『妹が…』『爆発した…』
「ふ~んふふ~ん♪ いやー、『いんたーねっと』というのは、なかなかに見所があるですぅ」その日、翠星石ちゃんは家でインターネットというものを初めてやってみていました。「これは……ほほう。それが世界の選択ですか……」見ても全く訳の分からないニュースサイトを覗いて、インテリぶった顔なんかしちゃっています。そんな風にノリノリの翠星石ちゃんでしたが、一体何をどうしたのでしょう。気が付けば画面に『news4vip』というページが開かれていました。「はて?これは……えぬ、いー、だぶりゅー、えす……ニュース? どうやらここは、ニュースを扱う所みたいですぅ」翠星石ちゃんは『news』の部分だけを読んで、そう思いました。ですが、それは勘違いです。彼女が見ているページは、いわば社会のゴミ溜め。『2ちゃんねる』の隔離施設に他なりません。ですが、翠星石ちゃんはニュースサイトだと信じて疑っていませんでした。「やっぱり翠星石ほどのインテリは、自然とニュースサイトへと導かれるものなのですねぇ……」そう言いながら、元治おじいちゃんの老眼鏡をかけて、エセ眼鏡っ子になったりしてみます。ちょっとした秀才気分を出す為の演出として、眼鏡は欠かす事のできないアイテムだからです。数秒後に視界がグラグラ歪んで気持ちが悪くなるまで、翠星石ちゃんは眼鏡をかけてふふんと笑っていました。ちょっとグロッキーになっていた翠星石ちゃんでしたが、すぐに気を取り直して再びパソコンに向かい合います。それから、ずらりと並ぶ文字列を、モニターに顔を近づけて読み始めました。
「……普通の女の子だったら?……総合?……はて、何の事ですかね?」意味不明な文字列にちょっとだけ戸惑いながらも、翠星石ちゃんは頑張ってモニターを見つめます。そんな風に、世に言う『スレタイ』だけを読んでいる内に。彼女の目にとある文字が飛び込んできました。「『風呂場に妹が全裸で入ってきた』ですと!?なんてハレンチな妹ですか! うちの蒼星石とは大違いですぅ!!」スレタイを見てぷんすか怒る翠星石ちゃんでしたが、お陰でその中身を見ずに済みました。誰も知る由も無い事ですが、IDの数だけ腹筋するという苦行を回避した瞬間です。ともあれ。モニターに浮かんだ『妹』という文字に、翠星石ちゃんは大切な双子の妹、蒼星石を思い浮かべていました。シスコンな翠星石ちゃん。それからも懲りずにnews4vipを見るうち、さらに『妹』という文字をみつけました。「これは……『妹が……』だけで終わってるですぅ」妹が、一体どうしたというのか。その肝心の部分が書いてありません。「妹に、何があったのですか……!」内容を知るため、ドキドキしながら、翠星石ちゃんは『妹が……』のスレタイを押してみます。そして、『妹が……』のあとに続く文字を見て、とっても驚きました。
スレタイ『妹が……』本文『爆発した』昔懐かしの、妹爆発ネタです。ですが、そんな事は全く知らない翠星石ちゃんはというと、「なんですと!?」と、あまりにショッキングなニュースに、驚きの声を上げました。ですが、彼女の驚きはこれで終わりません。『妹が、爆発した』の書き込みの後に『あるある』や『妹が爆発するのはよくある話』や、はては『うちの妹は爆発しないだろ、と油断してたら急に爆発した』とまで書かれているのです。翠星石ちゃんは、まるでうっかりパンドラの箱を開けちゃったみたいに顔を青くしながらスレを閉じます。そして、顔色を悪くしたまま、小さな声で呟きました。「い…妹が爆発するものだとは……知らなかったですぅ…… !!まさか蒼星石も!?」純粋無垢で温室育ちな翠星石ちゃんは、これが嘘だとは夢にも思っていません。それどころか、真面目に、蒼星石が爆発しないか心配し始めました。 『うわーー!すいせいせきーーー!!』 ボカーン!!「ぅ…うぅ……嫌ですぅ……蒼星石が爆発するなんて、絶対に嫌ですぅ……」必要以上に豊かな想像力が描いた光景に、翠星石ちゃんは涙を流しながらも決心を固めました。「絶対に!蒼星石が爆発するのだけは阻止してみせるですよ!!」
そうと決めれば、翠星石ちゃん。大切な蒼星石を爆発から守るため、急いでパソコンの電源を切りリビングへと向かいます。「蒼星石!どこですか!?」今、こうしている間にも蒼星石は……妹は爆発するかもしれない。そう考えると、胸が張り裂けそうになります。「蒼星石!返事をするですよ!そーせーせきぃー!!」叫びながら翠星石ちゃんは大切な妹を探して、家中を走り回ります。ですが、そんな必死な翠星石ちゃんとは対照的に、蒼星石は実にあっさりとした表情でキッチンに居ました。「?どうしたんだい、翠星石。そんなに慌てて……」蒼星石はキョトンとしながら、翠星石ちゃんを見つめます。ですが……その時、蒼星石が居た場所は、この場合は非常によろしくない所でした。蒼星石は何と、キッチンでお湯を沸かすためにコンロに火をつけようとしていたのです。(―――妹が爆発するものなら……火気は厳禁ですぅ!!)光より速い思考速度で、翠星石ちゃんはそう結論付けます。そして、「とう!!」と叫びながら地面を蹴り、そのまま蒼星石へと飛び掛りました。翠星石ちゃんの低空タックルにより、二人は仲良く床をゴロゴロ転がります。
そしてゴロゴロ転がる内、翠星石ちゃんの脳裏に嫌な可能性が急浮上してきました。(―――いや、ひょっとしたら衝撃で爆発するタイプかもしれんですよ!!)これでもし蒼星石が爆発したら、その原因は間違いなく自分のせい。そう考えた翠星石ちゃんは、蒼星石に伝わる衝撃を少しでも和らげよう、少しでも、ダメージを与えないようにしようと、彼女の体を強く抱きしめました。突然の体当たり。かと思うと、思いっきり抱きしめられる。そんな意味不明な出来事を目の当たりにして、目を白黒させます。それから、翠星石にぎゅっと抱きしめられている事に気が付いて、顔を赤くしちゃいました。さあ、大変です。翠星石ちゃんは蒼星石が顔を赤くしているのを爆発の前兆だと勘違いしました。それに抱きしめているので、蒼星石の体温が上がってきているのもしっかり伝わってきます。(―――爆発する!?蒼星石が!?……そうはさせんですぅ!!)翠星石ちゃんがバッと立ち上がります。幸か不幸かそこはキッチンなので、熱で爆発寸前な妹を助けるための手段はすぐに手に入ります。「蒼星石!今助けてやるですよ!!」翠星石ちゃんはそう叫ぶとコップに水を入れ、蒼星石に無理やり飲ませ始めました。おそらく冷却水のつもりでしょう。「ちょ!?すいせいせき!?待ってよ!?」蒼星石は涙目になりながらも、必死に抵抗します。
「大丈夫ですぅ!翠星石に……お姉ちゃんに任せとけば何も心配は無いですぅ!」翠星石ちゃんは涙をこらえながらそう言い、蒼星石に水を飲ませ続けます。翠星石ちゃんにしたら、大切な妹を爆発の恐怖から守る為の行動なのですが……妹の蒼星石からしたら、ただ悪ふざけをしているようにしか思えません。そう考えると、さっき抱きしめられてドキドキして損した、という気分にもなってきました。さらには、未だに無理やり水を飲ませられてますし。そんな事もあって、蒼星石は爆発しました。いいえ、翠星石ちゃんが心配していた爆発とは違います。怒りが爆発したのです。「もう!やめてよ!」蒼星石はそう言うと、翠星石ちゃんの手からコップを取り上げます。「はい!そこに正座して!」それから蒼星石は、翠星石ちゃんをその場に正座させます。「翠星石!君はどうして、こういっつもいっつも……」とっても長い、お説教タイムが始まります。床に正座させられた翠星石ちゃんはというと……(―――なるほど……『妹が爆発する』とは、つまりこういう意味でしたか……)などと考えながら、また一つ賢くなったと自分に言い聞かせていました。
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