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桜藤祭の劇、FATEは大団円のうちに幕を閉じた。
 かがみさんの捻挫から急遽俺に役が回ってきたときはとても狼狽したものだが、いろいろな人に助けてもらい、誤解や対立も生んでしまったが、すぐに仲直りして、転校初日にであった4人と最高の学園祭を迎えられた。
 そして、その劇の終わりに、俺は新たな関係を築いた。
 
 恋人。

 俺の恋人――などというと気恥ずかしく、口に出すのも憚れるが、恋人ができた。こなたさんの「攻略されげー」から、ひょんなことからつかささんと、馬が合うようになった。
 そして、桜樹の木の下で――こなたさん曰く、その樹の下で告白したカップルは永遠に結ばれるとか――俺はつかささんと、契約を交わした。恋人として。

 晴れた日である。「よーし、気ぃつけて帰りやー」と黒井先生の少々不真面目な声を合図に、ぞろぞろとクラスメートが教室から出て行く。教室に残って、友達と雑談に興じているものもいれば、即席の勉強会もクラスのいたるところで四五人、グループになって開かれていた。
 まだまだ夜の帳が下りるのは遅い季節。役目を終えた陽光が、西日となって傾いている。紅に萌えた日差しが廊下から反対側の窓にまで差し込んでいる。
 一日が終わったというなんともいえない疲弊感と達成感がどっと押し寄せてくる。教室の喧騒は、よりいっそうの郷愁をかもし出していた。

「やっと学校終わったね~、私、ねむくて、ねむくて」
「つかささん、寝てたよね」
 ホームルームが終わるとつかささんはパタパタと駆け寄ってきた。ショートヘヤーの、世界でかわいい女の子。いや、決して誇張ではない。本当にかわいいんだから。
「あ、あはは~ばれてた? 一応頑張ったんだけど」
 つかささんは図星をあてられて、困ったような笑顔を見せる。赤くなっている顔の破壊力は、世界どころか宇宙で一番だと思う。
 …ちょっと調子乗りすぎましたごめんなさい。
「でもでも、誠君も、あくびをしていたよね?」
「…ばれてたか」
「お互い様だよ~、それに、嬉しいな」
「なにが?」
 つかささんは、恥ずかしそうに苦笑いを浮かべて、それから小さく呟いた。
「誠君と一緒で。なんだか恋人さん同士みたいで、嬉しいなあ、って」
「――俺達、恋人通しだろ?」
「え?…あ、そうだった~。私、何いってるんだろ」
 照れ笑いのつかささん。
 ああ、抱きしめたいよ…。しかし、自重しろ俺ー! ここは学校。学校なのだ。俺の家でなければ、つかささんの家でもない。人はすでにまばらになっていたが、教室なのだ。
 でも、つかささんの唇、そそるな…。
「とにかく帰ろう? 誠君」
 つかささんはきっと、俺の悶着など微塵にも気づいていないと思う。うなづいた後、俺は椅子を引いて立ち上がった。
「こなちゃんと、ゆきちゃんは?」
「かがみさんのところ、行っているんじゃないかな」
「二人とも、どうしたんだろ」
「そりゃあ、空気をよんだんでしょ?」
「空気?」
「―――ごめんかがみさん。つかささんはぜんぜん意図を理解していないや」
 かがみさんに、黙祷。
「???」
 つかささんは、ごまかすためにあいまいに笑っていた。

 

本当は、俺がこなたさんに頼んだ。二人っきりにしてくれないかと打診した。
 もともと校内公認カップルかどうかは知らないが、少なくても親友達には知れ渡っていた関係だったので、こなたさんは二つ返事で了承してくれた。
 ただし、レポはきちんとすること! との条件付で。メールでいいよ~と言っていたが、情報化社会だ。インターネットを使っている身としても、特にこなたさんに秘密をメールで送るのは、どこか危険な気がした。
 だから、口頭で話そうと思う。
 すごく恥ずかしいけれど、ノロケ話を披露して、こなたさんを面食らわす。なぜかそんなことをしてみたい、と思ってしまった。

「やっぱり、もう少し話していかない? さっきメールが着たんだけど、かがみさんたち、先に帰るって」
「じゃあ私達、置いてけぼり?」
「…」
 やっぱりつかささんはかわいいなあ☆ じゃなくて、天然もここまでくると素敵です。
「お話しするなら、私椅子をもってくるね」
 隣の椅子から引っ張り出せば早いのに、つかささんは丁寧に自分の机の椅子をもってきた。ずるずるとひきずり、俺の机の対面側に置く。ひとつの机を二人で共有した。
 机の縦の長さなんて、30センチにも見たない。つまり、それほどにまでつかささんの顔は近い。

 さて、先に一言だけ言わせてくれ。
 机の作成者、ぐっじょおおおおおおおおおおおおおおぶううううううううう!!!!

 …取り乱しました。

 話をすると提案したのは、単に時間を稼ぐためだ。まだ教室には人が数名残っている。その人たちも長居する気はないらしく、すでに帰宅(あるいは遊びに行くのかもしれない)の準備を進めていた。
 もちろん、つかささんと二人っきり♪ なんてシチュエーションに歓喜していることは、言うまでもない。
 俺きめえ。

「つかささんは、この前の中間テストどうだった?」
「できれば聞かないでくれると嬉しいな」
「…悪かったんだ?」
「ええ!? なんでわかるのお?」
 つかささんは嘘をつくのが絶望的にへたっぴだから、もちろん簡単に悟ることができる。
 中間テストについては俺も誇れるようなものではない(こなたさんが俺よりも成績いいことには心のそこから驚いた。いつ勉強しているんだろう)が、話の話題としては最適だと思った。
「かがみさんは、すごく頭いいんだね。テストの点数をおおっぴらに話していたし、91点なんてびっくりしたよ」
「私そのテスト、58点だったよ」
「俺は70点」
「すごいね~誠君。私も、それくらいとれたらなあ」
「いや、どんぐりの背比べだと思うけど」
 そうした、たわいのない会話。
 その時間。連続した時間の中で、分節された中の数十分が、大切な時間だった。

 つかささんと話すこと、小一時間。基本的には俺が話し役でつかささんが聞き役だ。的外れの答えをつかささんが返すときもあるので、スリリングな会話ができる。つかささんから話すときは、できるかぎり口を挟まないように徹底して聞き役に回る。
 聞き上手は会話の基本だ。それになによりも、つかささんのかわいい声を中断なんてしたくなかった。
 それくらい――おーけー、そろそろ自重する。
「うわあ、もう6時だよおっ!」
 つかささんが携帯を取り出して時刻を確認した。
 俺もポケットから携帯を取り出し、折りたたみ式の携帯電話を開く。自動的にディスプレイに待ち受け画面と、設定したあった時計が表示される。
「ほんとだ。そろそろ、帰ろうか」
「うん、お姉ちゃんも心配するといけないし」
 西日は、水平線から30度くらいのところで、残光を弱々しく輝かしていた。
 部活動はまだ行っているのだろう。校庭からは、サッカー部や野球部の元気な声が響いていた。

 教室には、俺とつかささんを除いて、誰もいなかった。

「――二人っきりの教室って、なんだか不思議だね~ ね、誠君?」
「そうだね。雰囲気、いいよね」
「え、それってどういう意味?」
「…」
「??」
「うん、まあ、簡単に説明するとさ、絶好のキキースシーンじゃないかなあって」
「え、えええ!?」
 つかささんは驚いて、声をあげる。われながら雰囲気台無しだと思うが、つかささんは「それとなく」では通じない相手だ。てっとりばやくリアルでひぎぃなお子様厳禁展開に持ち込むには、先に告げておくのが一番だと思う。
 …そんな勇気はないけど。

 つかささんは、最初こそ驚いて俺を見つめ返したが、すぐに緊張に混じった笑みを浮かべた。「キキースだ、だよね?――私と?」
「他に誰がいるって言うっていうのさ」
「お姉ちゃんとか?」
「それは天然なのか? それともボケなのか?」
「む、難しいよ…」
 もう懐柔についてはあきらめた。どのみち俺とつかささんは恋人同士だし、経験済み(キスという意味で)なんだ。迷うことはない。KOOLになれ、前原――俺。

「きゃっ…」
 つかささんの小さい唇に、強引に重ね合わせた。
 二度目のキスは、とても温かくて、つかささんを感じた。
 
 つかささんの、可愛らしい鼻が目の前にある。目を閉じていても、小さな鼻からの呼吸音を感じる。緊張しているのか、やや速いペースで息を吸ったりはいたりしていた。
 唇をはなして、目を開ける。
 ぼうっとしているのが、あるいは考え事をしているのか。つかささんは不思議な顔をして俺の顔を見ていた。

「…嫌だった?」
 そう聞いてみる。
「う、ううん、ぜんぜんそんなことないよ! 私でいいのかなあ、とかは思ったけど」
「つかささんじゃなきゃ駄目なんだよ」
「え、そうかな?
――だったら、嬉しいな」
「えっと、じゃあ、かえる?」
 正直言って、「つかささんでなきゃだめ」なんて言うには勇気を要した。
 恥ずかしいに決まっている。
 でも、そうしないと納得してくれない、そんなつかささんが好きだ。。

「うん、誠君、今日は二人っきりで帰れるね。私、なんだか嬉しいよ」
「俺も」

 ある放課後の一日。
 教室でのキス――キキースシーンで、つかささんとよりいっそう仲良くなれた気がした。




 ちなみに、こなたさん達は帰ったわけではなく、しっかりと俺達を監視していたらしい。
 キスしたことで、さんざん囃し立てられたが、つかささんと二人で否定することは楽しかった。
 いやほんと、早まらなくて良かった…。