※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

... no changes ... no changes ... no changes ... no changes ... no changes ... no changes ... no changes ... no changes ... no changes ... no changes ... no changes ... Thanks!!! Links: pagerank main : [http://www.areaseo.com improve pagerank default] - [HTTP://www.areaseo.com improve pagerank default] : [PageRank 11|http://www.areaseo.com] - [PageRank 11|HTTP://www.areaseo.com] : http://www.areaseo.com/improvepr/ : [[http://www.areaseo.com google rank 20]] : [[http://www.areaseo.com | pagerank 5]] : "online pr16" http://www.areaseo.com : [http://www.areaseo.com|google pr]

【MADE'N MOOR - 黄昏に手招き】


 何もないところだ。見渡す限りのヒースの荒野、寒々と続く土塁。
 こんな田舎に来たのは、私が体も心も病んでしまったからだ。医師に転地療養を勧められ、私は喜んで飛びついた。別に都会の空気が身に合わなかったわけではないと思う。人が多いくせに誰もが目を逸らしあう都会は、結局ここと同じ。あるいは北海の真ん中と同じ。孤独な世界だ。
 けれど、都会に住むための代償は、私には辛すぎた。辛すぎたんだ。

 ファームハウスを農場ごと買い上げて、私はそこに住み着くことにした。農場を営むつもりはない。荒れるに任せる。なんと素晴らしいアイディアだろう。

 私はヒースの野をあてもなく歩いた。足が向くに任せたので、トレッキングの装備などない。いささか渇きを覚えていたが、ただ歩いた。そうしたかったのだ。
 土塁にあたれば沿って進み、こぼたれたところを見つけて乗り越える。大きな石塚を見たが、位置を覚える気もなく通り過ぎる。そんなことを繰り返すうちに、いつしか頂上になにかの廃墟を頂いた、丘に登っていた。

 この辺りでは丘の事をシィといい、中には妖精の国が広がっているという。古い言葉では、妖精そのもののこともシィというのだそうだ。物件を選ぶとき、土地出身だという不動産屋が誇らしげにそんな事を言っていた。

 教会、あるいは修道院の廃墟のようだった。こんな俗塵を離れた場所にあるのだから、修道院だろう。いつしか影は長く、歩けばすぐに一回りできてしまうような小さな修道院を、途方もない広さの迷宮のように感じさせ始めていた。

   ぇああぁあぁ!

 そんな凄まじい声だったが、私は奇妙に静かな心地で音の方を振り向いた。屋根が崩れ、ぽつんと一枚だけ瓦礫の中から立ち上がる壁の上に、一羽の烏が止まっている。

   ぇああぁあぁ! ……ぁぁ。

 コートの裾でも払うかのように小さく羽ばたいて、彼女 ---- どうしてだろう? 私はその烏を雌だと思った ---- はもう一度叫んだ。今度は、最後に呟くような余韻を加えて。なんとなくそれが好ましくて、独りで小さく笑ってしまっていた。

 私は、眺めていた場所に視線を戻した。それはとても不思議なものだったから……一群れの薔薇だ。こんな、誰も訪れないところに。薔薇など園芸の花で、人が世話をしなければじきに朽ちてしまうものと思っていた。それが、紅々と咲き誇っている。

 紅々と咲き誇っている。朱々とした黄昏の中で。

 陽は落ちようとしていた。土塁の灰色と荒野の淡い緑色が次第に区別をなくし、薄墨色に埋もれていく。西の地平線に最後に残る黄金の残滓。その向こうに滴り落ちていく夕焼け。這い登りつつある夜。一番星に続いて、一つ、二つ。まだ爪の先のように若い月は、夕焼けの中に辛うじて白く浮かび、一緒に流れ去ろうとしている。
 私は背後を見上げた。修道院は黒々と背伸びを始め、天を覆うかのような気配を感じさせる。崩れて積み上がった瓦礫に向かって、私は踏み出した。どうしても、修道院の中で日没を迎えてみたかったのだ。

 けれど、私の手を引いて引きとめるものが合った。しっとりと柔らかな、小さな手。その瞬間は、恐ろしくは無かった。あまりに自然な感触だったから。それでも、独りだったはずなのに、といういぶかしさから、私は眉を顰めながら振り向いた。
 途端、容赦のない痛みが走った。手を、薔薇の茂みに差し込んでしまっていた。指と手の甲を伝う血の感触が、不気味なほど生々しい。
 引いても押しても痛みは強まる。私は諦めて、暗いばかりの手元を手探りしながら、薔薇の蔓をほどきにかかった。

   ぇああぁあ! ぁああっ!

 三度目の烏の声に、私ははっきりと恐怖を感じた。それを恐怖だと実感する前に、耳元を翼と羽ばたきの風圧が襲う。
 疾風のような黒い影。翼に頬を打たれながら、私は怯えて跳びすさった。激痛とともに、手が自由になる。血の色が……失われつつある黄昏の中に埋もれる。

 うずくまる私の視界の隅を、ドレスの裾がよぎった。闇、そして紅。黄昏の淡い光の中で、不自然なくらいはっきりと、目の奥に残る。
「真紅……? お客様に酷いことするのねぇ」
 くすくす笑いの混じる、残虐さを奥底に秘めた猫撫で声。
「水銀燈のせいなのだわ。今の無作法、お客様にもわたしにも失礼よ」
 きっぱりと命令に慣れた、邪魔を厭う気高い声。
 声も出ず、私は顔を上げる。そこには、小さな板碑の上に止まった烏と、その傍らで夕暮れの風に揺らぐ薔薇の茂み。
 くすくす笑う朧な気配。チェシャ猫はにやにやだ。では、くすくすは?
 じっと見つめる確かな気配。私は独りでさ迷っていた。では、誰が?

 おどおどと首を巡らせる私の視界の隅を、また闇のドレスと紅のドレスとがよぎる。そちらを見据えれば、烏と薔薇。
「ふぅん……ハズレかしらねぇ?」
「そんなことはないのだわ。だって、自分でここまで歩いて来た人だもの」

 この島に上陸したキリスト教は、異教の征服を試みた。いくつもの方法があったが、異教の聖地に教会などを建ててしまうのもその一つ。そして古い神々は人々の記憶の中で零落させられていき、背丈が縮み、妖精となったという。
 教父達は、妖精には魂がない、最後の審判において救われることもない、と説いた。だから近づいてはいけない。救いを求めて、神の子羊たちを、子羊たちの魂を求めるから……
 ……妖精は、直視しては見えないのだという。方法はいくつもあるが、目の焦点をずらし、視界の隅で捕らえると見えるともいう。

「あら、お気づきのようねぇ」
 板碑に身軽く腰掛けた、闇色のドレスの少女が笑いを含みながら言った。病的な白さの指がくしけずるのは、髪か、それとも翼か。
「ごらんなさい。わたしの目に狂いはないのだわ」
 棘も恐れず薔薇の花を弄びながら、紅のドレスの少女が満足げに目を細める。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「踊りましょう?」
「あら、わたしが先だわ。だってわたしが先に取ったもの」
「また。見つけたのはわたしが先よぉ」
 薔薇の蔓が絡む。棘が痛い。痛みが甘い。
 鳥の羽毛が舞う。羽ばたきの音に耳が眩む。暖かい。
 黄昏が、闇の中に沈んでいく。

- 了 -


BGM:ALI-PROJECT '幻想庭園' ( from "etoiles" )
or:Enya 'Athair ar neamh' ( from "The Memory of Trees" )