【待ちぼうけ】
「はぁ…」白い息とため息を1つ。時計で時間を確認すると待ち合わせからすでに30分を過ぎている。吹き付ける風は冷たく、徐々に体から体温を奪っていく。「うぅ、やはり冷えますわね」真っ白なお気に入りのコートの襟を立てる。彼が私にプレゼントしてくれた世界に1つだけの私だけのための物。「うふふ」君のイメージにぴったりだ、なんて言って渡してくれたっけ。あの時を思い出すと思わず笑みをこぼしてしまう。愛しい愛しい私の待ち人さん。少しつれないところもあるけれど、本当はすごく優しい待ち人さん。すごく器用で、その人にぴったりなお洋服を作れる待ち人さん。
彼と出会ったのは高校生の頃、初めての印象はそんなに良くはなかった。いつもぶすっとしていて近寄りがたい雰囲気をだしていたっけ。会話もそんなにしたことはなく、挨拶をするくらいの関係だった。ある日のことだ、何かの拍子でスカートを破いてしまい、おろおろとしている私に彼は「大丈夫か?そんな格好で一日過ごすのも大変だろ、僕が直そうか?」と声を掛けてくれた。あっけにとられ、しばらく悩んでしまった。そんなに親しくもない人、まして男の人に自分のスカートを直してもらうなんて尚更だ。ジャージで授業を受けようかとも考えたが、彼の真剣な眼差しと誠実な声を信じて私は渋々と彼にスカートの修繕を頼んだ。人には1つは特技があると言うが、これはまさに彼の特技なのだろう。彼は自前の裁縫セットを取り出すとものすごい速さと正確さで私のスカートを修繕していく、細くともしっかりとした指がまるで魔法のように針を動かし、いつもはぶすっとしている顔が嘘のように穏やかになり、私はそんな彼をじっと見つめてしまっていた。正直に言おう。私は彼に見惚れてしまっていたのだ。作業開始からものの5分もかからないうちに作業を終了し、私に「はい終わり、次は気をつけなよ」と照れたように渡す彼に、私は素直に「ありがとうございます」と感謝を表して返した。
そのことがあってからだろう、彼を目で追うことが多くなったのは。授業中、お昼休み、放課後と気がつけば彼を探すようになっていた。しかし、彼の周りには可愛い女の人がたくさんいて、少し不愉快になっていたっけ。自分で言うのも何だが、私は奥手だ。異性に進んで話しかけるのも勇気がいるのに気になっている男の人に話しかけるなど、心臓の鼓動が早くなり、どうにかしてしまいそうだった。しかし覚悟を決めた私は彼と一緒に下校するお誘いをすることが出来た。もちろん異性の人と一緒に下校するなどというのは始めてのことで、舞い上がってしまった私を見かねてか彼が話題を振ってくれた、お家の事、学校の事、お友達の事、何やら女の人が圧倒的に多い気がしたが気にしないことにした。これを期に私は彼の輪の中に入ることになり、彼達と多くの時間をすごす事になる。毎日が本当に楽しくて、嬉しくて。たまに意見が分かれて喧嘩になることもあったが、どちらともなく仲直りして。私の大切な思い出の1つになっている。「懐かしいですわね」一人ごちたと同時に軽く肩を叩かれる。「ごめん!どうしても終わらせないといけない事があって、本当に申し訳ない!」もう、そんな顔をされたら怒れないじゃないですか。「いいんです。そのかわりご飯でも奢ってもらいますよ?」「ああ、もちろん。そうだ、寒いだろ?これを渡したかったんだ」そう言うと彼は淡い桃色のマフラーを取り出し優しく巻いてくれた。彼が作ってくれたんだろう。その証拠にすごく暖かい、心も暖かくなってくる。「わぁ、ありがとうございます。それじゃあ行きましょうか」「うん、雪華綺晶は何が食べたい?」愛しい愛しい私の待ち人さん。少しつれないところもあるけれど、本当はすごく優しい待ち人さん。すごく器用で、その人にぴったりなお洋服を作れる待ち人さん。「そうですわねぇ…お魚が食べたいですわ、JUM様」大好きな彼の腕を抱き、寒くも暖かな道を歩き出す
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