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 あやのさんと入れ替わるように、俺とゆたかの恩師がやってきた。
「おめでとさん、お祝いに来たでー!」
「ありがとうございます、黒井先生」
「おっ! 綺麗やないか、小早川」
「先生、ありがとうございます」
「教え子の晴れ姿を見るちうのも、えーもんやな」
「黒井先生……」
「……ウチはいつ結婚できるんやろか」
 黒井先生の顔が曇る。
「兄沢さんとは、うまくいってないんですか?」
「命斗さんとはいい感じや。……ただ、先に進めないんや。足踏みしたまんまーでな」
「黒井先生たちも、俺たちと同じくらいの時に、付き合い始めたんですよね?」
「せや。けど、ゴールは自分らが先やな。……はぁ」
「元気出してください、先生。きっと、兄沢さんも、中々切り出せないんですよ」
「ウチが切り出しても、ええと思うたんやけどな。ダメやったら、なんて考えたら、……なんや怖なってな」
 少し前の俺と姿が重なる。不安になるのは、みんな同じだ。
「先生、兄沢さんの事、本当に好きなんですね」
「たぶん、兄沢さんも、黒井先生と同じ事考えてますよ」
「そやろか?」
「同じように、何度も不安になった俺が言うんだから、間違いないですよ」
「教え子に励まされるとは、なんやえらくおかしな状況やな」
「そんな事、言わないでくださいよ。今までお世話になった分、お礼をしたいんですから……」
「そうなんか……、ありがとうな」
 黒井先生の顔に笑顔が戻る。やはり、黒井先生はこうでなくては。

「悩み事も無事解決したことやし、今日はめでたい日なんやから、ぎょーさん飲むでー!」
「先生、飲みすぎには、気をつけてくださいね」
「迷惑かけるほどは、飲まんよーにするて。ほな、ウチは戻るでー」
 黒井先生は、いつものように豪快に笑いながら戻って行った。
 少しは力になれたのだろうか?
 黒井先生には、ずっとお世話になってきた。だから、力になれていると嬉しいのだけれど……。
「先生と兄沢さん、うまくいくといいね」
「大丈夫だと思うよ。後は、どちらかが一歩踏み出せば、いいだけみたいだから」
「そっか、良かった。先生たちの結婚、早く決まるといいね」
「うん。今度は俺たちが、祝福しないとね」
 たぶん、そんなに時間はかからないだろう。
 近いうちに、またみんなと会うことになりそうだ。

 しばらくして、今度は懐かしい面々がやってきた。
「……伊藤先輩、ゆたか、おめでとう……」
「二人とも、おめでとうっス!」
「まこと、ゆたか、Congratulations!」
「いやー、めでたいねぇ、お二人さん!」
「みんな、ありがとう」
 友人が来てくれて、嬉しそうにするゆたか。まあ、当然なのだけれど、俺には一つ違和感があった。
「ありがとう。でも、このメンツに、八坂さんて珍しいね」
 田村さんやパティさんはともかく、岩崎さんやゆたかとも面識があったのだろうか?
「何言ってるんですか、まこと先輩。ゆーちゃんとみなりんは、アニ研に遊びに来てたりしましたよ」
「あれ? そうだったんだ」
「うん、田村さんに誘われたりして、よく遊びに行ったりしてたよ」
「……その時に、八坂先輩とも知り合ったんです」
「そーなんですよ。たまにイベントの手伝いしてもらったり、コスプレしてもらったりして」
「あぁ! あの写真はその時のか」
 俺が、前に見せてもらった写真には、恥ずかしそうなゆたかと岩崎さんが写っていた。
 ゆたかは可愛さを、岩崎さんはかっこよさを強調したコスプレだった事を覚えている。
「二人とも似合うんですよ、コレが! 特にみなりんは、男装もいける万能ぶり!」
「みなみちゃんの男装は、本当に男の人と勘違いする人もいたっスよね」
「……私は、そんなに女らしくないでしょうか?」
 胸に手を当てる岩崎さん。
「みなみ、オオキいだけがオンナじゃないネ!」
「そうだよ、みなりん。小ぶりなのは、すっごい可愛いんだから。ねっ、ひよりん」
「ちょっ、そこで私に振るんスか!? でも、伊藤先輩のように、需要があるのは確かっス!」
「た、田村さん……」
 なぜ俺が例になるのだろうか。いや、確かにゆたかは小さくて可愛いけれど……。
「Oh! まこと、カオがアカイです! もしかして、キノウのヨルはオタノシミでしたかー?」
「パ、パティさん……」
 ゆたかの顔も真っ赤だ。こなたさんたちに、気をつけていればいいと思っていたけれど、その考えは甘かったようだ。

「……それにしても、先輩、……ちゃんと言った事、守ってくれましたね……」
「みなみちゃん、まー君が何か言ってたの?」
「うん、ゆたかの事を……大切にするって……」
「ま、まー君、そんな事言ってたの?」
 照れくさそうなゆたか。けれど、ちゃんと嬉しそうな事もわかるのも、ゆたからしい。
「うん、岩崎さんが真剣だったから、俺も真剣に答えたんだよ」
「……ですが、あの時は……、伊藤先輩に自信がなくて、ゆたかの友人として、不安になるような言動もありましたね…
…」
「あちゃ~、まこと先輩、ヘタレですねー」
「そうなんだけど……、俺も色々がんばったんだよ?」
「確かに、プロポーズの相談に、泉先輩のところに来たときは、ヘタレの汚名返上したっスよね」
「HEATS! モエですネ、まこと!」
「うんうん、熱いねえ」
「その調子で……、ゆたかの手を引いてあげてくださいね……」
 岩崎さんの言葉は、あの時と同じで真剣なものだ。
 違うのは、もう信頼されていないという状況ではないこと。
「うん、わかってる」
「まー君……」
 ゆたかが嬉しそうに微笑む。この笑顔を守るためにも、しっかりがんばらなくては。

「まこと先輩、ゆーちゃん、私たちはそろそろ戻るねー」
「二人とも、また後でっス」
「see you later!」
「伊藤先輩……、ゆたか……、あまり緊張しすぎないように……」
 後輩たちは戻っていった。
 なんというか、俺の友人は同級生も後輩も、個性的な人たちが多かったんだなと、改めて気付く。
 大学の思い出が、普通すぎると感じるのは、それが原因なのではないかと勘繰ってしまう。
「やっぱり、みんな元気だったね」
「さっきの俺の気持ち、わかったろ?」
「うん。懐かしくて、嬉しくて、泣きそうになっちゃった」
 そう笑うゆたかの目尻は、若干涙で滲んでいた。

「二人とも、おめでとう」
 岩崎さんたちが会場に戻った後、そうじろうさんがやってきた。
「ゆーちゃん、似合ってるじゃないか」
「ありがとうございます」
「ゆきやゆいちゃんの結婚の時を思い出すよ」
「そ、そうですか? そうだと、嬉しいです」

 陵桜での三年間、ゆたかは泉家に居候していた。つまり、俺とゆたかの仲は、すぐにこなたさんたちの知ることとなっ
た。
 ゆいさんとそうじろうさんに呼び出され、尋問されたのも、今となってはいい思い出だ。
 最終的には認めてもらえたけれど、あの二人に終始押されていたのは、言うまでもないだろう。

「それにしても、とうとう結婚……か」
「そうじろうさん、どうかしたんですか?」
「いや、なんでもないよ。――まこと君、ゆーちゃんを……幸せにするんだぞ」
 それは、よくある祝福の言葉だった。
 けれど、大切で重い意味が込められている。なぜか、俺はそう感じた。
「はい。……ゆたかは、俺が必ず幸せにします」
「その気持ちを、忘れちゃダメだぞ」
「大丈夫ですよ。この気持ちは、死んでも変わらない自信があります」
「まこと君がそういうなら、きっと本当に、死んでも変わらないんだろうな」
 この根拠の無い自信でも、認めてもらえるほど、俺はそうじろうさんに信頼されているようだ。
 その信頼を裏切らないためにも、努力しなければ。
 ……けれど、こういった話は、本人の目の前で話すことなのだろうか?
 顔を真っ赤にしているゆたかを見て、俺はふとそう思ったのだった。

「それじゃあ、俺はそろそろ戻るよ。せっかくなんだから、こなたたちも写真に撮らないと!!」
「桜藤祭の時みたいに、警備員に追い出される。なんてことがないようにしてくださいね」
「うう、追い出されるのは嫌だな。少し自重するしかないのか……!」
「式の後で撮らせてもらうのは、ダメなんですか?」
「ゆーちゃん、それだ!」
 問題が解決したそうじろうさんは、幸せそうに戻っていった。
 なんというか、もう結構な歳なのに、そうじろうさんはかなり元気だ。
 あの元気さは、俺も見習うべきかもしれない。元気さだけだけれど……。

「やっほー! 二人とも、結婚おっめでとー!!」
 最後にやってきたのはゆいさんだ。相も変わらず、テンションが高い。
 というか、なんか様子が少し変だ。……まさか。
「ゆいさん、もしかして、お酒入ってる?」
「うん、そーだよー。黒井先生に薦められてねー」
 く、黒井先生、何してるんですか……。
「お姉ちゃん、お酒飲んじゃって大丈夫なの?」
「そもそも、我が最愛の妹の結婚式、なーんてめでたい日に、飲まずにいられるかー!」
「で、でも、お姉ちゃん今日は車じゃなかったっけ?」
「だーいじょうぶ。こなたに代行頼むから」
「こなたさんたちも、少しは飲むんじゃ?」
「そしたら、本業の代行に頼めばいいのさー!」
 なんだか、勢いがすごい。毎度思うことだけれど、本当にゆいさんはノリで生きてるな……。
 けれど、そんなゆいさんだからこそ、話しているだけで、元気を分けてもらえているような気がする。
 こういった、周りを明るく、元気にできる才能は、ゆたかもゆいさんも一緒だ。さすが、姉妹といったところか。

「うーん、にしても、ゆたかよく似合ってるね。綺麗だよー」
「そ、そう? ありがとう、お姉ちゃん」
 嬉しそうなゆたか。お姉ちゃんっ子だから、ゆいさんに言われるのが、一番嬉しいのだろう。
「まこと君も、男前だね」
「ありがとう、ゆいさん」
「うんうん、二人はいい夫婦になれるよ。お姉さんが保障しよう!」
「心強い保障ですね」
「でしょー? よしよし、それじゃそろそろ行こうか。出番だよ、お二人さん」
「よし、行こうか、ゆたか」
 ゆたかに手を差し伸べる。
「うん、まー君」
 握り返すゆたか。そして、俺たちは歩き出した、新たな一歩を――。


 余談だけれど、ブーケは、激しい争奪戦の末、ちゃんと黒井先生がゲットした。