翠星石のちょっとした苦悩
「うぅ~……一体どうすればいいですかね……」私は、自室のベッドの上でため息をついていた。理由は私の友人のチビ、桜田ジュンのことだ。つい2、3年前までは私のほうが身長が高かったのだが、この前ひょんなきっかけで背比べをしたところ、僅かだが抜かれてしまっていたのだ。「このままじゃあ翠星石の方がちびじゃないですか!翠星石のプライドにかけても、そんな事は許さんのですぅ」とは言っても、一体全体どうすればいいのか分からない。
あの嫌な数学のテストを解いている気分ですよ、全く。「そうだ、蒼星石に相談しに行くですぅ!」うっかり声が出てしまった。しかし、我ながらナイスアイデアですぅ!私は飛び起きて階段を駆け下りる。そしてコタツに入ってくつろいでいる蒼星石を見つけた。「ちょっと、相談があるですぅ」「……翠星石が僕に相談?何かな?」蒼星石は私の真剣な眼差しを受けて、少しだけ姿勢を良くしてから、私の方へと向き直った。「それでですね、蒼星石、あの……背を伸ばすにはどうすればいいと思いますか?」背の事についての悩みを一気に口に出す。蒼星石は私の喋る事を、黙ったまま目を閉じて聞いてくれた。そして、私が話し終わった後ちょっとだけ間を置いて、こう言ってくれた。「チビで何が悪いの?」蒼星石の言う通りだ。私は、つまらないプライドにこだわっていた事を思い知らされた。……身体中を覆っていたもやもやとした物が、全て溶け落ちた感覚がした。
翌朝、朝練で私よりも家を早く出る蒼星石を見送ったあと、私はジュンと一緒にのんびりと歩いて学校へと向かう。道中、私はジュンにいつも先に話しかける。「ちび」「僕はちびじゃない!」いつも通りの応酬だ。「大体、今は僕の方が大きいじゃないか」胸をそらせてちょっとでも体を大きく見せようとするジュン。「うぅ~……翠星石だってもうちっと大きくなるはずなんですがね」「その頃には僕はもっと大きくなってるだろうな」「じゃあ、翠星石はもっと大きくなるですぅ」「それなら僕はその倍大きくなってやる!」……まるで小学生だ。周りの目も「何あのバカップル……」という感情をこめているのが分かる。いや、実際はカップルでもなんでもないんですけどね。けど、ジュンもそれに気づいたのか、顔を紅くして咳払いを、一つ。「や、やめとくですぅ」「そ……そうだな」もう一度、私達は二人で並んで歩き出す。並んだ二つの肩は、ジュンの方が少しだけ高かった……ような気がした。なんの、翠星石も負けんですぅ!
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