もしローゼンメイデンのポジションが逆だったら R 第1話ー2
「ぐっ…!」 巴が隙を突いて木刀が逆袈裟状に斬り上げ、それを喰らったジュンの体が宙に浮く。 ジュンは空中で体勢を立て直し、ベッド上に着地した。「鈍ってるだって? それはお前も同じじゃないのか? 昔のが痛かったよ」「強がっちゃって…」 不敵な笑みを浮かべ睨み合う二人。一瞬の静寂が辺りを包む。 それを破ったのは巴の方だ。一気に駆け出し、間合いを詰め木刀で攻撃を仕掛ける。 しかし、ジュンはそれをかわしながら部屋の中を縦横無尽に駆け回る。「どうしたの? 逃げるだけの鬼ごっこがお好みだった?」「何とでも言えよ!」 なおも部屋の中を逃げ回るが、そんなに広くない部屋だ。 ジュンはすぐに部屋の隅に追いやられてしまった。「チッ…!」「…どうやら王手みたいね。じゃあ、ローザミスティカ貰うわね」 勝利を確信し、木刀を居合いのように構えて一気に巴はジュンへと駆け出した。「ジュン!」 これから起こる光景を予想し、真紅は目を手で覆う。 だが。「…掛かったな」「何!?」 ジュンが二本の刀をなぎ払うと、凄まじい衝撃波が巴を襲った。 急なことだったので巴はそれを避ける暇も無かった。
「ぐ…!」 巴は堪えようとするが、それも出来ずに衝撃波に吹き飛ばされてしまう。 そのまま壁に打ち付けられるかと思い体勢を立て直そうとする。 だが、その途中で何かに引っ掛かったように体が宙に浮いてしまった。「こ、これは…!?」「長い間眠ってて呆けたか? 蜘蛛の糸の能力も忘れてたみたいだな」「しまった…!」 よく見てみると、まるで蜘蛛の巣のように糸が体中に絡み付いている。 何とか逃げようとするが、すればするほど体に糸が絡みつく。「クッ…!」「そろそろ、こんなの終わりにしよう」 キッと巴を見上げるジュン。そのまま、刀を構える。「じゅ、ジュン…まさか…!?」 真紅は思わずそう漏らしてしまう。「終わりだ」 刀を振りかぶり、巴に飛び掛るジュン。 真紅はまたも目を覆った。人形で敵だったとは言え、破壊されるのは見たくない。「くっ…ベリーベル!」「ぐっ!」 だがジュンの刀の攻撃距離に入ったところで鏡からピンク色の光の玉が飛んできた。 それが閃光を放ち、ジュンはそのままバランスを崩し床に倒れた。「くっそ…人工精霊か…」 霞む目で見ると、巴は既に蜘蛛の巣から逃れていて鏡の前に立っていた。「…今日のところは撤退するわ。でも覚えてなさい。今度会った時はそのローザミスティカ貰うわよ」「ふん…。覚えといてやるよ」 ジュンの見下した台詞に巴は相手にせず、そのまま波打つ鏡の中へ吸い込まれるように消えていく。 やがて鏡の波打ちも収まり、普通の鏡へと戻った。
「…お…終わったの…?」「何、僕が負けるとでも思ったのか?」「そういう意味じゃなくて…何がなんだかさっぱり…」 真紅はフラフラと立ち上がると、鏡の前に行くと確かめるようにそっとそれに触れる。 感触も普通の鏡で、映っているのは自分。とても波打っていたとは思えない。「…本当に全部現実…? 夢じゃない…?」 試しに自分の頬を抓ってみたが確かに痛い。 ということは夢では無さそうだ。「……他の人形も目覚めたみたいだ…」 ボソリとジュンが言ったその言葉を、真紅は聞き逃さなかった。嫌な予想が脳裏を駆ける。「…それって…またあんなのが出てくるわけ? それで、こんな滅茶苦茶な戦いも…!?」「向こうが仕掛けてくればね。僕は別に戦いたくて戦ってるわけじゃない。ただ、降りかかる火の粉は払わないと」「…じょ…冗談じゃないわ…」 愕然と言った様子でその場にへたり込んだ。こんなのが続いてたら身が持たない。「そういえば、お前の名前って何だ?」「へ…真紅よ」「そうか。真紅、何か飲み物をくれないか? 喉が渇いた」「はぁ? 飲み物?」「ああ。早くしてくれよ」「……」 少し落ち着き、辺りを見渡してみる。戦いで滅茶苦茶に荒れ果てた自分の部屋…。「…ふ…」 部屋を見ているうちに怒りが込み上げてきた。そしてこの勝手にやってきた生意気な態度の人形…。「? どうした真紅? 聞こえないのか?」 プチッ。
「ふざけるんじゃないのだわー!!」「なっ!?」 我慢の限界点突破。これまでパニックで何も感じていなかった分一気に怒りが噴出したのだ。 いきなり怒鳴りだした真紅にジュンは思わず驚いてしまう。「いきなりやってきて何あなた!? 初対面のくせに偉そうに! その上部屋こんなにして!挙句に飲み物もってこいですって!? ふざけるんじゃないのだわ! 何様のつもり!?」「何様って…僕はローゼ」「黙りなさい! ローゼンなんちゃらとか知らないけど、良い機会だわ。その曲がりきった根性叩きなおしてやるわ!」「何言ってんだミーディアムのくせに!」「関係ないわ! まず初めにこの部屋を元に戻しなさい!」「冗談言うな! 何で僕が…」「…なんか言った?」「……ちっ…分かったよ…」 真紅の眼力に圧倒され、ジュンはパチンと指を鳴らす。 すると、見る見るうちに部屋に散らばっていた物や壊れた物が元に戻っていく。「な、何これ…!?」 まるでCGを見ているような感覚。そうこうしている間に、部屋の様子は元に戻って行った。 壊れた目覚まし時計を手に取って見てみるが、ヒビ一つ残っておらずしっかりと秒針が回っている。「すごい…どうやってやったの?」「物の時間を撒き戻しただけだ。ローゼンメイデンなら誰でも出来る」「へえ…よく分からないけどすごいわね…」 感心したようにもう一度目覚ましへと目を移す。 と、不意に部屋の扉が開かれた。
「WAWAWA忘れ物ー。真紅ちゃん、前に貸した国語辞典返し…」「の、のり!?」「げっ…」 いつ帰ってきたのか、のりの突然の来訪に、ジュンは隠れる間も無くもろに目が合ってしまった。 一気に沈黙が部屋に流れ、真紅はどう言い訳しようか頭を悩ます。(…どうやって説明すれば…)「…真紅ちゃん…その子って…」「あの、えーと、これはね…」「隠し子?」 ガン! のりのあまりにもすっ飛んだ結論に、ギャグマンガよろしく思わず机に頭を打ち付けてしまった。「そんな訳あるわけ無いでしょう! なんで中学生の妹にこんな子どもがいると思うわけ!?」「じゃあ違うのね? 良かった…悪い男に騙されたのかと思った…」「変なドラマの見すぎだわ!」「…おい、そのメガネ女って…」「勝手に喋らないで! …もう見られちゃったから紹介するわ。私の姉ののりよ」「のり、か」「ねえ真紅ちゃん、じゃあこの子って誰なの?」「えーと…生意気な呪い人形よ」「ちゃんと紹介しろ! 僕はローゼンメイデン第五ドール、ジュンだ」「ドールってことは…お人形!?」「そうだろ、常識ならな」 ジュンの事を知って、のりはジュンを見つめたまま動かなくなった。 だが、しばらくすると少しずつ体が動き始めた。「…か…」「か?」「可愛いーー!」「か、可愛い?」
予想を超えた返しに真紅は思わず目が点になる。 のりは駆け足で部屋に入ってくるとそのままジュンの頭を撫で始めた。「すっごく可愛いわー! よく出来てるわねー!」「の、のり? 驚かないの!? 動く人形なのよ!?」「だってすっごく可愛いんだものー!」「可愛いって言うなっつか撫でるな!! …とにかく、ここに世話になるからよろしくな」 のりから逃れて髪を整えるジュン。「ええこちらこそ! うわー弟が出来たみたいで嬉しいわー!」「ええっ!? ちょ、何で勝手に決めてるのよ!」「今夜はご馳走作って歓迎パーティしなきゃ! 腕が鳴るわー!」「の、のり待ちなさい!」 真紅が呼ぶのも関わらず、のりは扉を閉めるとそのまま下の階へと降りて行ってしまった。 後には呆然とした真紅とどこか勝ち誇ったジュンだけが残された。「・・・…」「決まり、だな」「いやー!」 騒がしい日々は始まったばかり…
一話 終わり
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