先輩、仰天。
「こ、告白って・・・え、岩崎さんが?ぇえ?」
先輩、動揺。
みなみ「・・・落ち着いて下さい。もちろん、明日、断ってきますから」
「ぇ・・・あ・・・そ、そうね。ア、アハハ、ハハハ、・・・はぁ・・・びっくりしたぁ」
先輩、安堵。なんか可愛いかも。
・・・いや、今はそんな場合じゃない。
みなみ「・・・先輩・・・・・ゆたかに、告白された時・・・・どう、感じました?」
「・・・・・・えっ?」
聞き返す先輩。繰り返す私。
あの時は、聞かなかった。
・・・今は、聞きたい。あの日の、先輩の思いを。
みなみ「何を、考えました?教えてください・・・あの時、何を、思っていたのか―――」
「・・・・・・・・・」
みなみ「・・・・・・」
―――質問の後から、先輩は、しばらく目を瞑っている。
私は、一瞬『やっぱり・・・』と、すぐ謝る気持ちになったのだけれど。
今は、黙って待っている。
・・・ただ、待つ。先輩の言葉を。
「・・・岩崎さん」
みなみ「・・・は、はいっ」
先輩が目を開ける。その目は、やっぱり、いつも通り、とても優しくて。
・・・最近の、ゆたかの目によく似ていた。
・・・・・・違う、逆。
ゆたかが、先輩に似てきたんだ。
私が、ただ、先輩の優しさを享受しているだけの間に、
・・・ゆたかは、大人になったんだ。先輩の背中を追って。
・・・私も、いつかはこんな目ができるようになるのだろうか?
・・・道は、果てしなく遠い気がした。
―――そして、先輩が言葉を紡ぐ―――
「・・・あの時」
「・・・小早川さんに、呼び出された時」
「最初は、一体なんだろうって思った。」
「別れる前に色々あったし、なんだか二人とも様子が変だったから」
「ひょっとしたら、喧嘩して相談にでも乗ってほしいのかな、なんて考えてた」
・・・そう、あの日、先輩には悪いことをしたと思う。
とても心配をかけて、そのくせ勝手に『二人にしてほしい』なんて。
・・・結局、後で謝った時にも、先輩は笑って許してくれたけど。
先輩の言葉は続く。
「・・・そしたら、いきなり」
「『先輩が、好きです。』って」
みなみ「・・・・・・」
先輩は、微笑んだまま。
でも、やっぱり、さっきよりは、困ったような笑み。
「・・・すごく驚いたよ」
「ずっと、妹みたいに思ってたから」
妹。ゆたかも、最初は、先輩をお兄さんみたいに思ってたのかもしれない。
・・・でも、ゆたかは、それ以上を望んだ。
「・・・でも、なんとなく、なんとなくだけど、納得できた」
「いや、その、自慢とか、自惚れとかじゃなくて」
「・・・よく、わからないけど、なんていうか」
「ひょっとしたら、そんな『可能性』もあったんじゃないか、っていう」
「・・・ごめん、これじゃやっぱり自惚れかな」
そういって先輩はさらに困ったような顔をする。
自分でもなんて言ったらいいかわからない、というような顔。
・・・でも、なんとなく、なんとなくだけど、私にもわかるような気もした。
・・・可能性。
例えば、どこからか同じ人生をやり直せるとして、数回、数十回と繰り返したなら、その中には。
・・・きっと、私以外の誰かが先輩の隣にいる時もある。
いや、私がいる可能性こそ、本当は少数派なのかもしれない。
数限りない、無限の可能性の中の、ほんの一筋の流れ。
・・・そこに、今、私はいる。
「うーん・・・」
先輩はまだ、どう言えば良いか悩んでいるようだ。
とりあえず、私は先を促すことにした。
みなみ「・・・大丈夫です。なんとなくわかりましたから。続けてください」
「・・・あ、うん。まあ、その、そんなわけで、告白自体は、なんとか飲み込むことができたんだ」
「・・・そしたら、当然、今度は考えなくちゃならなくなった」
「どう、すればいいか」