ずっと傍らに…激闘編 第十四章~ジュンside~
紅「また怒らせたの?」1階に下りようとして、待ち受けていたのは真紅だった。通せんぼするかのごとく仁王立ちしている。そしてその横には雛苺。雛「仲良くするの!」紅「まったく…学習能力の無い子ね!」ジ「…」年下からの説教。相手にすると面倒くさそうなので僕は無視を決め込んだ。紅「…早く謝りに戻りなさい」ジ「…」紅「ジュン!」ジ「…」上手く真紅の壁をすり抜け、玄関のドアを開けて外へ出た。一旦家に帰って財布取りに帰らないとな…──と、急に左腕が後ろに引っ張られた。振り向くと真紅が僕を睨みつけながら立っていた。紅「そんなに怒らせたいの?…私を──」僕の腕から手を話し、何故かヒステリック気味に言う。何か良く分からないが、少しイラッときた。ジ「…いいだろ別に!」パチン!ジ「…」紅「…」唐突に真紅の右手が僕の顔を襲った。ジ「…何でお前が怒るんだよ?…関係ないだろ?」紅「あなたのその態度が気に入らないわ!毎回毎回!」真紅は玄関のドアをバタンと閉じた。ジ「何だよ翠星石にしろ真紅にしろ…」~~~~~再び家に戻り、ふぅーっとため息をつく。真紅にビンタされた意味が分からない。ちょっと経ってから翠星石に謝りに行こうかと思ったけど、謝る気が失せた。ジ「もう完全に引き篭もりになってやろうかな…」でも、そんな事したって苦しむのはおそらく僕だ…こんな事してもABCどもはきっとほくそ笑むだけだろう。悔しい…。ひたすらに悔しい。──じゃあ、どうすればいい?ジ「…」どうすれば…ジ「…」──そういや、ねーちゃんも水銀燈も、よく引き篭もりにならないな。部活で酷い目に遭ってるみたいだが、それでも学校へ行く。むしろ闘志を燃やしてるようにも見えなくはない。少なくとも、僕みたいに逃げたりはしない…。ジ「…行ってみるか」──あ、でも…ジ「…やっぱやめよ」今まで忘れかけてたかもしれない。そうだ。僕は逃げる事に必死だった。逃げたいんだからしょうがない。…そして、こうやって外に出ようとしてる今でも、その考えは正しいと思う。水銀燈は特殊なんだとも思う。ジ「…あ、う~ん…やっぱり翠星石にあんな事行って出てきたのは痛いなぁ…」部屋から外をそーっと窺う。ひとまず、人の気配はなさそうだ………。~~~~~…気がつけば、すでに外に出ていた。それも、人目につかぬための変装をせずに──この僕に一体どういう力が働いてるのか不思議だった。信じられない。僕はどうして外に出たんだろう…。流れのままに歩いている僕。そして、どれだけ歩いても周りには誰も居ない。不気味なくらいに周りに人が居ない状況が続く──じきに、ねーちゃんと水銀燈の高校の横に着いた。ハンドボール部と陸上部の向こうでラクロス部が練習中だった。よく見えないが、試合をしているような雰囲気だけは分かった。まぁねーちゃんや水銀燈がまた翠星石の家とかで今日の話をするだろう。多分。──で、何か調子に乗って駅まで来てしまった。まぁ高校からそこそこに近いからなぁ。ここまで45分。結構歩いたな。息も上がってきている。疲れたから…ベンチに座るかな。~~~~~しばらくぼーっとしてて、そろそろいいかなと腰を上げ、駅の券売機の前まで歩く。急に人通りが増え出した。ぞくっとせずにはいられない。それでも、ここまで来れた事に少し勇気づけられた。まだ耐えられそう…。もしかして、このまま行けるんじゃないか?それに、人ごみもそのうち慣れるだろう…翠星石にあれだけ言って出て来たんだしな…──券売機の上の運賃表を見上げる。こうやって切符を買うのも久々だなぁ。街へ出るのに…290円か。手前の駅からでも歩けるから210円で済ますか…。自動改札を抜け、ホームへ上がり、電車を待つ。今はゴールデンウィークの午前10時くらい。なのに、2列にならんで電車を待つ客の多さときたら…やはり少し腰が引ける。…どうしようか…。せっかく切符を買ったんだけど、隣の駅まで行って終わりにしようか…。──どんどん増える客。僕は恐ろしく大量の冷や汗をかき始めた。嫌だ嫌だ…ちくしょう…あぁ…どっか人の少ないところはないものか…。誰「…ジュン?」ふと、誰かの声が聞こえたような気がした。僕は声のした方を向いて、声の主を探した。ジ「は…?」…物凄く見覚えのある顔がそこにあった。翠星石だった。…ガシッ!ジ「…!」僕は翠星石に右腕をつかまれた。翠「ちょっとこっち来いです」些か睨みつけるようにして言う翠星石。そのままホームの端まで引っ張られ、ようやく解放された。ジ「…何だよ…まさかさっきのをずっと見てたのかよ」翠「ずっとではないですけど、やっぱりお前が1人で出歩くのは無理…」ジ「無理じゃないよ」翠「震えてたくせに!」ジ「話はそれだけかよ。じゃあな」とりあえず今日は1人で何か前に進みたいんだ。進める気がするんだ。ここまで来れた今日なら何か出来るかもしれない。今日出来なかったら今後もずっと無理だろう…何か良い流れが僕に来ている気がして──僕は翠星石に背を向けようとした。──その時、翠星石の右手が僕の左頬を襲った。パシーン!!…僕はよろめいた。翠「どーしても1人で行くってなら…意地でも連れて帰るです!」もはや翠星石も敵だと思った。ジ「じゃあ僕は翠星石から逃げるだけだ」ガシッ…翠「そうはさせるかです」僕の右手を翠星石の右手がガッチリ握る。必死に抵抗する僕をそれ以上の力で押さえつける──ジ「放せ…放せったら」翠「イヤです!」ギュウウウウウ…ジ「痛い痛い!!…何なんだよその握力…」その力はますます強くなる。僕の知らない翠星石がそこにいた。翠「ふっふっふ…水銀燈を姉にもつ翠星石をナメてもらっては困るです」ジ「だったら少しぐらい手加減しろ!」情けなかった。こんな事であっさりと翠星石に負けることが。もう、男として終わった気がした。…しかもこんなホームの上で…。悔しいし、恥ずかしい──翠「さ、行きたければ翠星石を…」ジ「…」翠「…」翠星石に力で捻じ伏せられるのが、今日ばかりはイヤに悔しくて、僕は──ジ「…乗り越えろ!か。よし任せろ」──泣きたくなった。もう何でもいいや。翠「はぁ?」ジ「──しかしお前強いなぁ。なっかなか解けないや…」翠「…」…泣きたくなった。その握り締められた手に。ジ「よいしょっ…ホントほどけないな…」…泣きたくなった。無言で睨みつけてくる翠星石に。翠「…」ジ「くそっ…」……。翠「──お前を…連れて行くです」いよいよ翠星石の低く震えた声が上がった。ジ「あ?」その冷たさと威圧感から、翠星石が怒ったことを確信した。何でお前が怒るんだよ──翠「乗るですよ──」ジ「…」電車が入ってきた。こんなホームの端まで電車が来るのか…。どうやら快速のようだ。…車内はどうも空いているようだった。異常なまでに空いていた。ジ「あ、これなら座れる…」唐突に、手を握ってる奴のテンションがいきなりハイになりやがった。翠「おぉ!ちょうどそこの2人席が空いてるです♪さっさと乗るですよ♪」ジ「あれ?何か急に…」思わず突っ込もうとしてしまう。さっきまで怒ってたんじゃなかったのかよw気のせいだったのか…?翠「つべこべ言わずに、ほらほらぁ…」ま、こんな翠星石となら、行かないと損だろうなぁ…1人で行くのはまた今度でいいか。ジ「てかお前いつまで僕の手を握ってんだよ」翠「お前がホームと電車の隙間から落ちないようにするためです♪」ジ「誰が落ちるか!w」こいつとの会話は正直言うと楽しい。翠「お前のことだから何が起こるか判らんですからね~ …ずっと前から変わらんです」ジ「お前こそ、昔っから寂しがりやのくせに… だからこうやって繋いでんだろ?…幼稚園じゃあるまいし」──と、翠星石は僕と手を繋いだまま、背中を向けて急におとなしくなった。そして静かに僕に言った。翠「──他にも理由があるですよ?」その一言で、翠星石の部屋での件を思い出した──ジ「あっ…あの時は悪かった」──ごめん。翠「…そんな事どーでもいいです」しかし、ずっと僕の顔を見つめてくる翠星石。ジ「…」翠「…」──やっとその意味に気づいた。ジ「……分かったよ。逃げないから──」
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