」

入口をくぐり前を向くと、かがみさんの身体がグラリと前へ傾いたのが見えた。

(くそっ! 間に合え!)

大きく踏み出すと、かがみの身体を抱える様に抱締め、そのまま階段を転がり落ちていった。

(ぐわっ! …痛って~。…か、かがみさんは…?)

腕の中にいるかがみが無事なのを確認すると、安心したのか、○○はフッと気を失った。


いつまで眠っただろうか。
深く暗い水中から急浮上するように意識が戻る。

「…ここ…は?」
「…お姉ちゃん? …お姉ちゃ~ん!!」

目に涙を溜めたつかさが抱き付いてくる。

「かがみ起きたの!?」
「大丈夫ですか? かがみさん!?」

こなたとみゆきも居た。周りを見渡すと、どうやら保健室のようだ。

「…何で私ここに…?」
「かがみ覚えてないの? 屋上の階段で○○くんと倒れてたんだよ?」
「倒れて…。そっか…、倒れちゃったんだ…」
「先生が、顔色悪いし栄養不足だろうって。もう、かがみ無理し過ぎ!」

皆からの言葉をぼんやり聞きながら、かがみは引っ掛かった事を聞いた。 
「…○○くんと?」
「…うん。そこにいるよ」

隣りのベッドを見ると、○○くんが静かに横になっていた。

「多分、かがみをかばって一緒に落ちたんだと思うよ。頭を強く打ったみたいだけどね。傷もないし、大丈夫だろうって」
「念の為、明日は病院で見てもらうそうですよ」

かがみは呆然としていた。
自分の事は自分が分かっている。…そう大口を叩いておきながら、
倒れた挙句に○○まで危険な目に合わせた事に。

(…何やってるのよ…。私は…)

かがみの表情を見たこなたは、みゆきとつかさに外で待っていようと言い、保健室を後にする。


(…何でダイエットしてたのよ…)
(この人の隣りに居たくて…、○○くんの隣りに居たくて頑張ったのに…)
(…なのにっ…。○○くんに心配掛けさせて…)
(挙句の果てには…、危険な目に合わせるなんて…)
(…最低…。最低よ…)

静かに眠っている○○の顔を見るていると、自分の浅はかさに悔し涙が流れた。

(ゴメンね…、ゴメン…)

後悔が押し寄せる。悔しくて涙が溢れる。かがみは自分に対して、
そして○○に対しての思慮の無さに、ただただ泣き続けた。 
「…泣かないで、かがみさん…」

静かな、優しい声が聞こえて、かがみは顔を上げる。
いつの間にか、隣りのベッドで眠っていた○○が目を覚ましていた。

「○○くん…。…大丈夫なの? 頭はハッキリしてる? 気分が悪いとかない?」

かがみが心配そうに聞いてくる。○○は身体を起こしてゆっくり自分の頭を触る。

「…痛っ! …タンコブが出来てるくらいかな…。気分も悪くないし、大丈夫だよ」
「本当に? …良かった…。ごめん…。私のせいで…」
「違うよ。かがみさんをかばったのは俺の意志だもん。かがみさんのせいじゃないさ」
「でも…。『自分の事は自分で分かる』なんて大口叩いて…、
結局気絶しちゃうなんて…。最悪よね…」

自嘲気味にかがみが笑う。

「そんな事ないよ。たまたま今回上手くいかなかっただけさ。
それに、そこまでして痩せたい『理由』があったんでしょ?」
「…それは…」

かがみが口ごもると、○○はゆっくり首を横に振る。 
「ううん、聞かないよ」
「…どうして…?」
「例え聞いても、俺は何も変わらないから。かがみさんが本気なら、
俺はかがみさんが無理し過ぎないように側で見守るだけだから」
「どんな理由であってもね。…まぁ…、今回は後手になっちゃったけど」

苦笑いしながら○○は言った。そんな○○を見て、かがみはますます自責の念にかられる。
収まりかけていた涙が、再び溢れる。かがみは止まらない涙を拭いながら、
ただひたすらに○○に謝るしかなかった。



両手を顔に当て、嗚咽を堪えながら泣き続けるかがみを見て、○○は掛ける言葉を失っていた。
不意に今朝のつかさの言葉が甦る。

『きっと、今お姉ちゃんに必要なのは、○○くんの言葉だと思うから…』

(…俺の言葉…)

言葉とは、相手に想いを伝える為に存在する。

(…俺の…、かがみさんに伝えたい想いは…)

○○は自分の胸に問い掛ける。 
俺の想いは…?
何を伝えたいんだ…?
…俺にとってのかがみさんは何…?

心の中でそれらの答えを探ると、一つの想いに行き着く。
それはいつからあったのか。
泣き続けるかがみを見ていて芽生えたのか。
共に桜藤祭を成功させた時に芽生えたのか。
ダイエットを支えるうちに芽生えたのか。
劇を見た時に芽生えたのか。
初めて会った時に芽生えたのか…。

○○の行き着いたのは、いつの間にか大きく育った「かがみへの想い」だった。

「…かがみさん…」

そう呼びながら、○○は硝子細工を扱うかのように、
丁寧に、優しくかがみを抱き締める。

「…え? な、何で? ちょっと…」
「…少しだけ…、このままで…。伝えたい事があるんだ…」
「……な、何よ…」
「今朝ね、つかささんに言われたんだ。かがみさんには、俺の言葉が必要だって…」
「だけど、俺は泣き続けるかがみさんに掛ける言葉なんか分からなかった」
「だから、今俺の心にある、素直な感情を言葉にするよ」
「…かがみさん…。好きだよ」
「俺の好きなかがみさんは、笑顔が素敵で…、怒った顔も…、怖いけどやっぱり素敵で」
「だから…、泣かないで…。貴女の泣き顔は…、とても悲しくて…」
「俺まで悲しくなってしまうから…」 
 
突然の告白に、さっきまで流れていた涙は無くなっていた。

「で…でも、私こんなんだよ? 意地っ張りで…、強がりで…」
「だったら尚更側にいさせて欲しいんだ。俺が、かがみさんの支えになってみせるから」
「…それに…、私そんなに細くないし…」

そうかがみが言うと、○○は首を振って否定する。

「今俺の腕の中にいるかがみさんは、とても細くて、華奢で、温かいよ」
「……っ! は、恥ずかしい事言わないでよ…! …もう…」
「…かがみさんは…。俺なんかじゃダメかな…?」
「……そんな事、ない…。私も…、…アンタが、いい」

○○の胸に顔を埋めながら、背中に手を回して呟く。

(…どこかで同じ様な事を言った気がするわね…)
(…だとしても、きっと相手はこの人よね…)
(だって…、こんなに好きなんだから…)

気持ち良さそうに、○○の胸板に顔をすり寄せる。
その仕草が愛しくて、○○はより強くかがみを抱き締める。 
「そういえばさ…、一つ聞きたいんだけど…」
「やっぱり○○くんは細くて大きな娘が好きなの…?」

腕の中で顔を上げ、上目遣いでかがみが聞いてくる。

「…? 何の事?」
「ほら、この前白石と話してたでしょ?」

そう言われて○○は記憶を探る。

「…あ~、あれかな? 細いのが好きとかなんとか」
「…やっぱり…、そうなんだ…」

そう聞いてかがみは落ち込む。もっと細い娘が現れたら、○○を取られると思ったからだ。
だが、次に○○から発せられた言葉に唖然とする。 
「うん、やっぱりパスタは細くて長いのがいいよ。盛り付けた時も見た目が綺麗だし」
「…は?」
「だから、パスタは細くて長いのが…」
「いやいやいやいや」
「…どうしたの?」
「『…どうしたの?』じゃないわよ! 何でパスタの話になってんのよ!?」
「だってそうなんだもん…。最近白石がセクハラ染みた質問ばっかりするからさ」
「ついこの間も、すりこ木の棒について俺に『形状は?』とか、『サイズは?』とか聞いてくるんだよ」
「そんなの『太い』か『硬い』しかないのに、無理矢理言わせるんだよ?」
「流石に怖くなって、こなたさん直伝の正中線5連突きをお見舞いしたけど」

かがみは口をパクパクさせて呆然としていた。

(…な、何よそれは~!)
(もしかして…、盛大な勘違い…?)

呆然としたままのかがみを見て、状況を理解した○○がニヤリと笑う。 
「…もしかして…、かがみさん俺が細い娘が好きだって勘違いしたとか…?」
「う、ううう、うっさいわね! そうよ! 悪い? アンタの隣りに居たかったから必死だったのに!」
「…なのに…。これじゃあ…私、バカみたいじゃない…」

俯き再び泣き出しそうになったかがみを見て、○○は慌てる。

「いや、ゴメン。違うんだ、嬉しいんだよ」
「こんなに好かれて、こんなに一生懸命に想いをぶつけてくれるから」
「それが好きな相手からなら尚更だよ」

○○はかがみの頭を撫でながら謝る。

「…じゃあ、アンタの想いを証明してよ」
「…どうやって?」

そう聞くと、かがみは目を瞑り○○に顔を向ける。

「…いいの? 俺はまだかがみさんの気持ちをハッキリ聞いて無いけど…」
「……バカ。…好きに決まってるじゃない…」

恥ずかしそうに呟くかがみさんの唇に、自分の唇をあてがう。
触れるだけのキス。それでも、幾万の言葉を交わすよりも明確な想いを伝えた。
「んん…。…ぁん…。…はぁ…っ」

暫く重ねていた唇を、名残惜しそうに離す。 
「…愛してるよ、かがみさん…」
「…かがみって…、呼びなさいよ…」
「かがみ…」
「…うん…」
「…好きだよ」
「…私も…」
「…俺さ…、あんまりカッコ良くないかも知れないけど…。
かがみに相応しい男になるからさ…」
「だから…、ずっと一緒にいてくれよ」
「…分かったわよ。…仕方ないわね…」
「私も…、アンタ以外に興味無いんだから…」
「浮気なんかしたら、許さないんだからね!」

かがみは笑顔で泣いていた。だがそれは、自責や後悔の涙ではない。
○○と想いが通じた歓喜の涙。
○○の隣りにいられる事の喜びの涙だった。

「○○…」

決して枯れる事はない涙。これから先、○○は何度となく喜びの涙を流させるから。
○○が側に居る限り、かがみの流す涙に悲しみはないから。
かがみは一筋の涙と共に、慈愛と微笑みに溢れた顔で告げた。


「大好きだからね!」


FIN


おまけ

「大好きだからね!」

腕の中の愛しい人が想いを告げている。しかもここは保健室のベッド。
健全な男子なら『えっちぃ事を考えるな』…という方が無理かも知れない。

「…かがみ…」
「…どうしたの?」
「俺さ…、その…。…我慢出来ないかも…」
「……っ!?」

かがみは言葉の意味をすぐに感じ取った。

「ダ、ダメよ! こんなとこで! 学校よここ!?」
「だって…。かがみ温かくて、柔らかくて…。…気持ち良いから…」
「や、柔らかいって言うな…っ!」
「かがみ…」

抱き寄せていたかがみの身体をゆっくりとベッドに横たわらせる。

「…もう…。…初めてが学校なんて…」

かがみが恥ずかしそうに、ほんの少しだけ嬉しそうにしながら呟くと、後ろで声が響いた。 
「それなんてエロゲ?」

―――――。

「うわぁ!」
「きゃあああ!」

一拍の間を置いて、かがみと○○は驚いて身体を起こす。
そこには、頬を赤くしたこなた、つかさ、みゆきがいた。

「皆! 見てたのかよ!?」
「一部始終ハッキリとね」
「お姉ちゃん可愛かったよ~」
「素敵な告白でしたね…」

皆が思い思いの反応を口にする。かがみと○○は顔を真っ赤にしながら聞いていた。

「いや~、しかし想いの通じたその日にヤっちゃうなんて~。○○くんのエッチィ!」
「違うよ! あ、いゃ、違わないけど、そんないい加減な気持ちじゃ…!」
「分かってますよ。○○さんがかがみさんを、とても大切に想ってる事は」
「そうだよ。さっきの二人、とっても幸せそうな顔してたもん」

改めて言われて、再び二人の顔が赤くなる。 
「だけどさ~。○○くん…」
「何?」
「私にも告白しといて、かがみにも告白ってのは鬼畜過ぎない?」

――――。

「いやいやいやいや!」

一拍の間を置いて、猛烈な勢いで○○は否定する。

「私にも告白してくれたよね? とっても嬉しかったよ~」
「あんなにハッキリと愛を囁いてくれましたよね?」

驚いた事に3人が3人とも、○○に告白されたと言ってきた。
かがみを見ると、怒りと悲しみとが混ざり合い、まさに『般若』の形相をしていた。

「違うよかがみ! 俺そんな事一言も――」
「一昨日言ってくれたじゃない」
「丸みのあるこなたさんが好きだって」
「女性らしいつかささんが好きだって」
「ピザを平らげるみゆきさんが好きだって」

3人が3通りの告白文を告げる。

「何でそうなるんだよ! 俺は女性らしい丸みがあった方が良いって…」

懸命に弁解するが、こなた達は告白されたシーンを思い返しているのか、上の空である。
かがみを見ると、そこにある筈の無い角が見え始めた。 
「だから私はチョココロネを毎日10個食べてたのに…」
「私はメロンパンを焼いて持って来てたのに…」
「私はピザをフリスビーしてたのに…」
「みゆきさん食べ物を粗末にしない! だから違うって! かがみも話を聞いてくれよ!」

最早さっきまでの甘い空気はどこへやら。
一変して修羅場と化していた。

「「「「さぁ…っ! ○○くん…」」」」

泣きそうな○○を取り囲み、4人は般若の形相で問詰める。

「「「「一体誰が好きなの!?」」」」



この後、小一時間かけて全ての誤解を解き、お詫びと称して全員に叙○苑の焼肉を奢らされ、
最後にかがみとのキスを披露したのは、また別のお話。


FIN

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最終更新:2009年02月09日 00:38