二日目-2
私たちはバスから降り、凝り固まった体をほぐす。外はとってもいい天気、真っ青なキャンバスに白い絵の具が点々と描かれているわ。おまけに風がとっても気持ちいい。まさに快晴ね。ここで、『飛龍高原』の説明をしておくわ。名前の由来は昔、空を飛んでいた龍がここで羽を休めていたという話からのようだ。実際、とても広く、お花畑や森の中を歩いて回る事が出来るようになっている。まさに大自然が用意した遊園地だ。……まあ、説明はこれくらいにしておこうかしら。
どうやら午前中の間、ここで散策みたい。私達は複数あるルートの中から、一番緩やかなルートを選択した。ジュンたちは崖を上るベリーハードなルートを選択したみたい。ベジータやウルージ君はともかく、ジュンは大丈夫かしら。自販機で飲み物を買って、さあ出発よ。翠「ひゃあ~っ! 見渡す限り花! 花! 花!ですぅ!」金「ほんのりと花の蜜の甘い香りがするかしら」蒼「それにいい天気だね。歌でも歌いたい気分だよ」銀「そうねぇ。空気も良いし、言う事なしねぇ」苺「♪~♪~」皆でのんびりと高原を散策する。赤色や黄色、ピンク色の花が咲き乱れている。川のせせらぎも心地よい音を立てていた。お花畑を真っ二つに分けている整備された道を、私達は歩いている。しばらく歩いていると、前方に森が見えた。まるで私たちを待ち構えているみたいだ。私達は鬱蒼とした森の中に足を踏み入れた。紅「ああ、森の中は涼しいわね」薔「……うん」汗ばんだ肌が心地よい冷たさに包まれる。私は真っ赤なタオルを取り出して、首筋の汗を拭いた。蒼星石が喉を鳴らして『こーいお茶』を飲んでいる。
雪「そうですね。マイナスイオンやフィトンチッドも出ているからでしょうか」フィトンチッド? マイナスイオンは分かるけれど、何なの、それは?聞きなれない単語なのだわ。しばらく考えてみたけど、さっぱり分からない。立ち止まって私が考え込んでいると、雪華綺晶が私の考えている事が分かったのだろうか、補足説明をしてくれた。要するに、『癒し成分』の事らしい。まったりと八人で歩いていると、前を歩いていた薔薇水晶が振り向いた。薔「ただ散策するのもアレだから、しりとりしない?」しりとり……いいわね。皆でやると意外と楽しいゲームの一つよ。銀「しりとり? ……別にいいわよぉ」苺「ヒナもやりたいのー!」私達は散策しながらしりとりを始める事にした。薔「……それでは私から、『しりとり』」雪「『りんご』」金「『ゴルバチョフ』かしらー!」銀「次は私ね。『布団』よぉ」蒼「『ンドゥール』」翠「『ルウ』ですぅ! カレーとかの奴ですよ!」苺「『うにゅー』なのー!」紅「『百合』ね」ここで一巡したわね……みんなかなり難しい言葉を知っている。けど……何かおかしい様な……。気のせいかしら。
薔「『りす』」雪「『すいか』ですわ」金「『カシオペア』かしら」銀「『アメリカン』」蒼「『ンジャメナ』だよ」翠「『梨』です! 無いという意味の『なし』じゃあ無いですよ!」苺「『汁粉』なの」紅「『小松菜』」……やっぱり。違和感の正体は水銀燈だった。『ん』で終わってるじゃない!紅「ねぇ水銀燈。貴方、『しりとり』のルールを言って頂戴」私は水銀燈に聞いてみた。銀「ちょっと馬鹿にしてるの? 分かってるに決まってるじゃなぁい。最後に『ん』のつく言葉を言えば勝ちなんでしょう?」雪「えっ?」蒼「嘘……でしょ……」場が凍りついた。私の表情もこわばっているのが分かる。この間は普通のルールでしりとりをしたはずなのに……なんで嘘を覚えてるのかしら?紅「違うわよ。『ん』のつく言葉を言ったら駄目なのだわ」銀「嘘でしょう!? だってこの前立ち読みした『民明書房』の『死利鳥』に書いてあったわよぉ」
民明書房……あの本当の様な嘘ばかり書いてある本を出している会社だ。一時期マスコミで取りざたされた様な気もするわ。翠「あんな嘘っぱちの本に騙されるようなヤツが身近にいたんですね~」蒼「翠星石、君も騙されていたんだよ。忘れちゃダメだ」翠「うぅ……。そ、それは今言わなくてもいいんじゃねーですかぁ……」薔「銀ちゃん……純粋だったんだ」銀「うぅ~……」自分が間違っていると分かったのだろう。みるみるうちに水銀燈の頬が赤くなる。そりゃそうでしょうね……知りえた常識が崩れた瞬間ですもの。翠「それにしても蒼星石も蒼星石ですぅ! 何で言わなかったですか?」蒼「あんまり自然だったから……気づかなかったよ。アハハ……」金「……ま、まあ、誰にでも間違いはあるかしら! 水銀燈も元気を出すかしら!」銀「そ、そうよねぇ! 誰にでも間違いはあるわよねぇ!」あっさり復活したようだ。水銀燈は私と違って、昔から立ち直りが早い。雪「それでは、再開しましょうか」翠「おー!」蒼「僕から行くよ。『しりとり』―――」
しりとりをしながら緑に囲まれた道を歩いていると、川原に出た。入り口の看板に書いてあったけど、この川は山の湧き水が直接流れているらしいから、とっても綺麗だ。男子生徒たちが石切りをしているのを眺めながら、私達はのんびりと青空を見上げる。翠「はぁ~、空気がうまいですぅ」紅「そうね。おまけに……」私は川に手を浸してみた。ヒヤリとした感触が私の手を包み込む。思ったより冷たいようだ。紅「水もこんなに澄んでる……」銀「水晶の様に綺麗ねぇ」紅「……そうね」苺「ねーえ、あれ、ジュンじゃないの?」紅「えっ? どこなの?」雛苺が山の方を指差している。みんなでそっちに視線を向ける。どうやらロッククライミングの真っ最中らしい。山肌に七つの点が見える。二人多いから、多分補助の人だわ。そして……あれは……ジュンね。全く……もし落っこちたらどうするのよ。雪「あっ、ベジータが足を滑らせましたね」薔「……あれは死ぬよ」金「みてるこっちがハラハラするわ。でも、カナもやってみたいかしら!」苺「金糸雀なら落っこちるのがオチなのー」金「そんなことないかしら!」
ぎゃーぎゃーうるさいのはほっといて、皆でノミの様な小さな点を眺める。どうやらみんな登りきったようだ。崖の上に腰掛けてのんびりとお茶を啜っているのがぼんやりと見えた。蒼「ねえ……そろそろ行かないとお昼に間に合わないよ」腕時計を見ていた蒼星石が言った。周りを見ると、石切りをしていた男子達も居ない。銀「もう私お腹ぺこぺこよ……そうとなれば行きましょ」雪「お昼……じゅるり」食い気たっぷりの二人がダッと駆け出す。特に雪華綺晶。目の色が変わっているのだわ……紅「……私もお腹が空いたわ」翠「翠星石たちも急ぐですぅ!」蒼「翠星石、河原で走ると転んじゃうよ」苺「あーっ、金糸雀が転んだのよ」金「あたたた……」薔「……ぷっ」……あらあら。金「笑わないで欲しいかしらー!」
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