《追撃 ~pursue the enemy~》
一四二一時、ポイントゴルフ付近のアジトガサガサ…(おい見つかったかー?)(いーや。たっく…あるかもわからないちっぽけな宝石探しなんてやってらんねーよなぁ。そのうえ殺傷禁止まで出しやがって)(ま、ウチのボスはローゼンだか何だかにイレ込んでるからな。だがよ、戦場にゃ事故は付き物だろ?)(へへっ、違いねーや)「ふん…」真紅が持つ双眼鏡の向こうでの兵士達の会話。聞きづらものはあったが、とりあえず知りたい事はわかったのは僥倖と言える。(奴らはまだジュンもローザ・ミスティカも見付けてない、ということね…)自分が思っていたよりも、事態はまだそう悪くはないようだ。「う~ん…なんだかなぁ」一緒に偵察という事でついてきたみつ警部が不満そうな声を出した。「何か?」「えっと、貴女の話しじゃあいつらはイタリアマフィアって話しだったけど…」「ええ、間違いないのだわ」何となく予想はしていたが、今の会話で確信が持てた。しかしそうするとあの金糸雀が盗み見たメールはマフィア宛ての物だった事にあるが、果たしてマフィア達がそんなミスを犯すだろうか… 「でもさ、マフィアって言っても所詮はヤクザ者でしょ?そりゃ日本よりは勢力も大きいだろうけど…」みつは再び視線をアジトへと向ける。「あれじゃ何と言うか…軍隊みたいじゃない」みつ警部がそう思うのも無理はない。装備から連携体制までいま目の前にいる相手は基本的なマフィアの度を越えているのだから。彼らの姿からマフィアという単語を想像するのは難しいだろう。 「イタリアマフィアの頭目の中に軍事経験のある者がいるのよ。その人は自分の部下を鍛えてマフィアとは名ばかりの一個小隊を作っている。彼らはソレでしょうね」その人とはもちろん、私達がよく知るベジータの事だ。あえて名前は出さなかったが。「ふ~ん…どうりで追い回すのが上手いワケだ。で、やれるの?」「やるしかないでしょう。じゃあ、行ってくるのだわ」今回の二人の任務は情報収集の他に、無線探知器の設置があった。水銀燈達と連携が取れれば言う事は無いが、万が一の場合も想定しなければならない。恐らく水銀燈が考えているのは横取りだろうが、その為には発見場所を一秒でも早く知る事が絶対に必要になる。 (奴らの通信機材は中央のテントの中ね…この小型探知器がきちんと機能する距離までは近付かなくては…)しかしこのアジト、森の中にポッカリと開いた空き地の中央にぽつんとテントがある簡単なものだが、それゆえ見通しが効いてしまい近付くのが非常に難しくなってしまっていた。 (仕掛ける場所は…あの薮かしらね)狙いを定め、意識を集中させる。見つかっては元も子もない。見回りの周期を予測し、視界の範囲を計算して…(今…!)カサカサ…出来るだけ音は立てずに。しかし素早く正解に。まるで猫のような忍び足で見定めたポイントまでたどり着いた時、「あー!真紅見つけたかしらー!!」「!?」一瞬の沈黙。そして、(奴らだ!奴らがいるぞー!)スパン!スパン!怒号と共に銃弾が飛んできた。「て、敵がいるかしらー!」「ちょっと…マズい…」「くっ…まったく愚かね!早く逃げるのだわ!」作戦は大失敗。しかしこの二人には合流できただけ良しと考えてしまおう。先ずは奴らを巻いて…「向こうにもいるぞー!やっちまえ!」「ひゃあー!」身に覚えのある位置から聞き覚えのある悲鳴。ああ、そちらも見つかったのね…(はぁ…上手く巻ける自信が無くなってきたのだわ…)「…で、というワケなんですよ」「ふむむ。怪盗も大変なんだねぇ」現在、私達待機組(翠星石、雛苺、白崎)は凹地(一応セーフポイント)に潜んであの二人を待っていた。とりあえず暇だからと雑談を交わしていたのだが、この翠星石という女性は何故か僕の事が気に入った様子で仕切りに話しを持ち掛けてくる。そこで自分の失敗談を一つ二つ話してやると、実に嬉しそうに罵ってくる。私を誰かと重ねているのだろうか。 「…!二人とも、銃声なのよ」「ん…ですねぇ。それに足音が近づいてくるです。さては真紅がしくじりやがったですか」小さな女の子がいち早く反応し、翠星石もそれ続いたが私にはまったくわからなかった。話してみれば普通の女の子であるのだが、こういった能力の高さに改めて彼女達が“ローゼン・メイデン”である事を知らされる。 「かなり近付いてきたね…逃げる準備をしといた方がいいかな」「んなもんとっくに出来てるですよ。あの二人が来たら直ぐに指示にしたがって…」ガサガサッ!「きゃーかしらー!」「ぐえ!?」どし~ん。翠星石はまだ話しの途中だったが、突然飛び出してきた少女に見事に潰されてしまった。「いたた…あ、雛苺!」「…なんとなく事情は掴めたのよ。他には誰かいるの?」「薔薇水晶も一緒よ。ところで、なんでそちらは警察の人と一緒なのかしら?」「説明は後なの。来るのよ!」「ふむむ…あら?翠星石が居ないかしら」「テメーのそのでかいケツの下ですよバカ鳥!さっさとどきやがれです!」とりあえずこの子の事はおいておき、私は穴から顔を出してみる。するとこちらに向かって走る三人が確認できた。が、「あれは!?」「うえ!?」起き上がった翠星石と同時に今度は私も気付いた。三人のさらに向こうにある人影。しかも“何かを構えている”人影であった。「警部ー!」「二人とも!LJ(レフトジャンプ)!」私が飛び出すのと翠星石が叫ぶのも同時だった。そして私が警部に飛び付いた直後、後方でロケット弾が炸裂した。 「くっ…ゲホ…!まったく、殺傷禁止が聞いて呆れるのだわ!」「真紅!薔薇水晶!大丈夫ですか!」「なんとか…それより」「ええ。早く逃げるのだわ!」金糸雀達と合流出来た事で、私達は奴らとほぼ同時にローザ・ミスティカの発見場所を知る事ができる。なら、水銀燈からその連絡がある時には直ぐにソコへ向かえる状態でなくてはならない。奴らと競り合ってる余裕はない。 「はぁ、もー少しスマートにいかんもんですかねぇ」「グチをこぼす暇があったら走りなさい!」しばらく森を走り抜き、追っ手を確認するために茂みに隠れた。そしてその時になってようやく、翠星石があることに気付いた。「そういえば…あの二人は何処行ったですか?」「…!くっ…こうなってしまったら仕方ないのだわ。私達は私達の迷子を探さなければいけないのだし」心配ではあるものの、優先事項を考えれば後に回すのも無理はない。「でも、何でジュンははぐれちゃったかしら?せっかくこのビーコンで皆見つけられると思ったのに…」「事情があるのよ…金糸雀、ところでそれは何?」「ふふん、ジュンの体に埋め込んだ発信器のビーコンかしら!カナが伊達や酔狂でジュンの体をいじくり回してたと思ったかしら?」「ええ」「ですぅ」「ま…またしてもヒドいかしら…」どこかで見たような顔で再び落ち込む金糸雀。だが直ぐさま真紅が問いかける。「そんな事より、ソレでジュンの位置は特定できるのね?」「ぐすん…それが、出来るには出来たんだけど…このビーコンじゃ半径200メートル内にいる事しか解らないかしら」「それでさっきから探し回ったんだけど…全然見つからない」「でもその距離なら、さっきの爆発音は聞いたハズなのよ」「ですねぇ…ならジュンは、そのまま隠れ続けるか…私達に会いに飛び出すか…」「どうするかしら?真紅」金糸雀が真紅に指示を仰ぐ。リーダーの水銀燈が居ない場合は主に真紅が指揮をとることが多かった。「そうね…とりあえず、そのビーコンを頼りに水銀燈から連絡があるまでジュンを探しましょう。そして敵に見つかり次第、一気に仕留めてまた移動するのだわ」真紅はこの人数ならば、巻くまで逃げるよりその場で戦って次の争奪戦を有利にする方がいいだろうと考えた。「時間はないわ。各自、出し惜しみは無しよ。戦闘になったら、全力で相手を沈黙させること。いいわね?」静かな、しかし力のこもった真紅の言葉に、他のメンバーは黙って頷き自分達の武器に手をかけた。同時刻、サメ地区のどこかの洞窟内「キレイな宝石ですね…」「はえ!?あ、う、うん!」あう…僕があんまりにも手元のローザ・ミスティカ(だと思うもの)を凝視していたせいで彼女が寄ってきてしまったじゃないか。「えっと…その…」う~ん…目当てのお宝を見つけた以上、何とかこれを持ち帰らないと…だけど彼女がいるのに勝手に持ち出したら僕盗っ人だと思われるし…ええい!「あの…実は今日仲間の女の子と喧嘩しちゃってね…」「はあ」「それで…これをプレゼントして仲直りしようかなぁ~なんて…はああ…」誰が見ようと三文芝居。やっぱり無理があったかなぁ…。が、「そうですか…でも、きっと許してくれますよ」「え、あ、うん…」どうやらこの子には人をうたぐるという機能は備わっていないらしい。ただそれだけに、彼女の笑顔には心が痛んだ。ズシン…「!?」こうしてローザ・ミスティカの確保には成功したのもつかの間、外で爆発音が聞こえた。「ちょっと様子を見てきます」「あ…僕も行くよ」「危ないです。ここで待っていてください」彼女の言う通りだけど、外で戦闘があったという事は敵と味方の両方がいるって事だ。僕もいつまでも一人でいるワケにもいかないし、これを早く彼女達に届けないと… 「でも…外には仲間が居るかもしれないんだ。見捨てておけないんだよ!」「…わかりました。では私から離れないように」「う、うん。ありがとう…」どうしてだろう。仕方ないとはいえ、彼女に嘘を付くと普段より辛い感じがするな…外に出てみると近くで煙りが上がっていた。あそこで爆発があったんだな…なら近くに誰か…ガサガサガサガサ!(そこにいるのは誰だ!!)「!」最初に出会うのが彼女達だったら、という僕の期待は完全に裏目に出てしまった。五人…いや、六人もの武装した男達が次々に僕ら二人の前に集まってきている!くそっ…! 「下がってください」シュラン!動揺する僕をよそに、彼女が懐から刀を抜き放った。その余りの威圧感に僕は後ずさり、尻餅までついて…「あ…!」しまった…と思って落とした宝石を拾い上げた時には、男達の視線は僕の手元へ向いていた。(おい!あの小僧が持ってるのって…)(ああ間違いねぇ!例のブツだ!)(おいガキ!ソイツをよこせ!!)「うぅ…!」ヤバイ…ヤバイヤバイヤバイ!逃げられる?無理だ。闘う?もっと無理だ!捕まればどうなるかわかったもんじゃない…じゃあ助かる道は、素直に従う事だけ…?「狙いは貴方みたいですね…私が止めます。速く逃げて」怯える僕の前に、華奢なのにとても大きな背中が現れた。そうか…この子奴らイタリア語が解らないから…「でも君は…!」「私なら大丈夫。私は…日本警察、特別捜査斑の者。民間人を守るのも仕事の内です」「な…!」日本警察って…じゃあまさか、蒼星石が達が言って化け物剣士って…この子!?「早く!」「でも!」本来なら、僕はとっとと逃げるべきなんだ。そうすればローザ・ミスティカを持ったまま真紅達に会えるかもしれないんだから。でも僕は、何故か食い下がっていた。だけど… 「仲直り、出来るといいですね」「ッ…!」結局、僕は逃げた。敵からと言うより、彼女の言葉から。嘘を付き続けた自分から。その場でじっとしているのに耐えられなかったってのもある。…僕はこの時ほど、辛い、苦しいと感じた事はなかった。(おい女!死にたくなきゃさっさと退け!)「・・・」この人達が何を言っているのかは解らないけど、どうせ彼を狙うのだろう。聞く必要もない。目の前には、武装した男が六人…後ろには、守るべき人…「父さん…」~数年前~『ハアッ!』スパパパハァン!一列に並んでいた竹が一瞬のうちに破片と化した。一般人から見れば手品かと思いそうだ。『はあ…はあ…』『ふむ…その年で形にするとは、まったくたいした娘だ』『ありがとうございます、師範』『だが…』師範、と呼ばれた男が少女に歩み寄り手を掴む。『うっ…!』『やはりな。お前の体が技について来れていないのだ。習得は認めよう。だが、使用は禁じる』『え…父さ…師範。それは、絶対なのですか』『ふむ…まあ、お前の仕事では使いぜらう得ん場合もあるだろう。敵が複数居て、守らねばならん者が背にある時…そんな場合なら、使うがいい』『はい』『だが覚えておけ。その後の保証は出来ん。使う時は、覚悟する事だ』『…はい、師範』「父さん、いえ、師範。使わせて頂きます…」構えを変えて、集中する。目を細めて…気を集めて…(おい、小僧が逃げちまうぜ)(仕方ねぇな。その女をとっとと…ん!?)(消えた!何処に…!)(…横だ!)「柏流…“弐式”!」男達が構えるより、悲鳴をあげるより、木葉が舞い落ちるよりさえ、彼女の剣の方が早かった。「五月雨木葉!!」シュパパパパパン!!ドサドサドサ…そして木葉が地面に着いた時、残ったのは沈黙と、物言わぬ男達の体だけだった。「はあ…はあ…はあ…ッ!」ズキン!右手から酷く鋭い痛みが伝わる。「くっ…まだ…使い切れない…」でもこれで、あの人が逃げ切れるといいんだけど…あ、「警部、巡査…」そうだ、私にはまだ守らなくちゃいけない人がいる。もしかしたら、この人達の仲間に遭遇しているかもしれない。早く、二人の元へ行かないと…一四五三時、盗賊アジト内試練テント「ベジ兄貴!少隊からローザ・ミスティカ発見の報告が!」「ようやくきたか。で、場所は」「それが、ポイントシグマ、ゴルフ間で『男が所持していた』と」「なに…!先んじられたのか…!?」男だと…ローゼン・メイデンじゃないのか?いや、たしか新しく入ったヤツは男だったな…だが三人組の中にも…くそっ!「どうしますか?ヤっちまって奪えば…」「駄目だ!全体にその座標と男は生かして捕らえよと伝えろ!」歯痒い事だが、万一でもローゼンのメンバーを殺したくはないしな…「よし、あと俺も現地へ…」スパァン!「うおっ!?」その場で反応出来たのは奇跡か偶然か。物影に隠れて壁を見ると、懐かしい弾痕があったぜ。こんな痕を残せる得物を持ってるヤツは、俺の記憶にゃ一人しかいない。「兄貴!」「構わん。お前は部隊の連絡を急げ。それとこの場所の隊員(恐らくは既に使い物にならんだろうが)の指揮はお前に任す。行け!」アイツが身を屈めながら出て行ったのを見届けてから、腰のブツに手をかける。「ふん…挨拶変わりにしちゃ、なかなかクールだな。嫌いじゃないぜ、銀嬢?」姿は見えん。だが、確かな殺気が向こうにあった。「ふふっ…勘だけは相変わらずねぇベジータ」この声…この殺気…ああ、痺れるねぇ。「それで、外したのはワザとかな?」「もちろん。聞きたい事があって」「ほう?」「うちにバレるようにメールをさせたのは貴方でしょう?その理由がしりたくてね」やれやれ、全部お見通しってか。「俺はな、勝ちの決まった勝負はしない主義なのさ」「…ほんと、相変わらずねぇ“サイア”?」「君ほどじゃないさ。“漆黒の翼”」ふっ、人間ってのは実に面白い。若い時のダチに会うだけで、みるみる若返ってきやがる。「知ってると思うがな、お宝の在りかは補足した。俺達を足止めしても、あとは部下が掻っ攫ってくれるだろうよ」「出来るのかしらねぇ?宝探しもまともに出来ないジャンク達に」…ま、それは認めるが、「奪い合うならウチのヤツもまあまあ使えるさ。君の部下と競争ってワケだな」質は確かに劣るが、数じゃ圧倒的に勝る。そんなに分の悪い賭けじゃないハズだ。さて、と。その勝負がつくまで、こっちも楽しませてもらうか。「いくぜ…ブルマード・トランクスン!」俺は愛銃の名前を呼んだ。さあ、血沸き肉踊る死のカーニバルの幕を開けだ。スパァン!バァン!
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